この記事で分かること
- サンマの養殖が難しい理由:サンマは光や音に敏感で、パニックを起こして水槽に衝突しやすいため飼育が困難です。また、胃を持たず常に餌が必要で、低水温を保つためのコストも高いことが、商業養殖を難しくしていました。
- 事業化レベルの意味:サンマを商業出荷可能なサイズ(100g超)まで成長させ、事業として採算が取れる飼育密度での養殖に世界で初めて成功しました。これにより、完全養殖に向けた重要な一歩を踏み出したいえます。
- 今後の展望:、養殖サンマの商業出荷を目指すとともに、人工的に孵化させた魚から次の世代を育てる「完全養殖」の実現に取り組み、サンマの安定供給を目指すとしています。
マルハニチロ、サンマの事業化レベルでの試験養殖
マルハニチロは、サンマの事業化レベルでの試験養殖に成功したと発表しました。
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/2025/09/9.html
今後、今回の成果を活かし、商業出荷に向けた大量生産技術の開発や、人工孵化から育った親魚が産んだ卵を成魚まで育てる「完全養殖」に取り組んでいく方針です。近年のサンマの記録的な不漁と価格高騰を受け、養殖による安定供給への期待が高まっています。
なぜサンマの養殖は難しいのか
サンマの養殖が非常に難しいとされる理由は、主にその特異な生態とコスト面にあります。
1. 非常に神経質で、ストレスに弱い
- パニックによる衝突: サンマは光や音、振動といった外部の刺激に極めて敏感です。少しのことでパニックを起こし、勢いよく水槽の壁にぶつかって骨折したり、体が曲がったりして死んでしまうことがあります。
- 鱗(うろこ)が剥がれやすい: 鱗が非常に脆く、少しの接触でも剥がれてしまいます。鱗が剥がれるとそこから細菌やウイルスが侵入し、感染症を引き起こすリスクが高まります。狭い水槽内で感染症が一度発生すると、あっという間に全滅してしまう恐れがあります。
2. 回遊性が高く、遊泳力が高い
- 狭い空間への適応が困難: サンマは広大な海を泳ぎ回る回遊魚です。そのため、狭い水槽や生け簀での飼育には強いストレスがかかり、壁に衝突する原因となります。ストレスを軽減するためには広大な飼育スペースが必要となり、その分コストもかさみます。
3. 生理的な特徴
- 胃がない: サンマは胃を持たないため、食べた餌を貯めておくことができません。そのため、こまめに餌を与え続ける必要があり、給餌の手間とコストが大きくなります。アクアマリンふくしまでは、1日に3回の給餌を行っていたとされています。
- 高水温に弱い: サンマは低水温を好むため、養殖には常に水温を適正な温度(15℃前後)に保つ必要があります。特に夏場は水温上昇を防ぐための冷却システムが必要となり、電気代などの光熱費が莫大になります。
4. コストと採算性
- 元々安価な魚: サンマはこれまで「庶民の味」と呼ばれるほど安価な魚でした。このため、莫大な設備投資や維持管理費、人件費、そして高価な餌代をかけて養殖しても、収益を上げることが非常に難しいとされてきました。仮に養殖に成功しても、天然サンマより大幅に高価であれば、消費者はなかなか手を出せません。
こうした様々な課題があるため、商業的な養殖は困難だとされてきましたが、マルハニチロは、ふくしま海洋科学館が長年培ってきた技術の支援を受けることで、これらの難題を克服し、事業化レベルでの養殖に成功したとされています。

サンマは光や音に敏感で、パニックを起こして水槽に衝突しやすいため飼育が困難です。また、胃を持たず常に餌が必要で、低水温を保つためのコストも高いことが、商業養殖を難しくしていました。
今回の成功の内容は
マルハニチロが発表したサンマ養殖の成功は、単にサンマを育てることではなく、事業として成立するレベルでの養殖を世界で初めて達成した点にあります。
成功の主要な内容
- 出荷目安サイズへの成長: 2024年6月には、市場で流通する際の目安となる1匹100gを超えるサイズまでサンマを成長させました。
- 事業化レベルの飼育密度: 養殖事業として採算が取れるような、適切な飼育密度での養殖にも成功しています。
- 人工授精の成功: 飼育したサンマから、人工授精によって卵を採取することにも成功し、今後の完全養殖に向けた重要な一歩を踏み出しました。
- 「ふくしま海洋科学館」との協力: 世界で初めてサンマの繁殖に成功した「ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)」から卵の提供や飼育技術の支援を受けることで、従来の養殖の難しさを克服しました。
この成功は、近年のサンマの記録的な不漁と価格高騰という状況において、安定供給への期待を高めるものとして注目されています。今後は、さらなる生産効率の向上と、卵から成魚までの一貫した養殖サイクルを確立する完全養殖に取り組んでいく方針です。
この動画は、サンマの養殖が事業化レベルで成功したことについて報道しています。

