日東紡、ガラスクロスの生産能力を強化 ガラスクロスとは何か?増産の理由は?

この記事で分かること

  • ガラスクロスの役割:電子機器の基板で使われる、ガラス繊維を織った布状の素材です。高い絶縁性と強度を持ち、信号の混線を防ぐとともに、基板を物理的に補強する役割を担っています。
  • 増産の理由:半導体需要の急増が主な理由です。高性能な半導体パッケージの大型化・高機能化が進み、基板材料として不可欠なガラスクロスの供給能力を増やす必要が生じています。

日東紡、ガラスクロスの生産能力を強化

 日東紡は、半導体製造に不可欠な特殊ガラス(ガラスクロス)の生産能力を強化するため、福島事業センターの敷地内に新工場棟を建設します。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC021TM0S5A900C2000000/

 この新工場棟は、約150億円を投じて建設され、2027年の稼働開始を目指しています。

ガラスクロスの役割は何か

 ガラスクロスは、主に電子機器のプリント配線板(基板)の材料として、その絶縁性と強度を確保する役割を果たしています。

 ガラス繊維を織って作られた布状の素材で、通常はエポキシ樹脂などの樹脂を含浸させて使用されます。


主要な役割と特性

 ガラスクロスが半導体や電子機器において重要なのは、以下の特性があるためです。

  • 電気絶縁性: ガラスは電気を通さないため、半導体基板上の複雑な回路が互いに干渉するのを防ぎます。これにより、信号の混線やショートを防ぎ、電子回路が安定して機能する上で不可欠な役割を担っています。
  • 寸法安定性: 高温や湿度の変化に強く、形状がほとんど変化しません。半導体製造プロセスでは高温での処理が必要となるため、この安定性がなければ精密な回路パターンを正確に形成することが困難になります。
  • 機械的強度: ガラス繊維の強靭さにより、基板に高い機械的強度と剛性を与えます。これにより、薄型・軽量化が進む電子機器においても、外部からの衝撃や曲げに強い基板を実現します。
  • 低誘電率・低誘電正接: 高周波信号の伝送時に起こる電気的損失を抑える特性です。5Gや6G、AI関連の高性能コンピューティングなど、高速・大容量通信が求められる分野で、信号の劣化を防ぎ、安定した通信速度を維持するために不可欠です。

用途

 ガラスクロスは、これらの特性を活かし、様々な分野で幅広く使われています。

  • プリント配線板(PCB): スマートフォンやPC、サーバー、自動車のECU(電子制御ユニット)など、あらゆる電子機器の基板の主要な材料として利用されます。
  • 建築・産業資材: 断熱材や難燃性の建材、防水材の補強布、FRP(繊維強化プラスチック)の基材などにも使われます。
  • その他: 砥石の補強材や、高温環境下でのフィルター材など、特殊な用途でも利用されています。

ガラスクロスは、電子機器の基板で使われる、ガラス繊維を織った布状の素材です。高い絶縁性と強度を持ち、信号の混線を防ぐとともに、基板を物理的に補強する役割を担っています。

ガラスが絶縁特性に優れる理由は

 ガラスが優れた絶縁特性を持つのは、その原子構造電子の状態にあります。

安定した原子結合と電子の不動性

 ガラスの主成分である二酸化ケイ素(SiO2​)は、ケイ素原子と酸素原子が強く共有結合で結びついています。この結合は非常に安定しており、電子が原子から離れて自由に動き回るのが非常に難しい構造を形成しています。

  • 自由電子の欠如: 電気が流れるには、自由電子が物質内を移動する必要があります。しかし、ガラスの構造は、電子が原子に強く束縛されており、外部から電圧をかけても電子が自由に移動できる経路がほとんどありません。これが、ガラスが電気を通さない主な理由です。
  • バンドギャップの大きさ: 固体内の電子の状態は、エネルギーバンドという概念で説明されます。電子が存在できる価電子帯と、電子が自由に動き回れる伝導帯があり、この二つの間には電子が存在できないバンドギャップという隙間があります。ガラスは、このバンドギャップが非常に大きいため、電子が伝導帯に励起されるために必要なエネルギーが膨大になります。その結果、常温では電子が伝導帯に到達できず、電流が流れません。

