日本製半導体製造装置の販売額増加 増加理由は?AI処理にHBMとNANDフラッシュが必要な理由は?

この記事で分かること

  • 販売額増加理由:最先端ロジック半導体製造装置(露光、エッチング、成膜など)や、HBM・NANDフラッシュといったAI関連メモリ製造装置が増加予測です。特にNAND分野の回復が見込まれるためです。
  • AI処理にHBMとNANDフラッシュが必要な理由:AI処理では、一時的な作業スペースとしてのDRAM(特に高速なHBM)と、永続的なデータ保管庫でありながら高速なデータ供給が可能なNANDフラッシュの両方が、その性能と効率を最大限に引き出すために不可欠です。

日本製半導体製造装置の販売額増加

 日本半導体製造装置協会(SEAJ)が2025年7月3日に発表した予測によると、日本製装置の2025年度の販売額は前年度比2.0%増の4兆8634億円になる見込みです。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC033UI0T00C25A7000000/

 AI関連や先端半導体への投資を背景に、堅調な伸びが予測されています。

どんな装置が増加する予測か

 今年度の半導体製造装置販売増加を牽引すると予測される装置は、主に以下の分野に関連するものです。

最先端ロジック半導体製造装置(特に2nmプロセス向け)

  • 露光装置(リソグラフィ装置): 特にEUV(極端紫外線)露光装置は、回路線幅の微細化に不可欠であり、2nmプロセス以降の次世代チップ製造において需要が高まります。
  • エッチング装置: 微細な回路パターンを正確に加工するために、高精度なエッチング装置の需要が増加します。
  • 成膜装置(CVD、PVDなど): 薄膜形成に関わる装置であり、多層化・微細化が進むにつれて、より精密な成膜技術が求められます。
  • 洗浄装置: 各工程で発生する不純物を除去し、歩留まりを向上させるために、高性能な洗浄装置が不可欠です。
  • イオン注入装置: 半導体に不純物を注入し、電気的特性を制御するために使用されます。

AI関連半導体製造装置(DRAM、HBM、NANDフラッシュ向け)

  • AIサーバー向け投資の活況に伴い、AI処理に不可欠なメモリ(DRAM、特にHBM)とNANDフラッシュの需要が高まっています。
  • これに伴い、メモリ製造に必要な各種装置(上記の前工程装置に加え、特にHBMなどの積層プロセスに関連する装置)の需要も増加します。特に、NAND分野の投資が大きく回復すると予測されています。

背景にあるトレンド

  • 2nm世代の本格化: TSMCをはじめとする主要ファウンドリが2nmプロセスへの投資を本格化させており、これに対応する装置が中心となります。
  • AI需要の拡大: AIの進化により、高性能なGPUやAIアクセラレーター、そしてそれらを支える大容量・高速メモリ(HBMなど)の需要が急増しており、これらの製造に特化した装置や、より多くのチップを生産するための装置が求められています。

 SEAJの予測でも「AIサーバー系の投資がけん引役」と明言されており、2nm半導体への投資とともに、関連する装置が需要を押し上げる主要因となると考えられます。

AI需要や2nmプロセス投資本格化に伴い、最先端ロジック半導体製造装置(露光、エッチング、成膜など)や、HBM・NANDフラッシュといったAI関連メモリ製造装置が増加予測です。特にNAND分野の回復が見込まれます。

NAND分野の投資が大きく回復すると予測されている理由は

 NANDフラッシュ分野の投資が大きく回復すると予測されている理由は、主に以下の3つの要因が重なり合っているためです。

  1. AI関連需要の爆発的増加:
    • AIサーバー向けのエンタープライズSSD(Solid State Drive)の需要が拡大しています。AIモデルの学習や推論には大量のデータが必要であり、これを高速に処理・保存できるNANDフラッシュベースのSSDが不可欠です。
    • 特にNVIDIAのBlackwellシリーズのような次世代AIチップの出荷増に伴い、関連するストレージ需要が大きく伸びると見られています。
    • AI対応スマートフォンやPC市場でも、大容量ストレージの需要が高まっています。
  2. メーカーによる積極的な生産削減と在庫調整:
    • 過去の供給過剰による価格下落を受け、NANDフラッシュメーカー各社は、ビット供給量の伸びを抑制するために、生産量を積極的に削減してきました。
    • これにより、市場の需給バランスが徐々に改善され、価格回復の基盤が築かれつつあります。実際、2025年第2四半期には価格が上昇に転じるという予測も出ています。
  3. スマートフォン市場の在庫調整と需要回復:
    • 一時的に低迷していたスマートフォン市場において、在庫調整が進みました。
    • 特に中国のスマートフォン下取り補助金政策などが市場にポジティブな影響を与え、スマートフォンメーカーによるNANDフラッシュの発注が増加する可能性があります。スマートフォンのストレージ容量の増加も、NAND需要を押し上げています。

