この記事で分かること
- PFASの用途:アウトドアウェアの防水透湿素材(GORE-TEXの従来のメンブレンなど)と、生地表面の耐久撥水加工(DWR)に使用されていました。
- 代替として使用する素材:防水透湿性を付与する際には、PFASフリーのePE(延伸ポリエチレン)メンブレンへの移行が進んでいます。また、撥水加工には、フッ素化合物を使わない非フッ素(FC0)耐久撥水加工(シリコン系、パラフィン系など)が採用されています。
- ポリエチレン(ePE)で代替可能となった理由:ePTFE同等の性能を実現したのは、ゴア社が培った高度なポリマー加工技術により、ePTFEと同様に延伸して微細な多孔質構造を形成できたためです。
ゴールドウインのPFAS不使用
ゴールドウイン(GOLDWIN INC.)は、2025年内をもってPFAS(有機フッ素化合物)を製品に使用しない方針を進めています。

これは、環境負荷の低減と持続可能性への取り組みの一環であり、特にアウトドアウェアに不可欠な防水透湿性素材や撥水加工におけるPFASフリーへの切り替えを加速させています。
どんな製品にPFASを使用しているのか
ゴールドウインの製品を含むアウトドアアパレルの分野において、PFAS(有機フッ素化合物)が主に使われていたのは、その卓越した「防水性」「撥水性」「防汚性」を付与するためです。
特に、主要な使用箇所は以下の2点に集約されます。
1. 防水透湿素材の「メンブレン(膜)」
防水透湿性を持つ機能性ウェア(例:GORE-TEX製品など)の中核となる薄い膜の部分です。
- 具体的な物質: 従来のGORE-TEXメンブレンの主成分であったePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)は、PFASの一種です。
- 役割: このメンブレンは、水滴は通さずに水蒸気(汗)だけを外に逃がすことで、「防水」と「透湿」を両立させる役割を果たしていました。
- 代替への切り替え: ゴールドウインが2025年秋冬までに切り替えを進めているのは、このePTFEからPFASフリーのePE(延伸ポリエチレン)をベースとしたメンブレンです。
2. ウェア表面の「耐久撥水加工(DWR)」
生地の表面に施され、水滴を玉状にして弾く加工です。
- 具体的な物質: ウェアの表面に施されるDWR(Durable Water Repellent / 耐久撥水加工)において、高い性能と耐久性を持たせるために、長らくフッ素化合物(C8やC6といったPFAS類)が使われてきました。
- 役割: 撥水加工は、生地そのものが水を吸って重くなる「生地濡れ」を防ぎ、それによって内部の防水透湿メンブレンの透湿性能が低下するのを防ぐ役割があります。
- 代替への切り替え: 現在は、フッ素化合物を使用しないFC0(非フッ素)撥水加工などのPFASフリー技術への切り替えが進められています。
まとめ
ゴールドウインが「年内でPFAS使用せず」という方針を掲げているのは、主にこれらの「防水透湿メンブレン」と「耐久撥水加工」におけるフッ素化合物の使用を廃止し、代替素材・技術へ完全に移行することを目指しているためです。

