この記事で分かること
- X-FABの特徴:、ドイツの半導体ファウンドリ(受託製造)企業です。特にアナログ/ミックスドシグナルICや車載・産業用デバイスに特化し、近年はGaN-on-SiやSiCなどの次世代パワー半導体製造にも注力しています。
- ワイドバンドギャップ材料に積極的な理由:高耐圧・高速スイッチング・低電力損失を実現し、Siの限界を超えるためです。EVやデータセンターなど、高効率を求める成長市場の巨大な需要に応える戦略です。
- アナログ/ミックスドシグナルICとは:現実世界の連続的なアナログ信号(音や温度など)を扱う回路と、コンピューターが使うデジタル信号を扱う回路を一つのチップに集積したものです。
X-FABの特徴
X-FABは、GaN-on-Si技術を同社のファウンドリサービスに追加しました。これは、特にワイドバンドギャップ(WBG)半導体ソリューションにおける提供範囲を拡大するものです。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2511/07/news079.html
この動きは、X-FABがピュアプレイ・ファウンドリとして、SiC (炭化ケイ素) に続くGaNという主要なワイドバンドギャップ材料にも対応することで、多様な顧客ニーズに応え、パワー半導体市場での存在感を高める戦略的な一歩と言えます。
前回はバッファ層に関する記事でしたが、今回はX-FABに関する記事となります。
X-FABとはどんな企業か
X-FAB(エックスファブ)は、ドイツに本社を置くアナログ/ミックスドシグナル集積回路(IC)、MEMS(微小電気機械システム)、そして近年注力しているワイドバンドギャップ半導体(GaNやSiCなど)の製造に特化した世界的な半導体ファウンドリ(受託製造)企業です。
自社で製品を設計・販売せず、顧客(ファブレス企業など)から委託された設計図に基づき製造のみを行うピュアプレイ・ファウンドリとして活動しています。
X-FABの主な特徴と強み
1. ニッチな専門分野に特化
大手ファウンドリが主戦場とするデジタルLSI(ロジックIC)ではなく、以下の分野に強みを持つニッチファウンドリとして知られています。
- アナログ/ミックスドシグナルIC: アナログ回路とデジタル回路を組み合わせたICの製造で世界をリードしています。
- 高耐圧・高温対応: 特に車載用途や産業機器で要求される、高耐圧や高温(175℃保証など)の厳しい環境下での動作に対応できる独自プロセス技術を持っています。
- MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems): センサーやアクチュエーターなどのMEMSデバイスの製造技術も提供しています。
2. 主要な応用分野は「車載」
売上構成比で車載用途が最大の割合を占めており、高い信頼性が求められる自動車産業での実績が豊富です。その他、産業機器、医療(メディカル)、コンシューマー分野も手掛けています。
3. 先端材料への取り組み
GaN-on-Siウェーハ提供開始の件からも分かるように、次世代のパワー半導体であるワイドバンドギャップ(WBG)材料にも積極的に投資しています。
- GaN-on-Si: ドイツの8インチ(200mm)工場でGaN-on-Siファウンドリサービス(XG035プラットフォームなど)を提供しており、高い電力効率が求められるEVやデータセンター向けに注力しています。
- SiC(炭化ケイ素): SiCデバイスのファウンドリ事業も拡大しており、パワー半導体の主要な選択肢に対応することで、提供範囲を広げています。
4. 製造拠点と生産能力
ドイツ、フランス、マレーシア、アメリカに製造拠点を持ち、全世界で約4,000名の従業員を抱えています。200mmウェーハ換算で月産10万枚レベルの生産能力を有しています。
X-FABは、高い信頼性が求められるアナログ/ミックスドシグナル分野と、成長著しいパワー半導体分野において、独自の技術と柔軟なサービス(MPW試作サービスなど)で存在感を高めている企業と言えます。

