この記事で分かること
- 改正情報処理促進法とは:次世代半導体の国産化やAI技術の推進を目的として、政府が民間企業に直接出資することを可能にした法律です。
- ラピダスを支援する理由:経済安全保障と日本の半導体産業の再興のためです。ラピダスは、AIなどに不可欠な最先端半導体の国内製造を目指す国家プロジェクトであり、その成功を確実にするため、政府による直接的な資金支援が必要とされたからです。
- 懸念点:5兆円規模とされる巨額の投資に伴う国民負担リスクです。また、台湾TSMCなどの先行企業に追いつくための技術力と人材の確保、そして事業が軌道に乗るまでの明確な収益モデルの確立も大きな課題とされています。
改正情報処理促進法による政府出資
経済産業省は、2025年9月3日に半導体企業への政府出資を可能にする「改正情報処理促進法」に基づき、出資対象となる事業者の公募を開始しました。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025090300469&g=eco
この公募は、次世代半導体の国産化を推進するラピダスへの支援を念頭に置いており、公募期間は10月2日までです。
改正情報処理促進法とは何か
「改正情報処理促進法」は、次世代半導体の国産化やAI技術の推進を目的として、政府が民間企業に直接出資することを可能にした法律です。正式名称は「情報処理の促進に関する法律及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律」で、2025年通常国会で成立しました。
改正の主なポイント
この法律改正の背景には、経済安全保障上の観点から、AIやデジタル技術に不可欠な半導体の安定供給体制を国内で構築する必要性があります。主な改正点は以下の通りです。
- 政府出資の導入:
- 従来、政府が半導体企業に直接出資する仕組みは限定的でした。
- 今回の改正により、独立行政法人である「情報処理推進機構(IPA)」を通じて、特定の半導体事業者への出資や債務保証、現物出資(設備や施設の株式への交換)が可能になりました。
- これにより、ラピダスのような巨額の資金が必要な事業に対し、政府が民間資金の呼び水となる形で強力な支援を行えるようになりました。
- 対象事業者の公募:
- 支援対象となる事業者は、公募によって選定されます。
- 公募では、事業計画の妥当性や経済安全保障への貢献度などが審査されます。
- 公募の条件には、政府が経営の重要事項に拒否権を行使できる「黄金株(ゴールデンシェア)」の保有が含まれる場合があります。これは、外国資本による買収や技術流出を防ぐためです。
- 特別会計の新設:
- 半導体・AI関連の支援に必要な財源を確保するため、エネルギー対策特別会計に「先端半導体・人工知能関連技術勘定」が新設されました。
- これにより、公債の発行や一般会計からの繰り入れなど、安定的な財源を確保する仕組みが整備されました。
この改正法は、次世代半導体の国産化を目指すラピダスを念頭に置いたものであり、政府が民間事業に深く関与し、日本の半導体産業を再興させるための重要な法的基盤となります。

改正情報処理促進法は、次世代半導体の国産化やAI技術の推進を目的として、政府が民間企業に直接出資することを可能にした法律です。これにより、巨額の資金が必要な事業に対し、政府が経済安全保障の観点から強力な支援を行えるようになりました。
改正情報処理促進法の制定理由は何か
改正情報処理促進法の主な制定理由は、経済安全保障の強化と日本の半導体産業の国際競争力回復です。
経済安全保障の強化
AIや自動運転、データセンターなどに不可欠な半導体のサプライチェーンは、地政学的なリスクによって不安定になっています。
この法律は、半導体の国内生産体制を強化し、海外からの供給途絶リスクを低減することで、日本の経済安全保障を確保することを目指しています。政府が民間企業へ直接出資する仕組みを設けることで、戦略的に重要な技術開発を後押しします。
半導体産業の国際競争力回復
日本はかつて半導体大国でしたが、近年は台湾や韓国などに後れを取っています。
この法律は、次世代半導体の国産化を目指すラピダスのような企業に対し、巨額の資金援助を可能にすることで、日本の半導体技術を再び世界トップレベルに引き上げ、国際競争力を回復させることを目的としています。公募によって出資対象を選定し、有望なプロジェクトに集中的に投資する体制を整えました。