 これらの要因が複合的に作用し、NANDフラッシュ市場は2025年後半にかけて需給バランスが改善し、投資が回復すると見られています。

AIサーバー向けSSD需要の急増、NANDフラッシュメーカーによる積極的な生産削減と在庫調整、そしてスマートフォン市場の回復が重なり、需給バランス改善と価格回復が進むためです。

AI処理にHBMとNANDフラッシュが必要な理由は

 AI処理、特にディープラーニングや生成AIは、膨大なデータを高速に処理することが求められるため、高性能なメモリ(DRAM、特にHBM)とストレージ(NANDフラッシュ)が不可欠です。それぞれの役割は以下の通りです。

DRAM(Dynamic Random Access Memory)の役割

 DRAMは、CPUやGPUが現在処理しているデータを一時的に保持する「作業机」のようなものです。AI処理では、主に以下の理由でDRAMが重要になります。

  • モデルパラメータの保存とアクセス: AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)などは、数千億から数兆に及ぶ膨大なパラメータを持っています。これらのパラメータは、モデルの学習時や推論時にDRAMに読み込まれ、CPU/GPUが高速にアクセスできるようにする必要があります。DRAM容量が不足すると、モデル全体をメモリに保持できず、処理が遅延したり、エラーが発生したりします。
  • 中間データの保持: AIの学習や推論の過程で生成される中間データ(例:ニューラルネットワークの各層の出力)もDRAMに一時的に保存されます。これらのデータへの高速アクセスが、AI処理全体の効率を左右します。
  • データセットのキャッシュ: 学習時には、大量のデータセットの一部がDRAMにキャッシュされ、GPUが素早く参照できるようにします。

HBM(High Bandwidth Memory)の役割

 HBMはDRAMの一種ですが、特にAI処理に最適化された高性能メモリです。その必要性はDRAMの役割をさらに強化する形で現れます。

  • 超高帯域幅: HBMは複数のDRAMチップを垂直に積み重ね、シリコン貫通電極(TSV)で接続する3D積層技術を採用しています。これにより、従来のDRAM(GDDRなど)と比較して圧倒的に広いデータ帯域幅(単位時間あたりに転送できるデータ量)を実現します。AIの学習や推論では、GPUが大量のデータを同時に処理するため、この超高帯域幅がボトルネックを解消し、演算能力を最大限に引き出すために不可欠です。
  • 低消費電力・省スペース: 3D積層により、チップ間の配線距離が短縮され、消費電力を抑えつつ、大容量を実現できます。これは、データセンターにおける電力効率とスペース効率の向上に貢献します。
  • GPUとの近接配置: HBMはGPUのすぐ近くに配置されることが多く、データ転送の遅延を最小限に抑え、GPUの演算効率を最大化します。

NANDフラッシュ(SSD)の役割

 NANDフラッシュは、電源を切ってもデータが保持される「不揮発性メモリ」であり、主にAI処理における「長期保存」と「高速データ供給」の役割を担います。

  • 大規模データセットの保存: AIモデルの学習には、数テラバイトからペタバイト規模の膨大なデータセット(画像、動画、テキストなど)が必要です。これらのデータはNANDフラッシュベースのSSDに保存されます。
  • モデルの永続化: 学習済みのAIモデル自体も、推論に利用するためにNANDフラッシュに保存されます。
  • 高速なデータ転送(ストレージ): AI処理では、学習データやモデルデータをDRAM/HBMに高速にロードする必要があります。従来のHDDと比較して、NANDフラッシュSSDは格段に高速な読み書き性能(特にランダムアクセス性能)を持つため、データロード時間を大幅に短縮し、AI処理の効率向上に貢献します。AIワークロードにおいては、特にシーケンシャルリード(学習用データ作成)とランダムリード(推論)のパフォーマンスが求められます。
  • AIサーバー向けSSD: AIサーバーでは、高速かつ大容量のエンタープライズSSDが必須であり、NANDフラッシュの需要を牽引しています。

AI処理では、一時的な作業スペースとしてのDRAM(特に高速なHBM)と、永続的なデータ保管庫でありながら高速なデータ供給が可能なNANDフラッシュの両方が、その性能と効率を最大限に引き出すために不可欠です。

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