日本の自動車大手7社の損益悪化 苦戦の理由は何か?完全の上昇幅はどれくらいか?

この記事で分かること

  • 苦戦の理由:主な要因はアメリカによる追加関税です。ほかにもアジアの市場構造変化や成長の鈍化、半導体の供給不足なども要因となっています。
  • 追加関税の状況:従来の2.5%から一時27.5%(11倍)にまで追加されました。現在は日米関税合意により15.0%に引き下げられましたが、それでも従来の6倍という高水準で、自動車メーカーの収益を圧迫しています。
  • アジアの市場の動向:中国EV勢の価格攻勢と現地生産強化で競争が激化しています。日系メーカーの牙城だった東南アジアでもEVシェアを奪われ、市場構造の転換と供給過多のリスクに直面しています。

日本の自動車大手7社の損益悪化

 日本の自動車大手7社は、アメリカの関税、アジアの市場変化、半導体不足など、多くの障害の影響で、4〜9月期としては、5年ぶりに全社の最終損益が悪化しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB100FP0Q5A111C2000000/

 様々な状況が複合的に作用し、自動車メーカーは厳しい経営環境に置かれている状況がうかがえます。

日本からの輸入車に対する追加関税はどれくらい上がったのか

 日関税率は、主に以下の通り大幅に上昇しました。

🇺🇸 乗用車に対する関税率の変遷

時期従来の関税率追加関税の引き上げ合計の関税率上昇幅(従来の関税率との比較)
2025年4月以前2.5%追加関税なし2.5%
追加関税発動時2.5%25.0% を追加27.5%11倍(2.5%から)
日米関税合意後2.5%(基本)12.5% を追加15.0%6倍(2.5%から)

重要なポイント

  1. 最大の引き上げ幅(一時): トランプ政権が発動した当初、乗用車の関税は従来の 2.5%25% の追加関税が上乗せされ、合計で27.5%となりました。これは従来の11倍という大幅な上昇です。
  2. 現在の適用率: その後、日米間の関税交渉(日米関税合意)の結果、乗用車の関税率は15%に引き下げられました。
  3. 依然高い水準: この15%という水準は、追加関税が発動される前の2.5%と比べると6倍に当たり、自動車メーカーの収益を依然として大きく圧迫する要因となっています。

 なお、小型トラック(ピックアップトラックなど)については、従来の関税率がもともと25%と高率であり、これに追加関税が上乗せされた時期もありました。

日本からの輸入車に対する関税は、従来の2.5%から一時27.5%(11倍)にまで追加されました。現在は日米関税合意により15.0%に引き下げられましたが、それでも従来の6倍という高水準で、自動車メーカーの収益を圧迫しています。

各社の関税対策にはどのようなものがあるのか

 日本の自動車メーカーは、米国による追加関税(特に乗用車で2.5%から15.0%への上昇)に対応するため、短期的な対応から長期的な構造改革まで、多岐にわたる対策を講じています。

 主な対策は以下の3つの柱に集約されます。


1. 生産・サプライチェーンの再編(現地生産の強化)

関税を根本的に回避するため、米国国内での生産と部品調達を増やし、「米国製」の比率を高める戦略です。

  • 🇺🇸 米国内生産の拡大:
    • トヨタ自動車: 米国内の工場への追加投資を発表するなど、現地生産を維持・強化する方針。関税引き上げ後も国内生産300万台(日本国内)は「揺るがない」としつつ、現地生産の最適化を進めています。
    • ホンダ: 主力車種の生産をカナダやメキシコなどから米国に移管し、米国での販売台数の大半を現地生産で賄う計画を進めています。
    • 日産自動車: SUVなど一部車種の国内生産を米国に移管する方向で検討しています。
  • 部品調達先の見直し:
    • 関税回避のため、日本やその他の国からの部品調達を減らし、米国内または関税の影響が少ない国(NAFTA/USMCA圏内など)へのシフトを加速しています。

2. 価格・利益戦略の調整

関税によるコスト増をどこが負担するか、販売戦略を調整する対策です。

  • コスト削減: 部品メーカーとの協力により、部品の調達コスト削減や生産ラインの効率化を徹底し、関税分を内部で吸収することを目指しています。
  • 価格戦略の維持: トヨタなど一部メーカーは、関税によるコスト増加分をすぐに販売価格に転嫁せず、当面は価格を据え置く方向で検討していると報じられています。これは、競争力を維持するためですが、その分企業の利益が圧迫されます。
  • 製品ミックスの変更: 利益率の高い高付加価値モデルや現地生産モデルに販売の焦点を絞ることで、全体の収益性を確保しようとしています。

3. 日本政府との連携

 メーカーだけでなく、政府も産業界を支援する対策を講じています。

  • 交渉の実施: 日本政府は米国との二国間交渉を通じて、関税率の引き下げ(27.5%から15%への引き下げなど)を実現しました。
  • 支援策の提供: 経済産業省や政府系金融機関は、「米国自動車関税措置等に伴う特別相談窓口」を設置し、資金繰り支援や貿易保険(NEXI)による支援などを行っています。

 これらの対策は、関税という障壁を乗り越えるため、自動車産業全体でグローバルサプライチェーンの抜本的な見直しを迫られている状況を示しています。

関税回避のため、米国での現地生産・部品調達を拡大し、日本からの輸出を抑制。短期では徹底したコスト削減で関税分を吸収し、販売価格の急激な上昇を抑える戦略をとっています。

アジアでのクルマ市場状況はどうか

 自動車市場におけるアジアの状況は、地域とセグメントによって「低迷と構造的な課題」と「EV化による激しい競争」という二つの側面が混在しています。以下に主要な状況をまとめます。


