東ソーのバイオ原料を活用したクロロスルホン化ポリエチレン クロロスルホン化ポリエチレンとは何か?バイオ原料から作るのが難しい理由は?

この記事で分かること

  • クロロスルホン化ポリエチレンとは:ポリエチレンに塩素化とクロロスルホン化を施して合成される合成ゴムで、その優れた特性から幅広い分野で利用されています。
  • 対候性に優れる理由:分子の主鎖に二重結合がないクロロスルホン化ポリエチレンなどの高分子は、オゾン、紫外線、酸素といった外部からの攻撃に対する脆弱な点が少なくなるため、優れた耐候性を示します。
  • バイオ原料からの製造が難しい理由:バイオ原料からの合成触媒技術の革新、プロセスの効率化、スケールアップ技術の開発、コスト削減、そして持続可能な原料調達システムの確立が必要なため、合成は難しくなっています。

東ソーのバイオ原料を活用したクロロスルホン化ポリエチレン

 東ソーがバイオ原料を活用したクロロスルホン化ポリエチレンの開発したことを発表しています。

 https://www.tosoh.co.jp/news/release/2025/20250603.html

バイオ原料を活用した製品の開発は、クロロスルホン化ポリエチレンとしては世界初となります。

クロロスルホン化ポリエチレンとは何か

 クロロスルホン化ポリエチレン(CSM: Chlorosulfonated Polyethylene)とは、ポリエチレンに塩素化とクロロスルホン化を施して合成される特殊な合成ゴムです。デュポン社が「ハイパロン」という商品名で開発したことで知られています。


特徴

 クロロスルホン化ポリエチレンは、その分子構造から多くの優れた特性を持ちます。

  • 耐候性・耐オゾン性・耐熱性: 主鎖に二重結合を持たないため、屋外での使用や高温環境下でも劣化しにくいです。
  • 耐薬品性: 無機酸やアルカリに対して特に優れた耐性を示します。
  • 着色性: 明るい色に自由に染めることができ、長期の屋外暴露でも変色が少ないです。
  • 機械的強度・耐摩耗性: 比較的高い機械的強度と優れた耐摩耗性を持っています。
  • 難燃性・電気特性: 難燃性にも優れ、電気絶縁材料としても使用されます。

 一方で、以下のような短所もあります。

  • 圧縮永久ひずみ: シールパッキン材など、圧縮永久ひずみが求められる用途では性能が劣る場合があります。
  • 低温特性: 低温で結晶化しやすく、耐寒性はあまりありません。

用途

 クロロスルホン化ポリエチレンは、その優れた特性から幅広い分野で利用されています。

  • 自動車部品: ホースやケーブル被覆材など。
  • 電線被覆: 耐候性や難燃性が求められる電線の被覆材。
  • 工業用ホース: 耐薬品性や耐摩耗性が求められるホース。
  • ゴムボート: 耐突刺性や耐候性を活かして使用されます。
  • 防水シート・ルーフィング材: 建築・土木分野での防水用途。
  • 塗料・ライニング材: 耐食性や耐薬品性が必要な塗料やタンクの内張り。
  • その他: エスカレーターの手すり、パッキン、ゴムロールなど。

クロロスルホン化ポリエチレンはポリエチレンに塩素化とクロロスルホン化を施して合成される合成ゴムで、その優れた特性から幅広い分野で利用されています。

なぜ二重結合が無いと、耐候性に優れるのか

 ポリエチレンやクロロスルホン化ポリエチレン(CSM)のように、分子の主鎖に二重結合を持たない(または非常に少ない)高分子が耐候性に優れるのは、以下の理由によります。

1. オゾンによる劣化の抑制

 ゴムなどの高分子材料の劣化の主な原因の一つに、オゾンによる劣化(オゾンクラック)があります。大気中に微量に存在するオゾン(O3​)は非常に反応性が高く、特に二重結合と反応しやすい性質を持っています。