X-FABは、ドイツの半導体ファウンドリ(受託製造)企業です。特にアナログ/ミックスドシグナルICや車載・産業用デバイスに特化し、近年はGaN-on-SiやSiCなどの次世代パワー半導体製造にも注力しています。
ワイドバンドギャップ材料に積極的な理由は何か
X-FABのような半導体ファウンドリがワイドバンドギャップ(WBG)材料に積極的なのは、主に市場の大きな需要と、WBG材料が提供する Si(シリコン)には不可能な高性能という二つの理由からです。
1. Si(シリコン)の限界とWBGの優位性
従来のシリコン(Si)パワー半導体は、物理的な限界に近づいており、特に高電圧・大電流・高速スイッチングが求められる用途で効率改善が難しくなっています。
| 特性 | GaN/SiC(WBG) | Si(シリコン) | メリット |
| バンドギャップ | 広い | 狭い | 高耐圧に優れ、高温動作が可能 |
| 絶縁破壊電界 | 高い | 低い | 高耐圧化と小型化を両立 |
| 電子移動度 | 高い | 低い | 高速スイッチングが可能(スイッチング損失低減) |
| 熱伝導率 | 比較的高い | 低い | 効率的な放熱による信頼性向上 |
これらのWBG材料(特にSiCとGaN)は、 Siデバイスと比較して電力損失を劇的に減らし、システムの小型化・軽量化を可能にします。
2. 成長市場への対応と収益機会
WBGデバイスの需要は、特定の成長市場によって大きく牽引されており、ファウンドリにとっては大きな収益機会となります。
- 電気自動車(EV)と充電インフラ:
- SiCは、EVの駆動用インバータや車載充電器(OBC)の効率を大幅に向上させ、航続距離の延長に貢献します。
- GaNは、急速充電器や車載電源に利用され、システムの小型化に不可欠です。
- データセンターとサーバー電源:
- データセンターの電力消費が増大する中、WBGデバイスはサーバー電源の電力変換効率(PUE)を高め、エネルギーコスト削減に直結します。
- 再生可能エネルギー:
- 太陽光発電のパワーコンディショナ(PCS)や、風力発電のインバータなどで利用され、発電効率の向上に貢献します。
X-FABは、車載分野に強みを持つため、EV市場の爆発的な成長に対応するために、SiCとGaN-on-Siの両方をポートフォリオに追加することが戦略的に不可欠なのです。ファウンドリとして、顧客の次世代製品開発を支えることで、長期的な成長を目指しています。

WBG材料は高耐圧・高速スイッチング・低電力損失を実現し、Siの限界を超えるためです。EVやデータセンターなど、高効率を求める成長市場の巨大な需要に応える戦略です。
アナログ/ミックスドシグナルICとは何か
アナログ/ミックスドシグナルIC(集積回路)とは、アナログ信号を扱う回路とデジタル信号を扱う回路の両方を、一つの半導体チップ上に集積したICのことです。
アナログ/ミックスドシグナルICの役割
このICは、私たちが日常的に触れる現実世界と、コンピューターが扱うデジタル世界の間の橋渡し役を果たします。
1. アナログ信号とは
- 定義: 温度、光、音、圧力、電圧など、連続的に変化する物理量や電気信号のことです。現実世界の情報は基本的にアナログです。
- 回路の役割: 信号の増幅、フィルタリング(ノイズ除去)、電圧制御など、波形そのものを扱う処理を行います。
2. デジタル信号とは
- 定義: 0と1の離散的な値(二進数)のみで表現される信号のことです。コンピューターはこの信号で動作します。
- 回路の役割: データの処理、記憶、論理演算を行います。
3. ミックスドシグナルの機能
アナログ/ミックスドシグナルICの核心的な役割は、この二つの信号形式を相互に変換することです。
- A/D変換(アナログ-デジタル変換): マイク(音)やセンサー(温度)などのアナログ信号を、コンピューターが理解できるデジタル信号に変換します。
- D/A変換(デジタル-アナログ変換): コンピューターが処理したデジタルデータを、スピーカー(音)やモーター(動き)を動かすためのアナログ信号に変換します。
応用分野
この種のICは、スマートフォン、自動車、医療機器、産業機器など、現実世界の信号を検知・処理し、何らかの制御を行うあらゆる電子機器に不可欠です。
- スマートフォン: 音声処理、電源管理、無線通信など。
- 自動車: センサーからの情報(速度、温度など)処理、バッテリー管理。
- 産業機器: 測定器のデータ取得、モーターの精密制御など。
X-FABのようなファウンドリがこの分野に特化しているのは、アナログ回路の設計・製造には高度なノウハウと高いノイズ耐性が求められ、デジタルICとは異なる専門性が要求されるためです。

