ISSCC 2026で中国が最多論文採択 ISSCCとは?中国が最多論文採択となった背景は?

この記事で分かること

  • ISSCCとは:国際固体素子回路会議の略であり、半導体集積回路(ICチップ)に関する世界最大かつ最も権威ある国際学会です。
  • 中国の増加理由:政府による半導体への巨額な国家戦略投資と、それによる大学を中心とした研究人材の急増と育成、そして技術の自立を目指す国家的な推進が主な理由です。
  • 日本の状況:日本のISSCC論文数は、かつての低迷から復調の兆しを見せており、2022年を底に増加傾向が続いています。データコンバータやパワーマネジメント、そしてセキュリティ(SEC)といった専門分野での採択が目立っています。

ISSCC 2026で中国が最多論文採択

  ISSCC 2026(国際固体素子回路会議)の論文採択数において、中国が圧倒的な最多となっています。

 https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2512/01/news034.html

 これは近年続く傾向であり、中国の半導体・集積回路分野における研究開発の量的・質的な成長が国際的に明確に示されている状況です。

ISSCCとは何か

 ISSCCは、International Solid-State Circuits Conference(国際固体素子回路会議)の略称です。

 これは、半導体集積回路(ICチップ)に関する分野で世界最大規模であり、最も権威ある国際学会の一つです。

 「半導体技術のオリンピック」とも呼ばれるほど、その採択論文は、世界で最も注目される最先端の研究開発成果を示すものとして、業界や学術界から重要視されています。


ISSCCの主な概要

項目詳細
正式名称International Solid-State Circuits Conference
日本語名国際固体素子回路会議 / 国際固体回路会議
主催IEEE(米国電気電子学会)が中心となって主催
開催時期例年2月頃
開催地主にアメリカ合衆国サンフランシスコ
発表内容集積回路(ICチップ)の最新の回路技術システム技術に関する研究開発成果(例:CPU、メモリ、AIチップ、無線通信、アナログ回路、パワーマネジメントなど)
特徴採択される論文のレベルが非常に高く、採択率が低い(狭き門)。採択された技術が、数年後の製品に搭載されることが多い。

業界における位置づけ

I SSCCで論文が採択・発表されることは、研究者や企業にとって世界最先端の技術を持っていることの証明になります。

  • 企業:自社の最先端チップ技術を世界にアピールする場。
  • 大学/研究機関:学術的な研究成果の到達点として、国際的な評価を得る場。

 ISSCCで発表された技術は、その後の半導体業界のトレンドを左右するほどの影響力を持っています。

ISSCC(国際固体素子回路会議)は、半導体集積回路(ICチップ)に関する世界最大かつ最も権威ある国際学会です。「半導体技術のオリンピック」とも称され、CPU、メモリ、AIチップなど、最先端の回路技術とシステム技術の研究成果が発表され、業界の未来を左右します。

中国の論文数増加の理由は何か

 中国のISSCC論文数が圧倒的に増加している主な理由は、以下に示すように、中国政府による半導体・集積回路分野への大規模かつ継続的な国家戦略投資と、それによる研究人材の急増と質の向上にあります。

これは、中国が半導体技術の自立と国際競争力の強化を目指す、長期的な戦略の成果と言えます。


1. 政府による巨額の国家投資と補助金

  • 大規模ファンドの設立: 中国政府は、半導体産業の育成のため、数兆円規模の国家レベルのファンド(大基金)を新設・投入しています。これにより、研究開発や設備投資のための資金が潤沢に供給されています。
  • 積極的な支援: 技術開発や資金調達の面で、国内企業や研究機関に積極的な補助金や優遇策を与え、国際競争力を強化しています。

2. 優秀な人材の確保と育成

  • 大学での採用加速: 大学や研究機関で教授などの研究職採用が非常に活発であり、国内外から優秀な半導体研究者が集められています。
  • 人材の「量」と「質」の向上: 莫大な投資により、研究設備や環境が整備され、若手研究者の育成が加速し、論文の量的増加と質的成長のスピードが非常に速いと国際的に評価されています。

3. 技術の自立を目指す国家戦略

  • 米中対立の影響: 米国による半導体技術規制が強化される中、中国は外部依存を減らし、国内で先端技術を開発・生産する「国産化」と「技術自立」を最重要課題としています。
  • 基礎研究への注力: 国の政策として、集積回路の基礎研究から応用研究までを幅広く、かつ深く推進するよう強く働きかけています。

4. 投稿件数自体の急増

  • ISSCC全体の論文投稿数が初めて1000件を超えた背景には、主に中国からの投稿件数の急増があります。研究者の増加と研究活動の活発化が、直接的に投稿数の増加に結びついています。

 これらの要因が複合的に作用し、中国はISSCCという世界最高峰の舞台で、4年連続で論文採択数トップという圧倒的な結果を出しています。

中国の論文数増加は、政府による半導体への巨額な国家戦略投資と、それによる大学を中心とした研究人材の急増と育成、そして技術の自立を目指す国家的な推進が主な理由です。

