この記事で分かること
- 森村グループとは:森村組(現:森村商事)をルーツとし、ノリタケ、TOTO、日本ガイシ、日本特殊陶業などが属する企業集団です。
- 燃料電池でのセラミックの利用方法:固体酸化物形燃料電池(SOFC)の心臓部(セルスタック)に使用されます。特に電解質にはイットリア安定化ジルコニアなどのセラミックスが用いられ、高温下で酸化物イオンを選択的に通し、発電を可能にしています。
- セラミックが高温に強い理由:原子間の共有結合やイオン結合が非常に強力なため、結合を断ち切るのに莫大な熱エネルギーが必要です。このため融点が高く、高温でも化学的・構造的に安定しています。
森村グループのセラミック技術
日本特殊陶業、TOTO、日本ガイシ、ノリタケカンパニーリミテドの森村グループ4社は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)に関する技術を結集するため、合弁会社「森村SOFCテクノロジー株式会社」を設立し、「再集結」しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD108QP0Q5A111C2000000/
これは、グループの祖である陶磁器の貿易会社「森村組」創業150年に向けた取り組みの一環として、各社の持つセラミックス技術やノウハウを活かし、次世代の燃料電池システム開発を加速させることを目指しています。
森村グループとは何か
森村グループは、日本の陶磁器産業をルーツとし、現在ではセラミックス技術を核に、住宅設備、自動車部品、電気絶縁体など多岐にわたる分野で世界的な事業を展開する企業集団です。
第二次世界大戦前の森村財閥の流れを汲んでおり、ゆるやかな企業集団を形成しています。
主要なグループ構成企業
森村グループの中核をなすのは、主に以下の5社です。これらの企業は、陶磁器の製造から派生し「一業一社」の理念に基づき、それぞれの専門分野で独立して発展しました。
| 企業名 | 主な事業分野 |
| ノリタケ | 高級洋食器、研削砥石、セラミック関連部材、加熱装置など (グループ中核企業) |
| TOTO | 衛生陶器(ウォシュレット、トイレなど)、住宅設備機器 |
| 日本ガイシ | がいし(送電用絶縁体)、排ガス浄化用セラミックス、NAS電池(電力貯蔵)など |
| 日本特殊陶業 (Niterra) | スパークプラグ、自動車用排ガスセンサー、半導体パッケージ、医療機器など |
| 森村商事 | 窯業・耐火物原料、航空機材、金属、機械プラントなどの輸出入・国内販売(グループのルーツ) |
この他、高級洋食器の大倉陶園などもグループ企業に含まれます。
グループの歴史と特徴
1. 創業(ルーツ)
- 1876年(明治9年)に森村市左衛門と弟の豊によって、輸出商社である森村組(現:森村商事)が創立されたのがルーツです。
- 海外へ日本の陶磁器を輸出し、日本の貿易業界の草分けとして成功を収めました。
2. 「一業一社」の原則
- 海外市場で勝つために、陶磁器の製造にも乗り出し、1904年に日本陶器合名会社(現:ノリタケ)を設立しました。
- その後、衛生陶器(TOTO)、がいし(日本ガイシ)、点火プラグ(日本特殊陶業)といった専門分野ごとに次々と企業を分離・独立させました。これが「一業一社」という経営理念です。
- この原則のおかげで、各社がそれぞれの分野で高い技術力とシェアを持つグローバル企業へと成長しました。
3. セラミックス技術の結集
- 全ての企業の共通の基盤は、陶磁器製造から発展した高度なセラミックス(窯業)技術です。
- 最初の質問にあったように、2019年に主要5社が出資して「森村SOFCテクノロジー」を設立し、次世代エネルギーである固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発に乗り出すなど、現在も技術を結集する動きを見せています。
グループ各社は資本的な結びつき(株式の持ち合い)は強くありませんが、創業の精神や技術的ルーツを共有し、協力関係を保っているのが大きな特徴です。