アナログ/ミックスドシグナルICは、現実世界の連続的なアナログ信号(音や温度など)を扱う回路と、コンピューターが使うデジタル信号を扱う回路を一つのチップに集積したものです。両世界を繋ぐ役割を果たします。
アナログ/ミックスドシグナルICでの競合はどこか
アナログ/ミックスドシグナルIC分野におけるファウンドリ(受託製造)の競合は、主に特殊プロセスや高電圧・高信頼性技術に特化した企業、および大手ファウンドリの成熟プロセス部門となります。X-FABは、この中でも特にニッチな特殊プロセスに強みを持っています。
主要な競合ファウンドリ
アナログ/ミックスドシグナルIC(特に車載や産業用など高信頼性が求められる分野)の製造を巡る競合は以下の通りです。
1. 特殊プロセス特化型ファウンドリ(X-FABの直接的な競合)
X-FABと同様に、アナログ、パワー半導体、MEMSなどの特殊なプロセスに注力している企業です。
- GlobalFoundries (GF)
- 強み: 大手ながら、RF-SOI、SiGe、FT-eNVM(不揮発性メモリ組み込み)など、アナログ・ミックスドシグナル向けの特殊プロセスプラットフォームを多く持ち、車載・産業分野に強いです。
- Tower Semiconductor (タワーセミコンダクター) (インテル傘下)
- 強み: RF(無線周波数)、電源管理IC(PMIC)、CMOSイメージセンサー、高電圧プロセスなど、アナログ/ミックスドシグナルに特化したファウンドリであり、X-FABの最も近い競合の一つです。
- VIS (Vanguard International Semiconductor)
- 強み: 台湾のファウンドリで、ミックスドシグナルや高電圧プロセスに強みを持ち、特にディスプレイ駆動ICなどで実績があります。
2. 大手総合ファウンドリの成熟プロセス部門
大手ファウンドリも、微細化の進まないアナログIC製造のために、成熟した世代のプロセスを提供しています。
- UMC (United Microelectronics Corporation) 🇹🇼
- 強み: 特殊プロセス(eNVM、高電圧、BCDなど)を提供し、車載や産業用アナログICの製造も手掛けています。
- TSMC (Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)
- 強み: 最先端プロセスだけでなく、アナログ/ミックスドシグナル向けの成熟ノードや、高電圧、BCD(バイポーラCMOS DMOS)プロセスも提供しています。ただし、最先端プロセスが主力であるため、特殊プロセス専業ファウンドリほどの柔軟性や専門性がない場合があります。
X-FABの競争優位性
X-FABが競合他社と差別化を図る主な要素は以下の通りです。
- 高耐圧・高温対応: 特に車載や産業用に特化した、厳しい環境下での動作を保証する高信頼性プロセスに強みがあります。
- オープンなプラットフォーム: GaN-on-SiやSiCといったワイドバンドギャップ(WBG)材料の製造技術を、顧客が利用しやすいオープンなファウンドリサービスとして提供している点です。
- 技術の融合: CMOS、SOI、MEMSといった異なる技術を一つのプラットフォームに統合できる能力も強みです。

X-FABは、「高信頼性・特殊アナログICファウンドリ」というニッチ市場で、GFやTower Semiconductorなどと激しく競争している状況です。

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