この記事で分かること
- マイクロ波での再生方法:接着剤であるEVA樹脂などの有機物を選択的に、内部から急速に加熱・分解します。これにより、ガラスを効率よく、高純度で剥離・分離します。
- 太陽光パネルの再利用が重要な理由:2030年代以降の大量廃棄による埋め立て場の逼迫を防ぐためと、ガラスを資源として再利用し、天然資源の消費や製造時のCO2排出量を削減するためです。
- マイクロ波の問題点:加熱ムラが生じやすく、パネル内の金属部材によるアーク放電のリスクがあることです。また、既存技術に対し経済的優位性を確保し、大規模処理に対応するためのスケールアップが求められます。
マイクロ波による太陽光パネルのガラス再生
マイクロ波化学株式会社は、マイクロ波技術を活用し太陽光パネルのガラス再生(リサイクル)に関する実証事業に取り組んでいます。
実証事業はマイクロ波を利用した太陽光パネルガラス付着有機物除去によるガラスカレット水平リサイクルであり、境省の公募事業に採択されており、タケエイ(TREホールディングスの子会社)などと共同で推進されています。
これは、将来的に大量廃棄が懸念される使用済み太陽光パネルの廃棄問題と、国内のガラス資源循環体制の構築に貢献することが期待される取り組みです。
太陽光パネルガラス再生の方法とは
太陽光パネルのガラス再生(リサイクル)は、パネルを構成するガラス、EVA(封止材の樹脂)、太陽電池セル(金属など)の複合材をいかに効率的・高純度に分離するかが鍵となります。
主な分離・再生方法としては、以下のような技術開発や実証が進められています。
1. 熱処理法(低温熱分解・過熱水蒸気など)
パネル全体またはアルミフレームなどを取り除いた後のガラスとセルシートを熱で分解・剥離する方法です。
- 低温熱分解法: 比較的に低温でEVA(エチレン酢酸ビニル)などの樹脂を熱分解し、ガラスや金属から有機物を除去します。燃焼工程を伴わないものもあり、CO2排出量の削減や、板ガラスの状態で純度の高いガラスを回収できる技術が開発されています。
- 過熱水蒸気法: 600°C以上の過熱水蒸気を用いて有機物を気化させ、セル、銅線、ガラスをそれぞれ高純度で回収する技術もあります。
2. 機械的・物理的な剥離法
加熱した刃や物理的な力を用いて、ガラスをセルシートから剥離・分離する方法です。
- ホットナイフ方式: 約300°Cなどに加熱した刃(ナイフ)をガラスとセルシートの間に挿入し、EVAを溶融させてガラスを割らずに板ガラスのまま分離します。その後、ガラス表面に残ったEVAは特殊なブラシ(ブラシかきとり法など)で物理的に除去し、ガラスの純度を高める技術も実用化されています。
- ローラー剥離/破砕法:
- ローラー式剥離機:パネルを特殊なローラーに通し、ガラスを剥離します。
- 破砕・選別: パネルを圧力をかけて細かく破砕し、その後、風力や色彩選別機などを用いて、ガラス、金属、プラスチックなどの素材ごとに選別・分離します。破砕されるため、回収されるガラスはカレット(ガラス粒)になります。
- ブラスト工法: 粒状の投射材料を噴きつけ、ガラスを剥離させます。
3. 化学的処理法
- 剥離剤・強酸の使用: EVAなどの樹脂を溶液に浸漬させ、化学的に溶解・除去する方法です。除去したい樹脂部分のみに働きかけやすい一方で、薬品の取り扱いに注意が必要です。
4. マイクロ波活用法
- マイクロ波化学が推進している方法(前回の回答参照)で、マイクロ波の特性を活かしてEVAなどの有機物のみを選択的・効率的に加熱し、ガラスから剥離・除去します。
ガラスの再生用途
太陽光パネルから分離・回収されたガラスは、その純度や形状によって、様々な用途で再資源化されます。
- 高純度な板ガラス・カレット
- 水平リサイクル: 新たな太陽光パネルのガラス原料やフロート板ガラスの原料として再利用(最も価値が高いリサイクル)。
- ガラス製品: 他のガラス製品の原料。
- カレット(破砕されたもの)
- 建材: ロードペーブ、インターロッキングブロック、コンクリート骨材(砂利代わり)、グラスウールなどの原料。
- その他: 人工砂として砂浜の造成や水質環境の改善に利用される事例もあります。
このように、様々な企業や研究機関が、より高純度に、より低コスト・低環境負荷でガラスを分離・再生するための技術開発を精力的に進めています。

