この記事で分かること
- SCREENホールディングスとは:産業用装置メーカーで半導体洗浄装置で世界トップシェアを持ち、半導体製造プロセスの微細化を支えています。
- 株価苦戦の理由:主要案件の売上計上遅れによる直近業績の下振れに加え、AI向け投資の恩恵が洗浄工程に反映されるまでの時間差や、中国向け売上比率の高さが懸念されているためです。
- 洗浄工程が投資の恩恵が遅れる理由:生産能力を左右する中核装置(露光など)の導入後に、生産増強や歩留まり改善目的で追加導入されるため、景気回復や新規投資の反映に時間差が生じやすいです。
SCREENホールディングスの株価
半導体関連企業の株価の好調さが続いていますが、SCREENホールディングス(SCREENHD)の株価については、業界全体の好調さが業績、株価に波及していないと報じられています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF1711P0X11C25A1000000/
SCREENは半導体製造装置、特にウェハー洗浄装置で高い世界シェアを持っていますが、売上構成比の高いメモリー(DRAMやNANDフラッシュ)向け投資が市場全体で低迷していることが、業績の足かせになっていると見られています。
SCREENはどんな企業か
SCREENホールディングス(SCREENHD)は、京都に本社を置く、日本の大手産業用装置メーカーです。特に半導体製造装置の分野で世界的に高いプレゼンスを持っています。
同社の事業の核心は、長年培ってきた「表面処理技術」「直接描画技術」「画像処理技術」という3つのコア技術を、様々な産業分野に応用している点にあります。
主な事業と強み
SCREENHDの事業は主に以下の4つのセグメントで構成されており、特に「半導体製造装置事業」が収益の柱となっています。
| 事業セグメント | 主な製品/技術 | 世界シェア(強み) |
| 1. 半導体製造装置事業(SPE) | ウェハー洗浄装置(枚葉式、バッチ式、スピンスクラバー)、リソグラフィー装置、熱処理装置など | 洗浄装置で世界トップクラスのシェア(工程全体の約3割を占める洗浄工程で高い優位性) |
| 2. グラフィックアーツ機器事業(GA) | デジタル印刷機(POD)、CTP(コンピューター・トゥ・プレート)装置、ワークフローソフトウェア、文字フォント(ヒラギノなど) | デジタル印刷・CTP分野で業界をリード |
| 3. ディスプレー製造装置および成膜装置事業(FT) | TFTアレイ用コーターデベロッパー、ウェットエッチング装置、成膜装置など | 大型TFTアレイ用コーターデベロッパーで世界トップシェア |
| 4. プリント基板関連機器事業(PE) | 直接描画装置、検査装置など | 高密度化・高集積化に対応したプリント基板製造装置を提供 |
SCREENHDの最大の特徴
最大の強みは、半導体製造プロセスの「洗浄工程」における圧倒的な技術力とシェアです。
半導体の製造工程は数百にも及びますが、その過程で付着する微細なゴミや不純物(パーティクル)を取り除く「洗浄」は、製品の品質と歩留まりを大きく左右する極めて重要な工程です。
- 世界シェアNo.1: ウェハーを1枚ずつ洗浄する枚葉式洗浄装置などで高い世界シェアを持っています。
- 微細化への対応: インフルエンザウイルスよりもはるかに小さいゴミを取り除くミクロンレベルの精密な洗浄技術を確立しており、半導体の微細化が進むほど、その技術の重要性が高まっています。
新規・成長分野への取り組み
主力事業の強化に加え、そのコア技術を応用して以下の分野にも進出しています。
- エネルギー分野: 燃料電池用部材(MEA)の量産を実現する塗工乾燥装置、水電解システム関連など、グリーン水素関連技術。
- ライフサイエンス分野: 細胞スキャナーなど、医療・バイオ分野。
SCREENHDは「半導体洗浄装置の世界的なリーダー企業」であり、その核となる精密な表面処理・画像処理技術を多岐にわたる産業用装置へと展開している、老舗の産業用装置メーカーです。

