日本製鉄の水素還元製鉄技術 水素還元製鉄技術Super COURSE50とは何か?

この記事で分かること

  • 水素還元製鉄技術とは:鉄鉱石の還元にコークスの代わりに水素ガスを用いる技術です。これにより、従来の製鉄法で大量に発生していた二酸化炭素を水に代え、排出量を大幅に削減またはゼロにすることを目指します。
  • 水素還元製鉄に必要な技術:グリーン水素の大量・安価な製造・供給技術と、高炉や直接還元炉への水素安定適用技術、さらに残余CO2を処理するためのCCUS技術の確立が不可欠です。
  • Super COURSE50とは:既存の高炉設備を維持しつつ、加熱した外部水素を吹き込むことで、高炉由来のCO2排出量を50%以上削減することを目指す日本製鉄の革新的な技術です。

日本製鉄の水素還元製鉄技術

 日本製鉄が発表した2026年度から5年間の中期経営計画によると、総額約6兆円の設備投資・事業投資を行う方針です。これは「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」への復権を目指すための大規模な投資となります。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/fff0b4f8f76b0f55c63702818cca5d8ff287557c

 投資金額は海外のほうが多いものの、国内では世界最高水準の製品と、それを効率的かつ低コストで製造するプロセス技術や水素還元製鉄技術などのカーボンニュートラルへ向けた開発を行う研究開発(R&D)の中心としての役割を担い続けるとされています。

水素還元製鉄技術とは何か

 水素還元製鉄技術とは、鉄鉱石から鉄を取り出す(還元する)際に、主に水素ガス(H2)を還元剤として利用することで、二酸化炭素(CO2)の排出を大幅に削減またはゼロにすることを目指す、革新的な製鉄プロセスです。


従来の製鉄法との違い

 従来の高炉法では、鉄鉱石の酸素を取り除く還元剤としてコークス(炭素:C)が使われます。このとき、コークスが酸素と結びつくことで、大量のCO2が発生します。

 鉄鉱石+炭素(C)→ 鉄 +二酸化炭素(CO2)

 これに対し、水素還元製鉄では、還元剤として水素ガス(H2)を使います。水素が酸素と結びつくと、水(H2O)しか発生しないため、CO2の排出が実質的にゼロになります。

 鉄鉱石+水素(H2)→ 鉄 +水(H2O)

(化学反応式例: Fe2O3 + 3H2 → 2Fe + 3H2O)

主な開発アプローチ

 水素還元製鉄には、主に以下の2つのアプローチがあります。

1. 高炉水素還元技術(COURSE50/Super COURSE50)

  • 概要: 既存の高炉を最大限活用しつつ、還元に使うコークスの一部を水素ガスに置き換える技術です。
  • 特徴:
    • コークスを完全に無くすことはできませんが、現行の生産設備を活かしながら段階的にCO2排出量を削減できるのが利点です。
    • 日本製鉄は、高炉に水素を吹き込むことでCO2排出量の50%以上削減を目指す「Super COURSE50」を開発中です。
  • 課題: 水素による還元反応は吸熱反応(熱を奪う反応)であるため、従来のコークスのように高炉内の高温を維持することが難しく、熱源を確保する必要があります。

2. 直接水素還元法(H2-DRI)

  • 概要: 鉄鉱石を固体のまま還元する直接還元炉(DRI)において、還元ガスを天然ガスから水素ガスに完全に置き換える技術です。
  • 特徴:
    • 理論上はCO2排出量を100%削減できる可能性を秘めています。
    • 天然ガスベースのDRIは既に実用化されているため、その還元ガスを水素に切り替える開発が進められています。
  • 課題:
    • 還元で得られた鉄(直接還元鉄:DRI)を溶解するために電炉を使う必要があります。
    • 大量のCO2排出量削減には、グリーン水素(再生可能エネルギー由来の水素)の安価かつ安定的な大量供給が前提となります。

 水素還元製鉄は、鉄鋼業がカーボンニュートラルを実現するための最有力候補であり、世界中の鉄鋼メーカーが技術開発を競っています。

水素還元製鉄は、鉄鉱石の還元にコークスの代わりに水素ガスを用いる技術です。これにより、従来の製鉄法で大量に発生していた二酸化炭素を水に代え、排出量を大幅に削減またはゼロにすることを目指します。

Super COURSE50とは何か

 Super COURSE50(スーパー・コース50)は、日本製鉄などが開発に取り組む、既存の高炉設備を最大限活用しながら、CO2排出量を大幅に削減することを目指す革新的な製鉄技術です。

 この技術は、高炉での還元材の一部を、従来のコークス(炭素)から水素ガス(H2)へと置き換えることで、CO2排出量を削減する「高炉水素還元技術」の次世代版と位置づけられています。


Super COURSE50

  • 目標: 高炉由来のCO2排出量を50%以上削減することを目指します。
  • 技術:
    1. 外部水素の活用: 従来の「COURSE50」が製鉄所内で発生する水素(コークス炉ガスなど)を主に利用していたのに対し、Super COURSE50では、製鉄所外から購入した大量の水素を積極的に活用します。
    2. 加熱水素の吹き込み: 水素による還元反応は高炉内の温度を下げる「吸熱反応」であり、効率的な製鉄の妨げになります。この課題を克服するため、水素を事前に加熱してから高炉に吹き込む技術を開発し、高炉内の熱バランスを維持します。
  • 実証状況:
    • 日本製鉄は、東日本製鉄所君津地区の試験炉(炉容積12m³)において、この加熱水素吹き込みによる高炉水素還元技術の試験を進めており、世界最高水準となるCO2排出量43%削減(2024年12月時点)を達成しています。
  • ロードマップ: 2040年頃までに大型高炉でのSuper COURSE50技術(CO2排出量50%以上削減)の確立を目指して取り組んでいます。

