この記事で分かること
- 使用される絶縁層:主に二酸化シリコン が「電子を閉じ込める壁」として使われます。また、データをより安定して保持するために窒化シリコンと組み合わせた積層構造(ONO構造)も一般的です。
- 窒化シリコンの利点:「電荷を点で固定する力」にあります。絶縁体内のトラップに電子を閉じ込めるため、一部の膜が劣化してもデータが漏れにくく、微細化や3D積層化に適した高い信頼性と大容量化を実現できます。
- 窒化シリコン単体で使用しない理由:、電子を捕まえる力はあっても、外へ漏らさない「壁」としての力が不十分だからです。絶縁性能が高い酸化膜で挟むことで、電子をトラップに閉じ込めつつ、外部へのリーク(漏れ)を完全に防ぎ、10年以上の長期データ保存を可能にしています。
不揮発性メモリの絶縁層
半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。
ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回は、不揮発性メモリの絶縁層に関する記事となります
不揮発性メモリとは何か
不揮発性メモリとは、電源を切っても保存したデータが消えないメモリのことです。データの長期保存に適しており、代表例にはSSD、USBメモリ、SDカードなどがあります。作業用の一時的な保存を行う「揮発性メモリ(RAM)」と対比して、情報の「記録」を担うデバイスとして不可欠な存在です。
不揮発性メモリがデータを長期保存できる理由は、「絶縁体」という電気を通さない壁で電子を閉じ込めているからです。周囲が絶縁体で守られているため、電源を切っても電子が逃げ出せず、データ(0と1の状態)が保持されます。
絶縁層にはどのような物質が使用されるのか
不揮発性メモリ(特に主流のフラッシュメモリ)において、電子を閉じ込める「壁」として使われる絶縁体には、主に以下の物質が使用されています。
1. 二酸化シリコン (SiO2)
最も一般的に使用される絶縁体です。「シリコン酸化膜」とも呼ばれます。
- 役割: 電子を閉じ込める「トンネル絶縁膜」や、各素子を隔てる「分離膜」として機能します。
- 特徴: 非常に優れた絶縁性能を持ち、半導体プロセスの基本となる材料です。
2. 窒化シリコン (Si3N4)
「シリコン窒化膜」と呼ばれ、酸化シリコンと組み合わせて使われます。
- 役割: 最近の「チャージトラップ型」と呼ばれるフラッシュメモリでは、電子をそのままこの窒化膜の中にトラップ(捕獲)して保存します。
- 構造: ONO構造(Oxide-Nitride-Oxide:酸化膜・窒化膜・酸化膜)というサンドイッチ構造で使われることが多いです。
3. High-k 材料(高誘電率材料)
メモリの微細化が進む中で、従来の酸化シリコンでは薄すぎて電気が漏れてしまう(リーク電流)問題が発生したため、導入された新しい材料です。
- 物質例: 酸化ハフニウム ($HfO_2$) や 酸化アルミニウム ($Al_2O_3$) など。
- 特徴: 物理的な厚みを保ちつつ、電気的には薄い膜と同じように効率よく電圧をかけられるため、データの保持能力を高めることができます。
次世代メモリの場合
フラッシュメモリ以外では、異なる性質を持つ物質が「絶縁体」の役割を担います。
- FeRAM: 強誘電体(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛など)を使用。
- MRAM: 非常に薄い絶縁膜(酸化マグネシウム $MgO$ など)を磁石で挟んだ構造。

主に二酸化シリコン が「電子を閉じ込める壁」として使われます。また、データをより安定して保持するために窒化シリコンと組み合わせた積層構造(ONO構造)も一般的です。
近年は微細化に伴う電気漏れを防ぐため、酸化ハフニウムなどの「High-k材料(高誘電率材料)」も導入されています。
窒化シリコンを使用する利点は何か
不揮発性メモリ(特に最新の3D NANDフラッシュメモリ)において、窒化シリコン (Si3N4)を使用する最大の利点は、「データをより安定して、高密度に保存できること」にあります。
1. 「電荷トラップ」による高い保持力
窒化シリコンは、内部に電子を物理的に捕まえる「トラップ(罠)」となる欠陥を多く持っています。
- 利点: 従来のメモリ(フローティングゲート型)は「導体」に電子を溜めるため、絶縁膜に一箇所でも傷があると全ての電子が漏れてしまいます。しかし、窒化シリコンは「絶縁体」そのものに電子を点在させて固定するため、一部が傷ついてもデータが逃げ出しにくいという非常に高い信頼性を持っています。
2. 製造プロセスの簡略化と積層化
窒化シリコンは、薄い膜として均一に作りやすく、他の材料と重ねる加工(エッチング)が容易です。
- 利点: 現在主流の「3D NAND」のように、メモリセルを100層以上に積み上げる構造を作る際、加工のしやすさが不可欠です。これにより、大容量のSSDを安価に製造できるようになりました。
3. セル間の干渉(ノイズ)が少ない
窒化シリコンを用いた「チャージトラップ型」は、隣り合うメモリセルとの電気的な干渉が少ないという特徴があります。
- 利点: セル同士を極限まで近づけてもデータが壊れにくいため、メモリのさらなる微細化・大容量化が可能になります。

