この記事で分かること
- 合弁会社設立の理由:両社の技術力とノウハウを結集し、MLCCなどの電子部品研究開発を加速することで、リードタイムを短縮し、顧客ニーズへ迅速に対応できる体制を築くのが目的です。
- MLCCとは:、セラミック誘電体と金属電極を何層も積み重ねた(積層した)非常に小さな電子部品です。電気を一時的に蓄え、電子回路のノイズ除去や電圧安定化に不可欠な役割を果たします。
- 日本化学工業の強み:無機化学品製造で培われた高い専門性が特徴です。特に、MLCCの心臓部である誘電体の原料の高純度化技術と、ナノスケールでの薄層化に必要な粒子の大きさや形を精密に制御する粒子設計技術に強みを持っています。
TDKと日本化学工業株式会社の合弁会社
TDKは、日本化学工業株式会社と、電子部品向け材料開発に関する合弁会社設立の検討を開始することで基本合意書を締結しました。
https://www.tdk.com/ja/news_center/press/20251127_01.html
両社が製造を手掛けている積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)のセラミック材料をはじめとする、電子部品材料や製造プロセスの開発を共同で行っていくとされています。
共同出資会社の内容は何か
TDKと日本化学工業が検討を進めている共同出資会社(合弁会社)は、電子部品向けの材料開発を主な事業内容とする予定です。
共同出資会社の内容(検討段階)
| 項目 | 詳細 |
| 主な事業目的 | 電子部品向けの材料開発とそのプロセス開発。特に、積層セラミックチップコンデンサ(MLCC)のセラミック材料などが想定されています。 |
| 設立の狙い | 1. 両社が持つ技術力と開発・評価ノウハウを結集し、研究開発のスピードを加速する。 |
| 2. 試作・評価から市場投入までのリードタイムを短縮する。 | |
| 3. 顧客ニーズに迅速に応える体制を構築する。 | |
| 出資割合 | (※現在の情報では具体的な出資比率や資本金などの詳細は公表されていません。今後検討が進められます。) |
現時点では、両社が基本合意書を締結し、この内容を実現するための合弁会社設立に向けた検討を進めている段階です。

TDKと日本化学工業は、電子部品向けの材料開発を行う合弁会社の設立を検討しています。両社の技術力とノウハウを結集し、研究開発を加速することで、リードタイムを短縮し、顧客ニーズへ迅速に対応できる体制を築くのが目的です。
積層セラミックチップコンデンサとは何か
積層セラミックチップコンデンサは、英語名であるMulti-Layer Ceramic Capacitorの頭文字をとってMLCCとも呼ばれる、現代の電子機器に不可欠な受動部品(パッシブ部品)の主流です。
構造と役割
- 構造:
- セラミック製の誘電体層(電気を蓄える絶縁体)と、金属製の電極層を交互に、何百層、何千層と薄く積み重ねた(積層した)構造をしています。
- 役割(機能):
- 電気を一時的に蓄える(貯め込む)働きをします。
- この機能により、電子回路においてノイズを除去したり、電源電圧を安定化(平滑化)させたり、特定の信号だけを通すフィルタとして働きます。
- 半導体集積回路(IC)が正常に動作するためのサポート役として非常に重要です。
特徴
- 小型・軽量: 非常に小さく、スマートフォンには数百個、電気自動車には数千個以上も搭載されています。電子機器の小型化・軽量化に不可欠です。
- 大容量化: 積層技術や薄層化技術により、小型ながらもより多くの電気を蓄えられる静電容量(容量)の増大が進んでいます。
- 高周波特性: 高い周波数の信号を扱う回路(例:5G通信機器)での使用に適しています。
- 高い信頼性: 厳しい環境下でも安定した性能を発揮します。
TDKと日本化学工業が共同で材料開発を検討しているのは、まさにこのMLCCの性能(特にセラミック誘電体材料)をさらに向上させ、小型・大容量化のニーズに応えるためです。

