インテルのファウンダー事業でAMDが顧客に インテルの状況はどうか?AMDの利点は何か?

この記事で分かること

  • インテルの状況:巨額の赤字という課題を抱えながらも、最先端技術の開発は着実に進んでおり、AMDやNVIDIAなど業界の主要プレイヤーからの注目と支援を集めることで、事業の立て直しに向けた重要な局面を迎えています。
  • AMDの利点:TSMC依存を減らし、地政学リスクに対応するため、米国内の安定した製造キャパシティを確保できます。

インテルのファウンドリー事業でAMDが顧客に

 米半導体大手のインテルが、競合であるアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)を受託生産(ファウンドリー)の顧客に加える方向で初期段階の協議を進めている、というニュースが報じられています。

 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-10-01/T3GU7QGOT0JM00

 このニュースは、半導体業界におけるサプライチェーンの多様化や、米国内生産強化の動きを背景としています。

インテルのファウンダリ事業の状況は

 インテルのファウンドリ事業(Intel Foundry Services: IFS)は、インテルの再建戦略「IDM 2.0」の柱の一つとして位置づけられており、現在、大きな転換期にあります。

1. ファウンドリ事業の現状と財務的な課題

  • 積極的な投資と財務的な苦境:インテルは、TSMCなどに対抗するため、パット・ゲルシンガーCEOのもとでファウンドリ事業を立ち上げ、巨額の投資(4年間で約12.7兆円など)を行ってきましたが、これまで十分な外部顧客の獲得に苦戦し、会社全体の利益を圧迫する要因となっていました。2025年4~6月期には6四半期連続の赤字が報じられるなど、苦境が続いています。
  • 財務構造の変更:2024年第1四半期からは、製造部門と製品部門を分離し、ファウンドリ部門を独立したセグメントとして会計処理する新体制に移行しました。これにより、コストの透明性を高め、効率化を図る狙いがあります。

2. 技術開発と製造体制の進捗

  • 先進プロセスの進展:インテルは、「4年間で5つのノード」という積極的なプロセス技術ロードマップを掲げています。
    • Intel 18A(1.8nm相当): 現在、リスク生産の段階にあり、年内の量産開始を目指しています。このノードは、インテルが世界で初めて実装する次世代技術(RibbonFETゲートオールアラウンド・トランジスタとPowerVia裏面電力供給技術)を採用しています。
    • Intel 14A(1.4nm相当): 18Aの後継として、すでにリード顧客と連携し、初期バージョンのPDK(プロセス設計キット)を提供しています。
    • 中・低位ノード: UMCとの協業による12nmノードや、初の16nm製品のテープアウト(設計完了)など、より成熟したプロセスでも顧客との連携を進めています。
  • 米国内生産の推進:Intel 18Aおよび14Aの研究開発からウェハー製造までを米国内の拠点(オレゴン、アリゾナなど)で完結させる計画であり、米国の半導体サプライチェーン強化における中心的な役割を担おうとしています。

3. 外部からの支援と新規顧客の獲得

  • 戦略的な投資・提携:ファウンドリ事業への信頼性を高めるため、インテルは過去数週間で、政府(米国政府による10%の株式取得)、NVIDIA(50億ドルの投資)、ソフトバンクなどから大規模な投資や支援を受けています。また、Appleとも提携交渉が報じられています。
    • NVIDIAは現時点でインテルのファウンドリを使用することをコミットしていませんが、調査を行っていると報じられています。
  • 顧客エンゲージメントの増加:先進プロセス「Intel 18A」について、マイクロソフトやアマゾンがカスタムAIチップでの採用を公式発表しています。また、ゲルシンガーCEOは、18Aノードで12件のアクティブな顧客エンゲージメントと2025年までに8件の製品テープインを見込んでいると述べていました。
  • AMDとの協議(最新のニュース):今回のニュースであるAMDとの受託生産の初期協議は、長年のライバルを顧客として獲得する可能性を示すものであり、インテルのファウンドリ事業にとって「信頼の証」として非常に大きな意味を持ちます。もし実現すれば、インテルの製造技術に対する市場の評価が大きく変わり、他の顧客獲得にも弾みがつくと期待されています。

 インテルのファウンドリ事業は、巨額の赤字という課題を抱えながらも、最先端技術の開発は着実に進んでおり、AMDやNVIDIAなど業界の主要プレイヤーからの注目と支援を集めることで、事業の立て直しに向けた重要な局面を迎えていると言えます。

