この記事で分かること
- TPUとは:Googleが開発したAI・機械学習処理に特化したASIC(特定用途向け集積回路)です。 行列演算を超高速・高効率で行い、GoogleのクラウドサービスやAIの学習・推論を支えています。
- 汎用的なGPUとの違い:TPUは行列演算に特化し、大規模AIモデルの学習でGPUより高速かつ高効率です。 GPUは汎用性が高く、幅広いAIタスクや研究開発で柔軟な対応が可能です。
- 他のAI専用のASIC:Trainium/InferentiaはAWS、MaiaはMicrosoftが開発したAI専用ASICです。 TPU/Trainium/Maiaは学習、Inferentiaは推論を主に高速化し、各社クラウドに最適化されています。
TPU
半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。
ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回は半導体チップにはどのような種類があるのかの記事となります。
今回はASICの一種であるTPUに関する記事となります。
TPUとは何か
TPUは、Googleが開発したAI(人工知能)および機械学習(ML)の処理に特化した特定用途向け集積回路(ASIC)です。
1. 役割と特徴
- 専門特化: 従来のCPU(中央演算処理装置)やGPU(グラフィックス処理ユニット)が汎用的な計算を行うのに対し、TPUはAIの核となる行列演算(テンソル演算)を超高速かつ極めて効率的に処理することに特化しています。
- 高性能・低電力: 計算に必要な回路だけを持つように最適化されているため、ワットあたりの性能(電力効率)が非常に高く、特に大規模なAIモデルの学習(トレーニング)や推論において、圧倒的なスピードとコスト効率を実現します。
- アーキテクチャ: 独自のシストリックアレイと呼ばれる並列処理構造を採用しており、行列の掛け算をメモリアクセスなしで連続して行うことで、高い演算スループットを達成しています。
2. 主な用途
主にGoogleのデータセンターやクラウドサービス(Google Cloud TPU)内で使用され、以下のようなタスクを支えています。
- Google検索、Google翻訳、AlphaGoなどのAIサービス
- 大規模言語モデル(LLM)のトレーニング
- 画像認識や音声認識などの推論処理

TPU(Tensor Processing Unit)は、Googleが開発したAI・機械学習処理に特化したASIC(特定用途向け集積回路)です。 行列演算を超高速・高効率で行い、GoogleのクラウドサービスやAIの学習・推論を支えています。
汎用的なGPUとの性能差はどのくらいか
TPUと汎用的なGPUのAI利用における性能差は、単なる「速さ」だけでなく、「効率」と「用途」によって大きく異なります。
結論として、大規模AIモデルの学習においてはTPUが、多様性や柔軟性が求められる場合はGPUが強みを持ちます。
TPUとGPUの比較(AI利用時)
| 比較項目 | TPU (Tensor Processing Unit) | 汎用的なGPU (例: NVIDIA A100/H100) |
| 得意な用途 | 大規模AIモデルの学習と定型的な推論 | 多様なAIワークロード、科学計算、レンダリング |
| 特化構造 | 行列演算(テンソル演算)専用のシストリックアレイ構造 | 汎用的な並列処理コア(CUDAコアなど) |
| 処理速度 | 特定の大規模計算において、同世代GPUより高速になることが多い。特に大規模クラスタ構成に強い。 | 非常に高速だが、TPU専用に最適化された計算では劣る場合がある。 |
| 電力効率 | 特定のAI計算に特化しているため、ワットあたりの性能が非常に高い。運用コスト削減に繋がりやすい。 | 汎用的な機能を持つため、TPUよりは劣る傾向があるが、進化により効率は向上している。 |
| ソフトウェア | 主にGoogleのエコシステム(JAX, TensorFlow)に依存。 | 業界標準のCUDAプラットフォームが主流で、柔軟性が高い。 |
実際の性能差について
具体的な性能差は、モデルの規模、データ転送のボトルネック、最適化の度合いによって変動するため、一律の数字を示すのは困難ですが、以下のような傾向があります。
- 大規模な学習(トレーニング)
- TPUは、データの入出力(I/O)を最小限に抑える構造により、GPUと比較して最大2~3倍のトレーニング時間短縮を実現するとのベンチマーク結果があります。
- これは、特に大規模言語モデル(LLM)のような非常に大きなモデルを扱う際に顕著です。
- 電力効率と費用対効果 (コストパフォーマンス)
- 特定のAI計算では、TPUはGPUより60~65%以上のエネルギー効率を示すことがあり、大規模な利用では運用コスト(電気代)を大きく削減できます。
- Googleは、適切なアプリケーションであればGPUと比較して費用対効果が最大1.4倍向上すると示唆しています。
- 柔軟性
- TPUは特化型であるため、AI以外の処理や、TPUのアーキテクチャに合わない種類のAIモデルでは性能を十分に発揮できません。
- GPUは汎用性が高いため、様々なAIフレームワークや非AI計算も実行でき、汎用的な研究開発や多様なタスク処理に向いています。
TPUは「特定の作業を超効率的に行う専門家のメス」、GPUは「幅広い作業をこなせる高性能な万能ナイフ」と例えられます。

