この記事で分かること
- 高周波電源装置とは:高周波数の交流電力を供給する装置です。高効率・高精度な電力制御により、最先端技術を支える重要な役割を担っています。
- 半導体製造での用途:高周波電源装置はCVDやエッチング、スパッタリングなどの工程でガスをプラズマ化し、薄膜形成や微細加工に不可欠な役割を担います。
- 高周波が必要な理由:高周波でガスを効率良くプラズマ化し、電子やイオンの挙動を精密に制御するため必要です。これにより、成膜やエッチングの品質と精度を高め、ウェハ損傷も抑制できます。
TDKの米QEIコーポレーションの買収
TDKは、2025年6月20日に米QEIコーポレーションの電源ビジネス関連資産を買収したと発表しました。
QEIは、半導体製造プロセスにおけるプラズマプロセス向けの先進的なRF(高周波)電源装置およびインピーダンスマッチング装置の設計・製造を行っています。
この買収は、TDKが半導体製造装置市場における事業基盤を強化し、AIエコシステム全体への貢献をさらに高めることを目的としています。
高周波電源装置とは何か
高周波電源装置(RF電源装置:Radio Frequency Power Supply)とは、その名の通り、非常に高い周波数の交流電流を発生させるための電源装置です。一般的な家庭用電源が50Hzや60Hzであるのに対し、高周波電源装置は数キロヘルツ(kHz)からギガヘルツ(GHz)といった非常に高い周波数帯の電力を出力します。
仕組み
基本的な構成要素としては、以下のようなものが挙げられます。
- 発振器: 高周波の信号を生成します。
- DC電源: 発振器や増幅器に直流電力を供給します。
- トランジスタ(増幅器): 発振器からの信号を増幅し、DC電力を高周波の交流電力に変換します。MOSFET、LDMOS、GaNなどの高速スイッチングが可能な半導体素子が用いられます。
- マッチング回路(マッチング・ネットワーク): 高周波電源から出力される電力と、接続される負荷(例えば、プラズマを生成するチェンバーや加熱コイルなど)との間でインピーダンスを整合させるための回路です。これにより、電力の反射や損失を最小限に抑え、効率的な電力伝送を可能にします。
特徴
- 高周波・高出力: 特定の周波数で安定した高出力を供給できます。
- 精密な制御: 出力電力や周波数を高精度に制御できるものが多く、様々なプロセスに対応可能です。
- 高効率: 近年では、電力変換効率が90%以上に達するものも多く、省エネルギー化に貢献します。
- 小型・軽量化: 高効率化により発熱が抑えられ、冷却負担が減少することで、小型・軽量化が進んでいます。
主な用途
高周波電源装置は、その特性から様々な産業分野で利用されています。特に、以下のような用途が代表的です。
- 半導体製造装置:
- プラズマ生成:
- スパッタリング: ターゲット材料をプラズマ中のイオンで叩き出し、ウェハ上に成膜する際に利用されます。
- 誘導加熱:
- IHクッキングヒーター: 身近な例では、コイルから発生する磁界によって鍋自体を発熱させます。
- 金属の焼入れ、溶接、溶解: 産業分野では、金属の表面を急速に加熱したり、接合したりするのに利用されます。
- 医療用設備: 温熱治療など、高周波エネルギーを医療に応用する例があります。
- 超音波洗浄・加工: 超音波を発生させるために利用されます。
- ディスプレイ製造: LCDや有機ELなどの製造プロセスでも高周波電源が使用されます。
- 研究開発: 各種実験や新しい材料の開発などで、プラズマ生成や加熱などに用いられます。
このように、高周波電源装置は、最先端の技術を支える重要なデバイスとして、幅広い分野で活躍しています。

高周波電源装置は、高周波数の交流電力を供給する装置です。高効率・高精度な電力制御により、最先端技術を支える重要な役割を担っています。
半導体製造ではどのように使われているのか
半導体製造において、高周波電源装置は主に以下のプロセスで使用されます。
- プラズマCVD (化学気相成長): 薄膜をウェハ上に形成する際に、反応ガスをプラズマ化するために高周波電力を供給します。プラズマの密度や温度を精密に制御することで、高品質な薄膜の成膜を実現します。
- ドライエッチング: ウェハ上の不要な部分をプラズマによって除去する際に、高周波電力を利用します。微細なパターンを正確に形成するために、プラズマの制御が重要になります。
- スパッタリング: ターゲット材料をプラズマ中のイオンで叩き出し、ウェハ上に薄膜を形成する際に、高周波電源が使用されます。
- その他: イオン注入装置や、ウェハの加熱など、他のプロセスでも高周波電源が利用されることがあります。
これらのプロセスにおいて、高周波電源装置は、プラズマの生成と制御において不可欠な役割を果たしており、半導体デバイスの性能や品質に大きく影響を与えます。

半導体製造では、高周波電源装置はCVDやエッチング、スパッタリングなどの工程でガスをプラズマ化し、薄膜形成や微細加工に不可欠な役割を担います。
なぜ高周波が必要なのか
半導体製造において高周波が必要とされる主な理由は、プラズマを安定的に生成し、精密に制御するためです。
具体的には、以下の点が挙げられます。
- 効率的なプラズマ生成:
- 高周波の電力を供給することで、ガス分子が効率的に電離され、均一で安定したプラズマを生成できます。特に、真空中でプラズマを生成する際に、高周波を用いることで、低いガス圧でも高密度のプラズマを得やすくなります。
- 周波数が高いほど、電子が電界からエネルギーを得る効率が上がり、プラズマ生成に必要な電圧を低く抑えることができます。
- プラズマの精密制御:
- プラズマ中のイオンや電子の挙動は、供給される周波数に大きく影響されます。高周波を用いることで、プラズマの電子密度や電子温度、さらにはイオンのエネルギー分布などを細かく制御することが可能になります。
- これにより、成膜の速度、エッチングの選択性(狙った材料だけを削る能力)、異方性(垂直方向に正確に加工する能力)などを高精度に調整でき、微細な回路パターンの形成に不可欠です。
- ウェハ損傷の抑制:
- 特定の周波数を用いることで、ウェハ表面へのプラズマによる損傷を低減できる場合があります。例えば、超高周波(VHF)やマイクロ波を用いたプラズマは、比較的ウェハへの損傷が少ないとされています。
- イオンの運動を制御し、ウェハへの衝突エネルギーを最適化することで、デバイスの歩留まり向上に貢献します。
- 電極の消耗抑制(無電極放電):
- 高周波、特に誘導結合型プラズマ(ICP)では、電極をプラズマに直接触れさせずに電磁誘導でプラズマを生成できます(無電極放電)。これにより、電極のスパッタリング(電極材料がプラズマ中に混入すること)を防ぎ、プラズマの純度を保ち、製品への不純物混入を抑えることができます。
このように、高周波電源は、半導体製造プロセスの根幹であるプラズマを効率的かつ精密に制御するために不可欠な技術であり、今日の微細化された半導体デバイスの製造を可能にしています。

半導体製造では、高周波でガスを効率良くプラズマ化し、電子やイオンの挙動を精密に制御するため必要です。これにより、成膜やエッチングの品質と精度を高め、ウェハ損傷も抑制できます。
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