この記事で分かること
- AIサーバー用メモリに要求される性能:超高速なデータ転送速度(広帯域幅)と大容量が必須です。特に大規模モデルに対応するため、HBMのような広帯域メモリや、高速なDDR5が採用されます。
- ルネサスの開発品の特徴:DDR5規格に対応し、AIサーバーのデータ書き込み速度を従来比約10%改善します。GPUとDRAM間のデータ転送を高速化・安定化させ、AI処理能力のボトルネック解消に貢献します。
ルネサスのAIサーバー用メモリ
ルネサスエレクトロニクスが開発したAIメモリー向け半導体について、サムスン電子へのサンプル出荷を開始したという情報が確認されています。

この半導体は、主にAI(人工知能)用サーバーに搭載されるメモリー向けに開発されたものです。
AI用サーバーに搭載されるメモリに必要な性能は何か
AI(人工知能)用サーバー、特に大規模なAIモデルの学習や推論を行うサーバーに搭載されるメモリには、従来の汎用サーバーのメモリとは異なる、非常に高いレベルの性能が求められます。
AIサーバー用メモリに必要とされる主要な性能は、以下の3点に集約されます。
1. 超高速なデータ転送速度(メモリ帯域幅)
これがAIサーバー用メモリにおいて最も重要とされる性能です。
- 重要性:
- AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)の学習や推論では、膨大な数のパラメータ(重み)をGPU(AIアクセラレータ)の演算コアとメモリの間で高速にやり取りする必要があります。
- GPUの演算能力がいかに高くても、メモリとの間のデータ転送速度(帯域幅)が遅いと、データ待ちが発生し、全体の処理性能が頭打ちになってしまいます。これを「メモリのボトルネック」と呼びます。
- 対応技術:
- この要求を満たすために、HBM (High Bandwidth Memory)という、DRAMチップを積層して超広帯域を実現する特殊なメモリ技術が、AIチップ(GPUなど)の近くに搭載されることが主流となっています。
- 汎用メモリでも、最新のDDR5規格が高速化に貢献していますが、HBMはDDR5の数倍から数十倍の帯域幅を実現します。
2. 大容量
AIモデルの複雑化と大規模化に伴い、メモリ容量の重要性も増しています。
- 重要性:
- 大規模なAIモデル(例:最新の生成AIモデル)は、数億から数兆のパラメータを持ち、モデル全体や、学習・推論に必要な中間データをメモリ上に保持する必要があります。
- メモリ容量が不足すると、モデルの一部をストレージに退避させる必要が生じ、処理速度が大幅に低下します。
- 要求水準:
- AI開発環境では、一般的に16GB~32GB以上が推奨され、大規模なディープラーニングや生成AIにおいては、64GB~128GB以上のシステムメモリ、そしてAIアクセラレータに搭載されるVRAM(ビデオRAM)も24GB以上が求められるケースが増えています。
3. 低遅延(レイテンシ)
データ転送速度だけでなく、データにアクセスする際の応答時間(遅延)も重要です。
- 重要性:
- 特に推論処理などでは、データアクセスにかかる時間が短いほど、ユーザーへの応答速度(レスポンスタイム)が向上します。
- 技術的な側面:
- ルネサスが開発したようなRCD (Registered Clock Driver)などの半導体は、DRAMモジュール上でクロック信号を安定させ、高速で正確なデータ転送をサポートすることで、データ書き込みの速度改善と遅延の削減に貢献します。
まとめ
ルネサスが開発した半導体は、DDR5などの汎用的なサーバーメモリの性能を底上げする**RCD(レジスタード・クロック・ドライバー)という位置づけです。これは、AIサーバーが要求する「高速なデータ転送」をDRAMメーカーと共に実現するための重要なコンポーネントと言えます。
AIサーバーでは、HBM(超高帯域幅)とDDR5(大容量・低遅延)といった複数の高速メモリ技術が組み合わされて使われています。

