この記事で分かること
- ゼオライトとは:ナノサイズの微細な穴(細孔)が無数に空いた「多孔質」な結晶性鉱物です。特定の大きさの分子だけを通す「分子ふるい」や、ガス・水分を強力に捉える「吸着剤」として、使用されています。
- 吸着力が強い理由:①広大な表面積(1gでサッカー場級)によりCO2の「座席」が膨大なこと、②結晶内の電気的な力が磁石のようにCO2を引き寄せること、③分子サイズの穴にぴったり閉じ込める「ふるい」の効果です。
- ぴったりの穴を作る方法:狙ったサイズのテンプレート剤(分子の型)を原料に混ぜ、その周囲に結晶を成長させることで、ナノ単位の正確な穴を作ります。また、AI設計や種結晶の活用により、CO2分子に最適な隙間を低コストかつ精密に制御します。
ゼオライトによるCO2吸着
日本発の二酸化炭素(CO2)回収技術(DAC: Direct Air Capture)を開発するスタートアップ、Planet Savers(プラネットセイバーズ)がオーストラリアの Australian Carbon Vault(ACV)社と、南オーストラリア州でのCO2回収・貯留(CCS)プロジェクトに関する覚書(MoU)を締結したことを発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC175400X11C25A2000000/
同社の大気中CO2直接回収は東大発の独自技術である、ゼオライト吸着剤を用いた安価で丈夫な素材により低コストと長寿命(約10年)を両立しています。
ゼオライトとは何か
ゼオライト(沸石)とは、微細な穴が無数に開いた「多孔質」な構造を持つ鉱物です。身近な例では、猫砂や空気清浄機のフィルター、洗剤の成分などに使われています。
主な特徴は以下の通りです。
- 分子のふるい: ナノサイズの小さな穴があり、特定の大きさの分子(CO2など)だけを通したり閉じ込めたりする「ふるい」の役割を果たします。
- 強力な吸着力: 表面積が非常に広く、ガスや臭いの成分、水分などを強力に引き寄せて保持します。
- 繰り返し使える: 吸着した物質は、圧力や温度を変えることで取り出すことができ、ゼオライト自体は劣化しにくいため何度も再利用可能です。
ゼオライトは、ナノサイズの微細な穴を持つ「多孔質」な鉱物です。特定の分子を捉える分子ふるいや吸着剤として優秀で、猫砂や洗剤、空気清浄機など幅広く利用されています。丈夫で再利用可能な点も大きな特徴です。

ゼオライトは、ナノサイズの微細な穴(細孔)が無数に空いた「多孔質」な結晶性鉱物です。特定の大きさの分子だけを通す「分子ふるい」や、ガス・水分を強力に捉える「吸着剤」として、洗剤や猫砂、空気清浄機など幅広く利用されています。
なぜ吸着力が強いのか
ゼオライトの吸着力が強い理由は、主に「表面積の広さ」と「電気的な引き付け」、そして「分子サイズへの最適化」という3つの仕組みによるものです。
1. 圧倒的な「表面積」の広さ
ゼオライトはナノレベルの小さな穴(細孔)が無数に空いた「ミクロのスポンジ」のような構造をしています。
- サッカー場並みの広さ: 内部の穴の壁面をすべて広げると、わずか1gのゼオライトでも数百〜数千平方メートル(テニスコートやサッカー場に匹敵)もの表面積になります。
- キャッチする場所が多い: 表面積が広いほど、CO2分子をキャッチして保持できる「座席」が多いため、大量に吸着できます。
2. 電気的な「引き付け力」
ゼオライトの結晶構造にはプラスやマイナスの電気的な偏りがあります。
- 静電気のような力: ゼオライト内部には陽イオン(ナトリウムなど)が含まれており、これが強い電場を作っています。
- CO2を狙い撃ち: CO2分子は電気的に偏りやすい性質(四重極モーメント)を持っているため、磁石に吸い寄せられるようにゼオライトの壁に強く引き付けられます。
3. 「分子ふるい」による閉じ込め効果
Planet Saversの独自技術が最も発揮されるのがこの部分です。
- ぴったりサイズの穴: ゼオライトの穴の大きさを、CO2分子の大きさ(約0.33ナノメートル)に合わせて精密に設計しています。
- 逃がさない構造: CO2がちょうど1つか2つ入れるくらいの狭い空間に閉じ込めることで、分子の動きを制限し、吸着力を最大化しています。

