タツタ電線のボンディング用銀ワイヤ ボンディングワイヤとは何か?銀を使用する理由は?

この記事で分かること

  • ボンディングワイヤとは:シリコンなどの基板上に作られた微細な回路(チップ)と外部と接続するためのパッケージを電気的に接合する素材です。
  • ボンディングワイヤの原料:これまで金が使用されることが多かったのですが、銀ワイヤも増加傾向にあります。
  • 銀のメリット:金ワイヤより安価で、高い電気・熱伝導性を持つ点がメリットです。

タツタ電線のボンディング用銀ワイヤ

 タツタ電線は、半導体パッケージに不可欠なボンディングワイヤの主要メーカーであり、特に近年、銀ワイヤの拡販に注力しています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00752023

 これは、従来の主流であった金ワイヤの代替として、コストパフォーマンスに優れ、かつ高性能な銀ワイヤの需要が高まっているためです。

銀ワイヤは半導体でどのように使用されるのか

 半導体における銀ワイヤの主な利用法は、ワイヤボンディングと呼ばれるプロセスにおいて、半導体チップと外部の回路(リードフレームや基板)を電気的に接続することです。これは、半導体パッケージの製造工程において非常に重要な部分を占めます。

 具体的には、以下のような半導体デバイスや用途で銀ワイヤが活用されています。

1. ボンディングワイヤとしての利用

 半導体デバイスは、シリコンなどの基板上に作られた微細な回路(チップ)と、それを保護し、外部と接続するためのパッケージで構成されています。このチップとパッケージのリード(端子)を電気的に繋ぐのがボンディングワイヤです。

  • 金ワイヤからの代替: 従来、ボンディングワイヤの主流は金(Au)ワイヤでした。しかし、金の価格変動や高騰を背景に、より安価で優れた電気特性を持つ代替材料として銀(Ag)ワイヤが注目されています。
  • 低コスト化: 銀ワイヤを使用することで、金ワイヤに比べて大幅なコストダウンが可能です。これは、特にコスト競争が激しい分野や、大量生産される半導体において大きなメリットとなります。
  • 高い電気伝導性と熱伝導性: 銀はすべての金属の中で最も高い電気伝導性と熱伝導性を持っています。これにより、デバイスの高速動作や発熱を抑えることに貢献します。
    • 高周波デバイス: 高い電気伝導性は、信号の伝送損失を低減し、高周波デバイスの性能向上に寄与します。
    • パワー半導体: 大電流を扱うパワー半導体では、発熱が問題となるため、熱伝導性の高い銀ワイヤは放熱性能の向上に貢献します。
  • LED: LEDは光を放出する半導体デバイスであり、銀の高い反射率がLEDの輝度向上に寄与するため、特にLED向けボンディングワイヤとして銀ワイヤの採用が進んでいます。
  • メモリデバイス(NANDメモリなど): 大容量化・高速化が進むNANDメモリなどの記憶素子でも、コストと性能の両面から銀ワイヤの採用が増加しています。
  • 一般的なIC(集積回路): 特に、コストが重視される民生用電子機器などに搭載されるICにおいて、銀ワイヤへの切り替えが進んでいます。

2. 銀ワイヤの製造プロセスと特徴

 銀ワイヤは、以下のような工程で製造されます。

  1. 溶解・合金化: 高純度の銀に微量の添加元素を加え、溶解して合金を形成します。この合金の配合が、ワイヤの特性(強度、柔軟性、信頼性など)を決定する重要な要素となります。
  2. 伸線: ダイスと呼ばれる工具を通して、金属を細く引き伸ばし、ワイヤ状にします。半導体用途では、15μm(マイクロメートル)といった極細線が求められます。
  3. 焼鈍(アニール): 熱処理によってワイヤの結晶組織を変化させ、硬さや柔軟性を調整します。ボンディング時に適切な硬さや柔軟性が必要なため、重要な工程です。
  4. コーティング(オプション): 一部の銀ワイヤでは、表面に金などの貴金属をコーティングすることで、耐食性や接着性を向上させることがあります(例:AuコートAgワイヤ)。これは、既存の金ワイヤ用ボンダー設備をそのまま活用したい場合に特に有効です。