最新の集積回路技術にはどのようなものがあるのか

 集積回路(ICチップ)の最新の回路技術は、AI、省電力化、そして集積度向上という3つの大きなトレンドに牽引されています。

 特に、従来の微細化の限界に挑むだけでなく、チップレット3次元積層といった新しいアプローチが主流になりつつあります。


1. AI(人工知能)処理に特化した回路技術

 AIチップの性能向上と電力効率の両立は、現在の最重要課題です。

  • AIアクセラレータ/ASIC:
    • 特定のAIアルゴリズム(例:ニューラルネットワーク)の演算を高速かつ低消費電力で行うための専用回路(ASIC)の開発が活発です。
    • 演算回路とメモリを近接させる、または統合するインメモリ・コンピューティングニアメモリ・コンピューティングの研究が進められています。
  • ニューロモルフィックチップ:
    • 人間の脳の神経回路の仕組み(ニューロンとシナプス)を模倣した回路構造を持つチップです。極めて低い消費電力でのAI処理(特にエッジAI)を目指しており、実証実験が進んでいます。
  • アナログ/ミックスドシグナルAIチップ:
    • デジタルではなくアナログ回路でAI演算の一部を行うことで、消費電力を大幅に削減し、高速化を図るアプローチも注目されています。

2. 電力効率の極限追求と高効率化

 IoTデバイスやデータセンターの電力消費を抑えるため、回路レベルでの省電力技術が不可欠です。

  • ワイドバンドギャップ半導体(SiC/GaN):
    • 特にパワー半導体の分野で、シリコン(Si)よりも高い電力効率と耐熱性を持つ炭化ケイ素(SiC)窒化ガリウム(GaN)を用いた回路が、電気自動車(EV)や産業機器の電力制御ICで実用化されています。
  • 低消費電力SRAM/メモリ技術:
    • モバイル機器やデータセンター向けのキャッシュメモリ(SRAM)において、データを保持したまま待機電力を極限まで抑える回路設計(例:超低電圧動作技術)が開発されています。
  • パワーマネジメントIC (PMIC):
    • システム全体への電力供給を極めて効率的に制御するための、高精度で応答速度の速いPMIC回路が進化しています。

3. 3次元化・パッケージングによる集積度向上

 トランジスタの微細化(ムーアの法則)の物理的な限界が近づく中で、回路を垂直方向に積層することで性能と集積度を高める技術がトレンドです。

  • チップレット(Chiplet)技術:
    • 一つの巨大なチップとして作る代わりに、CPUコア、メモリ、I/Oなどの機能を小さな専門チップ(チップレット)に分割し、高性能なパッケージング技術でそれらを接続して一つのシステムとして機能させます。
    • これにより、個々のチップを最適なプロセスで製造でき、歩留まりの向上設計の柔軟性が増します。
  • 3D積層技術(3D-IC):
    • ロジックLSIやメモリチップ(HBMなど)をTSV(Through-Silicon Via、シリコン貫通電極)と呼ばれる微細な配線で垂直に接続し、高密度化と高速通信を実現します。
    • 特に高帯域幅メモリ(HBM)は、3D積層技術の代表例であり、AIや高性能計算(HPC)向けGPUの性能を支えています。
  • GAA (Gate-All-Around) トランジスタ:
    •  従来のFinFET構造に代わり、ゲートがチャネル(電流の通り道)を四方から囲む構造です。これにより、チャネル制御能力が向上し、サブナノメートル時代の微細化と低消費電力化を可能にします。TSMCの2nm技術などで採用が予定されています。

AIチップ特化のインメモリ・コンピューティング電力効率を追求した低電圧回路ワイドバンドギャップ半導体、そしてチップレット3D積層による高集積化技術が最新のトレンドです。

日本の論文数はどうか

 ISSCC 2026の日本の論文採択数は、復調の兆しを見せている状況です。具体的な採択数は公表された情報に明記されていませんが、以前の傾向と比較して、増加傾向にあることが報告されています。


日本の論文採択状況(ISSCC 2026)

  • 復調の兆し: ISSCC 2026の傾向の説明では、日本の論文採択数が「復調」または「増加傾向」にあることが言及されています。これは、2022年を底として、採択数が漸増している近年の流れが続いていることを示唆しています。
  • 分野別採択: 日本からの採択論文は、以下の分野で発表されています。
    • データコンバータ (DC)
    • パワーマネジメント (PM)
    • RF(高周波)回路
    • テクノロジディレクション (TD / 将来技術)
    • セキュリティ (SEC):この分野では初めての採択があったことが注目されています。
  • 過去の推移: 日本のISSCC論文採択数は、2015年の25件から2022年の7件まで強い減少傾向にありましたが、2023年(10件)、2024年(11件)と2年連続で増加しており、2026年もこの流れを維持していると見られます。

国際的な位置づけ

 ISSCC 2026の採択数ランキングのトップ3は以下の通りです。

順位国/地域採択数
1位中国96本
2位米国 (US)56本
3位韓国 (Korea)46本

 日本はこれらのトップ国と比較すると採択数は少ないものの、専門性の高い分野での採択継続的な増加傾向は、日本の半導体研究開発コミュニティが復活に向けて努力していることを示しています。

 日本の企業や大学による研究が、国際的な評価の場であるISSCCで成果を出し続けていることは、今後の半導体技術の発展において重要な要素となります。

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