この記事で分かること
- 経口肥満症薬とは:飲み薬タイプの肥満症治療薬です。体内のホルモンであるGLP-1の働きを模倣し、食欲を抑えたり、満腹感を維持させたりすることで、体重減少を促します。
- GLP-1の働き:小腸から分泌され、血液を介して直接脳の視床下部に作用し、食欲を抑えます。同時に、迷走神経を介して信号を送り、胃の働きを穏やかにすることで満腹感を長引かせます。
イーライリリーの経口肥満症薬
イーライリリーは、肥満症治療薬市場において、ノボ・ノルディスクと激しい競争を繰り広げています。
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/ZKUFKE7DPJITBFLWPLKW3J2WC4-2025-09-18/
両社ともGLP-1受容体作動薬を開発・販売しており、特にイーライリリーは経口薬の開発に注力し、ノボ・ノルディスクの肥満治療薬を上回る結果を出したと報じられています。
経口肥満症薬とは何か
経口肥満症薬とは、飲み薬の形で服用する肥満症の治療薬のことです。
これまでの肥満症治療薬には注射剤が主流でしたが、最近では飲み薬である経口薬の開発が進み、選択肢が増えています。
経口肥満症薬の仕組み
現在開発や承認が進んでいる経口肥満症薬の多くは、「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれる種類のものです。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、元々私たちの体内で分泌されるホルモンで、以下のような働きをします。
- 食欲を抑える: 脳の満腹中枢に作用して、食欲を抑制します。
- 胃の動きを遅らせる: 食べ物が胃から腸へゆっくりと移動するようになり、満腹感が持続しやすくなります。
- 血糖値を下げる: インスリンの分泌を促し、血糖値を下げる効果もあります。
経口GLP-1受容体作動薬は、これらのGLP-1の働きを模倣することで、体重減少を促します。
経口肥満症薬の効果と副作用
効果
- 高い体重減少効果: 臨床試験では、従来の肥満症治療薬と比較して、顕著な体重減少効果が報告されています。
- 健康状態の改善: 体重減少に伴い、高血圧や脂質異常症、2型糖尿病といった肥満に関連する健康障害の改善も期待できます。
副作用
主な副作用は、胃腸に関連する症状です。
- 吐き気、下痢、便秘、腹痛: 薬を飲み始めたばかりの時期や、用量を増やした際に起こりやすいとされています。多くは軽度で、一時的なものです。
- 急性膵炎: まれに、激しい腹痛や吐き気・嘔吐を伴う急性膵炎などの重篤な副作用が報告されることもあり、注意が必要です。
経口肥満症薬は、食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症患者に対して、医師の判断のもとで使用されます。服用中は、体調の変化に注意し、気になる症状があれば速やかに医師に相談することが重要です。

経口肥満症薬は、飲み薬タイプの肥満症治療薬です。体内のホルモンであるGLP-1の働きを模倣し、食欲を抑えたり、満腹感を維持させたりすることで、体重減少を促します。注射剤が主流だった肥満症治療において、新たな選択肢として注目されています。
なぜ満腹中枢に作用したり胃の動きを遅らせるのか
GLP-1が満腹中枢に作用したり胃の動きを遅らせたりする仕組みは、主に「神経を介した伝達」と「血液を介した直接的な作用」の2つの経路で行われます。
満腹中枢への作用
- 神経を介した伝達:食事をすると、小腸からGLP-1が分泌されます。このGLP-1が、消化管の壁に存在する迷走神経を刺激します。迷走神経は、この刺激を信号として脳の延髄にある孤束核に伝えます。この信号がさらに視床下部に伝わることで、食欲を抑制し満腹感を感じるよう促します。
- 血液を介した直接作用:分泌されたGLP-1は血液中を循環し、一部は血液脳関門を通過して直接脳内に到達します。脳の視床下部にはGLP-1の受容体が存在しており、GLP-1がここに結合することで、食欲を抑えるホルモンや神経伝達物質の放出を促進し、満腹感を高めます。
胃の動きを遅らせる作用
GLP-1は、胃の動きをコントロールする神経系に作用することで、胃の内容物が小腸へ送られるスピードを遅らせます。これにより、食べ物が胃に留まる時間が長くなり、少量でも満腹感が持続するのです。
この胃排出遅延の作用は、食後の血糖値の急激な上昇を抑える効果にもつながります。食べ物がゆっくりと小腸に移動することで、糖の吸収が穏やかになるためです。

GLP-1は、小腸から分泌され、血液を介して直接脳の視床下部に作用し、食欲を抑えます。同時に、迷走神経を介して信号を送り、胃の働きを穏やかにすることで満腹感を長引かせます。
経口肥満症薬の市場規模と今後の展望は
経口肥満症薬は、肥満症治療薬市場の拡大を牽引する重要な存在となっています。この市場は今後、爆発的な成長が見込まれています。
市場規模
複数の調査機関の予測によると、肥満症治療薬の世界市場は、2030年までに1000億ドル(約15兆円)規模に達すると見られています。これは2023年比で16倍以上にもなるという予測もあり、その成長の大きさがうかがえます。
GLP-1受容体作動薬市場全体で見ると、さらに規模は大きく、2030年までに1500億ドル(約23兆円)を超えるとの予測もあります。この市場の成長は、肥満と糖尿病の患者数の増加、そしてGLP-1製剤の優れた効果が要因となっています。
今後の展望
- 経口薬の普及:これまでの肥満症治療薬は注射剤が主流でしたが、利便性の高い経口薬が登場することで、より多くの患者が治療を受けやすくなります。注射への抵抗感がある患者にとっては、経口薬が大きな選択肢となり、市場のさらなる拡大に貢献すると考えられます。
- 競争の激化:イーライリリーやノボ・ノルディスクといった大手製薬会社に加え、ファイザー、ロシュ、アムジェンなどの企業も経口薬の開発に積極的に参入しています。これにより、有効性や安全性、価格面での競争が激化し、より優れた製品が市場に投入されることが期待されます。
- 適応症の拡大と用途の多様化:現在は肥満症や2型糖尿病が主な対象ですが、将来的には心血管疾患や睡眠時無呼吸症候群など、肥満に関連する他の疾患への適応拡大も進む可能性があります。
- 課題とリスク:一方で、高額な薬価や、長期的な安全性データ、そして使用中止後のリバウンドといった課題も存在します。各国の医療制度や保険制度が、この新しい治療薬の普及をどのように受け入れるかも、今後の市場動向に影響を与える重要な要素となります。
総じて、経口肥満症薬は肥満症治療に革命をもたらし、巨大な市場を形成するとともに、人々の健康に大きなインパクトを与える可能性を秘めています。

経口肥満症薬の市場は、2030年までに1000億ドル規模に達するとの予測があり、急拡大が見込まれます。注射から経口薬へのシフトで利便性が高まり、患者層が拡大。今後は競争が激化し、より優れた新薬開発が進む一方、薬価や安全性などが課題です。
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