この記事で分かること
- 目標達成方法:COP成形品、特殊ケミカル、単層カーボンナノチューブ(CNT)を次期成長事業とし、採用拡大や増設を実施し、低収益事業の整理・撤退によるポートフォリオの組み換えと、モビリティ、医療・ライフサイエンス、情報通信、GXの成長4分野への注力で、収益性向上を図ります。
- COPとは:シクロオレフィンポリマーのことで、優れた透明性、低い吸湿性、高い純度を持つ高性能プラスチックです。光学レンズやディスプレイのフィルム、医療用容器、半導体関連部品など、高い精度や信頼性が求められる分野で幅広く活用されています。
- COPの拡大の理由:高透明性、低吸湿性、高純度などの特性が、高機能デバイス、医療・ライフサイエンス、高速通信、半導体といった先端分野の厳格な要求に合致するため成長しています。
日本ゼオンの成長戦略
日本ゼオンは2025年6月11日に、2028年度(2029年3月期)の経営目標を発表しました。この計画では、売上高4,500億円、営業利益420億円を目指しています。
https://jp.reuters.com/markets/world-indices/X6YCJSKSH5MGPEJWYZUMW4Y5UQ-2025-06-11/
対して、2024年度(2025年3月期)の実績は、売上高4,206億円、営業利益293億円でした。
この計画は、2025年度から2028年度までの「中期経営計画:STAGE30」の第3フェーズにあたり、「選択と集中」を進め、ポートフォリオの組み換えを行うことで利益率の向上を目指すとしています。
どのように目標達成しようとしているのか
以下の分野を成長事業として位置づけ、増設や最適生産体制の構築を進める方針です。
- シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂
- COPフィルム
- 電池材料
また、COP成形品、特殊ケミカル、単層カーボンナノチューブ(CNT)を次期成長事業とし、採用拡大や増設を実施する予定です。
一方で、ノンコア事業や低収益事業については、縮小撤退や資本提携などにより整理を進める方針です。投下資本利益率(ROIC)を基準とした整理も行われます。
さらに、モビリティ、医療・ライフサイエンス、情報通信、GX(グリーントランスフォーメーション)を成長4分野とし、売上高に占める比率を2024年度の37%から2028年度には48%に引き上げる目標を掲げています。

COP製品や電池材料を重点成長事業とし、増産・最適化を進めます。同時に、低収益事業の整理・撤退によるポートフォリオの組み換えと、モビリティ、医療・ライフサイエンス、情報通信、GXの成長4分野への注力で、収益性向上を図ります。
シクロオレフィンポリマーとは何か
シクロオレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer、略称:COP)は、脂環構造を持つ飽和炭化水素ポリマーの一種です。簡単に言うと、分子の中に環状(サイクルのような)構造を持っているプラスチックの仲間です。
この特殊な分子構造により、COPは非常に優れた特性を数多く持ち、様々な分野で活用されています。
COPの主な特徴
- 高透明性・精密な光学特性:
- ガラスに匹敵する高い透明度を持ち、光の透過性に優れています。
- 屈折率やアッベ数(色収差の少なさを示す指標)が安定しており、光学部品(レンズ、プリズム、光学フィルムなど)に最適です。
- 低吸湿性・寸法安定性:
- プラスチックの中でも非常に低い吸水性(0.01%未満)を誇り、高湿度下でもほとんど寸法変化しません。これにより、精密な成形が可能で、反りや変形が少ない製品が作れます。
- 高純度・低不純物・低脱ガス:
- 不純物が極めて少なく、非常にクリーンな樹脂です。そのため、半導体製造工程で使う容器や医療器材など、高い清浄度が求められる用途に適しています。樹脂からの揮発成分(脱ガス)も少ないです。
- 耐熱性:
- 高いガラス転移点(Tg)を持ち、高温環境下でも形状や特性が安定しています。
- 低誘電率・低誘電正接:
- 熱可塑性樹脂として最高レベルの電気特性を持ち、特に高周波領域での信号損失が少ないため、高速通信機器の部品などにも使われます。
- 耐薬品性:
- 酸、アルカリ、アルコールなどに対して優れた耐性を示します。
- 軽量:
- 比重が0.95~1.01と軽く、製品の軽量化に貢献します。
COPの主な用途
これらの優れた特性から、COPは多岐にわたる分野で利用されています。
- 光学部品: カメラレンズ、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ用光学フィルム、導光板、光ピックアップレンズなど。
- 医療・バイオ用途: 医薬品包装、医療用デバイス、分析用光学セル、診断キット、バイオテクノロジー関連製品など。高い透明性、バリア性、低不純物特性が活かされます。
- 半導体分野: 半導体容器、フォトレジスト材料など。高い清浄度や耐薬品性が求められます。
- 電子部品・通信機器: 高周波コネクタ、アンテナ基板、5G関連部品など。低誘電率・低誘電正接が強みです。
- 自動車部品: ヘッドランプ部材など、軽量化や耐熱性が求められる用途。
日本ゼオンは、このCOPを世界に先駆けて独自に開発し、「ZEONEX®」や「ZEONOR®」といった製品名で展開しており、同社の主力製品の一つとなっています。