太陽光パネルのガラス再生は、パネルを熱や機械力で分解し、EVA(封止材)などの有機物を除去してガラスを分離します。高純度なガラスカレットとして回収し、新しいパネルや建材の原料に再資源化します。
マイクロ波で再生出来る理由は何か
マイクロ波で太陽光パネルのガラス再生(EVA樹脂の除去)ができる主な理由は、マイクロ波が有機物であるEVA樹脂を「選択的」かつ「内部から」効率よく加熱・分解できるという特性にあります。
マイクロ波による再生のメカニズム
太陽光パネルは、ガラスと太陽電池セルを、EVA(エチレン酢酸ビニル)樹脂などの有機物で接着・封止した複合材です。このEVAを、マイクロ波が以下のように作用して除去します。
1. 選択的・内部加熱
- 選択加熱: マイクロ波は、誘電率や誘電正接といった電気的な特性が異なる物質に対して、吸収されやすさが異なります。太陽光パネルの構成要素(ガラス、EVA、金属)の中で、EVAなどの有機物は、特定の周波数帯のマイクロ波を効率よく吸収し、発熱しやすい性質を持ちます。
- 内部からの発熱: 従来の加熱炉のように外部から徐々に熱を伝えるのではなく、マイクロ波は物質の内部に直接作用し、分子を振動させて均一かつ急速に発熱させます。
2. 効率的な分解・剥離
- EVAの分解: EVAが急速に高温に達することで、短時間で熱分解が進行します。
- 界面の剥離: EVAが急激に分解・軟化することで、ガラスとセルの接着界面の強度が低下し、剥離しやすくなります。これにより、ガラスを物理的・化学的な処理を少なく、高純度に分離することが可能になります。
3. 環境・エネルギー優位性
- エネルギー効率の向上: 必要な有機物のみを選択的に加熱するため、周囲のガラスや空気を加熱する必要がなく、エネルギー消費を大幅に削減できます。
- CO2排出量の削減: 低温で処理が可能なため、リサイクル工程全体のCO2排出量削減に貢献します。
この「選択的加熱」と「内部からの急速加熱」が、従来の加熱方法や化学処理では難しかった、複合材からの高効率かつ高純度なガラス分離を可能にしている理由です。

マイクロ波は、接着剤であるEVA樹脂などの有機物を選択的に、内部から急速に加熱・分解します。これにより、ガラスを効率よく、高純度で剥離・分離できるためです。
太陽光パネルガラス再生が重要な理由は何か
太陽光パネルガラス再生が重要な理由は、主に以下の3点に集約されます。
資源循環と環境負荷の低減
- 資源の有効活用(資源循環): 太陽光パネルの主要な構成要素であるガラスは、砂(シリカ)から作られる重要な資源です。パネルをリサイクルすることで、天然資源の消費を抑え、資源循環型社会の構築に貢献します。
- 埋め立てスペースの逼迫回避: 太陽光パネルの法定耐用年数(約20〜30年)が経過し、2030年代中頃以降に大量廃棄が予想されています。ガラスやアルミなどの主要部材をリサイクルしなければ、埋め立て処分場が逼迫し、環境問題を引き起こす懸念があります。
- 有害物質の管理: パネルには微量ながらカドミウムや鉛などの有害物質が含まれる場合があります。これらが不適切に埋め立て処分された場合、環境中に流出するリスクがありますが、適切なリサイクルを行うことで、これらの物質の管理・回収が可能になります。
経済的メリットとサプライチェーン強靭化
- リサイクル原料の経済性: 再生されたガラス(カレット)は、新しいガラスを製造する際の原料として使用でき、原料コストを抑えることができます。特に高純度なガラスは、再び太陽光パネル用ガラスとして利用(水平リサイクル)でき、高い経済価値を持ちます。
- 国内サプライチェーンの強靭化: 日本国内で資源循環の仕組みを確立することで、海外からの原料輸入依存度を下げ、国内の資源供給体制を強靭化し、安定的な産業活動を支えることにつながります。
CO2排出量の削減(製造時)
- 製造エネルギー削減: ガラスをゼロから製造(溶融)するには非常に高いエネルギーが必要で、大量のCO2を排出します。一方で、リサイクルガラス(カレット)を原料として使用すると、溶融に必要なエネルギーが削減され、製造時のCO2排出量を大幅に低減できます。これは、地球温暖化対策としても極めて重要です。
これらの理由から、太陽光パネルのガラス再生は、環境保全、資源効率、経済性の全てにおいて重要な取り組みとされています。