森村組(現:森村商事)をルーツとし、ノリタケ、TOTO、日本ガイシ、日本特殊陶業などが属する企業集団です。陶磁器から派生したセラミックス技術を核に、住宅設備、自動車部品、電力など幅広い分野でグローバルに事業展開しています。
セラミックは燃料電池でどのように使用されているのか
セラミックスは、主に固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の心臓部(セルスタック)を構成する主要材料として使用されています。
SOFCは高温(600℃~1,000℃程度)で作動するタイプの燃料電池であり、その高い耐熱性と耐久性を実現するため、構成材料のほぼ全てにセラミックスが使われています。
SOFCにおけるセラミックスの主な役割
SOFCの発電を担うセルは、燃料極(アノード)、電解質、空気極(カソード)の3層構造で構成されており、このうち電解質と両電極にセラミックスが使用されています。
1. 電解質(イオンを運ぶ)
- 役割: 燃料極と空気極の間で、酸化物イオン(O2-)だけを選択的に通す「イオン導電体」として機能します。
- 主要材料:
- イットリア安定化ジルコニア(YSZ):ジルコニア(ZrO2)にイットリア(Y2O3)を添加したファインセラミックスです。
- O2-が通り抜けるための欠陥構造(酸素空孔)を有しているため、高温で高いイオン導電性を示します。
- より高い発電効率を目指し、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)やランタンガレート系の材料なども研究されています。
2. 燃料極(Anode:燃料の酸化)
- 役割: 燃料(水素、一酸化炭素、メタンなど)を取り込み、燃料の酸化反応(電子を放出する反応)を促進し、電解質へO2-を受け渡す場所です。
- 主要材料:ニッケル(Ni)とYSZなどの電解質材料を混ぜ合わせたサーメット(セラミックスと金属の複合材料)が一般的です。
- 多孔質構造になっており、燃料ガスを効率良く供給できるように設計されています。
3. 空気極(Cathode:酸素の還元)
- 役割: 空気中の酸素を取り込み、電解質から受け取った電子と反応させてO2-を生成し、これを電解質へ受け渡す場所です。
- 主要材料:ペロブスカイト型酸化物(例:LaSrMnO3などの電子・イオン混合導電性セラミックス)が主に使われます。
- 高温での化学的安定性と、酸素イオンを効率的に取り込む能力が求められます。
セラミックス利用のメリット
セラミックスがSOFCで不可欠な理由は、その優れた特性にあります。
- 高効率: セラミックスの電解質が高温で作動することで、他の低温型燃料電池よりも熱力学的に高い発電効率を実現できます。
- 耐久性・長寿命: 耐熱性の高いセラミックスを全体に使用することで、高温下でも構成要素が劣化しにくく、高い耐久性が保証されます。
- 貴金属レス: セラミックスは、白金などの高価な貴金属触媒に依存せず、材料自身が高温で触媒作用を持つため、コスト面で有利になります。
SOFC以外では、作動温度がさらに低いプロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)でも、プロトン(水素イオン)を伝導させるプロトン導電性セラミックスが電解質として利用され、次世代技術として研究が進められています。

固体酸化物形燃料電池(SOFC)の心臓部(セルスタック)に使用されます。特に電解質にはイットリア安定化ジルコニアなどのセラミックスが用いられ、高温下で酸化物イオンを選択的に通し、発電を可能にしています。
セラミックが高熱に強い理由は何か
セラミックスが高熱に強い(耐熱性が高い)主な理由は、その原子間の結合様式と結晶構造にあります。一般的に、セラミックスは金属よりも融点が高く、高温下でも化学的・構造的に安定しています。
1. 強力な化学結合(共有結合とイオン結合)
セラミックス(酸化物、窒化物、炭化物など)の原子は、非常に強力な共有結合やイオン結合によって結合しています。
- 金属との違い: 金属が比較的弱い金属結合(自由電子の海)で結びついているのに対し、セラミックスの結合は原子同士を非常に強固に固定します。
- 融点の高さ: この強固な結合を断ち切って材料を融解させるためには、莫大な熱エネルギーが必要になります。そのため、セラミックスは一般的に融点が高く、アルミナ(酸化アルミニウム)は約2,000℃以上といった高い耐熱性を示します(鉄は約1,538℃、アルミニウムは約660℃)。
2. 剛直な結晶格子
強力な結合により、原子が高度に秩序化された、剛直な三次元構造(結晶格子)に固定されています。
- この剛直な構造は、高温下で原子が活発に振動しても、原子同士が位置を移動したり滑り合ったりするのを強く制限します。これが、高温で材料が軟化したり変形したりするのを防ぎます。
3. 化学的安定性(耐酸化性)
多くのセラミックスは、すでに酸素と結合した酸化物(例:アルミナAl2O3、ジルコニアZrO2)です。
- そのため、高温の空気中でもこれ以上酸化されることがなく、化学的に非常に安定しています。金属のように高温で急激に酸化して劣化することが少ないため、長期間、高温環境で使用できます。
熱膨張係数の低さ
耐熱性とともに重要な特性として、セラミックスは一般に熱膨張係数が低いという特徴があります。
- 熱膨張係数: 温度変化によって材料の寸法がどれだけ変化するかを示す値です。
- 熱衝撃への耐性: セラミックスは結合が強いため、温度が上がっても原子間の距離が大きく広がりにくく、寸法変化が小さいです。この特性により、急激な温度変化(熱衝撃)にさらされても、内部と表面の収縮・膨張の差によるひび割れ(熱応力)が発生しにくいという利点があります。
これらの特性から、セラミックスはロケットエンジン、燃料電池、自動車の排ガス浄化触媒、高温炉の部品など、極めて高い温度が求められる分野で不可欠な材料となっています。

セラミックスは、原子間の共有結合やイオン結合が非常に強力なため、結合を断ち切るのに莫大な熱エネルギーが必要です。このため融点が高く、高温でも化学的・構造的に安定しています。

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