この記事で分かること
- 位置合わせの方法:高精度なボンドアライナーを使用し、ウエハ上の微細なアライメントマークをIR透過顕微鏡などで検出します。X, Y, Θ軸を含む多軸駆動機構で、ズレをサブマイクロメートル単位で調整し、密着させます。
- ピエゾアクチュエータとは:電圧をかけると伸縮する圧電素子(ピエゾ素子)の特性を応用した駆動装置です。ナノメートル級の極めて高い分解能で精密な位置決めが可能で、ウエハ接合のアライメントや半導体製造装置に不可欠です。
ウエハ直接接合での位置合わせ
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は高温での熱処理での接合に関する記事でしたが、今回は位置合わせ、アライメントに関する記事となります。
どうやって位置合わせするのか
ウエハの直接接合における位置合わせ(アライメント)は、単なる重ね合わせではなく、ナノメートル〜サブマイクロメートル(nm)レベルの極めて高い精度が要求される技術です。
このアライメントは、主にボンドアライナー(接合用位置合わせ装置)と呼ばれる専用の装置で行われます。
高精度な位置合わせの方法
1. アライメントマークの利用
- マークの形成: 接合する2枚のウエハの表面(接合面)または裏面に、位置合わせ用の微細なパターン(アライメントマーク)があらかじめ形成されています。
- 光学的な検出: 高倍率の顕微鏡やカメラシステムを用いて、これらのマークを光学的に観察します。
2. 両面アライメント技術
- 分離された工程: 従来の接合技術ではアライメントと接合が同一の工程で行われがちでしたが、現在ではアライメント(位置合わせ)とボンディング(接合)の工程を分離した装置が主流です。
- 高精度な観察: 2枚のウエハをわずかな隙間(ギャップ)を開けて保持した状態で、両面からマークを同時に観察し、ズレがないかを確認しながら位置を調整します。
- シリコンウエハは赤外線(IR)光に対して透明であるため、回路層が厚い場合でも、IR透過顕微鏡を使って接合面側のマークを検出することが可能です。
3. 多軸制御による微調整
- 6軸アライメント: 高精度なボンドアライナーは、ウエハを保持するステージをX軸(左右)、Y軸(前後)、Θ軸(回転)の平面方向だけでなく、Z軸(高さ)や傾きも含めた6軸方向で精密に制御します。
- ピエゾアクチュエータ: ピエゾアクチュエータなどの超精密な駆動装置を用いて、マークのズレが±0.2μmといった極めて狭い許容範囲内に収まるまで微調整されます。
4. 接触と固定
- 接合開始: 位置合わせが完了すると、ウエハ間のギャップを狭めて接触させ、水素結合による仮結合(プレボンディング)を開始します。
- クランプ・固定: 接触時に位置ずれが生じないよう、ウエハを保持具(クランプ)で高精度に固定した状態で、接合工程(密着、熱処理)へ移行させます。

高精度なボンドアライナーを使用し、ウエハ上の微細なアライメントマークをIR透過顕微鏡などで検出します。X, Y, Θ軸を含む多軸駆動機構で、ズレをサブマイクロメートル単位で調整し、密着させます。
ピエゾアクチュエータとは何か
ピエゾアクチュエータ(Piezo Actuator)とは、圧電効果(ピエゾ効果)を応用した位置決め素子や駆動装置のことです。電気エネルギーを直接、精密な機械的な変位(動き)に変換します。
1. 動作原理(逆圧電効果)
- 圧電素子: 特定のセラミックス(PZTなど)や結晶は圧電性を持っています。
- 逆圧電効果: この素子に電圧を印加すると、素子の結晶構造が歪み、極めて微小な伸縮が生じます。この現象を利用して、電気信号を直接、機械的な動きに変えます。
- 積層構造: 実際の製品では、この薄い圧電材料と電極を多数重ね合わせた積層アクチュエータにすることで、各層の変位を累積させ、実用的な変位量(数十〜数百μm)を得ています。
2. 主な利点(ウエハ接合での重要性)
- 無限の分解能: 変位は結晶の歪みに基づく固体力学的な動きであるため、摩擦要素がなく、原理的にナノメートル(nm)レベルの極めて高い分解能で精密な位置決めが可能です。これが、ウエハ接合における超高精度な位置合わせに不可欠な理由です。
- 高速応答性: 応答速度が非常に速く、数マイクロ秒(μs)といった速い応答が可能です。
- 大発生力: サイズの割に高い剛性を持ち、大きな耐荷重と発生力を持ちます。
- 摩耗・断裂なし: 可動部品がないため、摩耗や断裂がなく、長寿命です。
3. 用途
半導体製造装置(ウエハのアライメントや露光装置のステージ制御)、光通信部品の精密調整、インクジェットプリンターのヘッド駆動、ディーゼルエンジンの燃料噴射制御など、超精密な位置決めや高速な駆動が求められる分野で幅広く利用されています。

