この記事で分かること
- 市場拡大の理由:環境規制による軽量化ニーズ(航空機・自動車)、製品の高性能化(風力発電等)、技術革新によるコスト低減と量産化の進展が、炭素繊維複合材料市場拡大が要因となり、成長が見込まれています。
- 東レの特徴:世界最大手の炭素繊維メーカーであり、特に航空機向けで圧倒的なシェアと信頼性を誇っています。
- 帝人の特徴:熱可塑性炭素繊維複合材料「Sereebo®」に強みを持ち、自動車部品の量産化に注力。材料供給だけでなく、部品の設計から製造まで一貫して手掛ける点が特長です。
- 三菱ケミカルの特徴:強度に優れるPAN系と高弾性率のピッチ系の両方を製造できる点や総合化学メーカーとして、川上から川下まで一貫したソリューションを提供できる点が特長です。
炭素繊維複合材料の市場拡大
富士経済社によると、炭素繊維複合材料の世界市場は、今後大きく成長し、2050年には2024年比で2.6倍の8兆6,864億円に達すると予測されています。
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2507/25/news028.html
炭素繊維複合材料は、その優れた特性と環境負荷低減への貢献から、今後も様々な分野で応用が拡大し、持続可能な社会の実現に重要な役割を果たすと考えられます。
市場が拡大する理由は何か
炭素繊維複合材料の市場が拡大する主な理由は、その優れた特性が現代社会の様々なニーズと合致しているためです。具体的には以下の点が挙げられます。
環境規制と軽量化ニーズの増大
- 自動車や航空機などの輸送機器において、燃費向上やCO2排出量削減は喫緊の課題です。炭素繊維複合材料は、金属材料に比べて大幅な軽量化を実現できるため、これらの課題解決に直接貢献します。特に電気自動車(EV)では、バッテリーの重量を相殺するための軽量化が重要視されています。
高性能化への要求
- 航空機ではより長距離を、風力発電のブレードではより大型化し発電効率を上げるといったように、各分野で製品のさらなる高性能化が求められています。炭素繊維複合材料の「高強度」「高剛性」という特性が、これらの要求を満たすために不可欠です。
特定の用途における優位性
- 航空機: 燃費効率改善と軽量化による航続距離延長、ペイロード(積載量)増加に直結するため、新型機の機体構造への採用が進んでいます。
- 風力発電: ブレードの大型化に伴い、軽量性と高強度・高剛性が求められるため、炭素繊維複合材料が不可欠な素材となっています。再生可能エネルギーへの投資増加が追い風です。
- 自動車: 特にEVのバッテリーケースなど、軽量化と耐衝撃性、電磁波シールド性などが求められる部位での採用が進んでいます。熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)の登場により、量産化への道も開かれつつあります。
- 産業機器: ロボットアームなど、軽量化による高速化や省エネ化、長寿命化が求められる分野での需要が増加しています。
技術革新とコスト低減の進展
- 以前は高価で加工が難しかった炭素繊維複合材料ですが、製造プロセスの効率化、熱可塑性樹脂を用いたCFRTPの開発(成形時間の短縮、リサイクル性向上)、リサイクル技術の進化などにより、コスト低減と量産化への道が開かれつつあります。これにより、適用できる分野がさらに広がっています。
インフラ整備・補強の需要
- 老朽化したインフラ(橋梁、建築物など)の補修・補強において、炭素繊維複合材料の高い耐久性と耐食性が注目されています。特に中国などの新興国でのインフラ整備需要も市場拡大の一因です。
これらの要因が複合的に作用し、炭素繊維複合材料の市場は持続的な成長を遂げると予測されています。

環境規制による軽量化ニーズ(航空機・自動車)、製品の高性能化(風力発電等)、技術革新によるコスト低減と量産化の進展が、炭素繊維複合材料市場拡大の主要因です。
日本の有力メーカーはどこか
日本の炭素繊維メーカーは、世界市場で非常に大きなシェアを占めており、特に高性能なPAN系炭素繊維の分野で高い技術力を持っています。有力メーカーとしては、主に以下の3社が挙げられます。
1. 東レ株式会社
- 特徴: 世界最大の炭素繊維メーカーであり、圧倒的なシェアを誇ります。航空機向けの高品質・高性能な炭素繊維で知られ、特にボーイング社の民間航空機に多く採用されています。
- 製品: 航空機向け高強度品から、自動車や産業用途向け汎用品まで幅広いラインナップを揃えています。「トレカ®」というブランド名で知られています。
- 強み: 炭素繊維から中間材料(プリプレグ)、複合材料成形品まで一貫した生産・供給体制を築いており、高い技術力と品質管理能力が強みです。
2. 帝人株式会社
