レアアースの低減、代替技術 どのようなレアアースの削減が求められるのか?削減方法にはどんなものがあるのか?

この記事で分かること

  • 削減が求められるレアアース:耐熱性向上のためジスプロシウムやテルビウム(重希土類)が添加されます。これらレアアースは高性能磁石に不可欠ですが、供給が中国に偏るため、脱中国依存へ向け使用量削減や代替技術開発が進められています。
  • 削減方法:磁石の粒界に重希土類を少量集中させる「粒界拡散法」や、結晶構造を制御し重希土類を使わない磁石開発が進んでいます。さらに、鉄窒化物などレアアースフリー磁石や、使用済み製品からのリサイクルも重要なアプローチです。

レアアースの低減、代替技術

 プロテリアルや信越化学といった日本企業が、レアアース(希土類)への中国依存を低減し、新たな磁石技術の開発に挑んでいます。

 レアアースは、ハイブリッド車や電気自動車(EV)のモーター、風力発電、家電製品など、様々なハイテク製品に不可欠な材料です。その生産と供給の多くを中国が占めており、地政学的なリスクや輸出規制などにより、供給が不安定になる可能性があります。

 そのため、レアアース(希土類)への中国依存を低減し、新たな磁石技術の開発に挑むことは、経済安全保障の観点からも非常に重要な取り組みです。

磁石でレアアースは、どう使われているのか

 磁石、特に強力な永久磁石に使われているレアアースは、主に以下の2種類とその添加剤です。

  1. ネオジム磁石 (Nd-Fe-B):世界で最も強力な磁石として知られています。主な成分は以下のレアアースです。
    • ネオジム (Nd): ネオジム磁石の主原料であり、その名の通り主要な役割を担います。軽希土類に分類されます。
    • ジスプロシウム (Dy): ネオジム磁石の耐熱性を向上させるために添加されます。特に高温環境下での磁力低下を防ぐために重要です。重希土類に分類され、希少性が高く、中国での生産が偏在しています。
    • テルビウム (Tb): ジスプロシウムと同様に、耐熱性や保磁力(外部磁場に強い抵抗力)を向上させるために添加されます。こちらも重希土類に分類されます。
    • ガドリニウム (Gd): 一部のネオジム磁石に添加され、特性を調整するために用いられることがあります。
  2. サマリウムコバルト磁石 (Sm-Co):ネオジム磁石に次ぐ磁力を持ち、特に高温環境下での安定性に優れています。主に以下のレアアースが使われます。
    • サマリウム (Sm): サマリウムコバルト磁石の主原料です。

軽希土類と重希土類

 レアアースは、その物理的・化学的性質によって「軽希土類」と「重希土類」に大きく分けられます。

  • 軽希土類: ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)などが含まれます。比較的埋蔵量が多く、世界各国で採掘が可能です。
  • 重希土類: ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)などが含まれます。埋蔵量が少なく希少性が高く、特に中国が全世界の埋蔵量の約40%、生産の90%を占めているため、供給リスクが高いとされています。

 ネオジム磁石では、重希土類であるジスプロシウムやテルビウムがその性能(特に耐熱性)に大きく寄与するため、これらのレアアースの安定供給が課題となっています。

 そのため、プロテリアルや信越化学のような企業は、重希土類の使用量を削減したり、重希土類を使わない磁石の開発に力を入れているのです。

磁石には主にネオジムが使われ、耐熱性向上のためジスプロシウムやテルビウム(重希土類)が添加されます。これらレアアースは高性能磁石に不可欠ですが、供給が中国に偏るため、脱中国依存へ向け使用量削減や代替技術開発が進められています。

レアアース削減にはどんな方法があるのか

 磁石に使われるレアアース、特にジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類の使用量を減らすための技術開発は、多岐にわたります。主な方法は以下の通りです。

粒界拡散法(Grain Boundary Diffusion)

  • 仕組み: これは、ネオジム磁石の主成分であるネオジム(Nd)と鉄(Fe)、ホウ素(B)の合金の結晶粒界(粒と粒の境目)に、重希土類元素(DyやTb)を外部から少量だけ拡散させる技術です。
  • 効果: 重希土類は磁石の保磁力(磁力を失いにくくする力)を高めるために重要ですが、粒全体に均一に混ぜる必要はありません。粒界に集中的に配置することで、全体の重希土類使用量を大幅に削減しつつ、高い保磁力と耐熱性を維持できます。
  • 主要企業: 信越化学工業やプロテリアル(旧日立金属)などがこの技術で世界をリードしています。TDKなども同様の技術(HAL工法など)を開発しています。

