ディスコの長期発行体格付がAAへ格上げ JCRの格付けとは何か?格上げの理由は何か?

この記事で分かること

  • JCRの格付けとは:日本格付研究所が企業の債務履行能力(借金を返す力)を評価し、記号でランク付けしたものです。最高位のAAAからDまであり、投資家が企業の安全性や信用力を判断する重要な指標として活用されます。
  • ディスコの格上げの理由:生成AI向け「HBM」関連の需要拡大に伴い、同社の技術の価値が飛躍的に高まったためです。圧倒的な市場シェアと高水準の利益率、実質無借金の極めて強固な財務体質が改めて評価されました。
  • HBM製造でのディスコの装置の用途:DRAMを何層も積み上げるHBMでは、1枚ずつのチップを驚異的な薄さに削るグラインダ(研削機)が不可欠です。また、削る際にウェーハが割れないよう縁を加工する「エッジトリミング」や、回路を傷つけず切り分けるダイシングソー(切断機)も、歩留まり向上の鍵として世界シェアの大半を占めています。

ディスコの長期発行体格付がAAへ格上げ

 2024年3月、日本格付研究所(JCR)は半導体製造装置大手であるディスコの長期発行体格付を、これまでの「A+(シングルAプラス)」から「AA(ダブルA)」へ1段階引き上げました。格付の見通しは「安定的」としています。https://www.nikkei.com/article/DGXZNSD5ICP01_S5A221C2000000/

 ディスコは、生成AIブームの「隠れた主役」とも言えるポジションを確立しており、今回の格上げはその事業モデルの強固さが改めて公的に証明された形と言えます。

JCRの格付けとはなにか

 JCR(日本格付研究所)の格付けとは、「その企業にお金を貸して、ちゃんと返ってくるか」を専門家が客観的にランク付けしたものです。

 いわば「企業の通信簿」のようなもので、投資家がその企業の安全性を判断する際の重要な指標となります。


1. 格付けの仕組み(ランクの見方)

 JCRの長期格付けは、最高ランクの「AAA」から、債務不履行(デフォルト)を意味する「D」まで、21段階で構成されています。

区分格付符号意味
投資適格
(安全性が高い)
AAA

AA

A

BBB
最上級。債務履行の確実性が最も高い。
極めて高い。優れた要素がある。(ディスコはここ)
高い。部分的に優れた要素がある。
十分。環境変化には注意が必要。
投機的
(リスクがある)
BB以下債務履行に不安や不確実性がある。
  • 「+」や「-」の意味: 同じ「AA」の中でも、さらに細かい差を示すために使われます(例:AA+ は AA よりも少し評価が高い)。
  • 格付の見通し: 格付けに加えて、「ポジティブ(上げ方向)」「安定的」「ネガティブ(下げ方向)」といった将来の予測も添えられます。

2. なぜ格付けが必要なのか

 企業や投資家にとって、格付けには主に以下のメリットがあります。

  • 投資家の判断材料: 一般の人が企業の財務状況をすべて調べるのは大変ですが、格付けを見れば「この会社はAAAだから安心だ」と一目でわかります。
  • 資金調達コスト: 格付けが高い(=信頼がある)企業は、銀行から低い金利でお金を借りたり、有利な条件で社債を発行したりできます。
  • 取引の社会的信用: 高い格付けを持つことは、ビジネスパートナーとしての信頼性にもつながります。

3. JCRとはどんな組織

 JCR(Japan Credit Rating Agency, Ltd.)は、日本の二大格付け機関の一つです(もう一つはR&I:格付投資情報センター)。

  • 国内シェア: 国内の金融機関や企業の格付けにおいて非常に高いシェア(金融機関の約70%など)を誇ります。
  • 国際性: 米国や欧州など海外でも認定を受けており、日本を代表する格付け機関として国際的にも信頼されています。

 今回、ディスコが「A+」から「AA」に上がったということは、「かなり信頼できる企業」から「日本を代表するトップクラスの超優良企業」へ、一段上のステージに認められたことを意味します。

