リックス株式会社のフラックス洗浄装置 フラックスやその洗浄装置とは何か?

この記事で分かること

  • フラックス洗浄装置とは:はんだ付け時に生じるフラックス残渣を電子部品や基板から除去する産業用設備です。残渣によるショートや腐食を防ぎ、製品の信頼性を確保するために不可欠です。
  • フラックスとは:はんだ付けを助ける補助薬品です。加熱により金属表面の酸化膜を除去し、はんだの濡れ性を高めて接合を確実にします。主成分はロジンなどの樹脂と活性剤です。
  • 先端技術の洗浄装置に必要な性能:極小隙間に洗浄液を確実に浸透させ、残留物なく除去する高い洗浄力と、デリケートなチップを保護する低ダメージ制御です。

リックス株式会社のフラックス洗浄装置

 リックス株式会社は、近年実用化が進む2.5次元・3次元実装技術に対応したフラックス洗浄装置を開発していることを発表しました。

 https://www.nikkan.co.jp/releases/view/203084

 この新しいフラックス洗浄装置は、AI向け半導体などで採用されるこれらの次世代実装技術に不可欠なものとして注目されています。

フラックス洗浄装置とは何か

 フラックス洗浄装置とは、電子部品や半導体パッケージ、プリント基板などのはんだ付け(ソルダリング)工程で発生するフラックス残渣(ざんさ)を効率的かつ確実に除去するための産業用設備です。

 フラックスは、はんだ付けの際に金属表面の酸化膜を除去し、はんだの濡れ性を高めるために不可欠な薬品ですが、作業後に残った残渣は、製品の信頼性に重大な悪影響を及ぼすため、適切に洗浄・除去する必要があります。


フラックス洗浄が必要な理由

 フラックス残渣は、主に以下のような電気的・物理的なトラブルの原因となるため、洗浄が欠かせません。

トラブル詳細
絶縁信頼性の低下・ショート残渣に含まれるイオン性成分が、湿気(高湿下)を吸ってイオンマイグレーション(金属析出)を引き起こし、電極間でショート(短絡)させる原因となる。
腐食(エレクトロケミカルマイグレーション)残渣が吸湿することで、はんだ接合部や金属部品を腐食させ、信頼性を低下させる。
密着不良残渣がワイヤボンディング、樹脂封止(モールディング)、あるいは防湿のためのコンフォーマルコーティングなどの密着性を阻害し、製品の寿命や性能に影響を与える。
パーティクル(異物)半導体製造などのクリーンな環境では、残渣そのものが異物となり、品質を低下させる。

フラックス洗浄装置の仕組みと方式

 フラックス洗浄は、一般的に「洗浄」「リンス」「乾燥」の3工程で構成されます。洗浄装置は、主にこれらの工程を自動で行うためのシステムです。

1. 主な洗浄方式
方式特徴メリット
スプレー/シャワー式洗浄液をノズルから噴射し、その物理力(運動エネルギー)で残渣を洗い流す。物理力の調整が容易で、液交換性に優れる。微細部分の洗浄にも効果的。
超音波洗浄洗浄液に浸漬した状態で超音波を照射し、キャビテーション(泡の破裂)の力で残渣を剥離・分散させる。微細な部分まで強力な物理力を得られる。
噴流(液流)洗浄洗浄液槽内で液流を発生させ、主に化学作用で残渣を溶解・剥離する。部材への影響が軽微。
真空洗浄装置内を真空にすることで、狭い隙間まで洗浄液を浸透させ、残渣を除去する。次世代実装(2.5D/3D)で特に有効。狭い隙間や部品下の洗浄に優れる。
2. 使用される洗浄剤

 洗浄剤は、フラックスの種類や洗浄対象によって使い分けられます。

  • 溶剤系:有機溶剤が主体。
  • 準水系:水と有機溶剤を約50%ずつ含む。
  • 水系:水が主成分。

 近年では、環境負荷の低い低VOC(揮発性有機化合物)対応の洗浄剤や、使用した洗浄液を装置内で再生・リサイクルする廃液レスのシステムも普及しています。

フラックス洗浄装置は、はんだ付け時に生じるフラックス残渣を電子部品や基板から除去する産業用設備です。残渣によるショートや腐食を防ぎ、製品の信頼性を確保するために不可欠です。

