この記事で分かること
- テクセンドフォトマスクの事業内容:半導体製造に不可欠なフォトマスク(回路原版)の製造・販売を行う、外販市場のリーディングカンパニーです。
- フォトマスクの製造方法:石英ガラスのマスクブランクスに、電子ビームで半導体の回路パターンを描画し、現像・エッチング・洗浄を経て、遮光膜で精密な回路パターンを形成して製造されます。
- 凸版グループから独立した理由:会社分割により独立企業体となることで、経営の自由度を高め、先端技術への投資を俊敏に実行し、更なる成長と競争力強化を目指しました。
テクセンドフォトマスクの上場
テクセンドフォトマスク株式会社は、2025年10月16日(木)に東京証券取引所プライム市場へ新規上場する予定です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC245TH0U5A920C2000000/
上場後の初値については、現時点ではあくまで予想ですが、3,090円〜3,780円といった初値予想が出ている情報もあります。
テクセンドフォトマスクはどんな企業か
テクセンドフォトマスク株式会社は、半導体用フォトマスクの製造・販売を主な事業とする企業です。
半導体製造のプロセスにおいて不可欠な「フォトマスク」の開発・製造を手掛けており、外販市場におけるリーディングカンパニーとして、世界トップクラスのマーケットシェアを築いています。
1. 事業の核
- 半導体用フォトマスク:
- 半導体チップの回路パターンを焼き付けるための原版(マスター)となる製品です。半導体の性能を左右するキーテクノロジーとして、最先端の微細加工技術が求められます。
- EUV(極端紫外線)リソグラフィ対応のフォトマスクなど、最先端の技術開発にも取り組んでいます。
- 新規事業:
- フォトマスクで培った微細加工技術を応用し、ナノインプリントモールドを始めとする微細加工製品にも事業領域を拡大しています。
2. 沿革と背景
- TOPPANグループからの独立:
- 前身は、TOPPANホールディングス株式会社(旧:凸版印刷)のフォトマスク事業であり、1960年代から半導体業界をサポートしてきた60年以上の歴史を持ちます。
- 2022年4月にTOPPANホールディングスからの会社分割により「株式会社トッパンフォトマスク」として設立され、2024年11月1日に現社名(テクセンドフォトマスク株式会社)へ変更しました。
- 現在の主要株主はTOPPANホールディングス株式会社(50.1%)とインテグラル(49.9%)です。
3. グローバルな体制
- 世界的な生産ネットワーク:
- 北米、欧州、アジア、日本など、世界各地に8つの製造拠点と顧客サービスネットワークを持つ、グローバルな生産体制を構築しており、外販フォトマスクサプライヤーとして唯一の存在です。
- 海外売上比率が約93%と非常に高く、グローバルに事業を展開しています。
4. 社名に込められた意味
新社名「テクセンド (Tekscend)」は、「Technology (技術)」と「Ascend (上昇する)」を組み合わせた造語で、技術力をさらに高め、半導体業界の最前線で絶え間なく成長していくという決意が込められています。

テクセンドフォトマスクは、半導体製造に不可欠なフォトマスク(回路原版)の製造・販売を行う、外販市場のリーディングカンパニーです。TOPPANグループから独立し、世界8カ所の拠点でグローバルに事業を展開しています。
フォトマスクはどのように製造されるのか
フォトマスクは、半導体の回路パターンをウェーハに転写するための原版(マスター)であり、ナノメートル単位の極めて精密な微細加工技術を用いて、以下のような複数の複雑な工程を経て製造されます。
1. マスクブランクスの準備(基板)
フォトマスクの「タネ」となるのがマスクブランクスです。
- 基板: 熱膨張が少ない石英ガラス(クォーツ)基板が使用されます。
- 遮光膜の成膜: 基板の表面に、光を遮るクロムなどの金属薄膜(遮光膜)が均一に成膜されます。
- レジスト塗布: その上から、感光性材料であるフォトレジストが均一に塗布されます。
2. 描画(回路パターンの書き込み)
設計された回路パターンをマスクブランクスに高精度で転写する、最も重要な工程です。
- CADデータ: CADソフトで作成された回路パターンの設計データが用いられます。
- 露光: このデータに基づき、電子ビーム(EB)描画装置やレーザー描画装置を使って、レジスト層に回路パターンを露光(焼き付け)します。最先端のフォトマスクでは、極めて細かいパターン形成が可能な電子ビーム描画が主流です。
3. 現像・エッチング(パターン形成)
露光されたパターンを基板上の遮光膜に転写します。
- 現像: 露光されたレジスト(感光材)を現像液で溶解・除去し、下の遮光膜(クロム膜)を露出させます。
- エッチング: 露出した遮光膜を、化学薬品やドライエッチング(プラズマなど)によって除去します。これにより、光を透過する部分(石英ガラス)と、遮光する部分(クロム膜)のコントラストが形成されます。
- レジスト剥離・洗浄: 不要になったフォトレジストを剥離し、基板を洗浄します。
4. 検査と出荷
完成したフォトマスクの品質を確保します。
- 測定・検査: パターンに欠陥がないか、寸法が設計通りかなどを、高精度な検査装置で測定・検査します。
- ペリクル貼付: 出荷前に、フォトマスクを塵や汚染から保護するための防塵フィルム(ペリクル)を貼付することが一般的です。
このフォトマスクが、半導体のフォトリソグラフィ工程で使われ、ウェーハ上に回路パターンを形成するための「型板」としての役割を果たします。