JCR格付とは、日本格付研究所が企業の債務履行能力(借金を返す力)を評価し、記号でランク付けしたものです。最高位のAAAからDまであり、投資家が企業の安全性や信用力を判断する重要な指標として活用されます。

ディスコの格付けが上がった理由は何か

 格上げの主な理由は、大きく分けて以下の3点です。

1. 後工程における付加価値の向上

 半導体の進化において、これまでの「微細化(前工程)」が物理的な限界に近づく中、複数のチップを積み重ねるなどの「後工程(パッケージング)」の重要性が劇的に高まっています。

 ディスコが強みとする「切る・削る・磨く」技術は、この後工程で不可欠であり、同社の製品や技術の価値(価格支配力やニーズ)が一段と高まっていることが評価されました。

2. 生成AI向け「HBM」への貢献

 生成AIに欠かせない高性能メモリ「HBM(広帯域メモリ)」の製造において、同社のTSV(シリコン貫通電極)関連技術などが量産に適用されています。

 この生成AI特需が一時的なものではなく、中長期的な収益の柱として定着しつつある点が、業績の拡大を後押しすると判断されました。

3. 圧倒的な財務の健全性

 ディスコはもともと実質無借金経営を続けており、非常に強固な財務体質を持っています。

  • 自己資本比率の向上: 利益の積み上げにより、自己資本比率は70%を超える高い水準を維持。
  • キャッシュ創出能力: 設備投資を自前でまかなえるだけの高い現金創出能力があり、不況への耐性が極めて高いことも「AA」への格上げを支えました。

JCRが格付けを引き上げた理由は、生成AI向け「HBM」関連の需要拡大に伴い、同社の「切る・削る・磨く」技術の価値が飛躍的に高まったためです。圧倒的な市場シェアと高水準の利益率、実質無借金の極めて強固な財務体質が改めて評価されました。

HBM製造でディスコの装置はどのように使われるのか

 HBM(高帯域幅メモリ)の製造において、ディスコの装置は「チップを極限まで薄くし、高精度に積み上げる」ための最も重要な工程で活躍しています。具体的には、以下の3つの役割が中心です。


1. 極限までの「薄化」 (グラインディング)

 HBMは、8枚や12枚(将来的にはそれ以上)のDRAMチップを縦に積み上げる構造です。全体の厚さを抑えるため、1枚ずつのチップを驚異的な薄さに削る必要があります。

  • 役割: ディスコのグラインダ(研削機)が、ウェーハの裏面を削ります。
  • 凄さ: 最終的な厚さは、一般的なコピー用紙(約100μm)よりも遥かに薄い、数十μm単位まで均一に仕上げられます。

2. 積層のための「端面加工」 (エッジトリミング)

 薄く削りすぎたウェーハは非常に割れやすくなります。

  • 役割: 削る前にウェーハの縁(エッジ)をあらかじめ面取りするように削り取る技術(エッジトリミング)が使われます。
  • 凄さ: これにより、薄化工程やその後の搬送中にウェーハが破損するのを防ぎ、製造の歩留まり(良品率)を劇的に向上させます。

3. チップへの「切り分け」 (ダイシング)

 薄く加工されたウェーハを、個々のチップに切り分けます。

  • 役割: ダイシングソーレーザーソーを用いて、回路を傷つけずに精密に切断します。
  • 凄さ: 近年では、HBMの積層をより高密度にする「ハイブリッドボンディング」などの新技術に対応するため、さらに汚れ(パーティクル)を出さない高度な切断技術が求められており、ディスコの独壇場となっています。

 HBMは「薄くすればするほど、かつ平らであればあるほど」高性能になります。

 この「薄く、平らに」という、物理的な限界に挑む加工において、ディスコの装置と、そこで使われる消耗品(ダイヤモンド砥石)の組み合わせが、世界中の半導体メーカーにとって代えがきかない存在になっています。

DRAMを何層も積み上げるHBMでは、1枚ずつのチップを驚異的な薄さに削るグラインダ(研削機)が不可欠です。また、削る際にウェーハが割れないよう縁を加工する「エッジトリミング」や、回路を傷つけず切り分けるダイシングソー(切断機)も、歩留まり向上の鍵として世界シェアの大半を占めています。

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