MLCCとも呼ばれ、セラミック誘電体と金属電極を何層も積み重ねた(積層した)非常に小さな電子部品です。電気を一時的に蓄え、電子回路のノイズ除去や電圧安定化に不可欠な役割を果たします。
なぜ合弁会社を設立するのか
TDKと日本化学工業が合弁会社を設立する主な理由は、電子部品市場の急速な進化に対応し、競争力を強化するためです。両社が公表している情報から、具体的な目的は以下の3点に集約されます。
合弁会社設立の3つの目的
- 研究開発のスピード加速
- TDKの電子部品(特にMLCC)に関する設計・評価ノウハウと、日本化学工業の材料合成・素材技術を結集させます。
- これにより、従来の個別の開発よりも圧倒的に速いスピードで新しい材料やプロセスを生み出すことを目指します。
- リードタイムの短縮
- 材料の開発から、電子部品として試作・評価を行い、最終的に市場へ投入するまでの期間(リードタイム)を短縮します。
- 開発の川上(材料)と川下(部品)を一体化させることで、迅速なフィードバックループを実現します。
- 顧客ニーズへの迅速な対応
- 特に自動車(EV化、自動運転)やICT機器(5G/6G)市場では、電子部品の小型化、大容量化、高信頼性化のニーズが非常に高まっています。
- 上記1と2を達成することで、これらの高度で多様な顧客ニーズに対して、他社に先駆けて迅速かつ的確に応えられる体制を構築することが最大の狙いです。
電子部品の性能を左右する「素材」と「部品化技術」を融合させることで、次世代の高性能なMLCCをはじめとする電子部品をいち早く市場に投入するための戦略的提携と言えます。

TDKと日本化学工業が合弁会社を設立する理由は、電子部品の材料開発において、両社の技術を結集し、研究開発のスピードを加速するためです。これにより、顧客ニーズへの迅速な対応と市場競争力の強化を目指します。
日本化学工業材料合成・素材技術の特徴は何か
日本化学工業のMLCC向け材料合成・素材技術の主な特徴は、電子部品の核となる無機化学品の製造で培われた高い専門性、特に誘電体材料に関する技術力にあります。
日本化学工業の技術的な強み
MLCCの主要材料である誘電体(電気を蓄えるセラミック材料、主にチタン酸バリウムなど)の原料や製品開発において、以下の技術が強みとなっています。
- 高純度化技術
- MLCCの性能、特に信頼性や寿命を向上させるためには、材料の高純度化が不可欠です。
- 日本化学工業は、長年にわたりバリウム原料などの無機化学品を扱ってきた歴史から、極めて純度の高い炭酸バリウムなどを提供しており、これが高純度な誘電体材料の製造基盤となっています。
- 粒子設計技術(微細構造制御)
- MLCCは、誘電体層をナノスケールで薄層化・多層化することで大容量化を実現します。この薄い層を安定的に、かつ高密度に積み重ねるには、使用する誘電体粉末の粒子の大きさ(粒径)や形状を精密に制御する技術が重要です。
- 日本化学工業は、製品の粒子の大きさや形を自在にコントロールする粒子設計技術において、ノウハウと競争力を有しています。
- 無機化学品の製造ノウハウ
- 創業130年以上の歴史の中で蓄積された、温度、圧力、濃度などの無数のパラメータを最適に制御する製造ノウハウ(暗黙知)が、高品質な製品を安定して大量生産する基盤となっています。これは新規参入者が容易に模倣できない「技術の壁」とされています。
この高度な材料合成・粒子設計技術と、TDKの持つ電子部品の設計・評価ノウハウを結びつけることが、今回の合弁会社設立の核心であり、次世代の高性能MLCC開発の鍵となります。

日本化学工業のMLCC向け材料技術は、無機化学品製造で培われた高い専門性が特徴です。特に、MLCCの心臓部である誘電体の原料(チタン酸バリウムなど)について、高純度化技術と、ナノスケールでの薄層化に必要な粒子の大きさや形を精密に制御する粒子設計技術に強みを持っています。

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