太陽光パネルガラス再生が重要な理由は、2030年代以降の大量廃棄による埋め立て場の逼迫を防ぐためと、ガラスを資源として再利用し、天然資源の消費や製造時のCO2排出量を削減するためです。
マイクロ波での課題は何か
太陽光パネルのガラス再生にマイクロ波を活用する技術は多くのメリットがありますが、実用化と普及に向けていくつかの課題があります。
マイクロ波加熱技術一般の課題
マイクロ波加熱は、太陽光パネルのガラス再生に限らず、一般的な産業応用においても以下のような技術的な課題を抱えています。
- 加熱ムラ(不均一加熱):
- マイクロ波は電磁波の特性上、加熱対象物の形状や厚み、均質性によっては、電界の分布が不均一になりやすく、加熱ムラ(ホットスポットとコールドスポット)が生じやすいという課題があります。
- 太陽光パネルのような大きな複合材を対象とする場合、EVA樹脂を均一に加熱・分解し、ガラス全体から均等に剥離させるためのマイクロ波照射技術や装置設計が重要になります。
- 熱暴走(ランナウェイ加熱):
- マイクロ波を吸収しやすい部分にエネルギーが集中しすぎると、その部分が異常に高温になる熱暴走(ランナウェイ加熱)現象が起こることがあります。これを防ぐための緻密な制御が必要です。
- 金属の影響:
- 太陽光パネルには電極の金属やアルミフレームなどが含まれており、これらの金属はマイクロ波を反射するため、アーク放電(スパーク)や加熱効率の低下を引き起こす可能性があります。処理前に金属部分をどこまで取り除くか、あるいは金属が存在する状態で安全かつ効率的に加熱する技術が必要です。
太陽光パネルリサイクル特有の課題
- 処理コスト(費用対効果):
- 現在、リサイクル費用の高止まりが課題となっています。マイクロ波技術が、既存の熱分解や機械的剥離などの手法と比較して、処理能力、運転コスト、設備投資の面で経済的な優位性を確保し、広く普及できるかが重要です。
- 回収ガラスの品質安定性:
- 水平リサイクル(新しい太陽光パネルのガラス原料としての再利用)を目指すためには、除去後のガラスカレットの純度を極めて高く保つ必要があります。EVA樹脂が完全に除去できているか、他の不純物が混入していないかなど、品質を安定させる技術の確立が必要です。
- 実証規模の拡大と量産化:
- 現在、実証事業が進められていますが、今後大量廃棄時代を迎えるにあたり、大規模な商業プラントでの処理能力と安定稼働を実現するためのスケールアップ技術の確立が求められます。
これらの課題を克服することで、マイクロ波を活用したガラス再生技術は、太陽光パネルリサイクルの中核的な技術となることが期待されます。

マイクロ波での課題は、加熱ムラが生じやすく、パネル内の金属部材によるアーク放電のリスクがあることです。また、既存技術に対し経済的優位性を確保し、大規模処理に対応するためのスケールアップが求められます。

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