この記事で分かること
- 電力会社との契約理由:AI開発の爆発的な電力需要に対応するためです。24時間安定稼働するクリーンな「ベースロード電源」として原子力を確保し、脱炭素目標の達成と、将来の電力不足リスクを回避して競争力を維持する狙いがあります。
- AIが電力消費が大きい理由:数兆個のパラメータを持つ巨大モデルを数万個の高性能GPUで数ヶ月間フル稼働させる「学習」が必要です。これに伴う膨大な計算負荷と、サーバーの熱を逃がすための冷却に、桁違いの電力が必要となります。
- 契約した企業:「今すぐ使える既存電源(ビストラ)」と「将来の拡張性に富む次世代技術(オクロ、テラパワー)」の両輪でリスク分散を図ったと言えます。
メタによる電力調達契約
米メタ(Meta)は、AI(人工知能)開発に伴う莫大な電力需要を賄うため、次世代原子力発電を含む3社との電力調達契約を行っています。

この契約により、メタは最大6.6ギガワット(GW)という、一企業としては世界最大級の原子力電源の確保を目指しています。
AI開発で莫大な電力が必要な理由は
AI(人工知能)、特にChatGPTのような「生成AI」の開発・運用に莫大な電力が必要な理由は、主に「計算量の爆発的増加」と「熱対策(冷却)」という2つの側面があります。
1. 「学習」プロセスの膨大さ
AIを作るための「学習(トレーニング)」では、インターネット上の天文学的な量のデータをAIモデルに読み込ませます。
- パラメータの増加: 最新のAIモデルは数千億から数兆もの「パラメータ(変数の調整箇所)」を持っており、これを最適化するために数万個の高性能GPU(画像処理半導体)を数ヶ月間フル稼働させ続ける必要があります。
- 10倍の電力: 従来の一般的なサーバーと比べ、AI専用サーバーは約10倍の電力を消費すると言われています。
2. GPU(半導体)の特性
AI開発には、並列計算が得意なGPU(NVIDIA製など)が不可欠です。
- 高負荷な計算: GPUは一度に大量の計算を高速で処理しますが、その分、1チップあたりの消費電力が非常に大きくなっています。
- 常時稼働: 生成AIはユーザーの問いかけに即座に答える必要があるため、推論(実行)フェーズでも常に大量の電力を消費し続けます。
3. 「冷却」に必要なエネルギー
サーバーが電力を消費すると、そのほとんどが「熱」に変わります。
- 冷却コスト: サーバーが熱暴走しないよう、データセンター全体を冷やすための巨大な空調システム(または水冷システム)が必要です。
- 電力の2重消費: 「計算するための電力」に加え、その「熱を逃がすための電力」も必要になるため、トータルの消費電力が跳ね上がります。
4. ユーザー数の急増
AIが広く普及し、世界中の数億人が同時に質問を投げかけるようになったことも要因です。
- 検索との違い: Google検索1回に比べ、ChatGPTのような生成AIの回答1回には約10倍の電力が必要という試算もあります。
どれくらい増えるのか
国際エネルギー機関(IEA)の予測では、データセンターの電力消費量は2026年までに2022年比で約2倍に達すると見られています。
メタ(Meta)が次世代原発と契約したのは、このように「指数関数的に増え続ける電力需要」に対し、24時間安定して、かつ大量に発電できるクリーンな電源を自前で確保しない限り、AI開発の競争に負けてしまうという危機感があるためです。

AI開発には、数兆個のパラメータを持つ巨大モデルを数万個の高性能GPUで数ヶ月間フル稼働させる「学習」が必要です。これに伴う膨大な計算負荷と、サーバーの熱を逃がすための冷却に、桁違いの電力が必要となります。
具体的に検索などと比較するとどれくらい多いのか
生成AIと従来のGoogle検索を比較すると、1回あたりの電力消費量には約10倍の差があります。具体的には、1回のクエリ(質問・検索)あたり以下の電力を消費すると試算されています。
| サービス | 消費電力(1回あたり) | 比率 |
| Google検索 | 約 0.3 Wh | 1倍 |
| ChatGPT (生成AI) | 約 2.9 Wh | 約 10倍 |
なぜこれほど違うのか
この差は、裏側で行われている「処理の質」の違いにあります。
- 従来の検索: すでにある膨大な索引(インデックス)から、最適な答えを探して「提示」するだけです。
- 生成AI: 質問の文脈を理解し、一文字ずつ確率的に「計算して作り出す(生成)」ため、プロセッサ(GPU)が常にフル回転します。
全体像で見た場合
個別の検索だけでなく、AIの「学習」フェーズまで含めるとさらに桁が変わります。最新の巨大AIモデルを1つ学習させるのに必要な電力は、日本の一般家庭数百軒分の年間消費電力に匹敵するとも言われています。
メタ(Meta)などのビッグテックが、既存の送電網だけでなく「原発」という安定した巨大電源を自ら確保しようとするのは、この「10倍の消費」が数億人規模で日常化することを見据えているからです。

