この記事で分かること
- 水性下塗料とは:工業用水性下塗料は、金属製品等に塗る水性の下地材です。VOC排出が少なく環境に優しく、溶剤系同等の防錆性・密着性・速乾性を持っています。
- VOCとは:VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)は、常温で気化しやすい有機化合物の総称です。塗料や接着剤、燃料などに含まれ、大気汚染(光化学スモッグ)やシックハウス症候群の原因となるため、排出抑制が求められています。
- 塗料のVOCの役割:顔料や樹脂を溶かして塗料の粘度を調整し、均一に塗りやすくすることや乾燥速度を制御し、塗膜の密着性や耐久性など性能を高める役割も担います。
大日本塗料の工業用水性下塗料
大日本塗料は、VOC(揮発性有機化合物)排出量の削減に積極的に取り組んでおり、水性塗料の開発・発売を強化しています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00751784
2025年6月12日に発売された工業用水性下塗料AQプライマーは、工業用途で求められる塗膜性能を満たしつつ、VOC排出抑制と作業環境改善に大きく貢献するとされています。
工業用水性下塗料とは何か
「工業用水性下塗塗料」とは、文字通り、工業製品や設備に使用される水性タイプの下塗り塗料のことです。
塗料は通常、「下塗り」「中塗り」「上塗り」の3層構造で塗布されることが多く、下塗りは最も下地に密着する層であり、上塗り塗料の性能を最大限に引き出すための重要な役割を担います。
工業用水性下塗塗料には、以下のような特徴と役割があります。
工業用水性下塗塗料の主な特徴と役割
- 水性であること(低VOC)
- 主成分が水であるため、有機溶剤の使用量が大幅に削減されます。
- これにより、VOC(揮発性有機化合物)の排出量が抑制され、環境負荷が低減されます。
- 塗装作業時の臭気が少なく、作業者の健康への配慮や作業環境の改善に繋がります。引火の危険性も低いため、保管や取り扱いも比較的容易です。
- 密着性の向上
- 上塗り塗料が下地(金属、プラスチック、既存塗膜など)にしっかりと密着するように、下地の表面を整える役割があります。これにより、上塗り塗料の剥がれやひび割れを防ぎ、耐久性を高めます。
- 特に、鉄、アルミ、ステンレス、パテなど、様々な素材に密着する性能が求められます。
- 防錆性(防食性)
- 金属素材に適用される場合、錆の発生を抑制し、素材を腐食から守る重要な機能です。水性でありながら、溶剤系塗料と同等レベルの高い防錆性が求められます。
- 下地の吸い込み防止・均一化
- 下地が塗料を過剰に吸い込むのを防ぎ、上塗り塗料が均一に塗布されるようにします。これにより、上塗りのムラを防ぎ、仕上がりの美観を高めます。
- 乾燥性
- 工業用途では生産効率が重要であるため、速乾性が求められます。特に低温環境(冬季など)でも短時間で乾燥し、次の工程に進めることができる製品が重宝されます。
- 高い塗膜性能:
- 工業製品は様々な環境下で使用されるため、水性塗料であっても、耐候性、耐薬品性、耐食性など、溶剤系塗料に匹敵する高い塗膜性能が求められます。
大日本塗料の「AQプライマー」の場合
大日本塗料が発売した「AQプライマー」は、まさにこれらの工業用水性下塗塗料に求められる要素を満たしています。
- 幅広い素材への適用: 鉄、アルミ、ステンレス、さらにパテにも密着し、素材ごとの塗り分けの手間を省きます。
- 高い防錆性: 水性でありながら、溶剤塗料に劣らない防錆性能を発揮します。
- 優れた乾燥性: 低温環境でも迅速に乾燥し、作業工程の短縮に貢献します。
- VOC排出抑制: 水性であるため、環境負荷低減に大きく貢献します。
このように、工業用水性下塗塗料は、環境配慮と高機能を両立させることで、今後の工業分野における塗装の主流となっていくことが期待されています。

工業用水性下塗料は、金属製品等に塗る水性の下地材です。VOC排出が少なく環境に優しく、溶剤系同等の防錆性・密着性・速乾性を持ち、様々な素材に適用可能であり、作業環境改善と高機能化を両立可能です。
VOCとは何か
VOCとは、Volatile Organic Compounds の頭文字をとった略称で、日本語では揮発性有機化合物と訳されます。
VOCの定義