京都に本社を置く産業用装置メーカーで半導体洗浄装置で世界トップシェアを持ち、半導体製造プロセスの微細化を支えています。
株価低迷の理由は
SCREENホールディングス(SCREENHD)の株価低迷の主な要因は、以下の3点に集約されます。
1. 業績の「期ずれ」と市場予想の下振れ
- 一部案件の売上計上時期のずれ: 主力の半導体製造装置事業において、一部の大型案件の売上計上タイミングが下期にずれ込んだことで、直近の上半期(4月~9月期)の利益が市場予想を大きく下振れし、ネガティブに受け止められました。
2. AI特需の恩恵への相対的な遅れ
- 洗浄工程の特性: SCREENHDが強いウェハー洗浄装置は、半導体製造の全工程で不可欠ですが、AIブームを牽引する先端ロジック(高性能GPU)やHBM(高帯域幅メモリー)への投資の恩恵が、競合他社の検査装置や露光関連の企業に比べて、業績に反映されるまでに時間差があること。
- メモリー向け投資の低迷(過去要因): 過去には、売上比率の高いメモリー(DRAM、NAND)市場の投資サイクルが低迷していた時期があり、これが株価の重しとなっていました(現在はメモリー市場は回復傾向)。
3. 中国向け売上比率の高さへの懸念
- 地政学的リスク: SCREENHDは、セクター内で相対的に中国向け売上比率が高いことが指摘されており、米中間の貿易摩擦や規制強化といった地政学的リスクの動向が、投資家の懸念材料の一つとなることがあります。
ただし、ウェハー洗浄装置市場自体は、半導体の微細化と多層化が進むにつれて、洗浄回数が増加するため、長期的には着実な成長が見込まれています。市場の期待と短期的な業績変動が、現在の株価に反映されている状況と言えます。

主要案件の売上計上遅れによる直近業績の下振れに加え、AI向け投資の恩恵が洗浄工程に反映されるまでの時間差や、中国向け売上比率の高さが懸念されているためです。
ウェハー洗浄装置が業績の反映に時間がかかる理由は
ウェハー洗浄装置の需要や業績の反映が、露光装置や成膜装置といった他の装置に比べて時間がかかりやすい理由は、主に投資のタイミングとフェーズの違いにあります。
これは、半導体メーカーの設備投資の優先順位や、製造プロセスにおける洗浄工程の位置付けに起因します。
1. 投資サイクルの初期・後期段階
半導体メーカーが新しい工場(ファブ)の建設や、新しい世代の半導体の量産ラインを立ち上げる際、装置への投資は段階的に行われます。
- 初期投資(先行投資):
- まず、露光(リソグラフィー)装置や成膜(CVD/PVD)装置といった、「プロセスの中核」を担う非常に高価で納期が長い装置が最初に発注され、設置されます。これらはライン全体のキャパシティ(生産能力)を決定づけるため、最も早く先行投資が行われます。
- 後期投資(キャパシティ増強・歩留まり改善):
- ウェハー洗浄装置は、この初期投資の中核装置が搬入・稼働した後、生産能力の増強や歩留まり(品質)の安定化・向上のために、後から追加導入される傾向があります。
- そのため、半導体市場が好転し、ラインの稼働率が上がってから、あるいは本格的な量産投資が始まってから、洗浄装置の需要が立ち上がることが多く、業績への反映が遅れがちになります。
2. 景気後退時の影響
景気後退期や在庫調整期に入り、半導体メーカーが設備投資を抑制する際も、洗浄装置は影響を受けやすい特徴があります。
- 「必須だが延期可能」な投資:
- 洗浄装置は半導体の品質維持に不可欠な装置ですが、「今すぐでなくても既存の装置で対応できる」と判断されやすく、大規模な新規投資が最も延期されやすい項目の一つとなります。
- 一方、露光装置などは、新しい微細化プロセスを導入するために絶対的に必要なため、多少市況が悪くても投資が継続される傾向があります。
3. AI特需の反映タイムラグ
現在のAIブームにおいては、特に以下の理由で反映に時間がかかっています。
- 先端ロジック・HBMへの集中:
- AI向け高性能半導体(GPUなど)の製造ラインでは、EUV関連装置や先端検査装置などがまず先行して高い需要を示します。
- 洗浄工程が恩恵を受けるのは、新しいAI半導体の量産が軌道に乗り、その生産能力を拡大するフェーズに入った時点や、複雑な構造(HBMの積層など)による洗浄回数の増加が本格化した時点となるため、ここでも時間差が生じます。
ウェハー洗浄装置は「半導体製造ラインの心臓部」というより「生産を支える血液浄化装置」のような位置付けであり、中核設備の立ち上げ後や、本格的な生産拡大・歩留まり改善フェーズで需要が本格化するため、業績への反映が遅れる傾向があるのです。

洗浄装置は生産能力を左右する中核装置(露光など)の導入後に、生産増強や歩留まり改善目的で追加導入されるため、景気回復や新規投資の反映に時間差が生じやすいです。

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