この記事で分かること
- コバルトの用途:主にリチウムイオン電池(EV、スマホ等)の正極材として不可欠です。その他、ジェットエンジン部品や切削工具に使われる特殊合金、高性能磁石、鮮やかな青色顔料、石油精製触媒など、幅広い分野で利用されています。
- コバルトが強い磁性を持つ理由:コバルト原子の3d軌道には不対電子が存在し、それぞれがスピン磁気モーメントを持ちます。隣接する原子間で働く「交換相互作用」により、これらのスピンが同じ向きに揃い、全体として強い磁性を示します。
中国のコバルト輸出
中国はレアアース以外にも多くの鉱物輸出で高いシェアを持っています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD045CL0U5A700C2000000/
コバルトもそのような鉱物の一つであり、米中対立が続けば、コバルトの輸出に制限をかける可能性も充分にあります。
中国には多くのコバルトが埋蔵されているのか
中国のコバルト資源は相対的に不足しており、輸入に大きく依存しています。コバルト鉱石の多くはコンゴ民主共和国(DRコンゴ)から供給されており、中国企業(特にCMOCなど)がDRコンゴの鉱山権益を多く保有しています。CMOCは2024年に11万トン以上のコバルトを生産し、2年連続で世界首位となりました。
一方で、中国はコバルトの製錬能力が非常に高く、世界全体の50%以上の製錬所を所有しているとされています。
今後で採掘されたコバルトは、多くの場合、中国に輸送され、そこで精製されて高純度のコバルト製品(金属コバルト、コバルト化学品など)となります。そして、これらの精製されたコバルト製品が、中国から世界各国、特にリチウムイオン電池の製造拠点に輸出されます。
このような背景もあり、コンゴ民主共和国と中国の関係は、資源の供給とインフラ開発という実益に基づいた非常に強固なものとなっています。

中国はコバルトを多く埋蔵しているわけではなく、世界のコバルト鉱石生産量の約70〜76%を占めるコンゴから鉱石を輸入し、精製したのち輸出しています。
コバルトは何に使われるのか
コバルトは、その独特の物理的・化学的性質から、非常に多様な分野で利用されています。特に現代社会においてその重要性が高まっているのが、以下の用途です。
1. リチウムイオン電池(LIB)の正極材
これがコバルトの最も重要な用途であり、需要の大部分を占めています。
- スマートフォン、ノートパソコン、デジタルカメラ: これら小型電子機器の充電式バッテリーに広く使用されています。
- 電気自動車(EV): EVの普及に伴い、高性能で長寿命なバッテリーが求められ、コバルトの需要が急増しています。コバルト酸リチウム(LiCoO2)などが正極材として使われます。
- エネルギー密度: コバルトは高いエネルギー密度を持つため、バッテリーの小型化・軽量化に貢献します。
ただし、コバルトの採掘に伴う倫理的・環境的問題や、特定の国への供給依存度が高いことから、コバルト使用量を減らす、あるいはコバルトフリーの電池開発も進められています(例:ニッケル量を増やしたNMC系電池や、コバルト不要の電池研究など)。
2. 合金材料
コバルトは他の金属と合金を形成することで、様々な優れた特性を発揮します。
- 特殊鋼(スーパーアロイ): 耐熱性、耐食性、耐摩耗性に優れるため、ジェットエンジンの部品やガスタービンなど、高温・高圧環境で使用される材料に添加されます。
- 超硬合金: タングステンカーバイドなどの硬質材料の結合剤(バインダー)として使用され、切削工具、ドリルビット、金型などに使われます。非常に硬く、ダイヤモンドに近い硬度を持つものもあります。
- 高速度鋼、耐熱鋼: これらの特殊な鋼材の性能向上に寄与します。
3. 磁性材料
コバルトは強い磁性を持つため、高性能な磁石の材料として利用されます。
- 永久磁石:
- アルニコ磁石 (Al-Ni-Co): アルミニウム、ニッケル、コバルトの合金で、家庭電化製品や音響機器などに使用されます。
- サマリウムコバルト磁石 (SmCo): サマリウムとコバルトの合金で、ネオジム磁石に次ぐ高い磁気特性を持ち、耐熱性に優れるため、高温環境下でのセンサー部品や医療機器部品、車載用モーターなどに用いられます。
4. 顔料
コバルト化合物は、その鮮やかな青色(コバルトブルー)で知られ、古くから顔料として利用されてきました。
- 陶磁器、ガラス: 特徴的な青色を出すために着色剤として使われます。
- 絵具、塗料: 「コバルトブルー」は絵画材料としても有名です。
- エナメル、ホーロー: 着色剤や上塗り剤として使われます。
5. 触媒
- 石油精製: 石油精製における脱硫触媒として利用されます。
6. その他
- メッキ: 耐食性や耐摩擦性を高める目的で、コバルトメッキや錫コバルト合金メッキなどが利用されます。
- 医療分野: 人工関節や歯科材料、ステントなどにも一部で利用されます。
このように、コバルトは現代のハイテク産業から伝統的な工芸品まで、幅広い分野で不可欠な元素となっています。

