古河機械金属のレアメタルやレアアースの採鉱 どのように採掘するのか?スラリーポンプとは何か?

この記事で分かること

  • 採掘方法:海底に設置した採鉱機がレアメタルを含む鉱物を掘削・採取し、スラリーポンプで、固体と液体の混合物を海上の船へ吸い上げて回収します。
  • スラリーポンプとは:砂や泥など固形物を含む液体(スラリー)を効率的に移送するポンプです。摩耗に強い特殊な素材と詰まりにくい構造が特徴で、鉱山、土木工事、深海採鉱など、過酷な環境での輸送に不可欠な機械です。

古河機械金属のレアメタルやレアアースの採鉱

 古河機械金属は、深海に眠るレアメタルやレアアースの採鉱に向けて技術開発を進めている企業として注目されています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC117D30R10C25A6000000/

 同社は、長年にわたる地上の鉱山開発で培ってきた技術を、深海鉱物採鉱に応用しようとしています。

深海にはどれくらいのレアメタルやレアアースが埋蔵されているのか

 深海に埋蔵されているレアメタルやレアアースの量は、非常に莫大であると推定されており、その正確な全体像を把握することは困難ですが、いくつかの具体的な例からそのポテンシャルの大きさが分かります。

主な深海鉱物資源の種類と、含まれるレアメタル・レアアースは以下の通りです。

  1. レアアース泥:
    • 特徴: 海底の泥の中に、レアアース(希土類元素)が濃縮されて含まれる堆積物です。水深4,000~6,000mの比較的平坦な海底に分布します。
    • 埋蔵量: 日本の南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で発見された「レアアース泥」は特に有名です。東京大学の研究グループによると、この地域のおよそ100平方キロメートルの有望エリアだけでも、日本の年間需要の数十年から数百年分に達する莫大な資源ポテンシャルを持つとされています。特に、中国の陸上鉱山の20倍という高品位な「超高濃度レアアース泥」が見つかっています。世界全体の需要から見ても、数百年分に相当する埋蔵量があるとの試算もあります。
  2. コバルトリッチクラスト:
    • 特徴: 海山の斜面や頂部を覆うように存在する、マンガンや鉄を主成分とする層状の鉱物です。水深1,000~2,500mに多く分布します。
    • 含有金属: コバルト、ニッケル、白金、マンガン、テルル、モリブデン、ビスマス、タリウム、そして希土類元素(レアアース)など、多様なレアメタルを含有しています。特に電気自動車のバッテリーなどに不可欠なコバルトの重要な供給源として注目されています。
  3. マンガン団塊:
    • 特徴: 海底の石などを核に、マンガンや鉄の粒子が層状に積もってできた、球形や楕円状の塊です。ハワイ南東沖など、太平洋の水深4,000~6,000mで多く見られます。
    • 含有金属: マンガンが主成分ですが、ニッケル、コバルト、銅などのレアメタルも含まれています。
  4. 海底熱水鉱床:
    • 特徴: 海底から噴き出す熱水に含まれる金属成分が沈殿してできた鉱床です。日本の沖縄海域や伊豆・小笠原海域など、水深500~3,000mの火山活動が活発な海域に分布します。
    • 含有金属: 銅、亜鉛、鉛、金、銀といったベースメタルが主ですが、ゲルマニウム、ガリウムなどのレアメタルを含むものもあります。

 これらの深海資源は、世界の陸上資源と比較しても非常に大きなポテンシャルを秘めており、特に日本のように陸上資源に乏しい国にとっては、エネルギー安全保障の観点からも極めて重要な資源と位置づけられています。その具体的な埋蔵量は、調査が進むにつれて明らかになっていくと期待されています。

深海には、レアアース泥、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、海底熱水鉱床として、莫大なレアメタルやレアアースが埋蔵されています。特に南鳥島周辺のレアアース泥は、日本の需要の数十年〜数百年分と推定され、世界的な重要性が高まっています。