先端技術に対応したフラックス洗浄装置に必要な性能は何か

 2.5次元/3次元実装技術に対応したフラックス洗浄装置に最も求められる性能は、「極めて狭い隙間」への浸透性と確実な残渣除去能力です。

これは、従来の基板実装と比べて、チップやインターポーザー間の隙間(ギャップ)が数十マイクロメートルと非常に狭くなることに起因します。


2.5/3次元実装向け洗浄装置の主要な要求性能

1. 狭隘部への高い浸透性と洗浄力

 最も重要となるのは、チップ・バンプ・インターポーザー間にできた極小隙間に洗浄液を確実に浸透させ、フラックス残渣を溶解・除去する能力です。

  • 真空技術の活用: 真空環境を利用して隙間から空気を除去し、洗浄液を毛細管現象や圧力差で奥深くまで浸透させる技術が有効です。
  • 適切な物理力: 狭い隙間への液置換を促すために、微細な液流やキャビテーションを制御する高度なスプレー/噴流技術または超音波技術が求められます。

2. 部品へのダメージ低減

 高性能な半導体チップは非常にデリケートであり、強い物理力や化学的作用によってダメージを与えてはなりません。

  • 低ダメージ洗浄: 狭隘部に強い物理力をかける際、バンプや配線を損傷させないよう、洗浄の物理力(噴射圧力や超音波出力)を精密に制御する能力。
  • 低腐食性の洗浄剤対応: デリケートな回路や金属層を保護するため、ワーク(製品)の材質に合わせた低腐食性の洗浄剤を効率的に使用できる設計。

3. 高度なリンス・乾燥性能

 洗浄後のリンス(すすぎ)と乾燥も、信頼性確保に極めて重要です。狭い隙間にわずかでも洗浄液やリンス液が残ると、かえってショートや腐食の原因となります。

  • 残留物ゼロのリンス: 高純度のリンス液を隙間深くまで確実に送り込み、残留イオンや洗浄剤成分を完全に除去する能力。
  • 効率的かつ完全な乾燥: 乾燥工程においても、熱や真空を利用して隙間深部の水分や溶剤を完全に蒸発・除去する能力が必須です。

 これらの性能は、AI向け半導体に求められる高い信頼性長期的な動作保証を実現するために不可欠です。

2.5/3次元実装技術に必要な性能は、極小隙間に洗浄液を確実に浸透させ、残留物なく除去する高い洗浄力と、デリケートなチップを保護する低ダメージ制御です。

フラックスはどんな薬品か

 フラックスは、電子部品や半導体におけるはんだ付け(ソルダリング)を助けるための補助薬品です。

 主な役割は、はんだ付けをする金属表面を化学的に清浄化し、はんだの濡れ性を高めることです。


フラックスの主な成分と役割

 フラックスは、主に以下の3つの構成要素から成り立っています。

1. 主剤 (ベース)

 フラックスの主要な成分で、はんだ付けの核となる機能を果たします。

成分の例主な役割
ロジン(松やに) または 合成樹脂加熱により活性化し、後述の酸化膜を除去します。また、残渣は硬化後に絶縁体となり、はんだ付け部を再酸化から保護する役割もあります。ロジンは一般的に弱酸性です。
2. 活性剤

 主剤の酸化膜除去能力を増強するための添加剤です。

成分の例主な役割
有機酸ハロゲン化合物加熱によって金属表面の酸化膜を強力に溶解・還元し、はんだ付けを促進します。活性剤の強さにより、フラックスは洗浄タイプと無洗浄タイプに分類されます。
3. 溶媒(溶剤)

 主剤や活性剤を溶解・分散させ、液状にして塗布しやすくするための液体成分です。

成分の例主な役割
アルコール系溶剤(IPAなど)フラックスの粘度を調整し、プリント基板への均一な塗布や、細かい隙間への浸透性を向上させます。

フラックスの3つの主要な機能

 フラックスは、はんだ付けの品質を決定づける以下の重要な機能を持っています。

  • 清浄化作用(酸化膜の除去):金属は空気中の酸素と反応して酸化膜(サビ)を形成します。この酸化膜があると、はんだは金属に付着(濡れ)ません。フラックスは加熱によってこの酸化膜を化学的に溶解または還元し、はんだ付けができるきれいな金属面を作り出します。
  • 再酸化防止作用(保護):酸化膜を除去して清浄になった金属表面を、溶融したフラックスが一時的に被膜となって覆います。これにより、はんだ付け中に高温の空気によって再び酸化されるのを防ぎます。
  • 表面張力低下作用(濡れ性の向上):溶融したはんだは、本来丸まろうとする強い表面張力を持っています。フラックスはこの表面張力を弱めることで、はんだが母材表面に薄く均一に広がるように促します。

フラックスは、はんだ付けを助ける補助薬品です。加熱により金属表面の酸化膜を除去し、はんだの濡れ性を高めて接合を確実にします。主成分はロジンなどの樹脂活性剤です。

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