コバルトは主にリチウムイオン電池(EV、スマホ等)の正極材として不可欠です。その他、ジェットエンジン部品や切削工具に使われる特殊合金、高性能磁石、鮮やかな青色顔料、石油精製触媒など、幅広い分野で利用されています。
コバルトが強い磁性を持つ理由は
コバルトが強い磁性を持つ(強磁性を示す)理由は、主にその原子の電子配置と、原子間の交換相互作用にあります。
- 不対電子の存在とスピン磁気モーメント:コバルト原子の電子配置は [Ar] 3d$^7$ 4s$^2$ です。特に重要なのは3d軌道で、ここに不対電子が存在します。電子は電荷を持つだけでなく、自転(スピン)しており、このスピンが小さな磁石のような性質(スピン磁気モーメント)を持っています。コバルト原子には3つの不対電子があり、これらが個々の小さな磁気モーメントを持っています。
- 交換相互作用によるスピンの整列:通常、多くの物質では、個々の原子が持つスピン磁気モーメントはバラバラの方向を向いており、全体として磁性を示しません。しかし、コバルトのような強磁性体では、隣り合う原子間で交換相互作用という量子力学的な力が働きます。この相互作用は、不対電子のスピンが互いに平行に揃うように働きます。
- 磁区の形成と自発磁化:その結果、コバルトの結晶中では、多数の原子のスピンが一つの方向に向かって整列した領域(磁区)が形成されます。この磁区内では、原子のスピンが揃っているため、外部磁場がなくても自発的に磁化(自発磁化)が生じます。
鉄やニッケルも同様に強磁性を示しますが、コバルトは鉄やニッケルに比べてキュリー温度(強磁性体から常磁性体に変化する温度)が高く、約1100℃と非常に耐熱性に優れているため、高温環境下での磁石材料として利用されます。

コバルト原子の3d軌道には不対電子が存在し、それぞれがスピン磁気モーメントを持ちます。隣接する原子間で働く「交換相互作用」により、これらのスピンが同じ向きに揃い、全体として強い磁性(強磁性)を示すためです。
スーパーアロイとは何か
スーパーアロイ(Superalloy)は、「超合金」とも呼ばれる、極めて高い耐熱性、耐食性、耐酸化性、高強度を兼ね備えた特殊な合金の総称です。特に、高温環境下での機械的特性が優れているのが特徴です。
主な特徴
- 高温強度: 高温下でも変形しにくく、強度を維持できます。
- 高温クリープ抵抗: 高温かつ持続的な応力下でも、ゆっくりと変形していく現象(クリープ)に強い抵抗力があります。
- 耐食性・耐酸化性: 腐食性ガスや高温での酸化環境に強い耐性を持ちます。
主な種類
主要な成分によって、以下の3つに大別されます。
- ニッケル基超合金: ニッケル(Ni)を主成分とするもので、最も広く使用されています。アルミニウム(Al)やチタン(Ti)を添加することで、金属間化合物を析出させ、強度を向上させます。
- 例: インコネル、インコロイ、ハステロイの一部
- コバルト基超合金: コバルト(Co)を主成分とし、非常に高温(1500℃以上も可能)でも強度を維持できるのが特徴です。耐食性や靭性にも優れます。
- 鉄基超合金: 鉄(Fe)を主成分とするもので、ニッケルやコバルト基よりも耐熱性は劣りますが、比較的安価で加工しやすいという利点があります。ステンレス鋼をベースに、さらに高温強度や耐食性を高めたものが多いです。
主な用途
これらの優れた特性から、スーパーアロイは極めて過酷な環境で使用される部品に不可欠な材料です。
- 航空宇宙産業: ジェットエンジンやロケットのタービンブレード、燃焼器部品、構造部材など。
- エネルギー産業: 発電所のガスタービンや蒸気タービン、ボイラー部品、原子力発電所部品など。
- 化学工業: 高温反応器、化学プラント設備、熱交換器など、高温・腐食環境にさらされる装置。
- 自動車産業: 高温に耐えるエンジン部品や排気系部品。
- その他: 高温熱処理炉の部材、切削工具、医療機器部品など。
スーパーアロイは、現代の高性能機械や設備の進化を支える基盤技術の一つと言えます。

スーパーアロイ(超合金)は、ニッケル、コバルト、鉄などを主成分とし、極めて高い耐熱性、耐食性、高強度を兼ね備えた特殊合金です。ジェットエンジンやガスタービンなど、高温・高圧の過酷な環境で使用される部品に不可欠な素材です。
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