  • 二重結合がある場合:
    • 天然ゴム(NR)やスチレンブタジエンゴム(SBR)などのジエン系ゴムは、分子の主鎖に多くの二重結合(C=C結合)を持っています。
    • オゾンはこれらの二重結合を攻撃し、分子鎖を切断します。これにより、ゴム表面に亀裂(クラック)が発生し、特に応力がかかっている部分ではこの亀裂が大きく成長してしまいます。
  • 二重結合が少ない、またはない場合:
    • クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)やエチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコーンゴムなどは、主鎖に二重結合を持たないか、あるいは架橋(ゴムの網目構造を作る)に必要な最小限の二重結合しか持たない非ジエン系ゴムに分類されます。
    • 二重結合がないため、オゾンが攻撃する部位がほとんどなく、オゾンによる分子鎖の切断が起こりにくくなります。その結果、オゾンクラックが発生しにくく、耐オゾン性に優れます。

2. 紫外線による劣化の抑制

 太陽光に含まれる紫外線も、高分子材料の劣化を促進する主要な要因です。

  • 紫外線は高いエネルギーを持っており、高分子の分子結合を切断する能力があります。特に、二重結合は一重結合に比べて電子密度が高く、紫外線による攻撃を受けやすい傾向があります。
  • 二重結合が少ない、または存在しない高分子は、紫外線による結合切断が起こりにくいため、光劣化に対して耐性が高くなります。

3. 酸素による酸化劣化の抑制

空気中の酸素も、熱や光の存在下で高分子を酸化させ、劣化を引き起こします。

  • 二重結合は、酸素分子との反応(酸化反応)が起こりやすい部位です。酸化反応によって生成されるラジカル(反応性の高い分子)が、さらに別の分子鎖を切断する連鎖反応を引き起こし、高分子の物性を低下させます。
  • 二重結合が少ない高分子は、この酸化反応の起点となる部位が少ないため、熱や光が存在する環境下でも酸化劣化が起こりにくく、結果的に耐熱性や耐候性が向上します。

分子の主鎖に二重結合がない、または非常に少ない高分子は、オゾン、紫外線、酸素といった外部からの攻撃に対する脆弱な点が少なくなるため、優れた耐候性を示します。

バイオ原料のメリットは何か

 バイオ原料(バイオマス原料とも呼ばれる)は、持続可能な社会の実現に向けて非常に注目されている資源であり、多くのメリットを持っています。主なメリットは以下の通りです。

1. カーボンニュートラルに貢献

 バイオ原料の最大のメリットは、カーボンニュートラルという特性を持つことです。

 植物は成長する過程で光合成により大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収します。バイオ原料から製品を製造し、使用後に燃焼した際にCO2が排出されても、それはもともと植物が吸収したCO2が大気中に戻るだけと考えることができます。

 そのため、地球温暖化の原因となるCO2の純増にはつながりにくいとされています。これは、地中に固定されていた炭素(化石燃料)を燃焼して大気中にCO2を排出する化石燃料とは大きく異なる点です。

2. 化石資源への依存度を低減

 化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)は限りある資源であり、将来的には枯渇するリスクがあります。 

 バイオ原料は、植物や動物、微生物由来の再生可能な資源であるため、これらを利用することで化石資源の消費を抑え、持続的な社会の実現に貢献します。

3. 持続可能性・再生可能性

 バイオ原料は、適切な管理のもとで継続的に生産することが可能です。例えば、農作物の栽培や林業などによって、枯渇することなく繰り返し利用できるため、資源の安定供給につながります。

 また、廃食油や間伐材、農業廃棄物など、これまで廃棄されていたものを原料として活用できる場合もあり、資源の有効活用にも貢献します。

4. 地域経済の活性化

 バイオ原料の生産や加工は、多くの場合、地域の農業や林業と結びついています。これにより、新たな雇用の創出や農村部の所得向上、遊休農地の活用など、地域経済の活性化につながる可能性があります。

5. 多様な用途への展開

 バイオ原料は、燃料(バイオエタノール、バイオディーゼル)、プラスチック(バイオプラスチック)、化学品、建材、飼料など、非常に幅広い分野で活用できます。

 これにより、様々な産業における環境負荷低減に貢献することができます。

6. 環境負荷の低減(特定のケース)

 生分解性バイオプラスチックのように、使用後に自然環境下で微生物によって分解される特性を持つものもあります。

 これにより、海洋プラスチック問題など、環境中にプラスチックごみが長期滞留することによる環境負荷の低減が期待されます。

7. 安定供給の可能性(一部のバイオ燃料)