- 特徴: 世界有数の炭素繊維メーカーの一つです。自動車用途に注力しており、特に熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)の開発に積極的です。
- 製品: 「テナックス™」というブランド名で炭素繊維を展開しています。リサイクル性に優れたCFRTP製品「Sereebo®」は、自動車の量産部品に採用されるなど、注目を集めています。
- 強み: 炭素繊維の製造だけでなく、複合材料部品の設計から製造までを一貫して手掛けるティア1サプライヤーとして事業を拡大しています。
3. 三菱ケミカル株式会社
- 特徴: PAN系とピッチ系、両方の炭素繊維を製造できる世界でも数少ないメーカーの一つです。
- 製品: PAN系炭素繊維「パイロフィル®」と、ピッチ系炭素繊維「ダイヤリード®」を展開しています。ピッチ系炭素繊維は、高弾性率を活かして人工衛星や産業機械などに用いられます。
- 強み: 自動車部品メーカーなどと協力し、成形技術を含めたソリューション提供に力を入れています。
これらのメーカーは、それぞれ得意な分野や製品ブランドを持ちながら、市場拡大に合わせて自動車や風力発電など多様な用途への展開を強化しています。
東レの炭素繊維事業の特徴は
東レは炭素繊維事業において、世界トップクラスのシェアを誇るリーディングカンパニーです。その事業の主な特徴は以下の通りです。
1. 圧倒的な世界シェアとブランド力
- 世界シェア: 東レは長年にわたり、炭素繊維の世界市場で首位を維持してきました。そのシェアは、日系3社(東レ、帝人、三菱ケミカル)が世界市場の約70%を占める中で、東レ単独でも30%前後と高い割合を占めています。
- ブランド「トレカ®」: 高品質・高性能な炭素繊維の代名詞として「トレカ®」ブランドは広く知られており、特に航空宇宙分野で高い評価と信頼を得ています。
2. 航空機用途への強み
- 東レの炭素繊維は、ボーイング社の旅客機「787型機」の主翼や胴体といった主要構造材に採用されています。これは、高い信頼性と品質が求められる航空機分野で、東レの技術力が世界的に認められている証拠です。
- 航空機用途は、高い安全性基準と長い開発期間が特徴であり、一度採用されると長期にわたる安定供給が見込めます。東レはこの分野で強固な基盤を築いています。
3. グローバルな生産・供給体制
- 日本、アメリカ、フランス、韓国、ハンガリー、メキシコなど、世界各地に炭素繊維の生産拠点を設けています。
- このグローバルなネットワークにより、現地オペレーションに合わせた安定供給と迅速な納入を可能にしています。また、各地域で中間基材(プリプレグ)の生産拠点も持ち、垂直統合型のサプライチェーンを確立しています。
4. 幅広い製品ラインナップとソリューション提供
- 航空機向けのような高性能・高品質な炭素繊維から、大量生産に適した低価格の「ラージトウ炭素繊維」まで、幅広い製品を供給しています。
- 炭素繊維だけでなく、それを樹脂に含浸させた中間材料(プリプレグ)や、さらに加工した成形品まで提供できる「総合ソリューションプロバイダー」としての事業展開も強みです。これにより、顧客のニーズに合わせた最適な材料提案が可能です。
5. 多様化する用途への展開
- 航空機だけでなく、自動車、風力発電ブレード、圧力容器(水素タンクなど)、スポーツ用品、インフラ補修材など、幅広い分野に事業を拡大しています。
- 特に自動車向けでは、量産化に適した材料や成形技術の開発にも力を入れています。
これらの特徴により、東レは世界の炭素繊維市場をリードし、今後の市場拡大においても中心的な役割を果たすと期待されています。

東レは、世界最大手の炭素繊維メーカーであり、特に航空機向けで圧倒的なシェアと信頼性を誇ります。グローバルな生産体制を背景に、「トレカ®」ブランドで高品質な製品とソリューションを、多岐にわたる分野へ提供しています。
帝人の炭素繊維事業の特徴は
帝人株式会社の炭素繊維事業は、東レとは異なるアプローチで市場に挑んでおり、特に以下の点に強みと特徴があります。
1. 自動車用途への積極的な展開とティア1サプライヤー化
- 自動車分野に注力: 帝人は、自動車の軽量化ニーズの高まりを重要な商機と捉え、自動車用途向けの炭素繊維複合材料事業に注力しています。
- ティア1サプライヤー化: 材料供給だけでなく、自動車メーカーと共同で部品の設計から成形、量産までを一貫して手掛ける「ティア1サプライヤー(一次請け)」としての事業展開を強化しています。これは、米国の自動車部品成形メーカーを買収するなどして実現したもので、顧客(自動車メーカー)との連携を深めることで、より付加価値の高いソリューションを提供しています。
2. 熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)への強み
- 独自ブランド「Sereebo®」: 帝人は、熱可塑性樹脂をマトリックスに用いた独自ブランド「Sereebo®(セリーボ)」を展開しています。