3. ボンディング方法

銀ワイヤは、主に「ボールボンディング方式」で半導体チップと接合されます。

  1. 1stボンド(ボールボンド): ワイヤの先端を放電で溶かし、小さなボール(フリーエアボール)を形成します。このボールを半導体チップ上の電極パッドに、熱、超音波、荷重を加えて接合します。
  2. 2ndボンド(ステッチボンド): 続いて、ワイヤを延ばしてパッケージ側のリードや基板上の電極に、ステッチ(縫い付け)するように接合します。

銀ワイヤのメリットと課題

メリット
  • 低コスト: 金に比べて材料費が安価。
  • 高い電気伝導性・熱伝導性: デバイスの高性能化・高効率化に貢献。
  • 高い反射率: LEDの輝度向上に寄与。
  • 既存設備への対応: 金ワイヤ用のボンディング装置を一部改造することで利用可能な場合が多い。
課題
  • 耐食性・変色: 銀は硫化などにより変色しやすく、長期的な信頼性に影響を与える可能性があります。そのため、高信頼性が求められる用途では、銀合金化や表面コーティングなどの対策が重要となります。
  • ボンディングの難易度: 金ワイヤに比べて硬い場合があり、チップへのダメージや安定した接合の難易度が課題となることがありました。しかし、タツタ電線のようなメーカーは、独自の合金技術やプロセス技術でこれらの課題を克服しています。

 これらの課題を克服し、高品質な銀ワイヤを提供することで、タツタ電線をはじめとするメーカーは、半導体業界における銀ワイヤの適用範囲を広げ、今後の半導体産業の発展に貢献しています。

半導体における銀ワイヤは、主にボンディングワイヤとして利用されます。これは、半導体チップと外部のリード端子を電気的に接続する役割を担います。金ワイヤより安価で、高い電気・熱伝導性を持つため、LEDやメモリ、各種ICの高性能化と低コスト化に貢献。特に、電流の効率的な伝達や放熱が求められる用途で需要が拡大しています。

金ワイヤが使用される理由は

 金ワイヤが長らく半導体のボンディングワイヤとして主流であった理由は、その優れた特性にあります。主な理由は以下の通りです。

  1. 高い信頼性: 金は非常に安定した金属であり、酸化や腐食に対する耐性が極めて高いです。これにより、長期間にわたって安定した電気接続を維持でき、半導体デバイスの信頼性を確保できます。特に、高温や高湿度の環境下での使用が想定されるデバイスにとって重要でした。
  2. 優れたボンディング特性:
    • 柔らかさ・加工性: 金は比較的柔らかく、ワイヤボンディング工程において、チップの電極パッドにダメージを与えることなく、安定したボール形状を形成し、容易に接合(ボンディング)できます。この加工性の良さは、自動ボンディング装置での高速かつ高精度な製造を可能にしました。
    • 幅広いプロセスウィンドウ: ボンディング条件(温度、超音波、荷重など)に対する許容範囲が広く、製造ばらつきを吸収しやすい特性がありました。
    • 優れたループ形成: ボンディング後のワイヤループの形状が安定しやすく、隣接するワイヤとの短絡を防ぎ、デバイスの小型化にも貢献しました。
  3. 良好な電気伝導性: 銀には劣るものの、金は非常に優れた電気伝導性を持っています。これにより、半導体チップから外部への信号伝送を効率的に行い、デバイスの性能を損なうことがありません。
  4. アルミニウムとの相性: 半導体チップの電極パッドの多くはアルミニウム(Al)でできており、金とアルミニウムは比較的安定した金属間化合物(IMC)を形成し、信頼性の高い接合が可能です。ただし、一部の条件下では「紫の疫病(purple plague)」と呼ばれる脆い金属間化合物が形成される問題もありましたが、これは合金設計やプロセス条件の最適化で対応されてきました。