 太陽光や風力といった再生可能エネルギーは天候に左右されやすい側面がありますが、バイオマス発電などは、季節や時間帯を問わず安定的に電力を供給できるというメリットがあります。また、液体や固体、気体など柔軟に状態変化させることができ、貯蔵が容易な点も利点です。

これらのメリットから、バイオ原料は地球規模での環境問題や資源問題の解決策として、世界中で研究・開発・導入が進められています。

バイオ原料は、カーボンニュートラルに貢献し、地球温暖化の原因となるCO2排出量の増加を抑制します。また、化石資源への依存を減らし、再生可能で持続可能な資源として、地域経済の活性化多様な用途への展開が可能です。

そのため、バイオ原料は地球規模での環境問題や資源問題の解決策として、世界中で研究・開発・導入が進められています。

バイオ原料からクロロスルホン化ポリエチレンを作り出すのが難しかった理由は

 バイオ原料からクロロスルホン化ポリエチレン(CSM)を作り出すのは、いくつかの技術的・経済的課題から容易ではありません。

1. 基幹原料の複雑な合成ルート

 CSMは、基本的にポリエチレンを塩素化・クロロスルホン化することで製造されます。つまり、バイオ由来のCSMを製造するには、まずバイオ由来のポリエチレン(バイオPE)を製造する必要があります。

  • バイオPEの製造プロセス: バイオPEは、サトウキビなどの植物から得られるバイオエタノールを脱水してエチレンを合成し、そのエチレンを重合させることで作られます。
    • この「バイオエタノール → エチレン」のプロセスは、高い効率と選択性を持つ触媒の開発が重要であり、工業的なスケールアップには技術的なハードルがあります。
  • 既存の複雑な製造プロセス: CSMの製造自体も、ポリエチレンに塩素と亜硫酸ガス、または塩化スルフリルなどを反応させる複雑な化学プロセスです。これらの反応条件(温度、圧力、触媒、反応時間など)を最適化し、安定した品質のCSMを製造するには高度な技術とノウハウが必要です。

2. コスト競争力

 現状、バイオ由来のプラスチックやゴムは、石油由来の製品と比較して製造コストが高い傾向にあります。

  • 原料コスト: バイオマス原料自体の価格、およびそれを化学品へと変換するための精製・変換コストが、石油に比べて高くなることがあります。
  • 設備投資: 新たなバイオマス変換プラントの建設や、既存設備の改修には大規模な初期投資が必要です。
  • 生産規模: 石油化学プラントのような大規模な生産体制が確立されていないため、スケールメリットが得られにくく、コストが割高になりがちです。

3. 品質の維持と安定供給

 バイオ原料由来の製品は、石油由来の製品と同等の品質や性能を安定して再現できるかが重要な課題となります。

  • 不純物の影響: 天然物由来のバイオマスには、不純物が含まれることがあり、これが最終製品の品質に影響を与える可能性があります。
  • 反応の制御: ポリエチレンの塩素化・クロロスルホン化は、塩素量やスルホニル基の導入量を精密に制御することで、最終的なCSMの特性(硬度、耐熱性、耐薬品性など)が変化します。バイオ由来の原料を用いた場合でも、これらの制御を正確に行う技術が求められます。

4. 食料問題との競合(一部のバイオ原料)

 サトウキビやトウモロコシなどの食料作物をバイオ燃料やバイオプラスチックの原料として使用することに対して、食料価格の高騰や飢餓問題への影響が懸念される場合があります。このため、非可食バイオマスの利用や、より効率的な変換技術の開発が求められています。

5. 研究開発の歴史の差

 石油由来のプラスチックやゴムは、長年にわたる研究開発と工業化の歴史があります。それに対して、バイオ由来の合成ゴムの開発は比較的新しく、まだ技術的な蓄積が十分ではない分野が多く存在します。

これらの課題を克服するためには、触媒技術の革新、プロセスの効率化、スケールアップ技術の開発、コスト削減、そして持続可能な原料調達システムの確立が不可欠です。

バイオ原料からの合成触媒技術の革新、プロセスの効率化、スケールアップ技術の開発、コスト削減、そして持続可能な原料調達システムの確立が必要なため、合成は難しくなっています。

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