VOCは、常温常圧で大気中に容易に揮発(蒸発)する性質を持つ有機化学物質の総称です。具体的には、沸点が低い(概ね250℃以下)有機化合物を指します。
VOCの主な特徴
- 揮発性: 室温で気体になりやすく、空気中に広がりやすい性質を持っています。これが「揮発性」という言葉の由来です。
- 多様な種類: トルエン、キシレン、酢酸エチル、アセトン、ホルムアルデヒド、ベンゼンなど、非常に多岐にわたる化学物質が含まれます。
- 特有の匂い: 塗料用シンナーや香水、ガソリンなど、多くのVOCは特徴的な匂いを放ちます。ただし、匂いがしないからといってVOCが含まれていないとは限りません。
VOCの主な発生源
VOCは私たちの身の回りの様々なものから発生します。
- 塗料・接着剤: 塗料、接着剤、インク、ワックス、洗浄剤などの溶剤として幅広く使用されています。塗装時や乾燥時に大量に揮発します。
- 建材・家具: 合板、壁紙、フローリング、家具など、様々な建材や家具の製造過程でVOCが使用されており、時間が経っても徐々に放出されることがあります(シックハウス症候群の原因の一つ)。
- 燃料: ガソリン、灯油などの石油系燃料から蒸発ガスとして排出されます。
- 印刷・クリーニング: 印刷インクやドライクリーニング溶剤などもVOCを含みます。
- その他: タバコの煙、芳香剤、殺虫剤、化粧品など、身近な製品にも含まれています。また、動植物や微生物によって自然界でも生成されることがあります。
VOCがもたらす影響
VOCは環境と健康の両方に影響を及ぼす可能性があります。
- 大気汚染(光化学スモッグの原因):
- VOCが大気中に放出されると、窒素酸化物(NOx)などと反応し、太陽光(紫外線)の作用で光化学オキシダント(主成分はオゾン)を生成します。これが光化学スモッグの原因となり、呼吸器系への刺激や視界の悪化などを引き起こします。
- 健康被害:
- 高濃度のVOCを吸入したり、長期間にわたって低濃度のVOCに暴露されたりすると、様々な健康被害を引き起こす可能性があります。
- 急性症状: 目、鼻、喉の刺激、頭痛、めまい、吐き気、倦怠感、集中力の低下など。
- 慢性症状: 神経系の問題、肝臓や腎臓の損傷、アレルギー性皮膚炎など。
- 一部のVOC(例:ベンゼン)は、発がん性物質としても知られています。
VOC排出抑制の取り組み
これらの影響から、世界的にVOC排出量の削減が重要視されています。日本では大気汚染防止法などにより、工場や事業場からのVOC排出が規制されています。また、環境省を中心に、企業や業界団体が自主的な排出抑制対策に取り組んでいます。
大日本塗料が水性塗料の開発・販売を強化しているのは、まさにこのVOC排出抑制という社会的な要請に応えるための取り組みの一つと言えます。
水性塗料は、有機溶剤の使用を大幅に削減することで、VOC排出量を低減できるため、環境負荷の低減と作業環境の改善に貢献します。

VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)は、常温で気化しやすい有機化合物の総称です。塗料や接着剤、燃料などに含まれ、大気汚染(光化学スモッグ)やシックハウス症候群の原因となるため、排出抑制が求められています。
なぜ塗料にはVOCが使われるのか
塗料にVOC(揮発性有機化合物)が必要とされる主な理由は、その機能性と作業性にあります。VOCは塗料の液体部分である「溶剤」として使用され、以下のような重要な役割を果たします。
塗料にVOCが必要な主な理由
1. 塗料の粘度調整と均一な塗布
塗料は、顔料(色材)とバインダー(結合剤、樹脂)などを混ぜ合わせたものです。VOCはこれらを溶かし、塗料を適切な粘度にすることで、ハケやローラー、スプレーなどでの塗布を容易にします。
適切な粘度がないと、塗料が固すぎたり、逆に流れすぎてしまったりして、きれいに均一に塗ることができません。
2. 乾燥速度の調整
塗料を塗った後、溶剤が蒸発することで塗膜が形成されます。VOCは乾燥速度を調整する役割があります。
- 速乾性: 工業用途など、短時間で次の工程に進む必要がある場合、揮発性の高いVOCを使うことで乾燥時間を短縮できます。
- 作業時間確保: 一方で、塗料がすぐに乾きすぎると、塗りムラができやすくなるため、ある程度の作業時間を確保できるよう、適切な揮発性のVOCが選ばれます。
3. 塗膜性能の向上