どのように採掘するのか

 古河機械金属が深海のレアメタルやレアアースを採掘する方法は、これまでの地上の鉱山開発で培った技術を応用しつつ、深海という特殊な環境に対応するための様々な工夫が凝らされています。

深海採掘の基本的な流れ

 深海資源の採掘は、大きく分けて以下の工程で構成されます。

  1. 採鉱機による海底鉱物の採取: 海底に設置された採鉱機が、レアメタルやレアアースを含む鉱物(海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、レアアース泥など)を掘削・吸引します。
  2. 揚泥(揚鉱): 採取した鉱物と海水の混合物(スラリー)を、パイプラインを通じて海上の船まで引き揚げます。
  3. 分離・濃縮: 海上で鉱物と海水を分離し、鉱物を濃縮します。
  4. 輸送・製錬: 濃縮された鉱物を陸上の製錬所に運び、目的の金属を取り出します。

古河機械金属のアプローチ

 古河機械金属は、上記の工程において、特に以下の点に強みを持っています。

  • 掘削技術の応用:
    • 油圧クローラドリル: 地上での鉱山開発で実績のある「油圧クローラドリル」の技術を深海用に転用することを検討していると考えられます。これは、硬い岩盤に効率的に穴を開けるためのドリルであり、海底熱水鉱床のような固い鉱物を掘削する際に有効です。
    • トンネル工事技術: トンネル工事などで使われるドリルジャンボの技術も応用される可能性があります。これは、狭い空間で効率的に掘削を行うための技術であり、海底の複雑な地形に対応する上で役立つかもしれません。
  • 揚泥(スラリー輸送)技術:
    • スラリーポンプ: 固体と液体を効率的に混ぜて輸送する「スラリーポンプ」の技術は、海底から鉱物スラリーを海上の船まで安定して引き揚げる上で不可欠です。古河機械金属は、この分野で長年の経験と実績を持っています。深海では水深が深いため、非常に高い揚程(高さを持ち上げる力)と耐久性が求められます。
  • 採鉱機の開発:
    • 古河機械金属は、これらの要素技術を統合した海底採鉱機の試作を進めていると報じられています。具体的な形状や機能は公開されていませんが、これまでの経験から、海底での安定した走行性、効率的な掘削能力、そして安定したスラリーの生成・送出能力を備えていると予想されます。
    • 閉鎖系二重管揚泥方式: レアアース泥の採掘では、「閉鎖系二重管揚泥方式」のような、海底への環境影響を最小限に抑えつつ効率的に揚泥する方式が研究されています。古河機械金属も、このような環境配慮型の採掘方式の開発に貢献する可能性があります。この方式は、海底面から解泥機を差し込み、装置内の堆積物に海水を注入して流動性のある状態にし、揚泥管を通じて洋上に引き揚げる方法で、採鉱する堆積物が装置内に限定されるため、環境への影響が低いとされています。
  • 総合的なシステム構築:
    • 古河機械金属は、採掘だけでなく、運搬、給排水、水処理、副産物処理など、鉱山開発全体をカバーする「総合技術」を強みとしています。深海採掘においても、単なる採掘機だけでなく、海底から陸上までのサプライチェーン全体を見据えたシステム構築に関与していく可能性があります。

 深海採掘は、水圧、低温、暗闇といった過酷な環境下で行われるため、技術的なハードルが非常に高い分野です。古河機械金属は、長年の経験と技術力を活かし、これらの課題を克服しながら、実用化に向けて開発を進めていると言えるでしょう。

海底に設置した採鉱機がレアメタルを含む鉱物を掘削・採取し、その後、古河機械金属の強みであるスラリーポンプで、固体と液体の混合物を海上の船へ吸い上げて回収します。

油圧クローラドリルとは何か、なぜ効率的に掘削できるのか

 油圧クローラドリルとは、主に鉱山、砕石場、土木工事現場などで使用される、自走式の岩盤掘削機械です。その名の通り、油圧の力を利用して掘削を行い、キャタピラ(クローラ)で自走することができます。