改正情報処理促進法は、経済安全保障の強化と半導体産業の国際競争力回復のために制定されました。AIなどに不可欠な半導体の国内生産体制を確立し、海外からの供給途絶リスクを低減するとともに、巨額の資金が必要な最先端技術開発を政府が支援することを可能にしました。
ラピダスを念頭に置く理由は何か
改正情報処理促進法がラピダスを念頭に置いている理由は、主に以下の2点に集約されます。
- 経済安全保障の観点から、最先端半導体の国内製造基盤を確立するため
- AIや自動運転、スーパーコンピューターなど、今後の産業競争力を左右する分野では、最先端の半導体が不可欠です。
- しかし、現在、これらの半導体の生産は台湾や韓国などに集中しており、地政学的なリスクや供給網の途絶が懸念されています。
- ラピダスは、世界の半導体メーカーがまだ量産化できていない「2ナノメートル」以下の最先端半導体を2027年にも国産化する計画を進めています。
- このプロジェクトが成功すれば、日本は特定地域への依存を脱し、半導体の安定供給を確保できるようになります。このため、政府はラピダスを国家戦略上の最重要事業と位置づけています。
- 日本の半導体産業を再興し、国際競争力を回復させるため
- かつて世界をリードした日本の半導体産業は、近年、製造分野で国際的な競争力を失っていました。
- ラピダスは、日本の半導体関連企業8社が出資して設立された「オールジャパン」の企業です。
- また、アメリカのIBMやベルギーのimecといった世界のトップレベルの技術と連携することで、短期間で最先端の技術開発を目指しています。
- 巨額の資金が必要な半導体製造において、政府が法的に直接出資できる枠組みを設けることで、ラピダスのプロジェクトを強力に後押しし、日本の半導体産業全体を再び活性化させる起爆剤としたい狙いがあります。
ラピダスは単なる一企業ではなく、日本の経済安全保障と産業競争力の両方を担う国家プロジェクトであり、その成功を確実にするために、政府は法的な支援体制を整える必要があったのです。

改正情報処理促進法がラピダスを念頭に置いているのは、経済安全保障と日本の半導体産業の再興のためです。ラピダスは、AIなどに不可欠な最先端半導体の国内製造を目指す国家プロジェクトであり、その成功を確実にするため、政府による直接的な資金支援が必要とされたからです。
ラピダスは日本の半導体産業再興に向けた重要な国家プロジェクトですが、成功には多くの懸念や課題が指摘されています。主な懸念点は以下の通りです。
巨額の投資とビジネスモデル
ラピダスが目指す最先端半導体の量産には、5兆円規模とも言われる巨額の資金が必要とされています。すでに政府から多額の支援が決定していますが、それでもまだ足りず、さらなる追加支援や民間からの資金調達が不可欠です。
しかし、事業が失敗した場合、国民負担として巨額の損失が残るリスクが指摘されています。また、台湾のTSMCなど既存の強豪企業と比べて、ラピダスはまだ顧客や収益モデルが明確になっておらず、ビジネスとしての持続性に懸念が残ります。
技術と人材の確保
ラピダスは2027年の2ナノメートル半導体の量産化という非常に高い目標を掲げています。しかし、半導体の微細化は技術的なハードルが非常に高く、歩留まり(良品率)を向上させることは容易ではありません。
また、世界的に優秀な半導体技術者の獲得競争が激化する中で、日本国内の半導体技術者の不足が深刻な課題となっています。特に、北海道という立地で、高度な専門技術を持つ人材を国内外から確保・定着させられるかが重要なカギとなります。
国際競争
半導体市場は、すでにTSMCやサムスン電子といった巨人が圧倒的なシェアを占めています。これらの企業は、莫大な投資と長年の経験によって確立されたサプライチェーンと技術力を持っています。
ラピダスは、後発としてこの競争に挑まなければならず、量産開始時期や製造コスト、技術力などで後れを取るリスクがあります。また、技術開発のスピードが速い半導体業界において、開発が遅れると技術が陳腐化する可能性も否定できません。
ラピダスのプロジェクトは、日本の半導体産業再興の最後のチャンスとも言われていますが、これらの課題を克服できるかが成功の鍵を握っています。

ラピダスの主な懸念は、5兆円規模とされる巨額の投資に伴う国民負担リスクです。また、台湾TSMCなどの先行企業に追いつくための技術力と人材の確保、そして事業が軌道に乗るまでの明確な収益モデルの確立も大きな課題とされています。
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