この記事で分かること
- MRAMとは:磁石の性質を利用してデータを記録する高速・長寿命なメモリです。DRAMのような速さと、フラッシュメモリの「消えない」特性を両立しており、特に省電力が求められるIoT機器や車載システムで普及が進んでいます。
- なぜ高速なのか:電子を移動させる代わりに電子の磁気的な向き(スピン)を一瞬で反転させて記録するからです。DRAMのような充電待ちや、NANDのような消去工程が一切不要なため、理論上の限界速度は非常に高くなります。
- MRAMの欠点:大容量化の難しさとコストの高さです。磁気を反転させるために一定の電流が必要で、制御用パーツを小さくしにくいため、安価で大量のデータを扱うDRAMやNANDの牙城を崩すまでには至っていません。
MRAM
半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。
ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回はMRAMに関する記事となります。
MRAMとは何か
MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory:磁気抵抗メモリ)とは、データの記録に「電気(電荷)」ではなく「磁気」を利用する次世代のメモリです。
「DRAMの高速さ」と「フラッシュメモリの不揮発性(消えない性質)」を兼ね備えていることから、究極のメモリ(ドリーム・メモリ)の一つと期待されています。
MRAMの主な特徴
- 電源を切ってもデータが消えない(不揮発性)
- フラッシュメモリのように、電源を落としても磁力によってデータが保持されます。
- 読み書きが非常に高速
- DRAMに近い速度で動作します。SSDやUSBメモリ(NAND型)のような低速な消去プロセスが必要ありません。
- 書き換え寿命がほぼ無限
- 前述の「トンネル効果で絶縁層を傷つける」という物理的ダメージがないため、理論上、無限に近い回数の書き換えが可能です。
- 超省電力
- DRAMのように「リフレッシュ(電気の再充電)」が不要なため、待機電力をゼロに抑えられます。
仕組み:MTJ(磁気トンネル接合)
MRAMの最小単位は、「磁気トンネル接合(MTJ)」と呼ばれるサンドイッチ構造です。
- 参照層(固定層): 磁気の向きが固定された層。
- 絶縁層: 極めて薄い膜。
- 自由層(記録層): 磁気の向きを自由に変えられる層。
どうやって「0」と「1」を判定するのか
2つの磁性層の磁気の向きが同じ(並行)だと電気が流れやすく(低抵抗)、逆(反並行)だと流れにくく(高抵抗)なります。この「抵抗の差」をデータとして読み取ります。
他のメモリとの比較
| 特徴 | MRAM | DRAM | NAND(SSD等) |
| 揮発性 | 消えない | 消える | 消えない |
| 速度 | 非常に速い | 非常に速い | 遅い |
| 書き換え寿命 | ほぼ無限 | 無限 | 寿命あり |
| 主な用途 | 産業機器・キャッシュ | メインメモリ | ストレージ |

