この記事で分かること
- 電力貯蔵向け電池とは:発電した電気を貯め、必要な時に使うことで、再生可能エネルギーの安定化や電力ピーク抑制、非常用電源として機能する蓄電池です。リチウムイオン電池などが代表的です。
- 拡販する材料:電力貯蔵向け電池の高容量化や安全性向上に貢献する「電池用バインダー」や「電池用シール剤」、長寿命化・低コスト化に寄与する「セパレータ関連技術」の拡販を予定しています。
- バインダーとは:電極の粉末状材料(活物質や導電助剤)を結合し、集電体に接着させる「糊」の役割を持つ高分子材料です。
日本ゼオンの電力貯蔵向け電池材料
日本ゼオンは、電力貯蔵向け電池などの電池材料事業の拡販に積極的に取り組んでいます。同社は中期経営計画「STAGE30」において、電池材料を「磨き上げる既存事業」の一つとして位置づけ、リチウムイオン電池負極用バインダー事業の拡大を通じて、持続可能な社会への貢献を目指しています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00756186
独自の技術力を活かし、リチウムイオン電池の性能向上に不可欠な材料を提供することで、電力貯蔵市場における存在感を高め、事業拡大を目指しています。
電力貯蔵向け電池とは何か
電力貯蔵向け電池とは、発電された電気を貯めておき、必要な時に取り出して利用するための電池のことです。単に「蓄電池」と呼ばれることもあります。
主な目的と役割
- 再生可能エネルギーの出力変動吸収: 太陽光発電や風力発電など、天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、発電と消費のバランスを保つために電力貯蔵が必要となります。余剰電力を貯蔵し、発電量が少ない時に放電することで、電力系統を安定させます。
- ピークカット・ピークシフト: 電力需要が高い時間帯(ピーク時)に、電力貯蔵された電気を放電することで、電力会社からの購入電力量を減らし、電気料金の削減に貢献します。逆に、電力需要が低い時間帯(オフピーク時)に電気を貯めることで、電力利用の平準化を図ります。
- 非常用電源・BCP対策: 災害などによる停電時に、貯蔵された電気を非常用電源として利用することで、電力供給を継続し、事業活動や生活の維持に貢献します。
- 送電網の安定化: 周波数調整や電圧維持など、電力系統の安定化に寄与します。
主な種類と特徴
電力貯蔵向け電池には、様々な種類があり、それぞれ特徴が異なります。
- リチウムイオン電池(LiB):
- 特徴: 高エネルギー密度、長寿命、高い充放電効率。小型化が容易で、現在最も広く普及しています。
- 用途: 家庭用蓄電システム、電気自動車(EV)、大規模電力貯蔵システムなど。
- 課題: コスト、安全性(熱暴走リスク)。ただし、リン酸鉄系リチウムイオン電池(LFP)など、安全性を高めたタイプも開発・普及が進んでいます。
- 鉛蓄電池:
- 特徴: 古くから使用されており、安価で信頼性が高い。
- 用途: 自動車用バッテリー、UPS(無停電電源装置)、非常用電源など。
- 課題: エネルギー密度が低い、寿命が比較的短い、重くて大きい。
- NAS電池(ナトリウム硫黄電池):
- 特徴: 大規模電力貯蔵に適しており、高エネルギー密度と長寿命が特徴。高温(約300℃)での運転が必要。
- 用途: 大規模電力貯蔵、工場用非常電源など。日本ガイシが独自に製造しています。
- レドックスフロー電池:
- 特徴: 電解液を循環させて充放電を行う方式で、容量と出力を独立して設計できる。サイクル寿命が非常に長く、大規模電力貯蔵に適している。
- 用途: 大規模電力貯蔵、再生可能エネルギーの出力安定化。
- ニッケル水素電池:
- 特徴: 比較的高電圧を維持できる、自己放電に強い。
- 用途: 充電式乾電池、ハイブリッドカーなど。電力貯蔵用途ではリチウムイオン電池に比べると限定的です。
これらの電池は、個々の用途や必要な貯蔵容量、コスト、設置スペースなどに応じて選択されます。特に、再生可能エネルギーの普及が進む中で、電力貯蔵向け電池の重要性はますます高まっています。

電力貯蔵向け電池は、発電した電気を貯め、必要な時に使うことで、再生可能エネルギーの安定化や電力ピーク抑制、非常用電源として機能する蓄電池です。リチウムイオン電池などが代表的です。
どんな材料の拡販を予定しているのか
日本ゼオンが電力貯蔵向け電池材料として拡販を予定している主な材料は、以下の通りです。
- 電池用バインダー:
- リチウムイオン電池負極用バインダー: 特に、高容量化やSi(シリコン)活物質の適用に対応した製品に注力しています。Si活物質は、従来の黒鉛に比べて理論容量が10倍以上とされており、これに対応するバインダーは電池の高容量化に不可欠です。
- リチウムイオン電池正極用バインダー: 水系プロセスに対応したバインダーの開発・拡販を進めています。水系プロセスは、従来の有機溶剤系プロセスに比べて環境負荷が低く、製造コストの削減にも貢献します。
- 電池用シール剤: 高耐熱性を持つ封止剤で、電池の安全性を高める役割があります。
- セパレータ関連技術:
- セパレータ塗布用接着剤「AFL」: セパレータに塗布することで、電極間の距離を適切に維持し、蓄電池の長寿命化と低コスト化に貢献します。
- セパレータ耐熱層用バインダー: セパレータの耐熱性を向上させることで、電池の安全性と信頼性を高めます。
これらの材料は、電力貯蔵向け電池、特にリチウムイオン電池の高性能化、長寿命化、安全性向上、そして製造プロセスの環境負荷低減に貢献するものです。日本ゼオンは、これらの製品の技術開発とグローバルな供給体制を強化することで、電力貯蔵市場でのシェア拡大を目指しています。