フォトマスクは、石英ガラスのマスクブランクスに、電子ビームで半導体の回路パターンを描画し、現像・エッチング・洗浄を経て、遮光膜で精密な回路パターンを形成して製造されます。
TOPPANグループからの独立した理由は何か
テクセンドフォトマスク(旧:株式会社トッパンフォトマスク)がTOPPANグループから独立した主な理由は、急速に成長する半導体市場に対応し、事業の成長と競争力の強化を加速させるためです。
- 市場ニーズへの迅速な対応と俊敏な投資実行:
- 半導体市場は急速に成長しており、フォトマスク事業においても、先端技術への巨額かつ迅速な投資が求められています。
- 会社分割により独立した企業体とすることで、経営の自由度を高め、市場の変化や顧客のニーズを捉えた設備投資や研究開発投資を俊敏に実行できる体制を構築しました。
- 更なる成長と競争力の強化の実現:
- 独立した企業体として、フォトマスク事業に特化することで、事業価値の最大化と市場における競争力の継続的な強化を目指しています。
- 独立系投資ファンドのインテグラルを新たな株主として迎え入れたのも、この成長戦略の一環です。
TOPPANグループという大企業の中の一部門としてではなく、独立した専門企業として、半導体産業の成長スピードに合わせて事業をダイナミックに展開していくことを選んだ結果と言えます。

急速に成長する半導体市場に対応するためです。会社分割により独立企業体となることで、経営の自由度を高め、先端技術への投資を俊敏に実行し、更なる成長と競争力強化を目指しました。
フォトマスクの有力メーカーはどこか
半導体用フォトマスクは、半導体メーカーが自社で製造する「内製市場」と、専業メーカーから調達する「外販市場」に大別されます。有力なメーカーとして挙げられるのは、主に以下の企業です。
1. 外販市場における主要メーカー
企業名 | 国・地域 | 特徴 |
テクセンドフォトマスク株式会社 | 日本 | 外販市場でグローバルトップシェア(旧:トッパンフォトマスク)。世界各地に生産拠点を保有する唯一の専業メーカーであり、EUVマスクの開発も進めています。 |
大日本印刷株式会社 (DNP) | 日本 | 長年培った印刷技術をベースにフォトマスク事業を展開。テクセンドフォトマスクと並ぶ日本の大手メーカーであり、EUVフォトマスクの製造プロセス開発にも力を入れています。 |
Photronics (フォトロニクス) | アメリカ | アメリカを拠点とする大手フォトマスク専業メーカー。世界市場の主要プレイヤーの一つです。 |
SK-Electronics | 韓国 | アジアを中心に事業を展開するフォトマスクメーカーです。 |
2. マスクブランクス・関連材料の有力メーカー
フォトマスクの「素板」となるマスクブランクスや、関連技術を持つ企業も重要です。
企業名 | 国・地域 | 特徴 |
HOYA株式会社 | 日本 | フォトマスクの基板となるマスクブランクスにおいて、世界トップシェア(50%以上)を持つ企業です。 |
AGC (旭硝子) | 日本 | ガラスメーカーとしてマスクブランクス市場に参入しています。 |
3. 半導体メーカー(内製)
主要な半導体メーカーは、先端プロセス向けのフォトマスクを自社で内製する傾向があります。
- TSMC(台湾積体電路製造)
- Samsung Electronics(サムスン電子)
- Intel(インテル)
特に、最先端のEUVリソグラフィ向けフォトマスクは高度な技術を要するため、外販メーカーではテクセンドフォトマスクとDNPが開発競争をリードしています。
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