この記事で分かること
- UV高透過の黒色顔料とは:可視光は吸収して黒く遮光しつつ、紫外線(UV)は高効率で透過させる特殊な顔料です。これにより、黒い塗膜や接着剤でもUV光を利用した光硬化を確実かつ迅速に行えるようになります。
- UVを透過できる理由特殊な無機化合物の組成や構造を設計することで、光の吸収スペクトルを制御し、可視光は吸収しつつ、UV硬化に必要な特定のUV波長域のエネルギーだけは吸収せず透過させています。
- 応用例:液晶ディスプレイ周辺の遮光材や光学部品(センサー、レンズ)周辺の遮光材として利用されています。
三菱マテリアルの新規UV高透過の黒色顔料
三菱マテリアルが開発した「NITRBLACK®(ナイトブラック)UB-3」は、UV(紫外線)高透過性を持つ無機黒色顔料です。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC23APP0T21C25A0000000/
これは、従来の「NITRBLACK® UB-2」の光学性能を大幅に向上させた後継製品です。
UV高透過の黒色顔料とは何か
UV高透過の黒色顔料とは、特定の波長域の光に対して選択的な光学特性を持つように設計された特殊な黒色顔料です。
特徴
- 可視光域では高い遮光性(黒色度)を持つ
- 一般的な黒色顔料と同様に、人間の目に見える光(可視光:約400~800nm)はしっかりと吸収し、対象物を黒く着色します。
- 紫外線(UV)域では高い透過性を持つ
- 従来の黒色顔料の課題であった、紫外線(UV:約100~400nm)の吸収を抑え、UVをほとんど遮蔽せずに透過させることができます。
従来の課題
従来のカーボンブラックなどの一般的な黒色顔料は、可視光だけでなくUVも強く吸収してしまう性質があります。
このため、UV光を利用して材料を硬化させる「UV硬化技術」を用いる際に、顔料がUVを遮断してしまい、以下のような問題が生じていました。
- 硬化不良: 特に厚膜や高濃度に顔料を配合した場合、内部までUVが届かず、塗膜や接着剤が十分に硬化しない。
- 熱硬化の必要性: 十分な強度や黒色度を得るために、光硬化後に熱硬化処理を別途行う必要があり、工程が増え、コストやエネルギーを消費する。
高UV透過性顔料の利点
高UV透過性黒色顔料は、この課題を解決するために開発されました。
- UV硬化の実現: 黒色の塗膜やインクであっても、硬化に必要なUVが内部まで効率的に届くため、UV硬化のみで迅速かつ十分に硬化させることができます。
- 生産性・省エネ: 硬化時間が短縮され、低温処理が可能なため、生産性の向上と省エネルギーに貢献します。
- 高精度な製造: 低温で硬化できるため、熱による材料の変形リスクが少なく、高性能ディスプレイや光学センサーなどの高精度な部品の製造に適しています。
三菱マテリアルの「NITRBLACK® UB-3」はこの種の顔料の例であり、独自の窒化還元技術を用いて、この「可視光遮光」と「UV透過」という相反する特性を高いレベルで両立させています。

UV高透過の黒色顔料は、可視光は吸収して黒く遮光しつつ、紫外線(UV)は高効率で透過させる特殊な顔料です。これにより、黒い塗膜や接着剤でもUV光を利用した光硬化を確実かつ迅速に行えるようになります。
なぜUVを透過できるのか
UV高透過の黒色顔料(NITRBLACK® UB-3など)が紫外線を透過できるのは、その独自の材料設計と粒子構造により、可視光域とUV域で光の吸収メカニズムを分離しているためです。
従来の黒色顔料とは異なり、この顔料はUV硬化に必要な特定のUV波長域の光を吸収しないように設計されています。
UV透過のメカニズム
UV高透過性黒色顔料がUVを透過できる主な理由は、以下の点に集約されます。
1. 独自の材料(無機化合物)設計
NITRBLACK®シリーズ(UB-3含む)は、無機黒色顔料であり、三菱マテリアル独自の「窒化還元技術」を用いて製造されています。
- 従来の顔料との違い:
- カーボンブラックなどの一般的な黒色顔料は、幅広い波長域(可視光からUV、さらに赤外線の一部)の光を吸収する特性があります。そのため、黒くする能力は高いものの、UV硬化に必要なUVまで遮断してしまいます。
- NITRBLACK®は、光の吸収特性を精密に制御した特殊な無機化合物で構成されています。
2. 光吸収スペクトルの制御
この特殊な無機化合物の組成や構造を設計することで、光の吸収スペクトルを制御し、以下のような特性を実現しています。
- 可視光の吸収: 顔料の電子構造が可視光域(約400~800nm)のエネルギーを効率よく吸収するため、高い遮光性(黒色)が得られます。
- UV域の透過: 一方で、光硬化に利用される特定のUV域(約200~400nm)のエネルギーは、顔料の電子構造と共鳴しにくく、ほとんど吸収されずに粒子を透過します。
この顔料は「可視光を吸収する機能」と「UVを透過する機能」を両立させた、波長選択性に優れた材料だということです。この選択性があるため、黒色度を高く保ちつつ、光硬化を可能にするUVだけを塗膜の奥まで届けることができます。

顔料の材料と構造を独自に設計することで、可視光は吸収しつつ、UV硬化に必要な特定のUV波長域のエネルギーだけは吸収せず透過させるためです。
どのように利用されているのか
UV高透過の黒色顔料であるNITRBLACK® UB-3は、主に電子部品や光学機器分野において、高い遮光性能と製造効率の向上を両立させるために利用されています。
この顔料は、「光硬化(UV硬化)だけで、十分な硬度と高い黒色度(遮光性)を持つ層を形成する」という特長から、幅広い用途に展開されています。
1. ディスプレイ・光学機器向け遮光材
製品内部や外部からの不要な光を遮断するために、黒色の遮光材として利用されます。
- 液晶ディスプレイ(LCD)周辺の遮光材: ディスプレイの表示部周辺の光漏れを防ぎ、コントラストを向上させるために使用されます。
- 光学部品(センサー、レンズ等)周辺の遮光材: カメラモジュールや各種センサー内部で、迷光(不要な反射光)が入るのを防ぎ、検出精度や画質を確保するために用いられます。
2. UV硬化型材料への配合
UVを透過するため、黒色を付与したUV硬化型の塗料・接着剤の硬化不良を防ぎ、生産性を高めます。
- UV硬化型塗料・コーティング剤: 黒色の外装や内部部品に使用される塗料やコーティング剤に配合し、短時間でしっかりと硬化させます。
- UV硬化型接着剤: 部品の固定や接合に用いられる黒色の接着剤に利用され、接着強度を確保しつつ、生産ラインでの硬化時間を大幅に短縮します。
利用によるメリット(まとめ)
UB-3の利用は、製造プロセスにおいて以下のような大きなメリットをもたらします。
- 製造時間の短縮: UV照射時間を大幅に短縮できるため、製品の製造タクトタイムが短くなります。
- 省エネルギー: 熱硬化工程が不要になる、またはUV照射時間が短くなることで、エネルギー消費量を削減し、温室効果ガス削減にも貢献します。
- 高精度な製造: 低温での硬化が可能となるため、熱に弱い基材や微細構造への適用が容易になります。
UB-3は、高性能化が進む電子部品や光学式センサーなどの分野で、その高い性能と効率的な製造技術への貢献が特に期待されています。

主に液晶ディスプレイ周辺の遮光材や光学部品(センサー、レンズ)周辺の遮光材として利用されています。UV硬化型塗料や接着剤に配合することで、短時間で高黒色度と硬度を両立できます。

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