 一般的な用途としては、発破(爆薬を使って岩盤を砕く作業)を行うために、岩盤を装薬孔(爆薬を装填する穴)を穿つために用いられます。また、アンカー孔(地盤や構造物を固定するための穴)の掘削などにも使われます。

 古河機械金属グループの古河ロックドリル(FRD)は、この分野で国内トップクラスのシェアを持つメーカーとして知られています。

なぜ効率的に掘削できるのか

 油圧クローラドリルが効率的に掘削できる理由は、その動力源、構造、そして搭載された技術にあります。

  1. 強力な油圧動力
    • 高いパワーとトルク: 油圧システムは、非常に高い圧力と流量の油を送り出すことで、強力な打撃力と回転力を発生させることができます。これにより、硬い岩盤にも効率的に穴を開けることが可能です。
    • 精密な制御: 油圧システムは、油の流量や圧力を細かく制御できるため、岩盤の硬さや状況に応じて掘削のモード(打撃力、回転速度、送りの速さなど)を最適に調整できます。これにより、無駄なエネルギー消費を抑え、効率的な掘削を維持できます。
  2. 優れた掘削メカニズム(ドリフタ)
    • 油圧クローラドリルの中核をなすのが「油圧ドリフタ」と呼ばれる部分です。これは、回転打撃を組み合わせることで岩盤を効率的に粉砕します。
      • 打撃(パーカッション): ピストンが高速で前後に動き、ドリルロッドの先端にあるビットに強力な衝撃を与えます。これにより、岩盤を微細に砕き、深い穴を掘り進めます。
      • 回転: ビットを回転させることで、砕かれた岩盤の排出を助け、ビットが岩盤に食い込んでいくのを促進します。
    • この回転と打撃の組み合わせが、単なる回転掘削や打撃掘削よりもはるかに高い効率を実現します。
  3. 自走能力(クローラ)
    • 高い機動性: キャタピラ(クローラ)によって自走できるため、広範囲の現場を移動しながら連続して掘削作業を行うことができます。これにより、作業の中断が少なく、全体の作業効率が向上します。
    • 不整地での安定性: クローラは、不整地や傾斜地でも安定した走行と作業を可能にします。これは、鉱山や建設現場の多様な地形に対応するために重要です。
  4. 高度な制御システムと自動化技術:
    • iDS(インテリジェントドリリングシステム): 古河ロックドリルなどの最新の油圧クローラドリルには、岩盤の状態に応じて最適な掘削状態に自動制御するシステムが搭載されています。これにより、オペレーターの経験や技能に左右されずに、常に高効率で正確な掘削が可能です。孔曲がりを抑え、スピーディな穿孔を実現します。
    • iMS(インテリジェントモニタリングシステム): 機械の稼働状況やメンテナンス情報をモニターに表示し、管理を容易にすることで、機械のダウンタイムを減らし、稼働率を高めます。
  5. 環境適応性(排ガス・低燃費):
    • 最新モデルは、燃費効率の良いクリーンエンジンを搭載しており、環境負荷を低減しながらも、十分なパワーを維持しています。これは、長時間の作業や大規模なプロジェクトにおいて、運用コストの削減にも寄与します。

 これらの要素が複合的に作用することで、油圧クローラドリルは、硬い岩盤を迅速かつ正確に掘削できる、非常に効率的な機械となっています。古河機械金属がこれを深海採掘に応用しようとしているのは、海底の硬い鉱床(海底熱水鉱床など)を効率的に採取するために、これらの掘削技術が不可欠だからです。

油圧クローラドリルは、油圧の力で岩盤を効率良く掘削する自走式機械です。強力な打撃と回転で硬い岩も素早く穿孔し、鉱山や土木工事で活躍。キャタピラで移動でき、自動制御で高精度な作業を実現します。

