この記事で分かること
1. Rigettiの特徴
自社工場「Fab-1」を持つ垂直統合型の体制が強みで、チップの設計から製造までを迅速に行えます。高速処理が可能な「超伝導方式」を採用し、複数のチップを繋ぐ「チップレット技術」で拡張性を追求。実用的なエラー抑制と商用化に注力しています。
2. 超伝導方式とは何か
金属を極低温に冷やし、電気抵抗をゼロにした「超伝導回路」を量子ビットとして使う方式です。IBMやGoogleも採用する主流派で、既存の半導体製造技術を転用でき、計算操作のスピードが非常に速いのが大きな特徴です。
3. エラーが多くも超伝導方式を検討する理由
計算速度が他方式より圧倒的に速く、既存の半導体インフラを活用した量産化に有利だからです。エラーの多さは、将来的にビット数を増やして互いにミスを補完し合う「量子エラー訂正技術」により克服可能と期待されています。
量子コンピュータ企業:Rigetti
量子コンピューティング業界は「研究から商用化への過渡期」という極めて重要なフェーズにあります。
IonQ、Rigetti、D-Wave、そしてQuantum Computing Inc.(QCI)といった主要プレイヤーは、目覚ましい技術的進歩を遂げる一方で、「投資家の期待」と「厳しい財務的現実」の板挟みに直面しています。
前回は量子コンピュータの代表的な企業であるIonQに関する記事でしたが、今回はRigettiに関する記事となります。
Rigettiの特徴は
2026年現在のRigetti Computing(リゲッティ)は、IBMと並ぶ「超伝導方式」の代表格として、独自の垂直統合モデルを追求しています。
IonQなどのイオントラップ型と比較すると、より「高速な処理速度」と「既存の半導体技術との親和性」に重きを置いています。
1. 垂直統合型の製造体制(Fab-1)
Rigettiの最大の武器は、自社で量子チップの設計・製造・パッケージングを一貫して行う専用工場「Fab-1」を所有していることです。
- 迅速な開発: チップの設計変更から試作までのサイクルが極めて速く、独自の「マルチチップ・プロセッサ(チップレット)」技術を支えています。
- チップレット技術: 2026年現在は、複数の小さなチップを並べて一つの巨大な計算機を作る「モジュール型」をいち早く商用化しており、100量子ビットを超えるAnkaa-3システムなどを展開しています。
2. 超伝導方式による「スピード」
IBMと同様の「超伝導方式」を採用しており、極低温(絶対零度近く)で動作します。
- 計算速度: イオントラップ方式(IonQなど)に比べ、1回の計算ステップ(ゲート操作)が圧倒的に速いのが特徴です。
- ハイブリッド計算: 既存のスパコン(古典)と量子を組み合わせて高速に回す「量子・古典ハイブリッド・アルゴリズム」において、その通信ラグの少なさが強みを発揮します。
3. オープンソースと実用性重視の戦略
開発者コミュニティを重視し、早い段階から「Forest」というソフトウェア環境や、リバーサイド(Riverlane)などのパートナー企業と連携してきました。
- 実用的なエラー抑制: 2026年の戦略では、量子ビットの「数」を競うのではなく、エラーを抑えて実務に使える「質の向上」を最優先しており、金融や物流企業との共同研究に注力しています。
IonQが「精度と資金力」でリードしているのに対し、Rigettiは「製造の柔軟性と処理速度」で対抗しています。株価や財務面ではIonQに劣るものの、米国の製造拠点(Fab)を持つという安全保障上の強みから、政府系プロジェクトでは根強い存在感を示しています。

自社工場を持つ「垂直統合型」の体制が強みで、チップの高速な開発サイクルを誇ります。高速処理が得意な「超伝導方式」を採用し、複数のチップを繋ぐ「チップレット技術」で拡張性を追求。実用的なエラー抑制と商用化に注力しています。
超伝導方式とは何か
超伝導方式とは、電気抵抗がゼロになる「超伝導」という現象を利用した電気回路によって量子ビット(計算の最小単位)を作る方式です。
現在、IBMやGoogle、Rigettiといった企業が採用しており、最も開発が進んでいる主流の方式の一つです。
1. 仕組み:電気回路を量子にする
超伝導方式では、アルミニウムなどの金属を絶対零度近く(約マイナス273℃)まで冷やします。すると、電気抵抗が完全に消え、量子力学的な性質が目に見える回路のレベルで現れます。
- ジョセフソン接合: 回路の途中に「絶縁体」を挟んだ特殊な構造(ジョセフソン接合)を作ります。ここで電子のペア(クーパー対)がトンネル効果で通り抜ける際、エネルギーの段差が生まれます。
- 0と1の定義: このエネルギーの低い状態を「0」、高い状態を「1」とし、その中間(重ね合わせ)の状態をマイクロ波(電磁波)を当てて操作します。
2. 主なメリット
- 計算スピードが速い: イオントラップ方式などに比べ、1回の計算操作(ゲート操作)が非常に高速です。
- 既存技術の応用: チップの製造工程が、現在のパソコンやスマホに使われる「半導体リソグラフィ技術」と似ているため、これまでの製造インフラや知見を活かしやすい利点があります。
3. 課題
- 巨大な冷却装置が必要: 量子状態を保つために、宇宙の温度よりも低い極低温に保つ「希釈冷凍機」という巨大な装置が不可欠です。
- エラーが起きやすい: 回路が物理的に大きいため、周囲のノイズや熱の影響を受けやすく、量子状態が壊れやすい(デコヒーレンス)という弱点があります。
方式の比較:超伝導 vs イオントラップ
| 特徴 | 超伝導方式 (IBM, Rigetti) | イオントラップ方式 (IonQ) |
| 量子ビット | 人工的な電気回路 | 自然界の原子(イオン) |
| 操作スピード | 非常に速い | 比較的ゆっくり |
| 計算精度 | 課題あり(エラー多め) | 非常に高い |
| 冷却 | 極低温(冷凍機が必要) | 真空・電磁場(ビット自体は常温) |
超伝導方式は、いわば「人工的に作った巨大な原子」で計算するようなもので、その製造のしやすさから早期の規模拡大(量子ビット数の増加)が期待されています。

