ワイドバンドギャップ半導体単結晶市場拡大 ワイドバンドギャップ半導体単結晶とは何か?市場拡大の理由は何か?

この記事で分かること

  • ワイドバンドギャップ半導体単結晶とは:シリコン(Si)より広いバンドギャップ(禁制帯幅)を持つSiCやGaNなどの化合物半導体を、原子の並びが均一な単一の結晶構造で形成したものです。
  • バンドギャップが大きい理由は:原子間の共有結合が非常に強く、原子核に電子が強く引きつけられ安定しているためです。この結合エネルギーの大きさが、電子を励起させるのに必要なエネルギー(バンドギャップ)を広げます。
  • 用途:従来のシリコン(Si)半導体を凌駕する特性(高耐圧、高温動作、低損失、高速スイッチング)を活かし、主に高効率な電力制御や高速通信が求められる分野で利用されています。

ワイドバンドギャップ半導体単結晶市場拡大

 矢野経済研究所の調査によるとワイドバンドギャップ(WBG)半導体単結晶の世界市場は、2025年に2,869億円2035年には8,298億円規模に達するとされてます。

 https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3929

 この市場成長予測は、世界的なカーボンニュートラルへの取り組みや、電気自動車(EV)市場の拡大という大きな流れに支えられたものと言えます。

ワイドバンドギャップ半導体単結晶とは何か

ワイドバンドギャップ半導体単結晶とは、従来のシリコン(Si)半導体よりも広いエネルギーバンドギャップを持つ化合物半導体を、不純物や結晶の乱れが少ない単一の結晶構造で形成したものです。


1. ワイドバンドギャップ(WBG)半導体の特性

ワイドバンドギャップ半導体は、一般的にバンドギャップ(禁制帯幅)が2.2 eV以上(Siは約1.1 eV)の半導体を指します。代表的な材料には、炭化ケイ素(SiC)窒化ガリウム(GaN)酸化ガリウム(Ga2O3)ダイヤモンドなどがあります。

この「バンドギャップが広い」ことによって、以下の優れた特性が得られます。

  • 高耐圧性(高絶縁破壊電界強度): 強い電界をかけても電流が漏れにくい(絶縁破壊しにくい)ため、高電圧での動作が可能です。
  • 高温動作: バンドギャップが広いほど熱で電子が励起されにくいため、高温環境下でも安定して動作します。
  • 低損失・高速スイッチング: 抵抗が小さく、スイッチング速度も速いため、電力変換時のエネルギー損失を大幅に低減できます。
  • 高熱伝導性: 特にSiCやダイヤモンドは熱伝導率が高く、発生した熱を効率よく逃がすため、冷却機構の小型化が可能です。

2. 「単結晶」である必要性

 半導体デバイスの性能を最大限に引き出し、安定して動作させるためには、材料が単結晶である必要があります。

  • 単結晶(Single Crystal)とは、原子が三次元的に規則正しく、均一に並んでいる結晶構造のことです。
  • これに対し、原子の並びが途中で不連続になっている部分(粒界)を持つものを多結晶(Polycrystal)と呼びます。

 デバイスの性能を決定づける電子の流れにとって、結晶の乱れ(欠陥や粒界)は抵抗となり、デバイスの故障や性能低下の原因になります。

 単結晶は、原子レベルで均一であるため、電子がスムーズに移動でき、高い性能と信頼性を持つ半導体デバイス(パワー半導体など)を実現するために不可欠な基盤となります。


用途

これらの優れた特性により、WBG半導体は従来のSi半導体が苦手としていた高電圧・高周波・高温環境での利用が進んでおり、主にパワーデバイス(電力変換用半導体)として、以下の分野で採用が拡大しています。

  • 電気自動車(EV): インバーター、車載充電器
  • 再生可能エネルギー: 太陽光発電(PV)のパワーコンディショナー
  • 産業機器: サーバー電源、高速鉄道、産業用モーター駆動装置

ワイドバンドギャップ半導体単結晶とは、シリコン(Si)より広いバンドギャップ(禁制帯幅)を持つSiCやGaNなどの化合物半導体を、原子の並びが均一な単一の結晶構造で形成したものです。これにより、高温・高耐圧・低損失のパワー半導体を実現し、EVや省エネ機器に不可欠な材料です。

シリコンよりもバンドギャップが広い理由は何か

 炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンドといったワイドバンドギャップ(WBG)半導体がシリコン(Si)よりも広いバンドギャップを持つ主な理由は、それらの物質の原子間の結合力の強さにあります。

 これは、原子を構成する元素の種類結晶構造に起因する根本的な特性です。


広いバンドギャップの根本原理

 バンドギャップとは、電子が存在できないエネルギーの領域(禁制帯)の幅であり、価電子帯の電子が伝導帯へ飛び移るために必要な最小エネルギー(Eg)を指します。WBG半導体が広いバンドギャップを持つ理由は以下の通りです。