 これらの理由から、金ワイヤは「高信頼性の標準(ゴールドスタンダード)」として、長年にわたり半導体パッケージングの主役を担ってきました。しかし、近年は金の価格高騰と、銀や銅といった代替材料の技術革新により、その地位が変化しつつあります。

金ワイヤが使われていた理由は、高い信頼性に尽きます。酸化・腐食への耐性が高く、長期安定した電気接続が可能でした。また、適度な柔らかさからボンディング時の加工性に優れ、安定した接合と良好なループ形成を実現し、半導体製造の効率と品質を保証してきたためです。

銀ワイヤーの問題をどうやって克服したのか

 銀ワイヤは優れた導電性とコスト優位性を持つ一方で、金ワイヤからの置き換えにはいくつかの課題がありました。これらの課題は、主に材料技術とプロセス技術の進化によって解決されてきました。

1. 耐食性・変色(硫化)の課題

 銀は酸素や硫黄成分と反応しやすく、特に高温多湿環境下で表面が酸化・硫化して黒ずんだり、接合部の信頼性が低下する「腐食」という問題がありました。これが、長期信頼性が求められる半導体用途での採用を阻む大きな要因でした。

解決策
  • 銀合金化: 純銀に微量の他の金属(パラジウム、金、銅など)を添加し、合金にすることで、耐食性や機械的強度を向上させています。タツタ電線の「AGXVS」のような銀合金ワイヤは、こうした技術の成果です。添加する元素の種類や配合比率が、ワイヤの特性を大きく左右します。
  • 表面処理・コーティング: ワイヤ表面に薄い貴金属層(特に金やパラジウム)をコーティングすることで、銀が直接外部環境に触れるのを防ぎ、耐食性を向上させます。これにより、従来の金ワイヤ用ボンディング装置をそのまま使えるという利点も生まれます。

2. ボンディング特性の課題(硬さ、ボール形成、パッドダメージ)

 純銀ワイヤは金ワイヤに比べて硬く、ボンディング時の安定したボール形成が難しかったり、半導体チップの電極パッドにダメージを与えるリスクがありました。また、高速ボンディングにおける安定性も課題でした。

解決策
  • 合金設計の最適化: 微量添加元素の選択と配合によって、銀ワイヤの硬度や延性を適切に制御し、金ワイヤに近いボンディング特性(柔らかさ、均一なボール形成、安定したループ形成)を実現しています。これにより、チップへのダメージを最小限に抑えることが可能になりました。
  • ボンディング装置の進化: ワイヤボンディング装置自体の精度向上や、超音波・加熱条件の精密制御技術が進歩したことも、銀ワイヤの安定した接合に貢献しています。
  • 極細線技術: 15μmといった極細線でも安定した品質と加工性を実現する技術が確立され、高密度実装にも対応できるようになりました。

3. 初期接着強度と長期信頼性の課題

  金ワイヤに比べて、初期の接合強度が出にくかったり、高温・高湿環境下での長期的な接合信頼性が低いという懸念がありました。

解決策
  • 接合界面の制御: 銀と電極パッド(アルミニウムなど)との間の金属間化合物(IMC)の形成を最適化する技術が開発されました。安定したIMC層を形成することで、高い接着強度と長期信頼性を確保します。
  • プロセス条件の最適化: ボンディング時の加熱温度、超音波エネルギー、荷重などの条件を精密に制御することで、銀ワイヤの特性を最大限に引き出し、安定した接合を実現しています。
  • 品質管理の徹底: 製造工程における厳格な品質管理やスクリーニング検査を通じて、不良品の発生を抑制し、高い信頼性を持つ銀ワイヤを供給しています。

 これらの技術革新により、銀ワイヤは金ワイヤの代替としてだけでなく、その優れた特性を活かして、高性能化・低コスト化が進む現代の半導体産業において不可欠な材料の一つとなっています。

銀ワイヤの課題は、合金化表面コーティングで耐食性や変色を防ぎ、合金設計の最適化ボンディング技術の進化で加工性や接着強度を向上させました。これにより、金ワイヤに匹敵する信頼性とボンディング安定性を実現し、半導体での利用を可能にしています。

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