金属を極低温に冷やし、電気抵抗をゼロにした「超伝導回路」を量子ビットとして使う方式です。IBMやGoogleが採用する主流派で、既存の半導体製造技術を転用でき、計算スピードが非常に速いのが大きな特徴です。
なぜ電気抵抗がなくなると量子現象を発現するのか
「電気抵抗がゼロになるから量子現象が起きる」というよりは、「膨大な数の電子が、一つの巨大な波(量子状態)として一斉に振る舞い始めた結果、電気抵抗がゼロになる」というのが物理学的な正しい順序です。
この現象は「巨視的量子現象」と呼ばれ、以下の3つのステップで説明されます。
1. 2人で1組の「クーパー対」を作る
本来、マイナスの電気を持つ電子同士は反発し合いますが、極低温下では結晶格子の振動(フォノン)を介して、わずかな「引き合い」が生じます。これにより、2つの電子がペアを組んだ「クーパー対」となります。
2. 「軍隊」のような統制(量子凝縮)
単独の電子(フェルミ粒子)は同じ場所に重なることができませんが、ペアになったクーパー対は「ボース粒子」のような性質を持ち、無数のペアが全く同じエネルギー状態(一つの波)に重なることができます。
- たとえ話: バラバラに歩く通行人(通常の電子)ではなく、全員が全く同じ歩幅・リズムで進む「巨大な軍隊の行進」のような状態になります。これを「量子凝縮」と呼びます。
3. 「障害物」を無視して進む
電気抵抗の正体は、電子が金属内の原子(不純物)にぶつかってエネルギーを失う(散乱する)ことです。
しかし、超伝導状態では全電子が一つの巨大な波として固く結びついているため、一部の電子が障害物にぶつかろうとしても、周りの巨大な波の勢いに引きずられ、進路を乱されることがありません。

極低温下で電子がペア(クーパー対)を組み、無数のペアが位相の揃った「一つの巨大な波」として重なり合うためです。この集団的な量子状態では、個々の電子が不純物にぶつかって散乱することができず、エネルギー損失ゼロのまま流れるようになります。
エラーが多くても超伝導方式を検討する理由は何か
超伝導方式は、エラー(ノイズ)に弱いという大きな弱点がありながらも、Google、IBM、Rigettiといった巨頭たちが総力を挙げて開発を続けています。その理由は、単なる欠点を補って余りある「圧倒的なポテンシャル」が3つあるからです。
1. 圧倒的な「計算スピード」
超伝導方式は、他の方式に比べて1回の操作(ゲート操作)にかかる時間が極めて短いです。
- 速度の差: イオントラップ方式などが「ミリ秒〜マイクロ秒」単位なのに対し、超伝導は「ナノ秒(10億分の1秒)」単位で動きます。
- メリット: 量子状態が壊れる前に、膨大なステップの計算を詰め込むことができます。また、既存のスパコンと頻繁にデータをやり取りする「ハイブリッド計算」において、このスピードは決定的な優位性となります。
2. 既存の「半導体インフラ」が使える
これが最大の現実的な理由です。
- スケーラビリティ: 超伝導チップは、現在のパソコンやスマホのCPUを作る「リソグラフィ(露光技術)」の延長線上で製造できます。
- 量産性: ゼロから新しい製造装置を作る必要がなく、IntelやSamsungといった既存の半導体巨人の工場(ファブ)や知見を転用しやすいため、量子ビット数を数万、数十万と増やしていく際の「量産の壁」を突破しやすいと考えられています。
3. 「エラー訂正」で克服できるという確信
「エラーが多い」ことは、物理法則上の限界ではなく「技術的なハードル」だと捉えられています。
- 表面符号(Surface Code): エラーが起きることを前提に、複数の物理ビットを束ねて1つの完璧な「論理ビット」を作る技術の研究が進んでいます。
- 2026年の現状: IBMやGoogleは、ビット数を増やすことでエラーを相殺する「エラー訂正」の道筋を明確に示しており、エラーさえ克服できれば、前述の「スピード」と「量産性」を持つ超伝導が最強になると信じられています。
超伝導方式は「燃費は悪いが、既存の自動車工場で作れて、圧倒的に速く走れるF1マシン」のようなものです。技術者たちは「燃料漏れ(エラー)」を修理する方法さえ確立すれば、これが一番早くゴールに辿り着くと考えているのです。

計算速度が他方式より圧倒的に速く、既存の半導体製造技術を転用できるため量産化に有利だからです。エラーの多さは、ビット数を増やして互いに補完し合う「エラー訂正技術」によって克服可能であると期待されています。

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