PFASは主に、アウトドアウェアの防水透湿素材(GORE-TEXの従来のメンブレンなど)と、生地表面の耐久撥水加工(DWR)に使用されていました。卓越した撥水性・防汚性のため、高機能性維持に不可欠とされていましたが、環境負荷低減のため非フッ素系素材への切り替えが進められています。
どんな素材で代替するのか
ゴールドウインがPFASの代替として導入・開発を進めている素材は、主に以下の2つの主要な代替技術に分けられます。
メンブレン(膜)の代替素材
PFASの一種であった従来のePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)に代わり、防水透湿性を担う膜として以下の素材が採用されています。
1. ePE(延伸ポリエチレン)
- 採用ブランド: GORE-TEX(ゴアテックス)
- 特徴:
- PFASを一切含まないポリエチレンを延伸して作られたメンブレンです。
- 従来のePTFEと同等レベルの耐久防水性・透湿性・防風性を持ちながら、軽量化としなやかさを実現しています。
- ゴールドウインは、GORE-TEX製品のメンブレンを2025年内にこのePEへ切り替えることを進めています。
2. Dimpora AGが開発するPFASフリー素材
- 採用ブランド: ゴールドウインがCVCを通じて投資し、共同開発。
- 特徴:
- スイスのスタートアップ企業Dimpora AGが開発する、PFASフリーの防水透湿メンブレンおよびラミネート技術です。
- 毒性のある化学物質を一切使用しない、持続可能性に特化した高性能素材であり、今後のゴールドウイン製品への導入が期待されています。
撥水加工(DWR)の代替技術
ウェアの表面生地に施す撥水加工は、フッ素化合物を使わない「非フッ素(FC0)」耐久撥水加工に切り替えられています。
- 特徴:
- PFC(PFASの中でも特に規制が厳しい物質)を避け、シリコン系、パラフィン系、デンドリマー系などのフッ素化合物以外の材料を用いることで、撥水性を実現します。
- ゴアテックス製品では、メンブレンに先行して2018年頃から撥水剤のPFASフリー化が進められています。
ゴールドウインは、これらの代替素材や技術の採用により、環境負荷を低減しつつ、アウトドアウェアに求められる高い機能性を維持することを目指しています。

PFASの代替素材として、GORE-TEX製品にはPFASフリーのePE(延伸ポリエチレン)メンブレンへの移行が進んでいます。また、撥水加工には、フッ素化合物を使わない非フッ素(FC0)耐久撥水加工(シリコン系、パラフィン系など)が採用されています。
ポリエチレンでePTFF同等の性能となった理由は
ePTFE(従来のゴアテックスメンブレンの主成分)と同等の高性能を、PFASフリーのePE(延伸ポリエチレン)で実現できた主な理由は、開発元のW. L. Gore & Associates(ゴア社)が長年培ってきたポリマー(高分子)の専門知識と高度な加工技術にあります。
ePEメンブレンの高性能を実現した技術的ポイント
ePEが従来のePTFEに匹敵する、あるいは部分的に上回る性能を達成した背景には、以下の技術的なブレイクスルーがあります。
1. ポリマー(高分子)加工技術の応用
ePEは、安価で汎用性の高いポリエチレンをベースにしていますが、ゴア社が長年の研究で培ってきたポリマー専門知識を駆使し、ポリエチレンを高強度で多孔質の特殊な膜に作り変えることに成功しました。
- ePTFEと同様に、ポリエチレンを「延伸(引き延ばす)」ことで、水滴より小さく水蒸気より大きい微細な穴(多孔質構造)を持つ膜を効率的に生成しています。
2. 軽量化としなやかさの向上
ePEはePTFEと比較して、薄く、軽量に作れるというポリエチレンの特性を活かしています。
- これにより、従来の防水透湿性を維持しつつ、ウェアの軽量化(約10%)と風合いのしなやかさが向上しました。
- 特にハードユース向けの「GORE-TEX PRO」でも、ePE化により耐久性を保ちつつ、よりしなやかな着心地を実現しています。
3. ポリウレタンとの組み合わせによる耐久性強化
ePEメンブレンは単独で使用されるのではなく、ポリウレタンなどの他の素材と組み合わせるラミネート技術が採用されています。
- この組み合わせにより、従来のePTFEメンブレンと同等の耐久防水性、防風性、透湿性の厳しい基準を満たす丈夫な構造を実現しています。
これらの技術的進化により、ePEメンブレンはPFASフリーでありながら、「長い製品寿命」と「GUARANTEED TO KEEP YOU DRY」の防水性を約束する、次世代の高性能素材として実用化されました。
撥水性能については、ePEはePTFEに比べて撥油性(油を弾く性能)が劣るため、撥油性を高めるために撥水加工(DWR)のメンテナンス(洗濯と熱処理)がこれまで以上に重要とされています。

ポリエチレン(ePE)がePTFE同等の性能を実現したのは、ゴア社が培った高度なポリマー加工技術により、ePTFEと同様に延伸して微細な多孔質構造を形成できたためです。また、軽量化としなやかさも向上させています。

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