バンドー化学の放射冷却フィルム 放射冷却フィルムとは何か?どうやって放射しているのか?

この記事で分かること

  • 放射冷却フィルムとは:太陽光を反射しつつ、熱を効率的に宇宙へ放射することで、日中でも電力なしに物体を外気温より低く冷却する特殊なシートです。
  • 放射方法:太陽光の反射とや地球の大気が吸収しにくい波長で大気に熱を逃がしています。
  • 用途:電力を使わず冷却できるため、建物やトラック、屋外機器の温度上昇抑制に役立ちます。

バンドー化学の放射冷却フィルム

 バンドー化学は、屋外用放射冷却フイルム「Silver Arrow(シルバーアロー)」 のテスト販売を2025年7月から開始しました。

 この放射冷却フイルムは、地球温暖化などによる冷却エネルギー消費の増加に対応するため、同社が培ってきたフイルム加工技術を活かして開発されました。

放射冷却フイルムとは何か

 放射冷却フイルムとは、「放射冷却」という自然現象を応用して、電力などのエネルギーを消費することなく物体を冷却する機能を持つ素材のことです。特に、日中でも外気温よりも低い温度を実現できる点が大きな特徴です。

放射冷却の原理

 放射冷却現象は、私たちも日常生活で経験する身近な現象です。例えば、冬の夜に車のフロントガラスが凍ったり、朝方に気温がぐっと下がったりするのは、以下に示すこの放射冷却が原因です。

  1. 熱の放射(熱輻射): 地球上のすべての物体は、その温度に応じて熱を電磁波(赤外線)として放射しています。
  2. 宇宙空間への熱の放出: 放射された熱の一部は、非常に低温(約-270℃)の宇宙空間へと放出されます。
  3. 「大気の窓」の活用: 地球の大気は特定の波長の赤外線を吸収しやすい性質がありますが、一部の波長域(「大気の窓」と呼ばれる)では透過率が高く、熱が宇宙空間へ逃げやすくなっています。

 夜間は太陽からの熱の入熱がなくなるため、物体から宇宙空間への熱の放出が優勢になり、物体が冷え込みます。これが一般的な放射冷却現象です。

放射冷却フイルムの特長

 従来の素材では、日中は太陽からの入熱が大きいため、物体が温まってしまいます。しかし、放射冷却フイルムは、この自然現象をさらに効率的に活用できるように設計されています。主な特長は以下の2点です。

  1. 高い太陽光反射率: 太陽光、特に熱を持つ近赤外線を効率的に反射することで、フイルム自体が熱を吸収する量を極力抑えます。
  2. 高い熱放射率: 吸収したわずかな熱や、裏面から伝わってきた熱を、先述の「大気の窓」の波長域で効率的に宇宙空間へ放出します。

 この2つの機能によって、「太陽光からの入熱量よりも、宇宙空間へ放射する熱量の方が大きい」という状態を日中でも作り出すことができ、結果としてフイルムの表面やその下の物体の温度を外気温よりも低く保つことが可能になります。

メリット・デメリット

メリット
  • 省エネルギー・ゼロエネルギーでの冷却: 電力などのエネルギーを一切使用しないため、ランニングコストがかからず、CO2排出量の削減にも貢献します。
  • 環境負荷の低減: 地球温暖化対策として有効な技術であり、持続可能な社会に貢献します。
  • メンテナンスコストの削減: 冷却ファンやクーラーのような定期的なメンテナンスが不要な場合が多いです。
  • 騒音・振動がない: 駆動部がないため、騒音や振動が発生しません。
  • 幅広い用途: 建物、工場、倉庫、物流、自動車、衣料品など、様々な分野での応用が期待されています。
デメリット
  • 冷却能力の限界: 冷却能力は外気温や日射条件、設置場所などに影響されます。極端な高温下や、曇天、夜間には効果が限定される場合があります。
  • 初期コスト: 導入費用は通常の断熱材や遮熱材に比べて高価な場合があります。
  • 普及段階: まだ比較的新しい技術であり、認知度や普及率はこれからの課題です。