重希土類フリー磁石・代替材料の開発

  • 重希土類フリーネオジム磁石: ジスプロシウムやテルビウムを全く使用しないネオジム磁石の開発も進められています。
  • 結晶粒の微細化と構造制御: 磁石の結晶粒を極限まで微細化し、その構造を最適化することで、少ないレアアース量で高い保磁力を実現する研究が行われています。トヨタ自動車などは、磁石を構成する粒を従来の1/10以下に微細化し、粒の表面のネオジム濃度を高くする二層構造化などの技術を開発しています。
  • モーター設計との連携: 磁石単体だけでなく、モーター全体の設計を最適化することで、重希土類フリー磁石でも必要な性能を達成するアプローチも取られています。Hondaは大同特殊鋼と共同で、重希土類完全フリー磁石とそれに適合するモーター設計を開発し、量産車に採用しています。
  • レアアースフリー磁石: ネオジムを含むレアアースを全く使わない磁石の開発も究極の目標として進められています。
  • サマリウム鉄系磁石: サマリウムはネオジムより埋蔵量が豊富で安価な場合があります。東芝などは、サマリウムと鉄を主成分とする磁石で、ネオジム磁石と同等の磁力を達成する技術を開発しています。
  • 強磁性窒化鉄系磁石: 鉄と窒素を組み合わせた磁石は、レアアースを全く使用しないため、将来の有望な代替材料として研究されています。
  • SRモーター(スイッチドリラクタンスモーター): 磁石を一切使わず、電磁石のON/OFFでローターを回転させるモーターも開発されており、レアアース磁石の需要を根本的に減らす技術として注目されています(日本電産など)。

リサイクル技術の確立

  • 使用済みモーターや家電からレアアースを効率的に回収し、再利用することで、新規の採掘量を減らすことができます。日産と早稲田大学などが、電動車用モーター磁石からレアアースを高純度で回収するリサイクル技術を開発しています。NEDOも未利用資源や廃EV、廃家電からのレアアース分離精製技術の開発を支援しています。

 これらの技術は、単にレアアースの使用量を減らすだけでなく、磁石の性能向上や製造コストの低減、そして持続可能な社会の実現にも貢献するものです。

レアアース削減には、磁石の粒界に重希土類を少量集中させる「粒界拡散法」や、結晶構造を制御し重希土類を使わない磁石開発が進んでいます。さらに、鉄窒化物などレアアースフリー磁石や、使用済み製品からのリサイクルも重要なアプローチです。

強磁性窒化鉄系磁石とは何か

 強磁性窒化鉄系磁石とは、鉄(Fe)と窒素(N)を主成分とする、レアアース(希土類元素)を全く使用しない新しいタイプの高性能永久磁石のことです。

 現在、最強の永久磁石として広く使われているネオジム磁石は、ネオジムの他にジスプロシウムやテルビウムといったレアアースを必須としますが、これらのレアアースは供給リスクや価格変動リスクが高いという課題があります。

 そこで、その代替として期待されているのが強磁性窒化鉄系磁石です。特に、Fe16​N2​(アルファダブルプライム窒化鉄)と呼ばれる物質が注目されています。

強磁性窒化鉄系磁石の主な特徴

  • レアアースフリー: 鉄と窒素という、安価で豊富な元素から構成されるため、レアアースの供給リスクから解放されます。これは、地政学的なリスクや資源の枯渇問題に対する画期的な解決策となります。
  • 理論上の高い磁気特性: Fe16​N2​は、理論的にはネオジム磁石を凌駕するほどの高い磁気エネルギー積(磁石の性能を示す指標)を持つ可能性があるとされています。一部の報告では、ネオジム磁石の2倍以上の磁気エネルギー特性が示唆されています。
  • 環境負荷の低減: レアアースの採掘や精製には環境負荷が高いという問題がありますが、強磁性窒化鉄系磁石はそうした環境問題を回避できます。
  • 量産技術への親和性: 製造プロセスが既存の量産技術と親和性が高く、比較的低コストでの製造が期待されています。

研究開発の現状と課題

 これまで、強磁性窒化鉄は粉末や薄膜状でしか作製が難しく、磁石として実用化するには課題がありました。

 しかし、近年、日本の大学や企業(東北大学、三恵技研工業、Future Materialzなど)が中心となって、これらの課題を克服するための研究開発が進められています。

  • 高純度なFe16​N2​の合成: 安定して高純度なFe16​N2​を再現性良く合成する技術が確立されつつあります。
  • 高い保磁力の実現: 磁石としての性能を高めるためには、高い保磁力(外部からの磁力に対して磁気を失いにくい特性)が重要ですが、Fe16​N2​はネオジム磁石よりも保磁力が低いという課題がありました。現在、結晶粒の制御や他の磁性成分との複合化(例えば、サマリウム鉄窒素との組み合わせ)により、保磁力を高める研究が進んでいます。
  • ボンド磁石化: 粉末状の強磁性窒化鉄を樹脂などで固めたボンド磁石として、既にネオジムボンド磁石と同等の性能を持つ小型モーターが開発・実証されています。

将来性

 強磁性窒化鉄系磁石は、電気自動車(EV)のモーター、風力発電機、家電製品など、様々な分野での応用が期待されており、レアアースに依存しない持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たす可能性を秘めています。実用化にはまだ課題もありますが、その進展は世界的に注目されています。

強磁性窒化鉄系磁石とは、鉄(Fe)と窒素(N)を主成分とする、レアアース(希土類元素)を全く使用しない高性能永久磁石であり、レアアースに依存しない持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たす可能性を秘めています。

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