- 量産性の高さ: 「Sereebo®」は、従来の熱硬化性CFRPに比べて成形サイクルを大幅に短縮(約1分)できるため、自動車部品の量産化に適しています。
- 世界初の量産採用: 米国ゼネラルモーターズ(GM)のピックアップトラックの荷台に、「Sereebo®」が量産自動車の構造部材として世界で初めて採用されました。この実績は、CFRTPの自動車市場での可能性を大きく広げました。
- リサイクル性: 熱可塑性樹脂は再加熱することで成形し直せるため、リサイクル性に優れており、環境負荷低減の観点からも注目されています。
3. グローバルな事業展開
- 炭素繊維ブランド「テナックス®」は、航空宇宙用途にも高い品質で提供されており、世界トップクラスのシェアを誇ります。
- 生産拠点は日本(三島事業所)、ドイツ(テクステックス)、アメリカ(ハンティントン)などにあり、グローバルな需要に応える体制を構築しています。
4. マルチマテリアル技術
- 帝人は、炭素繊維だけでなくアラミド繊維や樹脂など、様々な高機能素材を扱っています。これらの素材を組み合わせて、顧客の求める軽量化や安全性を実現する「マルチマテリアル」の提案にも力を入れています。例えば、EV向けのバッテリーボックス開発では、炭素繊維複合材料に加えて金属材料も組み合わせることで、軽量化と安全性確保を両立させています。
帝人の炭素繊維事業は、自動車分野を戦略的な柱とし、量産性に優れたCFRTP「Sereebo®」と、部品の設計から製造まで手掛けるソリューション提供能力を強みとしています。

帝人は、熱可塑性炭素繊維複合材料「Sereebo®」に強みを持ち、自動車部品の量産化に注力。材料供給だけでなく、部品の設計から製造まで一貫して手掛けることで、自動車メーカーとの連携を深め、付加価値の高いソリューションを提供しています。
三菱ケミカルの炭素繊維事業の特徴は
三菱ケミカルの炭素繊維事業は、以下の点で他の国内メーカーとは一線を画す特徴を持っています。
1. PAN系とピッチ系の両方を製造
- 多様な用途に対応: 世界的に見てもPAN系とピッチ系の両方の炭素繊維を製造できるメーカーは限られています。PAN系は強度に優れ、航空機やスポーツ用品に強みを持つのに対し、ピッチ系は高い弾性率(剛性)と熱特性に優れ、人工衛星やロボットアーム、半導体製造装置などに用いられます。
- ブランド: PAN系は「パイロフィル®」、ピッチ系は「ダイヤリード®」というブランドで展開しています。この両方を供給できることで、顧客の多様なニーズにきめ細かく対応できる点が強みです。
2. 総合化学メーカーとしての強み
- 川上から川下まで一貫: 炭素繊維の原料であるアクリロニトリルモノマーの製造から、炭素繊維、中間材料(プリプレグ)、さらに加工品まで、バリューチェーン全体を自社グループで手掛ける「垂直統合」型のビジネスモデルを推進しています。
- 総合提案力: 炭素繊維だけでなく、高性能な樹脂や各種化学素材を幅広く手掛ける総合化学メーカーとしての知見を活かし、顧客の課題に対して最適な材料ソリューションを提供できる点が大きな強みです。例えば、炭素繊維複合材料の性能を最大限に引き出すための樹脂選定など、素材の総合的な知識に基づいた提案が可能です。
3. 自動車向け事業の強化
- 帝人同様、自動車市場を重要な成長分野と位置付けており、特に海外メーカーの買収を通じて事業を強化しています。
- イタリアの自動車部材製造販売会社であるC.P.C. SRL(CPC社)を買収するなど、炭素繊維複合材料の成形・加工技術やノウハウを取り込み、自動車メーカーへのソリューション提案力を高めています。
- 垂直統合したサプライチェーンを構築することで、部材設計から生産までを一貫して手掛け、自動車メーカーの量産要求に応える体制を構築しています。
4. リサイクル技術への取り組み
- 総合化学メーカーとして、廃棄物削減や資源循環への貢献も重要視しています。炭素繊維複合材料のリサイクル技術にも積極的に取り組んでおり、廃棄されたプラスチックとリサイクル炭素繊維を組み合わせることで、高性能な再生材料を開発するなど、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への貢献も目指しています。
三菱ケミカルは、多様なニーズに応える製品ポートフォリオと、総合化学メーカーとしての幅広い技術力、そして自動車分野への積極的な投資を武器に、炭素繊維市場での存在感を高めています。

三菱ケミカルは、強度に優れるPAN系と高弾性率のピッチ系の両方を製造できる強みがあります。総合化学メーカーとして、川上から川下まで一貫したソリューションを提供し、自動車部品メーカーの買収を通じて事業を強化しています。
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