非晶質構造

 多くの物質は規則的な結晶構造を持っていますが、ガラスは液体のような非晶質構造(アモルファス構造)を持っています。この不規則な構造も、電子の移動を妨げる要因の一つです。規則的な格子構造を持たないため、電子が特定の方向へスムーズに移動する経路がなく、結果として高い電気抵抗を示します。

 これらの理由から、ガラスは非常に高い体積抵抗率(物質内部の電流の流れにくさを表す指標)を持ち、優れた絶縁体として、電子機器や送電線の絶縁碍子など幅広い分野で利用されています。

ガラスが絶縁特性に優れるのは、原子が電子を強く束縛しており、電流を流す自由電子がほとんど存在しないためです。この安定した構造が、電気を通しにくくしています。

ガラスクロスの増産理由は

 ガラスクロスの増産理由は、主にAIサーバーや次世代通信規格(5G/6G)などの発展による半導体需要の急増です。特に、高性能な半導体パッケージ基板向けの需要が大きく伸びています。


増産の背景

 ガラスクロス、特に高性能なTガラスクロスの需要が拡大している背景には、以下の要因があります。

  • AI技術の急速な進化と普及: 生成AIなどの技術進化により、AIサーバーの需要が急増しています。AIサーバーは、チップ間の高速通信に必要なマザーボードや、複数のチップを高密度に接続する先端パッケージング技術に、高性能なガラスクロスを必要とします。
  • 高速・大容量通信の普及: 5Gや6Gといった次世代通信規格の普及に伴い、データセンターや通信インフラ機器、スマートフォンなどの高性能化が進んでいます。これにより、信号の高速伝送を可能にする低誘電率のガラスクロスが不可欠になっています。
  • 半導体パッケージの大型化と高機能化: 高性能な半導体を実現するため、複数のチップを一つのパッケージに統合するチップレット技術が進展しています。これにより、半導体パッケージ基板が大型化・複雑化し、熱膨張や反りを抑えるために、より高い寸法安定性を持つ特殊ガラスクロスが求められています。

 これらのトレンドが複合的に作用し、高性能なガラスクロスの需要が供給能力を上回る状況が生まれています。日東紡をはじめとするガラスクロスメーカーは、この需要に応えるため、設備投資を積極的に行い、生産能力の増強を図っています。

AIや5Gなどの技術進化による半導体需要の急増が主な理由です。高性能な半導体パッケージの大型化・高機能化が進み、基板材料として不可欠なガラスクロスの供給能力を増やす必要が生じています。

ガラスクロスの有力メーカーはどこか

 ガラスクロスの有力メーカーは、用途によって異なりますが、特に半導体向けの高機能ガラスクロス市場では、以下の企業が世界的に高いシェアを持っています。

世界の有力メーカー

  • 日東紡績株式会社(Nitto Boseki Co., Ltd.):日東紡は、特にプリント配線板向けのガラスクロスで世界トップクラスのシェアを誇ります。高い絶縁性と低誘電率を両立させた製品開発に強みを持ち、今回の福島での新工場建設も、この分野での競争力をさらに高めるための戦略です。
  • 旭化成株式会社(Asahi Kasei Corporation):旭化成も高機能ガラスクロス分野でトップクラスのシェアを有しており、AIサーバーや高速通信機器、スマートフォン向けに製品を供給しています。低損失、低ノイズの製品や極薄のガラスクロスなど、市場の要求に応じた製品開発に強みがあります。
  • 中国のメーカー:中国では、China Jushi Co., Ltd.などがグラスファイバー市場のトッププレイヤーとして挙げられます。世界全体の市場で大きなシェアを占めており、特に建設資材など幅広い用途で製品を供給しています。
  • その他:他にも、フランスのSaint-Gobain Vetrotexなどがグラスファイバー市場の有力企業として知られています。

 日本のメーカーは、特に高機能・高品質が求められる半導体・電子部品向けの分野で、高い技術力と品質で世界的な競争力を維持しています。

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