窒化シリコンの利点は、「電荷を点で固定する力」にあります。絶縁体内のトラップに電子を閉じ込めるため、一部の膜が劣化してもデータが漏れにくく、微細化や3D積層化に適した高い信頼性と大容量化を実現できます。
窒化シリコンはなぜ電子を捕まえておくことができるのか
窒化シリコン(Si3N4)が電子を捕まえておける理由は、その物質の中に「電子の罠(トラップ)」となる微細な欠陥が意図的に無数に含まれているからです。
1. 結晶の「ほころび」が罠になる
通常の安定した物質では、電子は決まった場所に収まっています。しかし、メモリに使われる窒化シリコンは「アモルファス(不規則な構造)」であり、原子の結合が途切れた「未結合手(ダングリングボンド)」などの不完全な部分(欠陥)が多く存在します。
- 仕組み: 電圧をかけて電子を送り込むと、電子はこの「結合のほころび」にパチンとハマり込みます。
- 効果: これが「トラップ(罠)」となり、一度ハマった電子はエネルギー的に安定するため、外から強い力を加えない限りそこから動けなくなります。
2. 「深いエネルギー準位」という高い壁
物理学的には、窒化シリコンのトラップは「深いエネルギー準位」を持っていると言われます。
- 例え: 電子が浅い穴(RAMなど)に入っているだけなら、少しの振動や熱ですぐに飛び出してしまいます。
- 窒化シリコン: 窒化シリコンの穴は非常に「深く」、一度落ちると熱などの外部エネルギー程度では抜け出せません。これが、電源を切ってもデータが消えない(=電子が逃げない)理由です。
3. 「絶縁体」だからこそ動けない
窒化シリコンは電気を通さない「絶縁体」です。
- 導体(金属など)の場合: 電子を閉じ込めようとしても、電子同士が反発して全体に広がり、どこか一箇所でも穴(絶縁破壊)があればそこから全部逃げてしまいます。
- 窒化シリコンの場合: 電子が「その場所」に固定されます。隣へ移動しようにも、物質自体が電気を通さないため、電子は身動きが取れません。そのため、データの保持が非常に安定します。

窒化シリコンが電子を捕まえるのは、物質内に「トラップ」と呼ばれる原子レベルの欠陥が無数にあるためです。送り込まれた電子はこの深い罠にハマり、絶縁体という性質によって移動を制限されるため、電源を切っても長期間その場に留まり続けることができます。
窒化シリコン単体で絶縁層にしない理由は何か
窒化シリコン(Si3N4)を単体で絶縁層にせず、あえて酸化膜(SiO2)で挟むサンドイッチ構造(ONO構造)にする理由は、「電子を捕まえる能力」と「電子を逃がさない能力」を分担させるためです。
窒化シリコン単体では、以下の2つの大きな弱点があります。
1. 「絶縁性」が酸化膜に比べて低い
窒化シリコンは「電子を捕まえる罠(トラップ)」は多いのですが、電気を止める力(絶縁性能)そのものは酸化膜よりも劣ります。
- 単体の場合: せっかく電子を捕まえても、外部との境界線に酸化膜がないと、隣の電極や基板へ電子がじわじわと漏れ出してしまいます。
- ONO構造: 外側の酸化膜が「強力な壁」となり、真ん中の窒化膜に捕まった電子が外へ逃げるのを物理的にシャットアウトします。
2. 「リーク電流」が発生しやすい
窒化シリコンは、酸化膜に比べてバンドギャップ(電子が移動するのに必要なエネルギー障壁)が小さい物質です。
- 単体の場合: 電圧をかけていない時でも、熱や電界の影響で電子が移動しやすくなり、データが消えるまでの時間(保持期間)が短くなってしまいます。
- ONO構造: 障壁の高い酸化膜を両端に置くことで、トンネル効果による意図しない電子の出入りを防ぎ、データの安定性を高めています。

窒化シリコン単体では、電子を捕まえる力はあっても、外へ漏らさない「壁」としての力が不十分だからです。絶縁性能が高い酸化膜で挟むことで、電子をトラップに閉じ込めつつ、外部へのリーク(漏れ)を完全に防ぎ、10年以上の長期データ保存を可能にしています。

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