TPUは行列演算に特化し、大規模AIモデルの学習でGPUより高速かつ高効率です。 GPUは汎用性が高く、幅広いAIタスクや研究開発で柔軟な対応が可能です。
TPUの有力メーカーはどこか
TPUの有力メーカーは、Google(グーグル)の一社に限定されます。TPU (Tensor Processing Unit)は、もともとGoogleが自社のAIサービス(検索、翻訳、Geminiなどの大規模言語モデル)の効率化を目的として、独自に設計・開発し、自社のデータセンター内で運用しているAI専用ASICだからです。
TPUの市場構造
- 独占的メーカー: Google
- TPUは、Googleのハードウェア戦略の中核であり、Cloud TPUサービスを通じて外部に提供されていますが、チップ自体はGoogleが設計し、TSMC(台湾積体電路製造)などのファウンドリに製造委託する形で内製化されています。
競合との関係
AIアクセラレーター市場全体を見ると、GoogleのTPUは強力な存在ですが、外部販売市場のリーダーは以下の通りです。
- NVIDIA (エヌビディア):
- 汎用GPU(例:A100、H100)がAIアクセラレーター市場の圧倒的なシェアを占めており、Google TPUの最大の競合となります。
- その他の大手クラウドプロバイダ:
- Amazon(AWS)はTrainiumやInferentia、MicrosoftはMaiaなど、Googleと同様に自社のクラウドサービス最適化のために独自のASICを開発しています。
TPUはGoogleのエコシステム内で最高の性能を発揮するように設計されており、外部のユーザーがハードウェアとして直接購入することは通常なく、Google Cloudのサービスを通じて利用するのが基本です。
TPUとTrainiumやInferentia、Maiaとの違いは
TPU、Trainium、Inferentia、Maiaは、いずれも大規模なクラウドサービスプロバイダー(Google、Amazon、Microsoft)が、AI・機械学習ワークロードを効率化するために独自に開発したAI専用のASIC(特定用途向け集積回路)です。
これらのチップの主な違いは、設計思想(学習か推論か)、ターゲットとなるクラウドエコシステム、そしてアーキテクチャにあります。
主要なAIチップの比較表
| チップ名 | 開発元 | 主な用途 | 特徴と設計思想 |
| TPU (Tensor Processing Unit) | 学習 (Training) および 推論 (Inference) | 学習の効率に重点を置いた設計。シストリックアレイ構造を持ち、自社のGoogle Cloudおよびサービスで活用。 | |
| Trainium | Amazon (AWS) | 学習 (Training) | AWSの大規模な学習ワークロードに特化。独自のチップ間接続技術により、大量のチップを連携させやすい。 |
| Inferentia | Amazon (AWS) | 推論 (Inference) | AWSの推論ワークロードに特化。低遅延、高スループット、低コストでの運用を目指す。 |
| Maia | Microsoft (Azure) | 学習 (Training) および 推論 (Inference) | AzureのAIインフラに特化。特に大規模なLLM(大規模言語モデル)の学習と推論を効率化するために設計。 |
主な違いの詳細
1. ターゲットとなる機能(学習 vs 推論)
- 推論特化型(Inferentia):
- 推論は学習ほど計算量は多くありませんが、低遅延と高スループット(多くのリクエストを同時に処理)が求められます。Inferentiaはこの特性に最適化されています。
- 学習特化型(Trainium, TPU, Maia):
- 学習は計算量が非常に多く、数日から数ヶ月かかるため、絶対的な計算能力と電力効率が求められます。TPU、Trainium、Maiaは、この要求に応えるため、チップ間通信やメモリ帯域幅を最適化しています。
- 補足: TPUやMaiaは学習に強いですが、推論にももちろん使用されます。
2. エコシステムと接続性
- Google TPU: Google Cloud環境に深く統合されており、Googleの独自のネットワークインフラ(TPU Interconnect)を通じて、数千のチップを単一のスーパーコンピュータのように連携させることが可能です。
- AWS Trainium/Inferentia: AWSのネットワークとストレージサービス(EFA、S3など)に密接に統合されており、AWSユーザーが既存の環境からシームレスにAI処理を実行できるように設計されています。
- Microsoft Maia: Azureのインフラ、特にAIワークロードを実行するAzure AI Supercomputerの設計に合わせて作られており、大規模なデータセンター環境での性能と熱効率を重視しています。
3. 設計思想
- これらのチップは、設計者が想定する「最も効率的な計算」に基づいてアーキテクチャが異なります。例えば、TPUはシストリックアレイに、他のチップは独自のメモリ構成やカスタムの計算エンジンに重点を置くなど、それぞれがAI時代の特定の課題を解決するためにカスタム設計されています。
どのチップを選ぶかは、ユーザーがどのクラウドサービスを利用しているか、行いたい処理が「学習」か「推論」か、そしてモデルの規模によって決定されます。

TPU/Trainium/Maiaは学習、Inferentiaは推論を主に高速化し、各社クラウドに最適化されています。

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