この記事で分かること
- ポリウレアとは:イソシアネートとアミンからなる、超速硬化性の防水・防食コーティング材です。
- 二酸化炭素から合成する方法:ジアミンという化合物とCO2を、セシウム塩などの特殊な触媒を使って直接反応させます。
- セシウムが利用される理由:化学的に安定なCO2を活性化し、ポリウレア合成の不安定な反応中間体(カルバミン酸アニオン)を効率よく安定化させるためです。
住友ベークライトの二酸化炭素からのポリウレアの合成
住友ベークライトは、副生CO2を利用したポリウレアの開発を行っています。
https://chemicaldaily.com/archives/703431
同社はCO2排出量削減を重要課題と捉え 取り組みを進めています。
ポリウレアとは何か
ポリウレアとは、イソシアネートとアミンという2つの成分の化学反応によって生成される樹脂です。主にスプレー工法で施工され、非常に短時間で硬化する特性を持ちます。
その強靭さ、柔軟性、防水性、耐薬品性から、様々な分野で活用される次世代のコーティング材(ライニング材)として注目されています。
主な特徴
- 超速硬化性: スプレーで塗布後、数秒から数十秒で硬化が始まります。これにより、施工時間を大幅に短縮でき、複雑な形状にも容易に適用できます。
- 高い強度と柔軟性: コンクリート並みの強度を持ちながら、高い伸長率(400%以上)を誇ります。この特性により、下地のひび割れや動きに追従し、構造物を強力に保護します。
- 優れた防水・防食・耐薬品性: 水分や湿気に強く、水槽やタンクの防水、化学プラントの床や壁の防食など、過酷な環境下での使用に適しています。
- 環境安全性: 溶剤をほとんど含まないため、作業者の安全性が高く、環境負荷が少ない素材です。
ポリウレタンとの違い
ポリウレアは、その化学構造がポリウレタンと似ているため、しばしば比較されます。しかし、以下の点でポリウレアは優位性を持っています。
- 加水分解しない: ポリウレタンは水分によって劣化しやすい(加水分解)という弱点がありますが、ポリウレアは水に強く、長期的な耐久性に優れています。
- 紫外線(UV)耐性: 多くのポリウレタンは紫外線で劣化するため、トップコートが必要ですが、ポリウレアは高い耐候性を持ち、屋外での使用に適しています。
- 硬化反応: ポリウレタンは空気中の湿気の影響を受けやすいのに対し、ポリウレアは水分の影響を受けずに硬化します。これにより、高湿度環境でも安定した施工が可能です。
主な用途
ポリウレアの優れた特性は、以下のような多岐にわたる用途で活用されています。
- 建設・土木: 橋梁、トンネル、屋上、コンクリート構造物の補修・補強、防水工事。
- 産業: 化学プラントの薬品タンク、下水処理施設、工場床の防食・耐摩耗コーティング。
- 自動車: トラックの荷台、軍用車両の防爆対策。
- その他: 水槽、プール、遊具などの表面保護。

ポリウレアとは、イソシアネートとアミンからなる、超速硬化性の防水・防食コーティング材です。スプレーで瞬時に硬化し、強靭で柔軟な膜を形成します。コンクリートや金属の保護に優れ、建築や土木、工業分野などで幅広く利用される次世代の樹脂です。、
どのように二酸化炭素から、ポリウレアを合成するのか
二酸化炭素(CO2)からポリウレアを合成する研究開発は進んでいますが、現状では主に2つの方法があります。
1. ジアミンとCO2からの直接合成
この方法では、ジアミン(2つのアミノ基を持つ有機化合物)とCO2を直接反応させ、触媒を用いて重合させます。
- 反応: ジアミンとCO2が反応し、中間体であるカルバミン酸アニオンを生成します。この中間体がさらにジアミンと反応することで、脱水反応を伴いながらウレア結合が形成されます。
- 課題: CO2は安定した分子なので反応性が低く、反応には通常、高温・高圧の条件が必要です。そのため、効率的な触媒開発が鍵となります。例えば、炭酸セシウムなどのセシウム塩触媒が有効であることが研究で示されています。
- 利点: 従来のポリウレア合成に用いられるジイソシアネートという有害な原料を使わないため、安全性が高く、環境負荷が低い製造プロセスを実現できます。
2. CO2由来の原料からの合成
これは、CO2からまずポリウレアの原料となる化学品を合成し、その原料からポリウレアを作る方法です。
- ウレタン前駆体の合成: CO2とアミン、またはCO2とアルコールを反応させて、ポリウレタンやポリウレアの原料となるウレタン前駆体を合成する技術が研究されています。この技術は、従来のホスゲンという毒性の高い原料の使用を不要にします。
- 中間体からの合成: 得られたCO2由来のウレタン前駆体などを、既存のポリウレア合成プロセスに組み込むことで、CO2を最終製品に固定化することができます。
これらの技術は、CO2を石油由来原料の代替品として活用し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するものとして期待されています。

二酸化炭素からポリウレアを合成するには、ジアミンという化合物とCO2を、セシウム塩などの特殊な触媒を使って直接反応させます。これにより、高温高圧下でウレア結合が形成され、ポリウレアが作られます。この方法は、有害なイソシアネートを使わないため、安全で環境に優しい合成法として期待されています。
どのような触媒が用いられるのか
二酸化炭素(CO2)からポリウレアを合成する際には、主にセシウム塩触媒が用いられます。
研究で特に有効性が示されているのは炭酸セシウム (Cs2CO3)です。
これは、CO2とジアミンを直接反応させてポリウレアを合成する際に、反応の中間体であるカルバミン酸アニオン(RNHCOO-)を安定化させ、効率的にウレア結合を形成させる役割を果たします。
また、研究段階ではありますが、酸化セリウム (CeO2)やスズアルコキシド化合物なども、CO2からウレタンやポリウレタンの原料を合成する際の触媒として用いられることがあります。
これらの触媒は、毒性の高いホスゲンを使用しない、より環境に優しいプロセスを実現するために開発されています。
なぜセシウムが良好なのか
セシウムが二酸化炭素(CO2)からポリウレアを合成する際の触媒として優れている主な理由は、CO2を活性化し、反応の中間体を安定化させる能力が高いからです。
1. CO2の活性化
CO2は化学的に安定な分子で、そのままでは反応しにくい性質があります。セシウムイオンは、この安定なCO2分子と相互作用することで、CO2をより反応しやすい状態に変えることができます。これにより、ポリウレア合成の第一段階であるCO2とアミンの反応が促進されます。
2. 反応中間体の安定化
ポリウレアの合成反応では、カルバミン酸アニオンという反応中間体が生成されます。この中間体は不安定で、そのままではウレア結合(ポリウレアの骨格)を効率的に形成できません。
セシウムイオンは、この不安定なカルバミン酸アニオンを強く引きつけ、安定化させることで、次の反応ステップへの進行を助けます。これにより、副反応が抑えられ、目的とするポリウレアの生成効率が向上します。
3. 高い触媒活性と選択性
セシウム塩は、他のアルカリ金属塩に比べて高い触媒活性を示し、分子量の大きなポリマー(ポリウレア)を効率よく合成できます。また、目的のウレア結合を選択的に形成させる能力も高く、不純物の生成を抑制します。
これらの特性により、セシウムはCO2を原料としたポリウレア合成において、他の触媒よりも優れた性能を発揮するのです。

セシウムは、化学的に安定なCO2を活性化し、ポリウレア合成の不安定な反応中間体(カルバミン酸アニオン)を効率よく安定化させるためです。これにより、目的のウレア結合が選択的に形成され、高い触媒活性を発揮します。
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