 放射冷却フイルムは、地球温暖化対策や省エネルギー化が求められる現代において、非常に注目されている技術の一つです。

放射冷却フイルムは、太陽光を反射しつつ、熱を効率的に宇宙へ放射することで、日中でも電力なしに物体を外気温より低く冷却する特殊なシートです。省エネ・CO2削減に貢献し、建物や物流、屋外機器の温度上昇抑制に役立ちます。

大気の窓とはなにか

 「大気の窓(Atmospheric Window)」とは、地球の大気において、特定の電磁波(主に赤外線)の吸収や散乱が非常に少なく、その電磁波が比較的透過しやすい波長域のことを指します。

 地球の表面からは、その温度に応じて熱を赤外線として宇宙空間に放射しています(地球放射)。しかし、大気中には水蒸気や二酸化炭素、メタンなどの「温室効果ガス」と呼ばれる気体が存在し、これらのガスは特定の波長の赤外線を強く吸収する性質があります。

 そのため、地球から放射された熱の多くは大気に吸収され、再び地球の表面に向けて再放射されることで、地球の平均気温が温暖に保たれています(温室効果)。

 しかし、その温室効果ガスでも吸収しにくい、つまり透過しやすい特定の波長域が存在します。この領域が「大気の窓」と呼ばれており、特に重要なのは8μmから13μm(マイクロメートル)程度の波長域です。この波長域の赤外線は、大気にほとんど吸収されることなく、直接-270℃という極低温の宇宙空間へと放出されます。

 放射冷却フイルムなどの技術は、この「大気の窓」の波長域で効率的に熱を放射するように設計されています。これにより、日中でも太陽からの熱の入熱を抑えつつ、地球から宇宙へと熱を「逃がす」ことで、冷却効果を発揮します。

 大気の窓は、放射冷却だけでなく、気象衛星による地球観測(雲の観測など)や、地上からの天体観測など、様々な科学技術分野で利用されています。

大気の窓とは、地球大気中で水蒸気や二酸化炭素などに吸収されにくく、熱(赤外線)が直接宇宙へ放出されやすい特定の波長域(主に8~13μm)のことです。放射冷却技術はこの「窓」を利用し、地球の熱を効率的に逃がします。

なぜ8~13μmの波長が放出されやすいのか

 8~13 µm(マイクロメートル)の波長が地球大気中で「大気の窓」として熱が放出されやすい主な理由は、その波長域において、主要な温室効果ガスである水蒸気(H₂O)と二酸化炭素(CO₂)の吸収が非常に少ないためです。

  • 分子の振動・回転と赤外線吸収:気体分子は、それぞれ固有の振動や回転の運動をしており、特定のエネルギー(波長)の赤外線を吸収することで、これらの運動のエネルギー準位が変化します。この吸収される波長は、分子の種類や構造によって決まっています。
  • 水蒸気と二酸化炭素の吸収スペクトル:
    • 水蒸気(H₂O): 水蒸気は非常に強力な温室効果ガスであり、広範囲の赤外線を吸収しますが、特に8μmより短い波長と、18μmより長い波長で強い吸収帯を持っています。
    • 二酸化炭素(CO₂): 二酸化炭素も重要な温室効果ガスで、主に4.3μmと15μm付近に強い吸収帯を持っています。
  • 「窓」の形成:これらの主要な温室効果ガスの吸収スペクトルを見ると、8μmから13μmの間の波長域には、強い吸収帯がほとんど存在しません。つまり、この波長域の赤外線は、水蒸気や二酸化炭素によってほとんど吸収されることなく、大気を透過して宇宙空間へと直接放出されやすいのです。これが「大気の窓」と呼ばれる所以です。
  • その他の温室効果ガス:もちろん、オゾン(O₃)やメタン(CH₄)などの他の温室効果ガスも存在しますが、それらの吸収帯は8~13 µmの範囲を大きく阻害するほどではありません。

