この記事で分かること
- 好調の要因:化成品事業と電子材料事業の薬品特に、半導体製造に使用される薬品も扱っていることが好調の要因となっています。
- どのような薬液を扱っているのか:エッチング剤であるリン酸、非フェノール・非塩素系のレジスト除去液などを扱っています。
ラサ工業の株価好調
化学メーカーのラサ工業の株価が好調となっています。
https://www.nikkei.com/prime/veritas/article/DGXZQOUB252290V20C25A6000000
好調の背景には、半導体製造で必要な薬液の好調があるとされています。
ラサ工業はどのような薬品を扱っているのか
ラサ工業は多岐にわたる化学品を製造・販売していますが、特に「薬液」として注目されるのは、以下のような化成品事業と電子材料事業における製品群です。
半導体・電子工業向け薬液(高機能・高純度薬剤)
- リン系製品:
- EEリン酸、EE混酸(各種): 半導体や液晶・電子工業向けのエッチング剤として使用されます。特に超高純度のリン酸は、これらの精密な製造工程で不可欠です。
- 高純度リン酸塩: 半導体製造プロセスなどで利用される高純度のリン酸塩類も手掛けています。
- エッチング剤: 上記のリン酸系薬剤以外にも、半導体の回路パターンを形成する際に不要な部分を除去するために使われるエッチング液を提供しています。
- レジスト剥離液: フォトレジストの剥離に使用される薬剤です。各種基板(シリコン、フォトマスク、ガラスなど)の洗浄にも使われます。非フェノール・非塩素系で、環境負荷が低いのが特徴です。
- 半導体塗布絶縁材料(スピン・オン・ガラス/SOG): Honeywell社の国内代理店として、デバイスメーカーに幅広く採用されている塗布平坦化材料を提供しています。これは、半導体の層間絶縁膜の平坦化などに使用される液体です。
- 高純度無機素材: ガリウム、インジウム、赤リン、三酸化ホウ素などの高純度無機素材を、半導体や化合物半導体の製造向けに供給しています。これらは直接的な「薬液」とは異なりますが、電子材料を構成する重要な素材です。
その他の主要な薬液
- 酸・アルカリ製品: 塩酸、硫酸、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)など、幅広い産業で使用される基本的な酸性・アルカリ性の化学品。
- 金属表面処理剤: アルミニウムやアルミニウム系合金の鏡面仕上げや梨地仕上げ、その他下地処理などに使われる薬剤(ラサブライト®、ラサ梨地液、ラサパールなど)。
- 水処理用凝集剤: 上下水道、工業用水、工場排水などの処理に使われる液体ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄液など。水を浄化し環境保全に貢献します。
- 消臭剤: 特殊な技術を用いた消臭剤も提供しています。
ラサ工業の「薬液」は、このように半導体や電子部品の製造における精密な工程に不可欠な高純度・高機能な薬剤から、より汎用的な産業用化学品、水処理剤まで、非常に幅広い種類があります。特に半導体関連の製品は、その高い品質と純度が求められる分野で、同社の強みとなっています。

ラサ工業の薬液は、半導体・電子材料向けの高純度リン酸系エッチング剤やレジスト剥離液、表面処理剤など多岐にわたり、精密な製造工程を支える重要な役割を担っています。
EEリン酸とは何か
「EEリン酸」とは、ラサ工業などが製造・販売している半導体・電子工業向けに特化した超高純度のリン酸を指します。
一般的なリン酸よりもさらに不純物が厳しく管理されており、微細な異物(パーティクル)を極限まで低減しているのが特徴です。
主な用途は、半導体や液晶パネルなどの製造工程におけるエッチング剤です。エッチングとは、半導体基板の不要な部分を化学的に除去して回路パターンを形成する重要なプロセスであり、EEリン酸のような高純度な薬液が不可欠とされています。
ラサ工業にとって、EEリン酸は創業以来培ってきた技術を誇る主力製品の一つであり、特に半導体グレードのリン酸ではアジア市場で大きなシェアを持っています。
半導体製造のどんな膜のエッチングに使われるのか
EEリン酸(超高純度リン酸)は、半導体製造において主に以下の膜のエッチングに使われます。
- 窒化シリコン (SiN) 膜:
- 半導体デバイスの表面保護膜(パッシベーション膜)、層間絶縁膜、あるいはトランジスタのゲート絶縁膜の一部として利用されます。
- リン酸は、シリコン酸化膜(SiO2)に対して高い選択性(SiNだけを溶かし、SiO2は溶かしにくい性質)を持つため、複雑な回路形成において重要な役割を果たします。特に高温のリン酸が窒化シリコンのエッチングに用いられます。
- リンシリケートガラス (PSG) やボロリンシリケートガラス (BPSG) 膜:
- これらは半導体の層間絶縁膜として広く用いられる膜です。
- リン酸を含むため、リン酸系エッチング液との相性が良く、特に平坦化やビア(配線間の接続穴)開口のエッチングに利用されることがあります。
- 一部の金属膜:
- 特定の金属膜のエッチングにもリン酸が使用されることがありますが、これはエッチング対象の金属の種類や要求される特性によって異なります。
このように、EEリン酸は半導体の主要な絶縁膜や保護膜のエッチングに不可欠な薬剤であり、その超高純度性が微細な回路形成の品質を保証しています。