シクロオレフィンポリマー(COP)は、優れた透明性、低い吸湿性、高い純度を持つ高性能プラスチックです。光学レンズやディスプレイのフィルム、医療用容器、半導体関連部品など、高い精度や信頼性が求められる分野で幅広く活用されています。日本ゼオンが開発し、主力製品の一つとなっています。
なぜ透明性が高いのか
シクロオレフィンポリマー(COP)が高い透明性を持つ主な理由は、その非晶性(アモルファス性)にあります。
非晶性とは?
多くの高分子材料には、分子が規則的に並んだ「結晶部分」と、不規則に絡み合った「非晶部分」があります。結晶部分は光を散乱させてしまうため、結晶が多いプラスチックほど不透明になります。
しかし、COPは分子鎖が規則的に並ばず、ランダムに配置されている「非晶性」の構造を持っています。これにより、光がポリマー内部を透過する際に散乱されにくく、非常に高い透明性を保つことができます。まるでガラスのように光がそのまま透過するため、光学部品に適しているのです。
その他の要因
- 飽和結合のみで構成されている: COPは炭素原子同士の単結合(C-C結合)のみで構成されており、可視光の波長範囲で光をほとんど吸収しません。これも透明性の高さに寄与しています。
- 高純度: 不純物が少ないことも、光の吸収や散乱を抑え、透明性を維持する上で重要です。
これらの特徴が組み合わさることで、COPはガラスに匹敵するほどの高い透明性を実現しています。

シクロオレフィンポリマー(COP)が高い透明性を持つのは、分子が不規則に配置された「非晶性」構造だからです。これにより、光が内部で散乱されにくく、効率的に透過します。また、飽和結合のみで構成され、可視光を吸収しないことも理由です。
なぜシクロオレフィンポリマーが成長すると考えているのか
シクロオレフィンポリマー(COP)が成長事業と位置付けられ、需要が拡大している主な理由は、その優れた特性が現代社会の多様な高機能ニーズに合致しているためです。
COPが成長する主な理由
- 高機能デバイスの進化と小型化・多機能化:
- スマートフォン、タブレット、VR/ARグラス、ヘッドアップディスプレイなどの情報通信デバイスは、より小型で高機能化が進んでいます。これには、高透明性、低複屈折、耐熱性、寸法安定性に優れた光学レンズやフィルムが不可欠であり、COPがその要求を満たします。特に、低複屈折を実現した新グレードの開発も進んでおり、高性能化に貢献しています。
- 医療・ライフサイエンス分野の拡大:
- 医療技術の進歩や高齢化社会の進展により、医療機器や医薬品の需要が増加しています。COPは、その高純度、低不純物、低吸水性、耐薬品性、生体適合性から、医薬品包装、医療用デバイス、診断キット、細胞培養用マイクロプレートなどに適しています。特に、単回使用の医療器具(シングルユース)の需要拡大も、COPの成長を後押ししています。
- 高速通信インフラ(5G/6G)の発展:
- 5Gに代表される高速・大容量通信では、信号損失を極力抑えることが重要です。COPは、極めて低い誘電率と誘電正接という電気特性を持つため、高速通信対応のアンテナ基板や電子部品の保護・絶縁材として需要が高まっています。
- 半導体産業の発展:
- 半導体製造プロセスでは、極めてクリーンな環境が求められます。COPの高純度、低脱ガス性、耐薬品性は、半導体製造工程で使われる容器や部材として最適であり、半導体産業の成長とともに需要が拡大しています。
- 環境規制への対応と持続可能性:
- 近年、環境負荷の低減や持続可能性への意識が高まっています。COPはリサイクル技術の開発も進められており、バージン樹脂と同等の品質で再生可能になるなど、環境規制への対応や持続可能な素材としての期待も高まっています。また、一部の環境規制物質(例:PFAS)の代替材料としても注目されています。
これらの要因が複合的に作用し、COPは多様な産業において「汎用品では満たせない高機能な材料」として、今後も安定した需要拡大が見込まれています。

COPは、高透明性、低吸湿性、高純度などの特性が、高機能デバイス、医療・ライフサイエンス、高速通信、半導体といった先端分野の厳格な要求に合致するため成長しています。小型化・高機能化が進む現代社会のニーズに不可欠な素材となっています。
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