理由は、①広大な表面積(1gでサッカー場級)によりCO2の「座席」が膨大なこと、②結晶内の電気的な力が磁石のようにCO2を引き寄せること、③分子サイズの穴にぴったり閉じ込める「ふるい」の効果です。
ゼオライトはどのように製造されるのか
ゼオライトの製造は、主に「水熱合成法(すいねつごうせいほう)」という、圧力鍋で料理を作るようなプロセスで行われます。
一般的な製造工程は以下の通りです。
- 原料の混合: 主成分であるシリカ(砂の主成分)、アルミナ(アルミニウムの原料)、そしてアルカリ(水酸化ナトリウムなど)を水に混ぜて、ドロドロの「ゲル」を作ります。
- 型取り(テンプレート添加): 狙った通りの穴(細孔)を作るために、「テンプレート剤」と呼ばれる分子を混ぜます。これが柱の役割を果たし、結晶の中に精密な隙間を作ります。
- 結晶化(水熱合成): 密閉容器に入れ、100〜200℃程度の熱と圧力を数時間から数日間かけます。これにより、成分が整列してゼオライトの結晶へと成長します。
- 仕上げ: 結晶を取り出して洗浄・乾燥させます。最後に加熱して中のテンプレート剤を焼き飛ばすと、中が空洞になり、CO2をキャッチする「穴」が完成します。

シリカやアルミナを混ぜた原料に、狙った穴のサイズを作る「型」を加え、圧力容器で加熱・加圧する水熱合成法で製造します。結晶化後に「型」を焼き飛ばすと、CO2をキャッチする精密なナノ空間が完成します。
CO2用のゼオライトではどのようなテンプレート剤が使用されるのか
CO2専用の超高性能ゼオライト(特にPlanet Savers社などが扱うようなDirect Air Capture用)で使われるテンプレート剤には、主に「第四級アンモニウム化合物」などの有機構造規定剤(OSDA)が使用されます。
- 主な種類(OSDA):
- テトラプロピルアンモニウム(TPA)やテトラエチルアンモニウム(TEA)などのイオンが代表的です。
- CO2キャッチに最適な「CHA(チャバサイト)」や「MFI」といった特定の結晶構造を誘導するために、窒素を含む複雑な有機分子が「型」として使われます。
- 超高性能を実現するための工夫:
- 計算科学・AIによる設計: 近年ではAIを用いて、CO2分子(約0.33nm)を最も効率よく捕まえ、かつ離しやすい「理想の隙間」を形作るための新しいOSDAが数億通りの候補から選別されています。
- OSDAフリー製法の進化: 一方で、テンプレート剤は高価で環境負荷もあるため、「種結晶(シード)」を使うことでテンプレート剤を使わずに(あるいは最小限にして)高性能な構造を作る技術も、Planet Saversのような企業の低コスト化の鍵となっています。

主に第四級アンモニウム塩などの有機構造規定剤(OSDA)が使われます。分子レベルでCO2に最適な穴を形作る「型」の役割を果たしますが、最近はコスト削減のため、AIで設計された特殊な分子や、型を使わない種結晶方式も注目されています。
種結晶を使用する方法とは
種結晶(シード)法とは、ゼロから結晶を作る代わりに、あらかじめ完成している少量のゼオライト(種結晶)を「設計図」や「核」として原料に加える製造方法です。
主な仕組みとメリットは以下の通りです。
- 「お手本」に従って成長: 原料(シリカやアルミナ)の中に種結晶を入れると、周りの成分がその結晶構造をマネするように整列・成長します。
- テンプレート剤が不要: 種結晶が「型」の役割を果たすため、高価なテンプレート剤(有機構造規定剤)を使わずに済む、あるいは大幅に減らすことが可能です。
- 製造時間の短縮: 結晶の「核」が最初から存在するため、ゼロから核が生まれるのを待つ必要がなく、数日かかっていた合成が数時間に短縮されます。

種結晶法は、少量の完成した結晶を「核」として原料に加える手法です。これが設計図となり、高 価なテンプレート剤(型枠)なしで同じ構造を再現できます。コストを抑えつつ、製造時間を劇的に短縮できるのが利点です。

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