生成AIによる回答1回分には、従来のGoogle検索約10回分に相当する電力が消費されます。検索は既存情報の「抽出」ですが、AIは一から答えを「計算・生成」し、さらに膨大な冷却電力も要するため負荷が桁違いです。
具体的な提携先とその特徴は何か
メタは以下の3社と提携しています。各社は「即戦力」「超小型」「革新技術」という異なる強みを持っており、メタはこれらを組み合わせることで、AIデータセンター向けの安定したクリーン電力を確保しようとしています。
提携3社の詳細と特徴
| 提携先 | 主な特徴・役割 | 技術・供給計画 |
| ビストラ (Vistra) | 【即戦力・安定供給】 米国最大級の電力会社。既存の大型原発を活用するため、最も確実性が高い。 | ・既存の原発(ペリー、デイビス・ベッセなど)から2,609MWを供給。 ・20年間にわたる長期電力購入契約(PPA)。 |
| オクロ (Oklo) | 【柔軟性・超小型】 サム・アルトマン氏が支援するSMR企業。工場生産が可能で建設が早い。 | ・核燃料をリサイクル可能な高速炉「Aurora」を開発。 ・オハイオ州のAI拠点を中心に、段階的に出力を拡大。 |
| テラパワー (TerraPower) | 【次世代・蓄能】 ビル・ゲイツ氏が設立。次世代技術「ナトリウム」冷却を採用。 | ・溶融塩による熱蓄能システムを備えた「Natrium」炉を2基建設。 ・2032年から稼働予定で、当初は約690MWを供給。 |
各社の具体的な強み
1. ビストラ:既存インフラの活用
新設には時間がかかるため、メタはまずビストラが保有する既存の原子力発電所の出力を確保しました。これにより、AI開発に必要な電力を早期かつ大量に(大型原発約2.5基分)確保できるのが最大のメリットです。
2. オクロ:分散型・マイクロリアクター
オクロの原子炉は従来の原発とは異なり、非常に小型(数メガワット〜)です。
- 特徴: 廃棄物となるはずの核燃料を再利用できる「高速中性子炉」技術を採用。
- 強み: データセンターの隣に「電力の地産地消」のような形で設置でき、送電網の負荷を抑えられます。
3. テラパワー:再生可能エネルギーとの共存
テラパワーの「Natrium(ナトリウム)」技術は、液体ナトリウムを冷却材に使い、熱を蓄えておくことができます。
- 特徴: 蓄熱機能により、必要な時に出力をブースト(底上げ)できる。
- 強み: 太陽光や風力が足りない時に出力を上げるなど、他の再エネと組み合わせた柔軟な運用が可能です。

メタは、AI専用スーパーコンピュータ群「Prometheus(プロメテウス)」などのインフラを支えるため、「今すぐ使える既存電源(ビストラ)」と「将来の拡張性に富む次世代技術(オクロ、テラパワー)」の両輪でリスク分散を図ったと言えます。
メタ以外の動向はどうか
メタ以外のテック大手(マイクロソフト、グーグル、アマゾン)も、AI開発のための安定したクリーン電力を求めて、「脱・再エネ一本足」とも言える攻めの調達戦略を展開しています。
特に最近は、24時間安定して発電できる原子力へのシフトが加速しています。
各社の主な調達・投資戦略
| 企業 | 主な手法・ターゲット | 具体的な動き |
| マイクロソフト | 既存原発の再稼働 | スリーマイル島原発1号機の再稼働に向け、電力大手コンステレーションと20年の独占契約を締結(2027〜28年開始予定)。 |
| グーグル | 次世代原発(SMR) | スタートアップのカイロス・パワーと提携。複数の小型モジュール炉(SMR)から計500MWを調達予定。地熱発電にも投資。 |
| アマゾン | 原発直結データセンター | 原発に隣接したデータセンターを丸ごと買収。送電網を介さず直接電力を引き込む「ビハインド・ザ・メーター」方式を推進。 |
3つの共通したトレンド
- 原子力への回帰(SMRと再稼働)太陽光や風力は天候に左右されるため、AIを24時間動かす「ベースロード電源」として原子力が再評価されています。新設(SMR)だけでなく、既存の原発を「AI専用」として復活させる動きが目立ちます。
- 「電力会社」に近い役割へ単に電気を買うだけでなく、発電所の建設資金を融資したり、スタートアップに出資したりするなど、自らエネルギー開発を主導する「デベロッパー」のような動きを見せています。
- 次世代技術(地熱・核融合)への先行投資
- 地熱発電: グーグルはネバダ州で次世代地熱発電プロジェクトを稼働させています。
- 核融合: マイクロソフトは、2028年までの商用化を目指す核融合スタートアップ「ヘリオン・エナジー」と電力購入契約を結んでいます

各社は再エネに加え、24時間安定する原子力を重視しています。マイクロソフトは既存原発の再稼働、グーグルはSMR、アマゾンは原発隣接施設への投資を進めており、自ら次世代エネルギー開発を主導する姿勢を強めています。

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