カーボンニュートラルへの位置づけ

 Super COURSE50は、鉄鋼業界がカーボンニュートラル(実質ゼロ)を目指す上でのトランジション技術(橋渡し技術)として非常に重要です。

  • 高炉を前提とした技術であるため、ゼロエミッションの水素直接還元製鉄(H2-DRI)が実現し、グリーン水素が安価に大量供給されるまでの間、既存の生産インフラを活かしながら排出量を半減させる現実的な解決策となります。
  • 残余のCO2排出量(約50%未満)についてはCCUS(炭素回収・利用・貯留)などの技術と組み合わせて、最終的なカーボンニュートラルを目指します。

 Super COURSE50は、日本の技術力を活かし、高炉メーカーの主流技術として世界をリードするための重要なプロジェクトであり、国の「グリーンイノベーション基金事業」の支援を受けて開発が進められています。

Super COURSE50は、既存の高炉設備を維持しつつ、加熱した外部水素を吹き込むことで、高炉由来のCO2排出量を50%以上削減することを目指す日本製鉄の革新的な技術です。

水素還元製鉄の実現に必要な技術は何か

 水素還元製鉄の実現には、主に3つの主要な技術課題を克服する必要があります。

大量かつ安価な水素の製造・供給技術

 CO2排出量ゼロを目指すには、製造過程でCO2を排出しない「グリーン水素」(再生可能エネルギー由来)を、大量かつ安価に製造・輸送・貯蔵する技術が不可欠です。現在の水素コストは製鉄に必要なコスト水準には達していません。

高炉・直接還元炉への水素適用技術

 Super COURSE50においては、大量の水素を安定して高炉内に吹き込み、効率的に還元しつつ、高炉内の熱バランスを維持する技術(加熱水素吹き込みなど)の確立が必要です。

 直接還元法においては、水素を還元材とする炉の設計・操業技術や、還元された鉄(DRI)を高品質な鋼材にするための電炉との連携技術が必要です。

残余CO2の回収・利用・貯留(CCUS)技術

 Super COURSE50のように排出量がゼロにならない場合や、プロセス移行期間においては、排出されるCO2を効率的に分離・回収し、地下に貯留するか有効利用するCCUS技術が不可欠です。

 このうち、日本製鉄のSuper COURSE50は、特に2つ目の「高炉への水素適用技術」で先行しています。

グリーン水素の大量・安価な製造・供給技術と、高炉や直接還元炉への水素安定適用技術、さらに残余CO2を処理するためのCCUS技術の確立が不可欠です。

加熱水素吹き込みとは何か

 加熱水素吹き込みとは、日本製鉄が開発を進めるSuper COURSE50技術の核心となる要素の一つで、高炉内に水素ガスを吹き込む前に、その水素ガスを非常に高い温度に加熱しておく技術です。

 これは、水素還元製鉄が抱える最大の技術的課題である「高炉内の熱バランスの維持」を解決するために不可欠なプロセスです。


1. 加熱が必要な理由(吸熱反応の克服)

 水素ガス(H2)が鉄鉱石(酸化鉄)を還元する反応は、吸熱反応です。

  • 従来の高炉: コークス(炭素)による還元は熱を出す発熱反応であり、これが高炉内を高温に保つ主要な熱源の一つです。
  • 水素還元: コークスの代わりに水素を使うと、この熱源が失われるだけでなく、還元反応自体が高炉内の熱を奪ってしまうため、高炉の温度が急激に低下してしまいます。
  • 問題点: 高炉内の温度が下がると、銑鉄(せんてつ)の品質が低下したり、高炉の炉況(運転状態)が不安定になり、安定操業が不可能になります。

2. 加熱水素の役割

 この温度低下を防ぐため、高炉の羽口(はぐち:高温ガスを吹き込む穴)から水素を吹き込む前に、数百℃〜1,000℃程度の高温まで水素ガス自体を加熱します。

  • 熱供給: 加熱された水素ガスを吹き込むことで、還元に必要な熱エネルギーを外部から持ち込み、還元による吸熱分を補填します。
  • 安定操業: これにより、コークス使用量を大幅に削減しても、高炉内の熱バランスが維持され、高品質な銑鉄の安定的な生産が可能になります。

3. Super COURSE50との関係

 加熱水素吹き込みは、「既存の高炉を最大限利用しながらCO2を削減する」というSuper COURSE50の目標を達成するための鍵となる技術です。

  • 日本製鉄は、この技術によって高炉のCO2排出量を50%以上削減することを目指しており、小規模な試験炉で実証試験を進めています。

 この技術は、「いかにしてCO2を出さない還元剤を使いながら、製鉄に必要な高温状態を維持するか」という、製鉄技術における最も難しい課題を解決するための、日本独自の革新的なアプローチと言えます。

加熱水素吹き込みは、高炉に水素ガスを吹き込む前に高温に加熱しておく技術です。水素還元による吸熱作用(温度低下)を補填することで、高炉内の熱バランスを維持し、コークス削減後も安定した操業を可能にします。

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