この記事で分かること
- 契約の内容:OpenAIとセレブラスは、100億ドル規模の複数年契約を締結しています。OpenAIはチップを所有するのではなく、セレブラスが運営する専用データセンターの「計算能力をサービスとして利用」します。これにより、特殊な巨大チップの複雑な維持管理を任せつつ、爆速な推論環境を確保しています。
- セレブラストとは:アメリカの半導体メーカーでシリコンウエハを丸ごと一枚使う「世界最大のチップ」を開発しています。複数のGPUを繋ぐ必要がないため、通信の壁を越えた圧倒的な処理速度を誇り、AIの学習や推論に特化した革新的な存在です。
- シリコンウエハを丸ごと一枚使う利点:最大の利点は通信渋滞の解消です。計算ユニットとメモリを一枚の巨大チップに集約することで、従来のGPUで発生していたチップ間の通信遅延をゼロにしました。これにより、AIの推論や学習を圧倒的な速さでこなせます。
OpenAIとセレブラスとの契約締結
OpenAIとAI半導体スタートアップのCerebras(セレブラス)が、100億ドル(約1.5兆円)規模の複数年契約を締結したことが2026年1月14日に発表されました。
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-01-15/T8VJWHT9NJM100?srnd=jp-companies
この契約により、ChatGPTなどの回答待ち時間がほぼゼロになる「リアルタイムAI」の普及が加速すると見られています。 2026年中に最初のインフラが稼働し、2028年にかけて順次拡大される予定です。
セレブラスはどんな企業か
Cerebras Systems(セレブラス・システムズ)は、「NVIDIAの最大のライバル」と目される、世界で唯一の巨大チップを作るAI半導体企業です。
米カリフォルニア州に拠点を置くスタートアップで、従来の半導体の常識を覆す技術で注目を集めています。主な特徴は以下の通りです。
1. 常識外れの「巨大チップ」:Wafer-Scale Engine (WSE)
通常、半導体は1枚の大きなシリコンウエハから、小さなチップを何百枚も切り出して作ります。しかし、セレブラスは「ウエハ1枚を丸ごと1つのチップ」として製品化しています。
- サイズ: iPadほどの大きさがあり、一般的なGPU(数センチ角)の約50倍以上の面積です。
- 性能: 最新の「WSE-3」は4兆個のトランジスタと90万個のAI専用コアを搭載しており、単体でスーパーコンピュータ並みの性能を持ちます。
2. 巨大である必要性
チップを巨大にすることで、AI処理における最大の弱点である「通信の遅延(ボトルネック)」を解消しています。
- データ転送が劇的に速い: 複数の小さなチップを並べて繋ぐ必要がないため、データがチップ内を超高速で移動できます。
- メモリがチップ内にある: 膨大なメモリをチップに直接載せているため、データの読み書きが従来のGPUより数千倍速いケースもあります。これが、OpenAIとの契約で期待されている「推論の爆速化」の鍵です。
3. 企業の背景と信頼性
- 創業: 2016年。CEOのアンドリュー・フェルドマン氏は、自身の会社をAMDに売却した経験を持つシリアルアントレプレナー(連続起業家)です。
- 上場間近: 2026年第2四半期(4月〜6月頃)の上場(IPO)を目指しており、市場からも非常に高い期待を寄せられています。
- 理念: 「AIの民主化」を掲げ、OpenAIのクローズドな姿勢に対抗してオープンソースのAIモデルを公開するなど、技術だけでなく業界のあり方にも影響を与えてきました。
セレブラス vs NVIDIA
| 特徴 | NVIDIA (GPU) | Cerebras (WSE) |
| アプローチ | 小さなチップを数千〜数万個繋ぐ | 1つの巨大なチップで処理する |
| 得意分野 | 汎用性が高く、あらゆる計算に強い | AIの学習や推論に特化し、爆速 |
| 通信の壁 | チップ間の通信で速度が落ちる | 通信の壁が物理的に存在しない |
これまで「AI=NVIDIA」の独占状態でしたが、OpenAIのような巨人がセレブラスと超大型契約を結んだことは、「NVIDIA一強時代の終焉」の始まりになるかもしれません。

米国発のAI半導体企業です。シリコンウエハを丸ごと一枚使う「世界最大のチップ」を開発しています。複数のGPUを繋ぐ必要がないため、通信の壁を越えた圧倒的な処理速度を誇り、AIの学習や推論に特化した革新的な存在です。
シリコンウエハを丸ごと一枚使うチップの利点は何か
シリコンウエハを丸ごと一枚使う「ウエハ・スケール・エンジン(WSE)」の主な利点は、大きく分けて以下の3点です。
1. 通信ボトルネックの解消(超高速・低遅延)
通常のGPUは、小さなチップを何千枚もケーブルや基板で繋いで巨大なAIを動かします。この「チップ間の通信」がデータの渋滞(ボトルネック)となり、速度低下の原因になります。
セレブラスのチップはすべてが1枚のシリコン上で繋がっているため、チップ間の通信という概念がなく、データの移動速度が従来の数千倍に向上します。
2. メモリ帯域の圧倒的な広さ
AIの計算では「計算速度」以上に「データをメモリから取り出す速度(メモリ帯域)」が重要です。
セレブラスは、巨大なチップ上に膨大なメモリ(SRAM)を直接配置しています。これにより、外部メモリにアクセスする必要がなくなり、計算ユニットに常にフルスピードでデータを供給し続けることができます。
3. 電力効率と設置スペースの最適化
数千台のサーバー(GPU)を並べる代わりに、1台のセレブラス・システムで同等の性能を発揮できる場合があります。
- 配線の削減: 複雑なネットワークスイッチや大量の光ファイバーケーブルが不要になります。
- 冷却の効率化: 多数の小さなチップを冷やすよりも、1つの巨大なユニットを水冷などで集中的に冷やす方が、システム全体としてのエネルギー効率が高まる設計になっています。
「たくさんの小さな計算機を繋いで頑張る」のではなく、「1つの巨大な計算機で一気に片付ける」ことで、通信の無駄をