三菱ケミカルグループのバイオベンチャーへの投資 どんな事業に投資するのか?超臨界水を用いた油化技術とは何か?

この記事で分かること

  • 投資の内容:三菱ケミカルグループが投資を行うライセラ社はオーストラリアのバイオベンチャーで、超臨界水を使った独自の技術で廃棄プラスチックやバイオマスを油化し、循環型経済に貢献する企業です。
  • 臨界水を用いた油化技術とは:高温高圧の超臨界水が持つ特殊な溶解・分解能力を利用し、廃棄プラスチックやバイオマスを高効率で油に変換する技術です。

三菱ケミカルグループのバイオベンチャーへの投資

 三菱ケミカルグループは、2025年7月18日に、米子会社を通じてオーストラリアのバイオベンチャー企業であるLicella Holdings, Ltd. (ライセラ社) に出資することを発表しました。

 この出資は、ライセラ社が持つ廃棄プラスチックの油化技術、特に超臨界水を用いた油化技術に強みがあるため、三菱ケミカルグループが油化リサイクル事業の拡大と原料多様化を目指すための一環です。

ライセラ社はどんな会社なのか

 Licella Holdings, Ltd. (ライセラ社) は、オーストラリアのバイオベンチャー企業で、「Cat-HTR™ (Catalytic Hydrothermal Reactor)」 と呼ばれる独自の技術を開発し、超臨界水を用いた廃棄物(プラスチック、バイオマスなど)の油化において世界をリードする企業です。

  • 超臨界水油化技術のリーダー: Licella社の核となる技術は、高圧・高温の超臨界水を用いて、廃棄プラスチックやバイオマスを効率的に油化することです。これにより、化石燃料に代わる持続可能なオイル(バイオ中間体)を生成し、これをさらに精製して化学製品の原料や持続可能な航空燃料(SAF)などに利用できます。
  • 幅広い原料に対応: プラスチックだけでなく、バイオマス(木材残渣、農業廃棄物など)も油化できるため、様々な廃棄物から価値ある資源を生み出すことが可能です。
  • 循環経済への貢献: 埋め立てや焼却されていた廃棄物を資源として再利用することで、プラスチックの循環経済の実現や、化石資源への依存度を低減することを目指しています。
  • グローバルな提携: シェル、ダウ・ケミカル、KBRなど、世界の主要な企業と戦略的なパートナーシップを組み、技術の商業化と普及を進めています。
  • 設立: 2007年より、水熱液化(HTL)技術の開発を行っています。
  • 拠点: オーストラリアに本社を置き、北米、ヨーロッパ、アジアなどでプラントの建設や開発を進めています。

 三菱ケミカルグループがLicella社に出資したのは、同社の持つこの先進的な油化技術が、三菱ケミカルグループが目指す油化リサイクル事業の拡大と原料多様化に貢献すると判断したためです。

ライセラ社はオーストラリアのバイオベンチャーで、超臨界水を使った独自の技術で廃棄プラスチックやバイオマスを油化し、循環型経済に貢献する企業です。三菱ケミカルグループが出資し、油化リサイクル事業の拡大を目指しています。

超臨界水を用いた油化技術とは

 超臨界水を用いた油化技術とは、水が超臨界状態になったときに示す特殊な性質を利用して、廃棄物(主にプラスチックやバイオマス)を分解し、油状の物質(リサイクル油、バイオオイルなど)に変換する技術です。

超臨界状態とは何か?