マルハニチロは、サンマを商業出荷可能なサイズ(100g超)まで成長させ、事業として採算が取れる飼育密度での養殖に世界で初めて成功しました。これにより、完全養殖に向けた重要な一歩を踏み出しました。
採算が取れるようになった理由は何か
マルハニチロがサンマ養殖で採算が取れるようになった理由は、技術革新と、近年の天然サンマの価格高騰にあります。
1. 技術的なブレークスルー
サンマの養殖は、その神経質さから来るパニックや、胃がないことによる頻繁な給餌の必要性など、技術的な課題が多くありました。マルハニチロは、世界で初めてサンマの水槽内繁殖に成功した「ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)」と協力することで、これらの課題を克服しました。
- ストレス軽減技術: ストレスを軽減する飼育環境や給餌方法を確立し、サンマの生存率を大幅に向上させました。
- 効率的な給餌: 餌をこまめに与える手間を減らすための技術開発が進められたと考えられます。
- 高い生存率: 稚魚の段階から生き餌を活用し、徐々に人工飼料に切り替えるステップ方式を導入することで、生存率が大幅に改善されました。
2. 天然サンマの価格高騰
近年、サンマは歴史的な不漁が続いており、卸売価格が高騰しています。2008年には1kgあたり約65円だったものが、2021年には621円と約10倍に跳ね上がりました。この価格高騰により、養殖にかかるコストが天然物の価格に近づき、事業としての採算性が現実的になりました。
養殖のコスト
- 設備投資
- 人件費
- 餌代
- 光熱費(水温管理など)
天然サンマの価格が安かった時代には、これらのコストを賄うことは困難でしたが、価格が高騰したことで、養殖サンマを販売しても採算が取れる状況が生まれたのです。
これにより、サンマ養殖は「難しい」から「実現可能」へと変わりました。マルハニチロは今後、さらに技術を磨き、生産量を増やしていくことで、安定した供給を目指していく方針です。

採算が取れるようになった主な理由は、養殖技術の向上による高い生存率の実現と、天然サンマの記録的な不漁による価格高騰です。これにより、養殖コストが天然物の価格に見合うようになりました。
今後の展望は
マルハニチロは今回の成功を足がかりに、「完全養殖」の実現を目指していく方針です。
完全養殖とは、人工的に孵化させた稚魚を親に育て、その親が産んだ卵から次の世代の魚を育て、これを繰り返すことです。天然の稚魚や卵に頼らない、持続可能な生産サイクルを確立します。
今後の展望と課題
- 完全養殖の確立: すでに人工授精に成功しているため、今後は親魚の育成と、その親魚が産んだ卵から大量に稚魚を育てる技術を確立していくことが課題となります。マルハニチロはクロマグロやブリ、カンパチなどで培った完全養殖のノウハウを応用し、この目標達成を目指します。
- 大量生産技術の開発: 事業として成立させるには、さらに効率的な生産体制の確立が必要です。より広い飼育施設や、給餌・水質管理の自動化など、コストを抑えながら大量生産できる技術を開発していきます。
- 養殖サンマの普及: 養殖サンマは天然物よりコストがかかるため、市場価格は天然物より高くなると予想されます。消費者にとって魅力的なブランドとして、付加価値を付けた商品開発やPRが重要となります。
サンマの記録的な不漁が続く中で、今回の養殖成功は日本の食文化を守るための大きな一歩です。マルハニチロは、今回の成功をきっかけに、養殖サンマの商業出荷や、さらなる技術開発を進めていくことで、サンマの安定供給と持続的な水産資源の利用に貢献していくことが期待されます。

マルハニチロは今後、養殖サンマの商業出荷を目指すとともに、人工的に孵化させた魚から次の世代を育てる「完全養殖」の実現に取り組み、サンマの安定供給を目指します。
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