電圧をかけると伸縮する圧電素子(ピエゾ素子)の特性を応用した駆動装置です。ナノメートル級の極めて高い分解能で精密な位置決めが可能で、ウエハ接合のアライメントや半導体製造装置に不可欠です。
どうやってウエハを高精度に固定するのか
ウエハを保持具(クランプ)で高精度に固定する方法は、「位置合わせの精度を保つ」ことと「接合面を汚染しない」ことの両立が重要となります。ウエハの直接接合プロセスで用いられる主な固定方法は、以下の通りです。
1. エッジクランプ方式
最も一般的な方法で、ウエハの外周(エッジ)のみを機械的な爪や機構で保持し、固定します。
- 目的: 接合されるウエハの表面(デバイスが形成される面)に一切触れないことで、パーティクル(微粒子)の付着やスクラッチ(傷)による接合面の汚染や損傷を防ぐことが最重要目的です。
- 位置決め保持: 高精度なアライメント(位置合わせ)を完了した後、このエッジクランプ機構がウエハをしっかりと固定し、その後の密着動作やチャンバーへの搬送中に位置がズレるのを防ぎます。
2. 真空クランプ(静電チャック)
ウエハ接合装置のチャンバー内で、ウエハをステージ(チャック)に吸着・固定するために使われる方法です。
- 静電チャック: ウエハとチャックの間に電圧を印加することで、静電気的な引力によりウエハをチャックに密着させ、固定します。
- 利点: 接触面積が大きく、ウエハを均一に保持できるため、特に平坦性を保ちたい場合に有効です。また、機械的な爪による応力集中を避けることができます。
- 真空吸着: チャック表面に設けた微細な穴から空気を吸引し、気圧差によってウエハを吸着・固定します。
3. 接合治具による固定(旧方式・搬送時)
以前は、アライメントを行った後に、ウエハを専用の治具(ジグ)で挟み込んでクランプし、そのまま真空チャンバーに搬送してから接合を開始する方式も用いられていました。
- 課題: しかし、この方式は治具の着脱や搬送時にズレが発生しやすかったり、治具自体からのアウトガス(放出ガス)が汚染源となるリスクがありました。
- 現状: 現在の高精度接合装置は、真空チャンバー内でアライメントから接合までを一貫して行い、ピエゾアクチュエータで精密に位置制御した上で、エッジクランプなどで位置を保持し密着させる方式が主流となっています。
「高精度アライメント後の位置保持」は、接合界面のズレをナノメートル単位で防ぎ、高い歩留まりを達成するために非常に重要な技術です。

高精度な固定には、接合面を汚染しないためにウエハの外周(エッジ)のみを掴むエッジクランプ方式が主流です。また、チャックに静電気や真空で吸着させる方法も用いられ、アライメント後の位置ズレを防ぎます。
ボンドアライナーの有力メーカーはどこか
ウエハの直接接合(ダイレクトボンディング)やハイブリッドボンディングに使用されるボンドアライナー(接合用位置合わせ装置)およびウェーハ接合装置の分野で有力なメーカーは、主に以下の企業が挙げられます。
1. 欧州勢
- EV Group (EVG) – オーストリア
- 特徴: ウェーハ接合装置のリーディングカンパニーの一つであり、特に両面アライメント技術のパイオニアとして知られています。ハイブリッド接合やフュージョン接合など、幅広い接合技術に対応しています。
- SUSS MicroTec (ズース・マイクロテック) – ドイツ
- 特徴: マスクアライナーやボンドアライナーで有名で、特にナノインプリントリソグラフィ(NIL)と接合を組み合わせた複合装置(UV-Nanoimprint Bond Aligner)など、高精度なアライメント・接合技術に強みを持っています。
2. 日本勢
- 東京エレクトロン (TEL)
- 特徴: 半導体製造装置全般で世界的な大手であり、ウェーハ接合装置分野でも市場をリードする主要プレイヤーの一つです。
- ニデックマシンツール(Nidec Machine Tool、旧日本電産マシンツール)
- 特徴: 常温ウェーハ接合装置(BOND MEISTERなど)に注力しており、表面活性化(SAB:Surface Activated Bonding)技術を用いた接合装置を提供しています。
- ボンドテック (Bondtech Co., Ltd.)
- 特徴: 常温接合プロセスに特化した装置を提供しており、研究開発分野でも実績があります。
これらのメーカーは、3次元積層やMEMS、パワーデバイス向けなど、用途に応じてナノメートル〜サブマイクロメートル級の超高精度な位置合わせが可能な装置を提供し、市場を牽引しています。

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