 水は通常、温度が100℃で沸騰し水蒸気になりますが、圧力をかけながら加熱していくと、臨界点(温度374℃、圧力22.1MPa)を超えたときに、液体でも気体でもない「超臨界状態」になります。

 この超臨界水は、以下のようなユニークな性質を持っています。

  • 液体と気体の中間の性質: 液体のように物質を溶解させる能力を持ちながら、気体のように粘度が低く拡散性が高いという両方の特性を併せ持ちます。
  • 有機物の溶解性が高い: 通常の水では溶けにくい油などの有機物を非常によく溶かすことができます。
  • 無機物を析出させる: 一方で、塩などの無機物は溶けにくくなり、析出しやすくなります。
  • 反応媒体・触媒・試薬の役割: 水分子自身が有機物の分解反応を促進する触媒や試薬として機能します。

超臨界水を用いた油化技術の仕組み

 この技術では、以下のようなプロセスで廃棄物が油化されます。

  1. 原料の混合: 廃棄プラスチックやバイオマスを細かく破砕・選別し、水と混合してスラリー状にします。
  2. 超臨界状態での反応: このスラリーを高圧・高温(超臨界水の条件)にすることで、水が超臨界状態になります。
  3. 有機物の分解: 超臨界水が持つ高い溶解性と反応性によって、廃棄物中の高分子化合物(プラスチックの鎖など)の結合が切断され、より低分子量の油状物質に分解されます。この際、コークス(炭化生成物)の生成が抑制される傾向があります。
  4. 油の分離・回収: 分解された油状物質は、その後、水と分離され、リサイクル油として回収されます。ガスや固体残渣なども生成されますが、油の収率が高いことが特徴です。

メリット

  • 幅広い原料に対応: 廃プラスチックだけでなく、含水率の高いバイオマスなど、多様な廃棄物に対応可能です。
  • 高効率な分解: 超臨界水の特性により、短時間で効率的に高分子化合物を分解できます。
  • 環境負荷の低減: 従来の熱分解や焼却に比べて、有害物質の排出が少ないクローズドシステムで処理が可能です。NOx(窒素酸化物)などの発生も抑制されます。
  • 燃料・化学原料への変換: 得られたリサイクル油は、燃料(SAFなど)や化学製品の原料として再利用でき、化石資源への依存度を減らし、循環経済に貢献します。
  • 触媒不要な場合が多い: 超臨界水自体が触媒のように機能するため、別途高価な触媒を必要としないケースが多いです。

 三菱ケミカルグループがライセラ社に注目したのも、この超臨界水を用いた油化技術が持つ高い可能性と環境貢献性のためです。

超臨界水油化技術は、高温高圧の超臨界水が持つ特殊な溶解・分解能力を利用し、廃棄プラスチックやバイオマスを高効率で油に変換する技術です。これにより、資源循環と環境負荷低減に貢献します。

高分子化合物が低分子になる際にどんな反応が起きているのか

 高分子化合物が超臨界水中で低分子化する際に起きる主な反応は、その高分子化合物の種類によって異なりますが、大きく分けて以下の2つのタイプがあります。

加水分解 (Hydrolysis)

  • 対象: 重縮合系のプラスチック(例: PET、ナイロン、ポリカーボネートなど)やバイオマスの主成分(セルロース、ヘミセルロースなど)のように、分子鎖の中にエステル結合、アミド結合、エーテル結合といった水と反応しやすい結合を持つ高分子に多く見られます。
  • 反応: 超臨界水は、高いイオン積(通常水よりH+とOH-の濃度が高い)を持ち、水分子自体の反応性が非常に高まっています。この水分子(H+やOH-)が、高分子鎖内の結合に攻撃し、結合を切断する反応です。水分子が結合を「加える」ことで分解が進むため「加水分解」と呼ばれます。
  • 生成物: 多くの場合、元のモノマー(単量体)やその中間体が得られます。例えば、PETはテレフタル酸とエチレングリコールに加水分解されます。セルロースはグルコースに分解されます。
  • 特徴: 触媒を必要としない場合が多く、比較的低温(300~400℃程度)でも効率的に進行します。

熱分解 (Thermal Degradation) / ラジカル分解 (Radical Degradation)