日本ゼオンは、電力貯蔵向け電池の高容量化や安全性向上に貢献する「電池用バインダー」や「電池用シール剤」、長寿命化・低コスト化に寄与する「セパレータ関連技術(接着剤AFLなど)」の拡販を予定しています。
バインダーとは何か
「バインダー」は、一般的には「何かを束ねる・結合する」役割を持つものを指します。文房具のファイルや書類をまとめるクリップ、農業機械など様々な分野で使われる言葉ですが、電池材料の文脈では、電極を構成する粉末状の材料(活物質や導電助剤など)を接着し、電極の形を保ち、集電体(アルミ箔や銅箔)に固定するための「糊」や「接着剤」のような役割を果たす高分子材料を指します。
リチウムイオン電池の電極は、主に以下の材料でできています。
- 活物質: リチウムイオンを吸蔵・放出する主要な材料(例:正極はリチウム含有金属酸化物、負極はグラファイトやシリコンなど)。これ自体は粉末状です。
- 導電助剤: 電極全体の導電性を高めるための材料(例:カーボンブラックなど)。これも粉末状です。
- バインダー: 上記の活物質や導電助剤といった粉末同士を結合させ、さらにそれらを集電体(正極ではアルミ箔、負極では銅箔)にしっかりと接着させる役割を果たします。
バインダーの重要な役割
- 結着性: 活物質や導電助剤の粉末がバラバラにならないように結合させ、電極の形状を維持します。
- 接着性: 電極材料を集電体にしっかりと接着させ、充放電を繰り返しても剥がれないようにします。
- 柔軟性・耐久性: 充放電の際に活物質が膨張・収縮する動きに追従し、電極のひび割れや剥がれを防ぎ、電池の長寿命化に貢献します。特に、高容量化に向けて注目されているシリコン系負極活物質は充放電時の体積変化が大きいため、それに対応できる高性能なバインダーが不可欠です。
- 電解液耐性: 電池内部の電解液に浸されても劣化せず、安定した性能を保つ必要があります。
- スラリーの分散性向上: 電極を製造する際、これらの材料を溶媒と混合してスラリー(泥状)を作りますが、バインダーはスラリーの均一な分散を助ける役割も担います。
このように、バインダーはリチウムイオン電池の性能(容量、寿命、安全性など)を大きく左右する重要な材料の一つであり、その開発・改良は電池技術の進化に不可欠です。

電池におけるバインダーは、電極の粉末状材料(活物質や導電助剤)を結合し、集電体に接着させる「糊」の役割を持つ高分子材料です。これにより電極の形を保ち、充放電による膨張収縮に耐え、電池の性能と寿命を支えます。
リチウムイオン電池のバインダーには、主に高分子材料が使われます。その中でも、水系と溶剤系の2種類に大きく分けられ、それぞれ特性や用途が異なります。
1. 溶剤系バインダー
- ポリフッ化ビニリデン (PVDF):
- 現在、正極バインダーとして最も広く使用されています。
- 耐薬品性、耐熱性、機械的強度に優れており、電解液に対しても安定しています。
- ただし、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)という有機溶剤を必要とし、この溶剤は環境負荷やコストの面で課題があります。
2. 水系バインダー
- スチレンブタジエンゴム (SBR):
- 主に負極バインダーとして使用されます。
- 環境負荷の低い水溶性であり、PVDFに比べてコスト面でも有利です。
- 柔軟性に優れ、充放電時の活物質の膨張収縮に対応しやすい特性があります。
- ポリアクリル酸 (PAA) およびその誘導体:
- SBRと同様に水系バインダーとして注目されており、特にシリコン系負極活物質のように大きな体積変化を伴う材料に適しています。
- 架橋型ポリアクリル酸など、さらに高性能なタイプも開発されています。
- アクリル系ポリマー:
- 様々な特性を持つアクリル系の高分子がバインダーとして開発・使用されています。
その他
- ポリアミドイミド樹脂: 高い塗膜強度を持ち、シリコン系活物質の高添加量に対応できるバインダーとして開発されています。
バインダーの選択基準
バインダーの種類は、正極か負極か、使用する活物質の種類(特にシリコンなど体積変化の大きい材料か)、電池の要求性能(高容量、長寿命、安全性など)、製造コスト、環境負荷などを考慮して選ばれます。特に、次世代電池では、シリコン系負極への対応や、環境に配慮した水系バインダーの開発が加速しています。

バインダーには主に高分子材料が使われ、正極ではPVDF(ポリフッ化ビニリデン)、負極では環境負荷の低い水系のSBR(スチレンブタジエンゴム)やPAA(ポリアクリル酸)が主流です。活物質や用途に応じて最適なものが選ばれます。
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