AIサーバーのメモリは、超高速なデータ転送速度(広帯域幅)と大容量が必須です。特に大規模モデルに対応するため、HBMのような広帯域メモリや、高速なDDR5が採用されます。これにより、GPUの演算能力を最大限に引き出します。
ルネサスが開発したメモリの特徴は何か
ルネサスエレクトロニクスが開発した、サムスン電子にサンプル出荷されたAIメモリー向け半導体の主な特徴は、AIサーバーのデータ処理速度を向上させる点にあります。
この半導体は、具体的には「RCD(レジスタード・クロック・ドライバー)」と呼ばれる種類のICチップです。
主な特徴
1. データ書き込み速度の改善
- 性能向上: CPUやGPUがメモリー(DRAM)にデータを書き込む際の速度を、従来品よりも約10%改善しました。
- 重要性: AIサーバーでは、演算用半導体(GPUなど)の処理能力が非常に高いため、メモリーとのデータ転送速度がボトルネックになりがちです。このRCDは、メモリーアクセスの速度を上げることで、システム全体のAI処理能力の向上に貢献します。
2. DDR5規格への対応
- 役割: DDR5規格のDRAMモジュール(RDIMM:レジスタードDIMM)に不可欠なコンポーネントです。
- 技術的な貢献: RCDは、メモリーモジュール上でクロック信号と制御信号を整え、多数のDRAMチップに正確に伝送する役割を担います。これにより、DDR5の高速データ転送(高帯域幅)と安定動作を可能にしています。
3. AI時代の高負荷な要求への対応
- ターゲット: 生成AIの普及により、データ容量と処理負荷が急増しているAIサーバー市場をターゲットにしています。
- 目的: DRAMメーカーと協調して開発することで、AIアクセラレータの進化に伴う、より高速で安定したメモリーインターフェースの実現を目指しています。
RCD(レジスタード・クロック・ドライバー)とは?
RCDは、サーバー用メモリの性能を安定化・高速化させるためのキーコンポーネントです。
大量のDRAMチップが搭載されたメモリーモジュールでは、CPU/GPUから送られる信号が弱くなり、複数のチップへ正確に届かなくなります。
RCDは、この信号をモジュール上でリフレッシュし、高速・正確・安定的にDRAMチップへ伝達することで、サーバーが要求する高い動作周波数と信頼性を実現しています。
ルネサスは、このRCD分野で高いシェアを持つ企業の一つです。

ルネサスが開発したAIメモリー向け半導体(RCD)は、DDR5規格に対応し、AIサーバーのデータ書き込み速度を従来比約10%改善します。GPUとDRAM間のデータ転送を高速化・安定化させ、AI処理能力のボトルネック解消に貢献します。
どうやって信号をリフレッシュしているのか
RCD(レジスタード・クロック・ドライバー)がメモリーモジュール上で信号を「リフレッシュ」する仕組みは、主に信号の整形と増幅にあります。
ここで言う「リフレッシュ」とは、DRAMのデータ自体を更新する「リフレッシュ動作」とは異なり、電気信号の品質を回復させることを指します。
RCDによる信号のリフレッシュ(回復)の仕組み
RCDの主な機能は、CPU/GPUから送られてくる「クロック信号」や「コマンド・アドレス信号」を、大容量メモリーモジュールに搭載された多数のDRAMチップに、正確かつ同時に送り届けることです。
1. 信号の受信とバッファリング
- 信号の減衰対策: CPU/GPUからメモリーモジュールに送られる信号は、電気配線を伝わるうちに弱くなったり(減衰)、ノイズによって波形が乱れたりします。
- バッファリング: RCDは、まずこれらのコマンド信号やクロック信号を一旦受け取って保持(バッファリング)します。これにより、CPU/GPU側のメモリーコントローラーにかかる電気的な負荷を大幅に軽減します。
2. 信号の整形(タイミング調整とジッター除去)
- タイミングの調整: RCDは、受け取った信号のタイミングを正確に再調整します。特に、クロック信号のジッター(揺らぎ)を除去し、全てのDRAMチップに安定したタイミングで信号が届くように制御します。
- DDR5の進化: DDR5世代では、RCDはさらに進化し、より多くの独立したクロック信号をDRAMグループに供給できるようになりました。これにより、信号の品質(シグナルインテグリティ)が大幅に向上しています。
3. 信号の増幅と駆動(再送信)
- 増幅: RCDは、弱くなった信号を増幅し、駆動能力を高めてから、モジュール上の多数のDRAMチップに向けて再送します。
- 負荷の分散: RCDがない場合、CPU/GPUはモジュール上の全てのDRAMチップに対して直接信号を送らなければならず、電気的な負荷(キャパシタンス・ロード)が極端に大きくなります。RCDは、この負荷を自らが肩代わりし、信号を分割して再送することで、高速なデータ伝送を可能にしています。
このように、RCDは、高密度・高速なサーバー用メモリー(RDIMM)において、信号の「中継器」や「タイミングマスター」として機能し、信号の劣化を防ぎ、正確な動作を保証する役割を果たしているのです。

RCDは、CPUからの信号を一時的に受け取って増幅し、タイミングを正確に再調整(バッファリング)します。これにより、信号の減衰やノイズを防ぎ、メモリーモジュール上の多数のDRAMチップへ高速かつ安定した信号を再送信しています。

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