24億年前の海は緑色だった? なぜ緑色だったのか?緑色硫黄細菌とは何か?

この記事で分かること

・なぜ緑色だったのか:酸素濃度が低く、鉄Fe2+が海水に溶けていたことや独特な緑っぽい色の色素をもつ緑色硫黄細菌が多く存在していたため緑色だった可能性があります。

・鉄Fe2+が海水に溶けている理由:酸素が少ないとFe²⁺が溶けたままで存在できるため。

・緑色硫黄細菌とは:硫化水素(H₂S)を使って光合成を行う菌の一種。独特の緑色の色素(クロロソーム)を持っていました。

24億年前の海は緑色だった?

 「24億年前の海が緑色だった説」がニュースになっています。地球の酸素濃度が非常に低かった太古の時代(約24〜25億年前)に起きた古原生代(Paleoproterozoic Era)の環境を説明する説です。

24億年前の海は緑色だった説登場 張本人は酸素増やした光合成生物:朝日新聞
 約24億年前の地球の海は青ではなく、緑だったかもしれない。そんな説を、名古屋大などの研究チームが科学誌ネイチャー・エコロジー&エボリューション(…

 この頃の地球は現在とは全く異なる海洋化学を持っており、「緑色の海」はその時代特有の特徴として注目されています。

なぜ、緑色に見えるのか

1. 酸素がほとんどなかった

  • 当時の地球大気には酸素がほとんど存在しておらず、海中も酸化的ではなく還元的でした。
  • 酸素は生命活動(光合成など)により徐々に増えていきましたが、初期の頃はまだ少なかった。

2. 鉄イオンが豊富だった

  • 酸素が少ないと、鉄(Fe²⁺)は海水に溶けたままで存在できます。
  • この溶存鉄は光や微生物の働きで反応し、時に色を生み出す要因に。

3. 緑色硫黄細菌の存在

  • 光合成を行うが酸素を出さない「緑色硫黄細菌」などの嫌気性光合成生物が海に多く存在したと考えられています。
  • 彼らは硫化水素(H₂S)を使って光合成を行い、これにより独特な緑色の色素(クロロソームなど)を持っていた。
  • 彼らの大量増殖が、海の色を緑色に見せていた可能性があるというわけです。

サポートする証拠

  • 現在の堆積岩(バンド鉄鉱層:Banded Iron Formation)に残る鉄の酸化還元パターン。
  • 同位体比分析で得られた当時の微生物活動の痕跡。
  • 類似する環境が現存する極限環境(例:ブラックスモーカーの近く)に見られる微生物群集。

関連する出来事:大酸化イベント(Great Oxidation Event)

  • 約24〜23億年前に起きたとされる「大酸化イベント(GOE)」によって、酸素が急激に増加。
  • この酸化によって、鉄は酸化されて海中から沈殿し、緑色の海は終わりを迎えたとされます。
  • この変化は、地球生命史における大きな転換点のひとつです。

酸素濃度が低く、鉄Fe2+が海水に溶けていたことや独特な緑っぽい色の色素をもつ緑色硫黄細菌が多く存在していたため、緑色だった可能性が示唆されています。

なぜ、酸素が少ないと鉄が海水に溶けたままになるのか

 海水中に鉄が溶けたままでいられる理由は、「鉄の酸化状態(Fe²⁺とFe³⁺)」と「酸素の有無」の関係にあります。


【基本の化学】

 鉄には主に以下の2つの酸化状態があります:

  • Fe²⁺(二価鉄):水に溶けやすい(=溶存しやすい)、淡緑色を示す
  • Fe³⁺(三価鉄):水に溶けにくく、すぐに沈殿してしまう

【酸素がある世界】

  • 酸素(O₂)があると、Fe²⁺は酸化されてFe³⁺になります。
  • Fe³⁺は水酸化物(Fe(OH)₃など)として沈殿してしまいます、(赤茶けた色のサビのようなもの)。
  • つまり、酸素があると鉄は水に溶けていられないといえます