1. 市場全体は停滞と「課題」に直面

アジアの主要市場の一部では、成長が鈍化し、構造的な課題が顕在化しています。

  • ASEAN市場の頭打ち(「100万台の罠」): タイ(約80万台前後)やインドネシア(約100万台前後)といったASEANの主要市場は、長年市場規模が頭打ちの状態にあり、「100万台の罠」と呼ばれています。
    • 背景: 中間所得層の購買力伸び悩みや、金利高止まりによる自動車ローンの審査厳格化、公的な景気刺激策(減税など)の打ち切りなどが需要を抑制しています。
  • インド市場の堅調な成長: 一方、インドは経済成長と所得増加を背景に販売台数が過去最高を更新するなど、市場拡大が続いています。
  • 日本勢の支配とシェア低下: 長年、東南アジアではトヨタ、ホンダなどの日系メーカーが圧倒的なシェア(乗用車市場の9割以上を占める国もある)を維持してきましたが、近年は中国勢のEV攻勢により、シェアを落とし始めています。

2. EVシフトによる市場構造の激変

 EV(電気自動車)分野は中国メーカーの参入により、競争環境が激変しています。

  • 中国EVメーカーの猛攻:
    • タイ、インドネシア: 中国のBYD(比亜迪)やMGなどのメーカーが、各国の優遇政策や補助金を活用し、積極的な価格戦略でEV販売を急拡大させています。
    • 市場シェア: 東南アジア全体のEV市場では、既に中国車の販売台数が7割以上を占める地域もあり、日本車の「牙城」が崩れ始めています。
  • 日系メーカーの対応遅れ: 日系メーカーはハイブリッド車(HEV)では優位性を保っていますが、EV分野でのラインナップや戦略が遅れていると指摘されており、中国勢の猛追を受けています。

3. 供給過多とコスト競争の激化

 各国がEV生産の優遇策を打ち出した結果、中国系メーカーなどが現地に次々と工場進出を計画しており、今後、ASEAN域内全体で生産能力が過剰になるリスクが高まっています。これにより、コスト競争が一層激化することが懸念されています。


 アジアの自動車市場は、日系メーカーにとっては伝統的な優位性が崩れ、EV化を巡る構造転換と激しいコスト競争に直面している状況と言えます。

アジアのクルマ市場は、中国EV勢の価格攻勢現地生産強化で競争が激化。日系メーカーの牙城だった東南アジアでもEVシェアを奪われ、市場構造の転換と供給過多のリスクに直面しています。

半導体不足の要因は何か

 現在、自動車メーカーが直面している半導体不足の要因は、一過性の問題ではなく、「車載需要の構造的な増加」「供給側の構造的なボトルネック」が複合的に絡み合っていることにあります。

 特に自動車メーカー特有の要因を含め、主なポイントは以下の通りです。


1. 車載半導体の構造的な需要増加

  • 1台あたりの搭載量増加(電装化・自動化):
    • 自動車は、エンジン制御からインフォテインメント、先進運転支援システム(ADAS)に至るまで、電子化が急速に進んでいます。
    • 特にEV(電気自動車)や自動運転の普及により、車両1台あたりに必要な半導体の数と性能が飛躍的に増加しており、需給ギャップが拡大しています。
  • コンシューマー製品との競争:
    • AIや5G通信、データセンター向け高性能チップの需要も同時に急増しており、半導体メーカーの限られた生産能力や最新鋭の生産ラインを、自動車業界がPCやスマートフォンなどの巨大市場と奪い合う形になっています。

2. 供給側の構造的なボトルネック

  • レガシー半導体の生産能力不足:
    • 自動車に使われる半導体(特に車体制御やマイコンなど)の多くは、高性能なロジックチップではなく、比較的古い世代(レガシープロセス)の技術で製造されています。
    • 半導体メーカーは、収益性の高い最新鋭チップ(AIチップなど)への設備投資を優先するため、レガシー半導体のライン増強は後回しになりがちで、供給能力が追い付いていません。
  • 長期的な製造リードタイムと投資不足:
    • 半導体工場(特に自動車向けは高い信頼性が求められるため)の新設やライン増強には、数年単位の期間数千億円規模の費用がかかります。そのため、短期的な需要増加に機動的に対応することが非常に困難です。

3. 自動車メーカー側の構造的な課題

  • 初期の「誤発注」と優先順位:
    • 新型コロナパンデミック初期(2020年頃)、多くの自動車メーカーは販売の落ち込みを見越して半導体の発注を削減しました。その後、市場が予想外に急回復した際、すでに生産枠は巣ごもり需要のコンシューマー製品メーカーに割り当てられており、自動車メーカーは調達競争で後れを取りました。
  • サプライチェーンの硬直性:
    • 車載半導体は高い品質と信頼性が要求されるため、サプライヤーの認定プロセスが非常に長く、複雑です。そのため、代替の調達先を見つけたり、柔軟に設計を変更したりすることが難しく、需給逼迫時に対応が遅れがちになります。
  • 地政学的・偶発的リスクの影響:
    • 半導体製造拠点(台湾など)の一極集中による地政学的リスクや、工場の火災・災害(ルネサス火災、テキサス寒波など)といった偶発的な事故の影響を、自動車サプライチェーンが受けやすい状況にあります。

 これらの要因により、多くの自動車メーカーは現在も必要な半導体の安定調達に苦労し、生産調整を余儀なくされることがあります。

自動車メーカーの半導体不足は、EV・自動運転化による搭載量の急増と、コロナ初期の発注削減が重なった結果です。利益率の高いAI・スマホ向けに生産能力が優先され、車載用旧世代チップの供給が追いつかない構造的な問題があります。

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