スラリーポンプとは何か

 スラリーポンプとは、固体粒子が大量に混じった液体(スラリー)を移送するために特化して設計されたポンプのことです。一般的な清水を移送するポンプとは異なり、スラリーが持つ以下の特性に対応できるよう、頑丈な構造と耐摩耗性を持つことが大きな特徴です。

スラリーとは

 スラリーとは、砂、泥、鉱石の粉、汚泥、化学物質の粉末など、さまざまな固形物粒子を水やその他の液体と混ぜ合わせ、分散・懸濁させた流動性の高い混合物の総称です。泥水やセメントミルクなどもスラリーの一種と言えます。

スラリーポンプの主な特徴

  1. 耐摩耗性・耐食性:
    • スラリー中の固形物がポンプ内部の羽根車(インペラ)やケーシング(ポンプの筐体)を摩耗させるため、これらの接液部には耐摩耗性に優れた材質(特殊合金、セラミックス、ゴムなど)が使用されます。
    • 移送するスラリーが酸性やアルカリ性などの腐食性を持つ場合は、耐食性も考慮された材質が選ばれます。
  2. 無閉塞性:
    • 固形物が詰まらないように、羽根車の形状やケーシング内部の流路が、固形物がスムーズに通過できるような設計になっています。清水ポンプに比べて流路が広く、固形物を押し流す力が強い構造です。
  3. 高い強度と耐久性:
    • スラリーは清水に比べて比重が高く、また固形物による衝撃も加わるため、ポンプ全体が堅牢に作られています。ケーシングの耐圧性や主軸の強度、軸受の負荷容量などが強化されています。
  4. メンテナンス性:
    • 摩耗しやすい部品の交換が容易なように、分解・組立・調整がしやすい構造になっています。過酷な現場で長期使用に耐え、かつメンテナンスの手間を軽減できるよう工夫されています。
  5. 高い揚程・高圧輸送対応:
    • 長距離輸送や高所にスラリーを送る場合には、高い圧力を発生させる能力が求められます。多段インペラを採用するなどして、高圧でのスラリー輸送を可能にするタイプもあります。

スラリーポンプの種類

 スラリーポンプには、その構造や用途によって様々な種類があります。

  • 遠心式スラリーポンプ: 渦巻ポンプの一種で、最も一般的です。羽根車の回転による遠心力でスラリーを移送します。
  • 容積式スラリーポンプ: ピストンポンプ、ダイヤフラムポンプ、一軸偏芯ネジポンプ(モーノポンプ)、ホースポンプなどがあります。粘度の高いスラリーや、高い圧力を必要とする場合に用いられます。

古河機械金属とスラリーポンプ

 古河機械金属グループは、このスラリーポンプの分野で長年の実績と高い技術力を持っています。特に、以下のような用途で強みを発揮しています。

  • 鉱山・製鉄所: 鉱石や泥水、水砕スラグなどの輸送に用いられます。
  • 下水処理場・浄水場: 汚泥や排水の移送に使われます。
  • トンネル工事: 泥水シールド工法において、掘削で発生した泥水を効率的に排出するために「シールドポンプ」として活躍しています。東京湾アクアラインなどの大規模プロジェクトでも採用実績があります。
  • 深海採鉱: まさに深海に眠るレアメタルやレアアースを海底から海上の船まで効率的に引き揚げる(揚泥)ために、スラリーポンプの技術が不可欠となります。深海の水圧や距離に耐えうる高圧・高耐久のスラリーポンプの開発が求められます。

 このように、スラリーポンプは、固形物を含む液体を安全かつ効率的に輸送するための重要な産業機械であり、古河機械金属の深海採鉱技術においてもその中核を担う技術の一つです。

スラリーポンプは、砂や泥など固形物を含む液体(スラリー)を効率的に移送するポンプです。摩耗に強い特殊な素材と詰まりにくい構造が特徴で、鉱山、土木工事、深海採鉱など、過酷な環境での輸送に不可欠な機械です。

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