この記事で分かること
- 製造している製品:主に車載用コネクタ、産業機器用、民生機器用コネクタを製造しています。特に、嵌合時の位置ズレを吸収する独自技術「フローティングコネクタ」が主力製品です。
- 位置ずれを吸収する仕組み:コネクタ内部のハウジング(外枠)や端子自体が可動する特殊な構造を持つことで、上下左右に動く仕組みです。これにより、基板実装時や複数のコネクタを同時に嵌合させる際のわずかな位置ズレを吸収しています。
- 国内生産を増やす理由:事業継続計画(BCP)の強化、地産地消による迅速な顧客対応、そして高付加価値製品の生産体制強化などの理由から国内生産を増やしています。
イリソ電子工業の国内生産比率引き上げ
コネクター大手のイリソ電子工業は、国内生産比率を30%に引き上げる方針を進めています。これは、主に秋田新工場の稼働によって実現される計画です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC011AV0R00C25A9000000/
国内生産比率の向上は、地政学的なリスクや災害、パンデミックなどの影響を軽減し、国内に生産拠点を増やすことで、サプライチェーンの安定性を高め、事業継続性を確保する狙いがあります。
どんなコネクタを製造しているのか
イリソ電子工業は、主に車載用コネクタ、産業機器用コネクタ、民生機器用コネクタを製造しています。中でも、フローティングコネクタを主力製品としており、その技術力と豊富な製品ラインナップで高い評価を得ています。
車載用コネクタ
自動車の電子化や電動化、自動運転技術の進展に伴い、車載用コネクタの需要が増加しています。イリソ電子工業は、こうした厳しい環境下でも高い信頼性が求められるコネクタを得意としています。主な用途は以下の通りです。
- ADAS (先進運転支援システム): カメラやレーダー、センサーなどのデータ伝送に不可欠なコネクタを供給しています。
- パワートレイン: EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)のバッテリー監視システムやインバーター、モーターなどの内部接続に使用されます。
- インフォテインメント: カーナビやオーディオ、ディスプレイなどの車内情報通信機器に使用されます。
産業機器用コネクタ
FA(ファクトリーオートメーション)やロボット、医療機器など、高い耐久性と信頼性が求められる産業機器向けにもコネクタを提供しています。特に、ロボットによる自動組み立てを可能にする「オートメーションコネクタ」のコンセプトを掲げ、生産性の向上に貢献しています。
民生機器用コネクタ
スマートフォン、ゲーム機、デジタルカメラ、白物家電など、私たちの身近な電子機器にもイリソ電子のコネクタが使われています。小型・高密度化が求められる製品に対応するFPC/FFCコネクタなどを製造しています。
🔩 イリソ電子の主力技術
イリソ電子工業の強みは、以下の独自技術にあります。
- フローティングコネクタ: 嵌合(かんごう)時にコネクタが上下左右(X・Y軸)に可動する構造を持っています。これにより、基板実装時の位置ズレを吸収し、はんだ付け部分へのストレスを軽減して、接続不良を防ぎます。特に振動の多い車載用途で強みを発揮します。
- Z-Move™構造: フローティングコネクタの進化形として、X・Y軸に加え、Z軸(嵌合軸方向)にも可動する構造です。振動や衝撃による基板間の距離変動を吸収し、さらに高い信頼性を実現します。
- 2点接点構造: コネクタの接点を2つ持つことで、異物の付着や接触不良のリスクを低減し、安定した信号伝送を可能にします。

イリソ電子は、主に車載用コネクタ、産業機器用、民生機器用コネクタを製造しています。特に、嵌合時の位置ズレを吸収する独自技術「フローティングコネクタ」が主力製品で、自動車の電子化・電動化に貢献しています。
なぜ嵌合時にコネクタが上下左右に可動するのか
コネクタが嵌合時に上下左右に可動する「フローティングコネクタ」は、主にコネクタ内部の端子やハウジングに特殊な可動機構を持たせることで実現します。
この機構が、基板実装時のわずかな位置ズレや、複数のコネクタを同時に嵌合させる際の誤差を吸収します。
フローティングコネクタの仕組み
フローティングコネクタの可動性は、以下の2つの主要な部品と、その構造によって実現されます。
- ハウジング(インシュレータ): コネクタの外枠となる樹脂部品で、これが内部の端子を保持しています。フローティングコネクタでは、このハウジングが基板に対して完全に固定されておらず、わずかにスライドできるような構造になっています。
- コンタクト(端子): 信号を伝送するための金属製の接点です。フローティングコネクタでは、この端子自体がバネ性を持つ複雑な形状をしており、ハウジングの動きに追従して可動するよう設計されています。これにより、オス側とメス側が嵌合する際に、端子が互いの位置ズレを吸収し、確実に接触を保つことができます。
この仕組みにより、コネクタが基板にハンダ付けされた後でも、±0.4mm程度の範囲でX・Y方向(上下左右)に可動するようになります。
これにより、手作業やロボットによる組み立て時の位置誤差が原因で発生する、ハンダ付け部分へのストレスや基板のクラックを防ぐことができるのです。
また、イリソ電子工業の独自技術である「Z-Move™」のように、X・Y方向に加えてZ方向(嵌合軸方向)にも可動する機能を備えることで、さらに過酷な振動や衝撃環境下での信頼性を高めています。

フローティングコネクタは、コネクタ内部のハウジング(外枠)や端子自体が可動する特殊な構造を持つことで、上下左右に動く仕組みです。これにより、基板実装時や複数のコネクタを同時に嵌合させる際のわずかな位置ズレを吸収し、接続不良やハンダ部分へのストレスを防ぎます。
国内生産を増やしている理由は何か
イリソ電子工業が国内生産を増やしている主な理由は、以下の3つです。
- BCP(事業継続計画)の強化: 国外の生産拠点に依存しすぎると、パンデミック、自然災害、地政学的なリスクなどにより、サプライチェーンが中断するリスクがあります。国内に拠点を分散させることで、いかなる状況下でも製品供給を続けられる体制を構築し、リスクを低減します。
- 地産地消の推進: 国内の顧客に近い場所で生産することで、迅速な製品供給や顧客対応が可能になります。これにより、顧客との関係を強化し、満足度を高めることを目指しています。
- 高度な技術の維持・向上: 国内生産拠点は、高付加価値製品や複雑な製造工程を必要とする製品の生産を担います。これにより、日本の高い技術力を維持・継承し、品質管理を徹底することで、競争力を強化する狙いがあります。
特に、2025年に稼働した秋田新工場は、これらの目的を達成するための中心的な役割を果たしています。

イリソ電子が国内生産を増やす理由は、事業継続計画(BCP)の強化、地産地消による迅速な顧客対応、そして高付加価値製品の生産体制強化の3点です。国内外のサプライチェーンリスクを分散させ、技術力の維持・向上を図ることで、グローバル競争力を高める狙いがあります。
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