  • 対象: 付加重合系のプラスチック(例: ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなど)のように、分子鎖の中に炭素-炭素結合が連なっている高分子に多く見られます。これらの結合は加水分解されにくいため、主に熱的なエネルギーによって分解が進行します。
  • 反応: 超臨界水は、単に反応媒体としてだけでなく、熱伝達媒体としても優れています。高温の超臨界水中では、高分子鎖が熱によって振動し、炭素-炭素結合が弱まり、最終的に切断されます。この際、ラジカル(不対電子を持つ反応性の高い分子断片)が生成し、これらのラジカルがさらに連鎖的に反応して、より小さな分子(炭化水素のガスや油)が生成されます。超臨界水の高い溶解性により、生成した低分子が速やかに分散・希釈されるため、再重合やコークス化(炭化)が抑制される利点があります。
  • 生成物: 炭素数が比較的少ない様々な炭化水素の混合物(ガス、ガソリン留分、灯油留分など)が得られます。
  • 特徴: 加水分解よりも高温(400℃以上)が必要となることが多いです。

超臨界水が分解反応に与える影響

 超臨界水は、これらの分解反応を効率的に進める上でいくつかの重要な役割を果たします。

  • 高い溶解性: 有機物との親和性が高まり、高分子が超臨界水中に溶解することで、反応が均一に進みやすくなります。
  • 高い反応性(誘電率の低下など): 水分子の構造が変化し、イオン積が増大したり、極性が変化したりすることで、分解反応を促進する効果があります。
  • 熱伝達効率: 熱容量が大きく、熱伝導率も高いため、高分子を効率的に加熱し、分解反応を促進します。
  • コークス化抑制: 生成した低分子化合物が超臨界水中に速やかに分散・希釈されるため、熱による二次的な重合反応(コークス化)が抑制され、油の収率が高まります。

 これらの反応を組み合わせることで、超臨界水を用いた油化技術は、様々な種類の廃棄プラスチックやバイオマスから効率的に有用な油を生成することを可能にしています。

高分子は超臨界水中で、主に加水分解(水分子で結合を切断)と熱分解・ラジカル分解(熱エネルギーで分子鎖を壊す)が同時に進行し、元のモノマーや炭化水素などの低分子化合物に効率的に分解されます。これにより、油が得られます。

超臨界水はどうやって作られるのか

 超臨界水は、水を特定の高温・高圧の条件下に置くことで作られます。具体的には、以下のように水の臨界点である温度374℃圧力22.1MPa(約220気圧)を超えるように加熱・加圧することで、水は超臨界状態になります。

  1. 高圧ポンプによる加圧:まず、常温の水を高圧ポンプで臨界圧力(22.1MPa以上)まで加圧します。これは、非常に頑丈なポンプと配管が必要となります。
  2. 熱交換器による予熱:加圧された水は、反応器から出てくる高温の流体と熱交換器で熱交換されることにより、効率的に予熱されます。これにより、エネルギー消費を抑えることができます。
  3. ヒーターによる加熱:予熱された水は、電気ヒーターや外部の熱源(ガスバーナーなど)によって、さらに臨界温度(374℃以上)まで加熱されます。この加熱は、高圧に耐えられる特殊な反応器や管状炉で行われます。
  4. 反応器での保持:加熱された水は、超臨界状態を維持するために、一定の時間、高温・高圧に保たれる反応器(超臨界反応器)内を流れます。この反応器内で、廃棄物などの原料が導入され、超臨界水と反応することになります。

ポイント

  • 密閉系: 超臨界水は非常に高い蒸気圧を持つため、完全に密閉されたシステム内で作られ、扱われます。
  • 耐圧・耐熱材料: 高温高圧の環境に耐えられる特殊な合金(例:高ニッケル合金)が、装置の材料として使用されます。
  • 正確な温度・圧力制御: 超臨界状態を安定して維持するためには、精密な温度・圧力制御が必要です。

 超臨界水を用いた処理装置は、これらの要素を組み合わせたプラントとして設計・構築されます。これにより、安定して超臨界水を生成し、目的の分解反応や合成反応を行うことが可能になります。

超臨界水は、水を臨界点(温度374℃、圧力22.1MPa)以上に密閉系で加熱・加圧することで作られます。高圧ポンプで加圧後、ヒーターで加熱し、特殊な反応器で超臨界状態を維持します。

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