EEリン酸は半導体製造において、主に窒化シリコン (SiN) 膜やリンシリケートガラス (PSG)・ボロリンシリケートガラス (BPSG) 膜のエッチングに使われます。これらは絶縁膜や保護膜として機能し、選択的な除去に高純度リン酸が不可欠です。
なぜ絶縁膜のエッチングに優れるのか
EEリン酸が半導体製造の絶縁膜のエッチングに優れている主な理由は、その選択性と反応メカニズムにあります。
- 高い選択性:
- リン酸は、主に窒化シリコン (SiN) に対してエッチング能力が高い一方で、シリコン酸化膜 (SiO2) に対してはエッチング速度が非常に遅いという特性を持っています。
- 半導体デバイスでは、SiNとSiO2が隣接して層を形成していることが多く、特定の層だけを正確に除去(エッチング)することが求められます。リン酸のこの「選んで溶かす」能力が、微細な回路形成において非常に有利に働きます。
- 反応メカニズム(窒化シリコンの場合):
- 窒化シリコン (Si3N4) は、高温のリン酸水溶液中で加水分解反応を起こし、ケイ素成分がリン酸中に溶解することでエッチングが進むと考えられています。
- この反応は、特定の条件下(特に高温)で効率的に進行し、安定したエッチングレートが得られます。
- 水溶性で取り扱いやすい:
- リン酸は水溶性であるため、廃液処理や洗浄が比較的容易であり、半導体製造プロセスにおける取り扱い性に優れています。
これらの特性により、EEリン酸は特に窒化シリコン膜のエッチングにおいて、精密なパターン形成と高い歩留まりを実現するために不可欠な薬剤となっています。

リン酸は、窒化シリコン(SiN)への高いエッチング能力と、シリコン酸化膜(SiO2)への低いエッチング速度という優れた選択性を持つため、絶縁膜の精密なパターニングに優れています。
非フェノール・非塩素系のレジスト剥離液とは
「非フェノール・非塩素系のレジスト剥離液」とは、従来の剥離液に広く使われていたフェノール化合物や塩素系有機溶剤を含まないタイプのレジスト剥離液のことです。
なぜ非フェノール・非塩素系が求められるのか
- 環境負荷と安全性:
- フェノール化合物: 毒性が強く、作業環境や廃液処理において環境負荷が高いという問題がありました。
- 塩素系有機溶剤: 同様に毒性があり、環境汚染の原因となる上、オゾン層破壊物質にも指定されるなど、環境規制の対象となる物質が多く含まれていました。また、金属を腐食させるリスクもありました。
非フェノール・非塩素系の剥離液の特徴と利点
これらの課題を解決するために開発されたのが、非フェノール・非塩素系の剥離液です。主な特徴は以下の通りです。
- 環境負荷の低減:
- 毒性が低く、環境に優しい成分が使用されています。
- 廃液処理が比較的容易になります。
- 安全性・作業性の向上:
- 作業者にとっての安全性(刺激臭の低減など)が向上します。
- 引火点が高く、取り扱いが容易なものもあります。
- 金属腐食性の低減:
- デリケートな金属配線や基板へのダメージを抑え、腐食のリスクを低減します。
- 主な成分:
- 水溶性アミン(例:モノエタノールアミンなど)や第四級アルキルアンモニウム水酸化物、グリコールエーテル、非プロトン性極性溶剤(例:NMP、DMSOなど)、水などを主成分とすることが多いです。
- さらに、防食剤(アルキルグルコシドなど)や界面活性剤などが配合されることもあります。
- 優れた剥離性能:
- 環境に配慮しつつも、微細なパターンや高温で硬化した難剥離性のレジストに対しても優れた剥離力を発揮します。
半導体製造においては、環境規制の強化と、より微細で複雑なデバイス構造に対応するため、これらの非フェノール・非塩素系の高性能なレジスト剥離液への転換が進んでいます。

非フェノール・非塩素系のレジスト剥離液は、環境負荷や毒性が高いフェノールや塩素系溶剤を使わず、安全性を向上させたものです。環境規制や金属腐食リスク低減のため、半導体製造で主流となっています。
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