【酸素がない世界】

  • 酸素がない(嫌気的)状態では、Fe²⁺のままで安定。
  • このFe²⁺は水に溶けやすく、海水中に大量に存在できる

酸素が少ないとFe²⁺が溶けたままで存在でき、淡緑色であるFe²⁺が存在することで緑色だったのでは?と推測されています。

嫌気性光合成とは何か

 嫌気性光合成(けんきせいこうごうせい)とは酸素を使わずに光合成をする方法のこと。正式には、酸素を発生させない光合成(anoxygenic photosynthesis)とも言います。


【ふつうの光合成(好気性)との違い】

項目好気性光合成(例:植物)嫌気性光合成
(例:緑色硫黄細菌)
電子供与体水(H₂O)硫化水素(H₂S)や鉄(Fe²⁺)など
酸素発生する(O₂が出る)しない(O₂は出ない)
主な生物植物、藻類、シアノバクテリア緑色硫黄細菌、紫色細菌など
環境酸素があるところ酸素がない(還元的)場所

【化学反応の違い】

好気性光合成(植物など)

反応式:6 CO₂ + 6 H₂O + 光 → C₆H₁₂O₆ + 6 O₂
(水を使い、酸素が出る)

嫌気性光合成(緑色硫黄細菌など)

反応式:CO₂ + 2 H₂S + 光 → CH₂O + H₂O + 2 S
(硫化水素を使い、硫黄が出る)
※「CH₂O」はグルコースなどの炭水化物の単位的表現。


【どんな環境で使われていた?】

  • 太古の酸素が少ない海(酸欠・還元環境)
  • 熱水噴出口周辺や、日光が届くが酸素が少ない場所
  • 硫化水素が豊富なところ(腐った卵のにおいの元)

【なぜ重要?】

  • 地球最古の光合成の形態と考えられている
  • 大酸化イベント前のエネルギー源
  • 一部の微生物は今もこの方法で生きている
  • 地球外生命体の可能性を考えるヒントにもなる(火星やエウロパなど)

嫌気性光合成とは、酸素を発生させない光合成のことで、硫化水素と二酸化炭素と光のエネルギーからグルコースなどを合成する反応のことです。

酸素の少ない古代の海では、嫌気性光合成をおこなう緑色硫黄細菌が多かったことも、海が緑色だった可能性を示唆しています。

クロロソーム

 「クロロソーム(chlorosome)」は、緑色硫黄細菌(Green sulfur bacteria)や一部の緑色非硫黄細菌が持つ、光合成アンテナ構造のことです。


クロロソームとは?

 光を集める“光合成アンテナ”の一種で、細菌の中でも最強クラスの光捕集能力を持つ構造を有しています。


【どこにある?】

  • 光合成膜(チラコイド)ではなく、細胞膜のすぐ内側にくっついて存在。
  • 「袋状」「しずく状」の構造を持つ。

【何でできてる?】

  • 主成分はバクテリオクロロフィルc、d、eといった色素分子。
  • これらの色素がタンパク質を使わずに自発的に自己集合して構造を作っている点。
    • 通常の光合成アンテナは色素がタンパク質に組み込まれてるが、クロロソームは「色素だけでまとまっている」イメージです。

【クロロソームの特徴】

特徴内容
光の吸収範囲弱い光(遠赤外線付近)でもキャッチできる
効率非常に高効率で、地球上で最も効率的な光捕集系とも言われる
構造大量の色素が緻密にパッキングされている(ナノスケールの自己組織化)
利点光がほとんど届かない極限環境でも光合成が可能

【なぜ重要?】

  • 太古の地球の深海や硫化水素豊富な場所で生き延びる鍵となった。
  • 弱光環境でも生き残れる=過酷な環境でも繁栄可能。
  • 人工光合成やナノテク材料の設計にもインスピレーションを与えている。

クロロソームは、緑色硫黄細菌や一部の緑色非硫黄細菌が持つ、光合成アンテナ構造で弱い光でも吸収できる特徴から過酷な環境でも繁栄可能で、太古の地球の深海や硫化水素豊富な場所で生き延びる鍵と考えられています。

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