MRAMは、磁石の性質を利用してデータを記録する高速・長寿命なメモリです。DRAMのような速さと、フラッシュメモリの「消えない」特性を両立しており、特に省電力が求められるIoT機器や車載システムで普及が進んでいます。
なぜ高速なのか
MRAMがDRAM並みに高速で、NAND型フラッシュメモリよりも圧倒的に速い理由は、データの記録方法が「物理的な状態の切り替えだけで完結するからです。具体的には、以下の3つの技術的要因があります。
1. 「電子の移動」ではなく「向き」を変えるだけ
NAND型フラッシュメモリやDRAMは、電子という「物質」を特定の場所に移動させたり、蓄えたりすることでデータを記録します。
- NAND: 電子を絶縁層の向こう側へ押し込む(時間がかかる)。
- DRAM: コンデンサに電気を溜める(充放電の待ち時間がある)。
- MRAM: 磁性層にある電子の「スピン(磁気の向き)」を一瞬で反転させるだけです。重い荷物を運ぶのではなく、その場でスイッチを切り替えるようなものなので、動作が非常に高速です。
2. 「上書き」が直接できる(ノー・イレーズ)
これがNAND型フラッシュメモリ(SSD等)との決定的な違いです。
- NAND: データを書き換える際、一度「消去」という非常に遅い工程を挟む必要があります。
- MRAM: 古いデータに関係なく、上から新しい磁気の向きを書き込めます(ダイレクト・オーバーライト)。消去の手間がない分、書き込み速度が劇的に速くなります。
3. 読み出しが「抵抗値のチェック」で済む
データを読み出す際は、MTJ(磁気トンネル接合)に微弱な電流を流し、その電気抵抗が高いか低いかを測るだけです。
- 磁気が並行: 抵抗が低い(データ「0」)
- 磁気が反並行: 抵抗が高い(データ「1」)この抵抗の差は非常に明快で、複雑な判定回路を通さずに一瞬で判別できるため、読み出し速度もトップクラスです。
性能の比較(目安)
| メモリ種別 | 書き込み速度 | 消去工程の有無 | 動作原理 |
| MRAM | 数〜数十ナノ秒 | なし(直接上書き) | 磁気スピンの反転 |
| DRAM | 数〜十ナノ秒 | なし | コンデンサの充放電 |
| NAND | 数百マイクロ秒〜 | あり(一括消去が必要) | トンネル効果による電子移動 |
最新のMRAMは「スピン注入書き込み(STT-MRAM)」という方式を採用しています。これは電流そのものが持つ磁気的な性質を利用して直接向きを変えるため、さらに高速化と省電力化が進んでいます。

MRAMが高速な理由は、電子を移動させる代わりに電子の磁気的な向き(スピン)を一瞬で反転させて記録するからです。DRAMのような充電待ちや、NANDのような消去工程が一切不要なため、理論上の限界速度は非常に高くなります。
MRAMの問題点は何か
MRAMは「究極のメモリ」と呼ばれながらも、現在私たちが使っているPCやスマートフォンのメインメモリ(DRAM)をすべて置き換えるには至っていません。その主な問題点は、大きく分けて以下の4つです。
1. 大容量化(高密度化)が難しい
これが最大の壁です。
- セルの大きさ: MRAMの1つのセルは、データを記録するMTJ(磁気トンネル接合)と、それを制御するトランジスタで構成されます。磁気を反転させるにはある程度の大きさの電流が必要なため、制御用のトランジスタをあまり小さくできず、DRAMほど高密度に詰め込むことが困難です。
- 比較: 現時点では、DRAMやNAND型フラッシュメモリに比べて、同じ面積に保存できるデータ量が圧倒的に少ないのが現状です。
2. 製造コストが高い
- 特殊な材料と工程: MRAMの製造には、コバルト、鉄、ホウ素といった特殊な磁性材料を何層も精密に積み重ねる必要があります。
- 専用の製造ライン: 一般的なシリコン半導体の製造ラインとは異なる特殊な工程(スパッタリング工程など)が多く、生産コストがDRAMの数倍〜数十倍になってしまいます。
3. 外部磁場への脆弱性
磁石の力を利用してデータを記録しているため、強力な外部磁石に近づけるとデータが書き換わったり壊れたりするリスクがあります。
- 対策のジレンマ: 磁場の影響を受けにくくするために磁気の保持力を強めると、今度は「書き込みに必要な電流(電力)」が大きくなってしまうというトレードオフの関係にあります。
4. 書き込み電流と電力効率
MRAMは「待機電力」はゼロですが、データを書き換える瞬間に流す電流(スピン注入電流)が比較的大きめです。
- 熱の問題: 微細化が進むほど、狭い範囲に大きな電流を流すことになり、発熱や素子の劣化が課題となります。
比較表:MRAMが普及しきれない理由
| 項目 | MRAM | DRAM |
| 容量あたりの価格 | 非常に高い | 安い |
| 最大容量 | 小さい(MB〜数GB) | 大きい(数GB〜数百GB) |
| 外部磁場の影響 | 受ける(磁気エラー) | 受けない |
| 普及度 | 特定の産業用・キャッシュ用 | ほぼ全ての電子機器 |

MRAMの問題点は、大容量化の難しさとコストの高さです。磁気を反転させるために一定の電流が必要で、制御用パーツを小さくしにくいため、安価で大量のデータを扱うDRAMやNANDの牙城を崩すまでには至っていません。

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