この記事で分かること
- 規制の内容:主に中国のファーウェイやSMICなど特定企業への販売に輸出許可を義務付けました。さらに、16nm以下のロジックICなど、最先端の半導体技術の中国への輸出を原則制限し、米国の規制と協調しています。
- 行う理由:米国の対中半導体規制との協調が主因です。最先端技術の中国軍事転用を防ぎ、自国の技術的優位性を保護し、地政学的リスクを管理することが目的です。
- 中国側の対応:台湾の規制を強く批判し、対抗措置を示唆しています。実質的な対応として、政府の補助金を使い、半導体の内製化・国産化をさらに加速させ、技術的な自立を目指します。
台湾の中国への半導体輸出規制
台湾は、半導体技術のリーディングカンパニーとして、特に中国への輸出に関して、その動向が注目されています。最近の報道によると、台湾当局は、特定の中国企業への輸出管理を強化する動きを見せています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-11-12/T5LW59T96OSG00
これらの規制動向は、世界の半導体サプライチェーンやビジネス環境に長期的な影響を与えると見られています。
規制の内容は何か
台湾の半導体輸出規制の主な内容は、主に特定の中国企業に対する販売を制限する措置と、最先端の半導体技術の輸出を管理する措置の二本立てで進められています。
1. 輸出規制リストへの中国企業の追加(主に「誰に売るか」の制限)
最も明確な措置として、台湾当局は近年、特定の中国企業を「戦略的ハイテク商品企業リスト」に追加しました。
- 対象企業(例):
- ファーウェイ(Huawei)
- SMIC(中芯国際集成電路製造)
- 規制内容:
- 台湾企業は、このリストに掲載された企業に対し、半導体などの商品を販売する前に、経済部(国際貿易局)からの輸出許可を取得することが義務付けられます。
- これは、アメリカの通商政策と歩調を合わせたもので、武器拡散活動やその他の国家安全保障上の懸念がある企業・個人に対する取引を厳しく管理することが目的です。
2. 最先端半導体の技術ノードによる規制(主に「何を売るか」の制限)
台湾の規制は、アメリカ政府が定める対中輸出管理規則(EAR)と密接に連携しており、特に軍事転用の恐れがある先端技術の中国への輸出を厳しく制限しています。
原則として、以下の水準の半導体および関連技術・製造装置の対中輸出は、個別申請が必要となり、原則不許可となります。
| カテゴリ | 規制対象の技術水準 |
| ロジックIC | 16ナノメートルまたは14ナノメートル以下の製造プロセス |
| DRAM | 18ナノメートルハーフピッチ以下の製造プロセス |
| NANDフラッシュ | 128層以上の製造技術 |
これにより、台湾のファウンドリー最大手であるTSMCなどが持つ最先端の製造技術が、中国に流出したり、中国での生産能力増強に使われたりすることを防ぐ狙いがあります。
台湾は「ファーウェイやSMICなどの特定企業には許可なく売らない」「16nm以下の最先端チップは原則として中国に輸出しない」という形で、輸出規制を強化しています。

台湾の半導体輸出規制は、主に中国のファーウェイやSMICなど特定企業への販売に輸出許可を義務付けました。さらに、16nm以下のロジックICなど、最先端の半導体技術の中国への輸出を原則制限し、米国の規制と協調しています。
規制を行う理由は何か
台湾が半導体輸出規制を強化する主な理由は、以下の3つに示す地政学的な要因と国家の技術的優位性の保護に集約されます。
1. 米国の対中規制との協調・追随
- 米国の圧力と連携: 米国は、中国の軍事力強化やAI技術開発への利用を防ぐため、中国への最先端半導体および製造装置の輸出規制を大幅に強化しています。
- サプライチェーンの維持: 台湾の半導体産業は、製造装置やEDA(設計ツール)などで米国技術に大きく依存しています。そのため、台湾企業が米国の規制を無視して中国との取引を続ければ、米国からの技術供給が途絶えるリスクがあります。
- 国際的な責任: 台湾は、民主主義陣営の一員として、また世界の半導体サプライチェーンの「要」として、米国をはじめとする同盟国と安全保障上の懸念を共有し、連携して行動している側面があります。
2. 国家安全保障と技術的優位性の防衛
- 軍事転用の阻止: 最先端の半導体は、人工知能(AI)やスーパーコンピューターなど、軍事技術や兵器開発に不可欠です。台湾は、自国の技術が中国の軍事力強化に利用されることを防ぐため、能動的に規制をかけています。
- 技術の流出防止: 台湾は、TSMCなどが持つ世界最先端のチップ製造技術(16nm以下など)を最大の競争優位性としています。このコア技術が中国に流出し、中国の半導体自給自足(内製化)を加速させるのを阻止したいという狙いがあります。
- 「欺瞞工作」への対応: 特定の中国企業(例:ファーウェイ)が、米国の制裁を回避するために複雑な経路を使って台湾からチップを調達しようとしたとされる事例があり、これに対応するためにも、輸出リストの対象を強化する必要が生じました。
3. 地政学的リスクの管理
- 台湾リスクの軽減: 台湾海峡を巡る地政学的な緊張が高まる中で、半導体サプライチェーンの安定性が国際的に懸念されています。台湾が国際社会の懸念に配慮し、透明性のある輸出管理を行うことで、自国の地位と産業のレジリエンス(強靭性)を確保しようとしています。

米国の対中半導体規制との協調が主因です。最先端技術の中国軍事転用を防ぎ、自国の技術的優位性を保護し、地政学的リスクを管理することが目的です。
中国側はどう対応するのか
台湾による半導体輸出規制強化に対し、中国側は主に以下の3つの方向で対応を進めています。
1. 政治的な批判と対抗措置の示唆
- 強い批判: 中国政府(国務院台湾事務弁公室など)は、台湾の輸出規制強化を「海峡両岸の経済・貿易交流の正常な秩序を断固として守るため」に、「強力な対抗措置を講じる」と述べるなど、強く批判しています。
- 「テロ組織と同列」との報道: 規制リストにファーウェイやSMICが追加されたことは、中国企業にとってサプライチェーンの遮断を意味し、中国側の「AIドリーム」や「半導体自給」への大きな打撃であると報じられています。
2. 半導体技術の「内製化」と「国産化」の加速
- 自立化への投資: 米国および台湾の規制は、中国が自国の半導体サプライチェーンを完全に内製化する動きをさらに加速させています。巨額の政府補助金を投じ、国内メーカー(SMICなど)の研究開発を強力に支援し続けると予想されます。
- 成熟半導体への注力: 先端品の製造が難しくなる中、中国企業は比較的技術的ハードルが低い成熟半導体(レガシーノード)の生産能力を増強し、この分野での世界的なシェアを拡大する戦略を進めています。
- 規制回避の試み: 規制対象となった企業(例:ファーウェイ)は、国内の代替サプライヤーを見つける、あるいは複雑なネットワークや技術的な創意工夫によって、規制の抜け穴を探る動きを続けると見られます。
3. 法的な手段の検討
- WTOへの提訴: 中国は、米国の対中輸出規制(台湾の規制の背景にあるもの)について、過去に世界貿易機関(WTO)に提訴するなどの法的な対抗手段も取っています。台湾の規制についても同様の国際的な場での主張を行う可能性があります。
中国は公式には規制を非難しつつ、実務面では自国の技術開発と国産化を加速させることで、台湾や米国の規制による影響を克服しようとしています。

中国は、台湾の規制を強く批判し、対抗措置を示唆しています。実質的な対応として、政府の補助金を使い、半導体の内製化・国産化をさらに加速させ、技術的な自立を目指します。

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