VOCは、塗料に含まれる樹脂(バインダー)の特性を最大限に引き出す手助けをします。例えば、特定のVOCを使用することで、塗膜の密着性、耐久性、光沢、耐水性、防錆性などが向上することがあります。特に、金属など特定の素材への密着性を高めるには、VOCの溶解力が重要な役割を果たすことがあります。
4. 作業性の向上
VOCは、塗料を薄めたり、塗装後の道具(ハケ、ローラー、スプレーガンなど)を洗浄したりするためにも使われます。特に油性塗料では、シンナーなどのVOCが必須の洗浄剤となります。
VOC削減の動きと課題
しかし、前述の通りVOCは大気汚染や健康被害の原因となるため、環境負荷の低い水性塗料やゼロVOC塗料、ハイソリッド塗料などの開発が進められています。
これらの塗料は、VOCの使用量を減らす、あるいは全く使用しないことで、環境と人体への影響を最小限に抑えることを目指しています。
従来のVOCを多く含む塗料は、高い性能や優れた作業性を持つものが多いですが、環境・健康への配慮から、今後はVOC排出量を抑えた塗料が主流となっていくでしょう。

塗料にVOCが使われるのは、顔料や樹脂を溶かして塗料の粘度を調整し、均一に塗りやすくするためです。また、乾燥速度を制御し、塗膜の密着性や耐久性など性能を高める役割も担います。
低VOCにするにはどうすれば良いのか
塗料のVOC(揮発性有機化合物)排出量を低減させるには、主に以下の3つのアプローチがあります。
1. 低VOC塗料への転換
最も効果的な方法の一つは、VOC含有量の少ない塗料を選ぶことです。
- 水性塗料への切り替え:
- 従来の溶剤系塗料(油性塗料)の代わりに、水性塗料を使用するのが最も一般的な方法です。水性塗料は溶剤の代わりに水を主成分とするため、VOC排出量を大幅に削減できます。近年は性能も向上しており、様々な用途で溶剤系塗料の代替として採用されています。
- ハイソリッド塗料の採用:
- ハイソリッド塗料は、塗料中の固形分(VOC以外の成分)の割合を高めた塗料です。これにより、塗料の総量に対するVOCの割合が減り、同じ膜厚を得るのに必要なVOC排出量を抑えられます。
- 粉体塗料の利用:
- 粉体塗料は、溶剤を全く含まない粉末状の塗料で、加熱して溶融・硬化させることで塗膜を形成します。VOC排出がゼロであり、非常に環境負荷が低いのが特徴です。主に工場での金属製品の塗装に用いられます。
- 「ゼロVOC」塗料の選択:
- 一部の塗料メーカーは、意図的にVOCを配合しない「ゼロVOC(VOCフリー)」塗料を開発・販売しています。特に室内用塗料で、健康への配慮から注目されています。
2. 塗装方法や作業工程の改善
使用する塗料だけでなく、塗装の仕方や日常の管理を見直すことでもVOC排出量を減らせます。
- 塗着効率の向上:
- 塗料が被塗物(塗装されるもの)に付着する割合を「塗着効率」といいます。スプレーガンなどの塗装機器の選定(例:静電塗装機、高塗着効率スプレーガン)や、塗装条件(スプレー角度、距離、移動速度など)を最適化することで、無駄になる塗料を減らし、結果的にVOC排出量を削減できます。
- 塗装条件の最適化:
- 適切な膜厚で塗る、塗り重ねる間隔を調整する、といった塗装技術の改善も効果的です。
- 日常管理の徹底:
- 塗料や希釈剤の容器にはしっかり蓋をする、使用済みウエスは密閉容器に入れるなど、保管・管理を徹底することで、揮発するVOCを抑制できます。
- 塗料の保管場所の温度管理も重要です。高温な場所での保管はVOCの揮発を促進するため、避けるべきです。
3. 排出ガスの処理
上記のような対策だけではVOCを完全にゼロにすることは難しいため、排出されるVOCを処理する装置を導入する方法もあります。
- VOC処理装置の導入:
- 塗装ブースや乾燥炉から排出されるVOC含有ガスを、活性炭吸着法や燃焼処理法(触媒燃焼含む)、生物処理法などで分解・除去する装置を設置します。これは主に工場などの大規模な排出源で採用されます。
これらの方法を組み合わせることで、VOC排出量を効果的に低減させることが可能です。特に、塗料そのものを低VOCなものに転換することが、最も根本的で大きな効果をもたらします。

塗料のVOCを低減するには、主に水性塗料や粉体塗料など、VOC含有量の少ない塗料への切り替えが有効です。また、塗装方法の改善による塗着効率の向上や、排出されるVOCを処理する装置の導入も対策となります。
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