 この「大気の窓」が存在するおかげで、地球は自ら熱を宇宙に放射し、過度に加熱されるのを防ぐ自然な冷却メカニズムを維持しています。放射冷却フイルムなどの技術は、この自然のメカニズムを最大限に活用するために、この8~13 µmの波長域で効率的に熱を放射する(高い放射率を持つ)ように設計されています。

8~13μmの波長は、地球大気中の主要な温室効果ガスである水蒸気と二酸化炭素の吸収帯と重ならないためです。これにより、これらの波長の熱(赤外線)は、大気にほとんど吸収されることなく直接宇宙へ放出されやすい「大気の窓」となります。

放射冷却フイルムの用途にはどんなものがあるのか

 放射冷却フイルムは、その「電力を使わずに冷却できる」という画期的な特性から、様々な分野での活用が期待されています。主な用途は以下の通りです。

1. 建物・建築物への適用

  • 屋根・壁・窓: 住宅、工場、倉庫、商業施設などの屋根や壁、窓に貼ることで、日中の室内温度上昇を抑制し、冷房負荷を大幅に軽減できます。特に熱がこもりやすい膜構造の建物や、データセンターなど発熱量の多い施設に適しています。
  • 屋外通路・シェルター: 空港の連絡通路や屋外イベント会場の仮設シェルター、災害時の仮設住宅、工事現場の事務所などに使用することで、熱中症リスクを低減し、快適な空間を提供します。

2. 物流・輸送への適用

  • トラック・コンテナ: 冷凍・冷蔵輸送トラックのコンテナや、通常の貨物輸送コンテナに適用することで、内部の温度上昇を抑え、鮮度保持や品質維持に貢献します。これにより、燃料消費量の削減にも繋がります。
  • 自動車・鉄道車両: 車両のルーフや窓に適用することで、車内の温度上昇を抑制し、エアコンの稼働を抑えることで燃費向上やバッテリー消費の抑制に寄与します。

3. 産業・インフラへの適用

  • 太陽光発電所: 太陽光パネルの裏面や架台に適用することで、パネルの温度上昇を抑え、発電効率の低下を防ぐ効果が期待されます。
  • 屋外設置機器: 通信機器の筐体や制御盤など、屋外に設置される機器の温度管理に利用することで、故障のリスクを低減し、長寿命化に貢献します。
  • 農業施設: 温室や畜舎などに適用することで、夏場の高温対策や、農作物の品質維持、家畜のストレス軽減に役立ちます。

4. 日用品・個人用途

  • 衣類・日傘・帽子: 熱中症対策として、衣類や日傘、帽子などの素材に応用することで、着用者の体感温度を下げ、夏の暑さを和らげます。
  • レジャー用品: テントやクーラーボックスなどに利用することで、快適なアウトドア体験をサポートします。

メリットが活かせる用途の共通点

  • 高性能な断熱材が使えない、または使われていない場所: フイルム状であるため、複雑な形状や既存の構造にも比較的容易に適用できます。
  • 内部の熱源を冷やす必要がある場所: 発熱する機器や、熱に弱いものが内部にある場所に適しています。
  • 省エネルギーやCO2削減が強く求められる場所: 環境負荷低減のニーズに応える技術として注目されています。
  • 暑熱環境下での作業者の労働環境改善: 熱中症リスクの高い現場での安全確保に貢献します。

 このように、放射冷却フイルムは、電力を使わない「パッシブ冷却」の技術として、持続可能な社会の実現に大きく貢献できると期待されています。

放射冷却フイルムは、電力を使わず冷却できるため、建物やトラック、屋外機器の温度上昇抑制に役立ちます。これにより、省エネや熱中症対策、鮮度保持など、幅広い分野での活用が期待されています。

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