日本ゼオンのSiAT社への投資 SiAT社の持つ材料とは何か?投資を行う理由は何か?

この記事で分かること

  • SiAT社の持つ材料:次世代リチウムイオン電池の電極に使う単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を独自の技術で分散させた導電ペーストです。電池のエネルギー密度や寿命向上に貢献します。
  • SWCNTの電気伝送性が高い理由:炭素原子のグラフェン構造を持つため、電子が特定の原子に固定されず、チューブ全体を自由に移動する非局在化π電子を形成し、高い電気伝導性を生み出します。
  • 日本ゼオンが投資する理由:日本ゼオンのSWCNT(単層カーボンナノチューブ)事業を、急成長する次世代リチウムイオン電池市場で拡大するためです。SiAT社の生産能力増強を支援し、導電ペーストの拡販を加速します。

日本ゼオンのSiAT社への投資

 日本ゼオンは、次世代リチウムイオン電池向けの材料開発を手掛ける台湾のスタートアップ企業であるSino Applied Technology Co., Ltd.(SiAT社)に投資を実施しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC090ZV0Z01C25A1000000/

 日本ゼオンは、2015年に世界で初めて独自の技術でSWCNTの量産に成功し、「ZEONANO®」というブランドで製造・販売しており、SiAT社は日本ゼオンのSWCNTを組み込んだ導電ペーストの開発を進めています。

 この提携により、原材料の供給から最終製品(導電ペースト)の提供までの一貫した体制を強化し、成長する電池市場での事業拡大を目指しています。

SiAT社の次世代リチウムイオン電池向けの材料とは何か

 SiAT社(Sino Applied Technology Co., Ltd.)が次世代リチウムイオン電池向けに開発・製造・販売している材料は、主に単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用いた導電ペーストです。


技術的な特徴

1. 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)

  • 導電助剤としての利用: SWCNTは、リチウムイオン電池の電極材料(正極・負極)に混ぜる導電助剤として使われます。これは、電極内の活物質粒子間、および活物質と集電体の間の電気的な経路を確保し、抵抗を減らす役割を果たします。
  • 優位性: 従来の導電助剤(カーボンブラックや多層カーボンナノチューブなど)に比べ、SWCNTは以下のような優れた特性を持ちます。
    • 高い電気伝導性: 少量添加するだけで、高い導電性を発揮できます。
    • 高い機械的強度: 電極の構造安定性向上に寄与します。
    • 高アスペクト比: 非常に細く長いため、効率的なナノスケールの導電ネットワークを形成しやすいです。
  • 効果: SWCNTを使うことで、電極設計の自由度が増し、電池のエネルギー密度向上急速充電性能の改善、サイクル寿命の長期化に貢献します。

2. 導電ペースト

  • SiAT社は、この高性能なSWCNTを独自に分散技術を用いてインク状の導電ペーストとして製品化しています。
  • このペーストは、電池メーカーが電極を製造する際に、他の材料(活物質、バインダーなど)と共に均一に混合しやすく、製造工程での取り扱いを容易にしています。

次世代電池への貢献

 このSWCNT導電ペーストは、特に高い性能が求められる以下の分野の次世代リチウムイオン電池で需要が高まっています。

  • 電気自動車 (EV)
  • ドローンやeVTOL (電動垂直離着陸機)
  • AIサーバーのバックアップ電源 (BBU)
  • 大規模な電力貯蔵システム (ESS)

 日本ゼオンは、このペーストの主要原材料であるSWCNT「ZEONANO®」を供給しており、SiAT社への投資を通じて、次世代電池市場における材料の供給体制を強化しています。

SiAT社の材料は、次世代リチウムイオン電池の電極に使う単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を独自の技術で分散させた導電ペーストです。電池のエネルギー密度や寿命向上に貢献します。

単層カーボンナノチューブが高い電気伝導性を持つ理由は何か

 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)が高い電気伝導性を持つ主な理由は、その特殊な原子構造に由来します。


1. グラフェン構造とπ電子の非局在化

 SWCNTは、グラフェンシート(炭素原子が六角形格子状に並んだシート)を円筒形に丸めた構造をしています。

  • π電子の存在: 各炭素原子は、周りの3つの原子と強く結合(sp2混成)していますが、外殻にある4番目の電子(π電子)は特定の原子に固定されず、チューブ全体にわたって非局在化しています。
  • 「電子の海」: この非局在化されたπ電子が、チューブの長さに沿って自由に移動できる「電子の海」を形成します。電流は、この自由に動く電子の流れによって運ばれるため、導電性が非常に高くなります。

2. キラリティー(巻き方)の影響

 カーボンナノチューブの電気的性質は、グラフェンシートの丸められる角度(キラリティー)によって決まります。

  • 金属型: 特定の巻き方(例:アームチェア型)をしたSWCNTは、エネルギーギャップが存在しないという特性を持ち、銅などの金属に匹敵する金属的な導電性を示します。理論上、従来の導体の数百倍の電流密度に耐えうるとされます。
  • 半導体型: 別の巻き方をしたSWCNTは、半導体的な性質を示します。

 SiAT社の導電ペーストで利用されるSWCNTは、優れた導電性を発揮するものが選ばれているため、リチウムイオン電池の電極内で効率的な電子の移動経路を提供し、電池の内部抵抗を大幅に低減します。

単層カーボンナノチューブは、炭素原子のグラフェン構造を持つため、電子が特定の原子に固定されず、チューブ全体を自由に移動する非局在化π電子が「電子の海」を形成し、高い電気伝導性を生み出します。

日本ゼオンが投資をする理由は何か

 日本ゼオンが台湾のSiAT社(Sino Applied Technology Co., Ltd.)に投資をする最大の理由は、自社の強みである素材事業を成長著しい次世代リチウムイオン電池市場で拡大し、収益の柱とするためです。


投資の主な目的

 この投資は、主に以下の3つの戦略的な目的を持っています。

1. SWCNT事業の拡販と強化

 日本ゼオンは、世界に先駆けて単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を量産化し、「ZEONANO®」として提供しています。

  • 垂直連携の強化: SiAT社は日本ゼオンのSWCNTを使用して導電ペーストを製造しています。この投資により、原材料(日本ゼオン)から最終製品(導電ペースト/SiAT社)に至る垂直的なサプライチェーンを強化し、市場への製品供給を安定させます。
  • 用途開発の加速: SiAT社の持つ導電ペースト技術と、日本ゼオンの素材技術を組み合わせることで、電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵システム(ESS)向けの次世代電池市場におけるSWCNT導電ペーストの用途展開と拡販を加速させます。

2. 急成長する市場への対応

 次世代リチウムイオン電池の需要は、EVやドローン、高性能電源などの普及により爆発的に拡大しています。

  • 生産能力の確保: SiAT社が計画する年間生産能力を5倍(25,000トン)に拡大する計画を日本ゼオンが主導することで支援し、急増する市場ニーズに対応できる供給体制をいち早く構築します。
  • 市場における地位確立: 高性能なSWCNT導電ペーストは、電池のエネルギー密度や急速充電性能の向上に不可欠であり、この成長市場でキープレイヤーとしての地位を確立することを目指しています。

3. 事業ポートフォリオの強化

 日本ゼオンは、高機能材料を収益の柱としていますが、この投資は、特に成長が見込まれるエネルギー分野での事業基盤をさらに強固にするものです。これにより、長期的な企業価値向上を目指します。

日本ゼオンのSWCNT(単層カーボンナノチューブ)事業を、急成長する次世代リチウムイオン電池市場で拡大するためです。SiAT社の生産能力増強を支援し、導電ペーストの拡販を加速します。

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