大赤字ながら、競合AMDとの受託生産協議が報じられ株価が急伸しています。最先端プロセス「18A」の量産開始に向け、NVIDIAなどからの出資も得て、事業の立て直しを図る正念場です。

AMDはどんな製品をインテルに製造委託するのか

 現在、AMDが具体的にどの製品の製造をインテルに委託するのかについては、公式な発表も報道もされていません。

 ただし、報道内容と半導体業界の構造から、以下の点が推測されています。

  1. 最先端チップは難しい
    • 報道によると、インテルは現在、AMDの最も先進的で利益率の高いチップを製造する技術を持っていません
    • AMDは、主力製品である高性能なCPUGPUの多くを、依然として製造技術で先行するTSMC(台湾積体電路製造)に委託しています。そのため、これらの最先端の主力製品がすぐにインテルに移行する可能性は低いと見られています。
  2. 可能性のある製品
    • 業界の推測では、もし合意に至った場合、AMDはまず重要度が比較的低い、より成熟したプロセスノードで製造可能なコンポーネントを委託する可能性があります。
    • 具体的な候補としては、CPUのI/Oダイ(入出力機能を持つチップレット)や、中・低位のプロセッサ、あるいは旧世代のチップなどが挙げられています。
  3. 背景にある要因
    • この協議の背景には、米国内でのチップ製造強化を求める米国政府の意向や、地政学的なリスクを避けるためのサプライチェーンの多様化というAMD側の狙いがあると考えられています。

 現時点での協議は初期段階であり、実際にどの製品が、どの程度の量で委託されるかは、今後のインテルの製造技術(特に「Intel 18A」)の進捗と、両社の交渉次第となります。

インテルはAMDの最先端チップ製造技術を持たず、委託製品は不明です。ただし、サプライチェーン多様化のため、重要度の低いI/Oダイや旧世代チップなどが初期に委託される可能性が推測されます。

AMDがインテルに委託するメリットは何か

 AMDがライバルであるインテルのファウンドリ事業(IFS)に製造を委託することには、主に以下の戦略的メリットがあります。

1. 製造リスクの分散と安定供給の確保

  • TSMC依存からの脱却:AMDは現在、最先端チップ製造の大部分をTSMCに依存しています。台湾に集中しているTSMCへの依存度が高いと、地政学的なリスク(台湾海峡の緊張など)や、自然災害、あるいはTSMCのキャパシティ不足が発生した場合に、供給が途絶えるリスクを抱えます。
  • 第2の供給源の確保:インテルのファウンドリを利用することで、地理的に分散された第2の安定した供給源を確保できます。特にインテルは米国国内および欧州に大規模な製造拠点を持ち、政府からの支援も受けているため、サプライチェーンの強靭化に貢献します。

2. 政治的・戦略的な配慮

  • 米国政府の意向:米国政府は、国内での半導体製造能力を強化するため、CHIPS法などの支援を行っています。AMDがインテルの米国内ファブを利用することは、政府の戦略に沿った行動となり、将来的に政府との関係や取引において有利に働く可能性があります。
  • 競争促進のメリット:TSMCが圧倒的な市場シェアを持つ中、インテルのファウンドリ事業が成長し、TSMCに対抗できる第2・第3の選択肢が育つことは、ファウンドリ市場全体の競争を促進し、結果的にAMDにとってより良い価格や条件を引き出す力になります。

3. 技術的・商業的な機会

 キャパシティの確保:最先端ノードの製造能力(キャパシティ)は常に限られています。インテルという新たな製造業者を使うことで、TSMCのキャパシティ争奪戦から一部の製品を切り離し、確実に生産枠を確保できるようになります。

 先進的なパッケージング技術:インテルは「Foveros」や「EMIB」といった先進的な3Dパッケージング技術に強みを持っています。AMDがこれらの技術を利用することで、TSMCとは異なる方法でチップレット(小さなチップを組み合わせて一つの製品にする設計)製品の性能を向上させる可能性があります。

戦略的リスク分散が最大のメリットです。TSMC依存を減らし、地政学リスクに対応するため、米国内の安定した製造キャパシティを確保できます。また、インテルの先進的なパッケージング技術を利用できる可能性もあります。

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