1. 強い原子間結合力(共有結合性の高さ)

SiCやダイヤモンドは、Siよりも原子間の共有結合が非常に強く、GaNやGa2O3もSiと比べて原子間の結合エネルギーが大きいです。

  • 結合が強い:価電子が原子核に強く引きつけられ、安定しています。
  • 結合を断ち切る/電子を励起するのに大きなエネルギーが必要 :バンドギャップ(Eg)が広くなります。

 特にダイヤモンドは、炭素原子間の共有結合が極めて強く、すべての半導体材料の中で最も広いバンドギャップを持ちます(約5.47 eV)。SiCもケイ素と炭素の強い結合により、Si(約1.12 eV)よりはるかに広いバンドギャップ(約3.26 eV)を持ちます。

2. 格子定数の小ささ

 WBG半導体は、一般的にシリコンよりも格子定数(結晶を構成する単位の大きさ)が小さく、原子が密に詰まっています。

  • 原子間距離が短い:結合が強固になり、前述の「強い原子間結合力」につながります。

3. 構成元素の電気陰性度の違い(化合物半導体の場合)

 GaNやGa2O3のような化合物半導体の場合、構成する原子(窒素や酸素など)の電気陰性度が大きいことも、バンドギャップを広げる要因となります。

  • 電気陰性度の差が大きいと、原子間で電子を引き合う力が強くなり、価電子のエネルギーが深く安定し、結果としてバンドギャップが広がります。

主要な半導体のバンドギャップ比較

材料種類バンドギャップ(Eg​)の目安
シリコン (Si)元素半導体約 1.12 eV
炭化ケイ素 (SiC)IV-IV族化合物約 3.26 eV
窒化ガリウム (GaN)III-V族化合物約 3.39 eV
酸化ガリウム (Ga2O3)III-VI族化合物約 4.5 ~ 4.9 eV
ダイヤモンド (C)元素半導体約 5.47 eV

WBG半導体は、原子間の共有結合が非常に強く、原子核に電子が強く引きつけられ安定しているためです。この結合エネルギーの大きさが、電子を励起させるのに必要なエネルギー(バンドギャップ)を広げます。

WBG半導体にはどんな用途があるのか

 炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンドは、従来のシリコン(Si)半導体を凌駕する特性(高耐圧、高温動作、低損失、高速スイッチング)を活かし、主に高効率な電力制御高速通信が求められる分野で利用されています。


主要なワイドバンドギャップ半導体の用途

1. 炭化ケイ素(SiC)

【特徴】 高耐圧、優れた熱伝導性、低損失。特に高電圧・大電力用途に強い。

用途分類具体的な応用製品
電気自動車 (EV)トラクションインバーター、車載充電器、DC-DCコンバーター(EVの航続距離延長・充電時間短縮に貢献
産業・電力太陽光発電(PV)用パワーコンディショナー、風力発電、産業用モーター駆動装置、鉄道車両用インバーター
電源大容量サーバー電源(データセンター)、無停電電源装置(UPS)

2. 窒化ガリウム(GaN)

【特徴】 高速スイッチング、高周波特性、比較的高耐圧。特に高周波・高効率・小型化を重視する用途に強い。

用途分類具体的な応用製品
通信・RF5G/6G基地局のパワーアンプ(高周波デバイス)、レーダーシステム(軍事・気象)
民生・電源PCやスマートフォンの超小型・高効率ACアダプター/急速充電器(USB PD対応など)、薄型テレビ用電源
光デバイス青色LED、青紫色半導体レーザー(光ディスク)

3. 酸化ガリウム(Ga2O3)

【特徴】 極めて広いバンドギャップ、高耐圧。基板を比較的安価に製造できる可能性があるため、将来的な低コスト化超高耐圧用途が期待されている。

用途分類具体的な応用製品
パワーデバイス次世代の超高耐圧パワーデバイス(SiCよりもさらに高電圧の領域、例えば鉄道、電力系統)
その他紫外線検出器、高温環境センサー(研究開発段階)

4. ダイヤモンド

【特徴】 究極の半導体材料と呼ばれ、最大のバンドギャップ、極めて高い熱伝導性、高耐放射線性。

用途分類具体的な応用製品
究極のパワー超大電力・超高耐熱が求められるインバーター(電力系統、宇宙、航空機、超高速鉄道など)
特殊環境放射線環境下で使用されるセンサーや電子部品(原子力発電所の廃炉作業など)
その他量子コンピューティングへの応用研究、高周波デバイス(研究開発段階)

SiCはEVインバーターや太陽光発電の大電力・高耐圧用途。GaNは急速充電器や5G基地局の高周波・小型化用途。酸化ガリウムとダイヤモンドは次世代の超高耐圧・高熱環境用途に研究開発が進んでいます。

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