この記事で分かること
- 苦みを持つ成分:苦み成分「安息香酸デナトニウム」を本体の負極面に塗布し、誤って口に含んだ際に強い苦みを感じ吐き出すことを促し、誤飲を抑制します
- 安息香酸デナトニウムが強い苦みを持つ理由:人間の舌にある複数の苦味受容体(TAS2R)に効率よく結合し、強く活性化するためです。ごく微量でも多くの受容体が刺激され、脳に非常に強い苦みとして認識されます。
パナソニックエナジーの苦み成分を塗布したコイン形リチウム電池
パナソニックエナジーは、乳幼児の誤飲事故防止を目的として、苦み成分を塗布したコイン形リチウム電池を2025年10月10日から発売すると発表しました。
https://news.panasonic.com/jp/press/jn250829-5
苦み成分「安息香酸デナトニウム」を本体の負極面に塗布し、誤って口に含んだ際に強い苦みを感じ吐き出すことを促し、誤飲を抑制します。
安息香酸デナトニウムとは何か
安息香酸デナトニウムは、「デナトニウムベンゾエート」とも呼ばれ、ギネスブックに「史上最強の苦み物質」として登録されている化合物です。 その非常に強い苦みから、主に誤飲防止剤として広く使用されています。
主な特徴
- 極めて強い苦み: 水に1億分の1に薄めても苦みを感じるほど強力で、わずかな量でも口に入れると耐え難い苦みを感じ、すぐに吐き出すことを促します。
- 安全性の高さ: 強い苦みを持つ一方で、人体への毒性は低いとされています。ただし、あくまで「誤飲防止」が目的であり、多量に摂取することは想定されていません。
- 無臭・無色: 物質自体は白色の結晶で無臭のため、添加する製品の特性や香りを損なうことがありません。
主な用途
その強力な苦みと安全性の高さから、以下のような製品に誤飲防止目的で添加されています。
- 家庭用品: 洗剤(特にボール型洗剤)、漂白剤、灯油、不凍液、マニキュア液など
- おもちゃ: 子供用の粘土やマグネット玩具など
- 電子機器: SDカードやボタン電池など、小型で誤飲リスクのある製品
- その他: 爪噛み防止用のマニキュア、エタノールの変性剤(酒税免除のため)など
パナソニックエナジーが電池にこの成分を塗布するのも、乳幼児が誤って口に含んだ場合に、強い苦みで誤飲を防ぐことを目的としています。

安息香酸デナトニウムは、「デナトニウムベンゾエート」とも呼ばれ、ギネスブックにも載るほど世界一苦いとされる化合物です。人体への毒性は低いとされ、わずかな量でも強い苦みを感じるため、洗剤や玩具、ボタン電池などの誤飲防止剤として広く使われています。
なぜ強い苦みを持つのか
安息香酸デナトニウムが強い苦みを持つのは、人間の舌にある特定の苦味受容体を非常に効率よく活性化するためです。
味覚は、舌にある味蕾(みらい)という器官の中の味細胞が、特定の味物質を認識することで生まれます。苦味を感知する受容体は「TAS2R」という遺伝子ファミリーによってコードされており、人間には約25種類あるとされています。
安 息香酸デナトニウムは、このTAS2R受容体、特に複数の種類に強く結合し、活性化する能力が高いことが分かっています。その結果、ごく微量でも多くの苦味受容体が刺激され、脳に「非常に強い苦み」という信号が送られるのです。
例えるなら、鍵(安息香酸デナトニウム)が多くの種類の鍵穴(苦味受容体)にぴったりと合い、しかもそれらの鍵穴を非常に強く回すことができるようなものです。この効率の良さと強力さが、安息香酸デナトニウムを「史上最強の苦み物質」たらしめているのです。

安息香酸デナトニウムは、人間の舌にある複数の苦味受容体(TAS2R)に効率よく結合し、強く活性化するためです。ごく微量でも多くの受容体が刺激され、脳に非常に強い苦みとして認識されます。
強い苦みを持つが、毒性が低い理由は
強い苦みを持つ安息香酸デナトニウムが、毒性が低いとされる主な理由は、人間の体内で代謝されにくく、少量であれば速やかに排出されるためです。
代謝と排出
安息香酸デナトニウムは、体内で分解されたり、化学的に変化したりすることがほとんどありません。そのため、体内に蓄積されることなく、摂取後すぐに尿や便と一緒に排出されます。この迅速な排出プロセスが、毒性を発揮する前に体内から取り除かれる大きな要因です。
生物学的非活性
安息香酸デナトニウムは、その分子構造上、人間の細胞や酵素と反応して有害な物質を作り出したり、細胞機能を阻害したりするような生物学的活性がほとんどありません。つまり、特定のタンパク質やDNAに悪影響を与えることがないため、毒性につながる生化学的なプロセスが起こりにくいのです。
用途と摂取量
誤飲防止剤としての用途を考えると、安息香酸デナトニウムはごく微量しか添加されません。たとえ誤って口にしたとしても、その強烈な苦みによって少量で済むため、体に影響を与えるような量を摂取することはありません。このような意図的な少量添加も、実質的な毒性が低いとされる理由の一つです。

安息香酸デナトニウムは、体内で分解されずに迅速に排出されるため、体内に蓄積しません。また、細胞機能に悪影響を及ぼす生物学的活性も低いため、ごく微量であれば人体への毒性は低いとされています。
どのように製造されるのか
安息香酸デナトニウムは、主にリドカインと呼ばれる局所麻酔薬を原料として化学合成されます。この合成プロセスは、複数の化学反応を組み合わせて行われます。
主な合成プロセス
- リドカインの四級化:
- まず、リドカインをベンジルハライド(一般的にはベンジルクロリド)と反応させます。この反応は「四級化(quaternization)」と呼ばれ、リドカインの窒素原子にベンジル基が結合し、四級アンモニウム塩であるデナトニウムクロリドが生成されます。
- この工程では、溶媒を使わずに行う場合や、水などの溶媒中で行う場合があります。反応は加熱しながら行われ、比較的高い収率で目的の中間体が得られます。
- 陰イオン交換:
- 次に、生成されたデナトニウムクロリドの陰イオン(塩素イオン)を、安息香酸の陰イオン(安息香酸イオン)に置き換える「陰イオン交換反応」を行います。
- この反応は、デナトニウムクロリドと安息香酸ナトリウムを反応させるか、一度デナトニウムクロリドを水酸化物に変えてから安息香酸で中和するなどの方法で行われます。
これらの工程を経て、最終的に白色の結晶性固体である安息香酸デナトニウムが得られます。この合成法は、リドカインの構造と類似しているため、効率的かつ安定して製造できるのが特徴です。

安息香酸デナトニウムは、局所麻酔薬であるリドカインを原料に化学合成されます。具体的には、リドカインとベンジルハライドを反応させて四級アンモニウム塩を作り、その後に安息香酸塩と反応させることで製造されます。
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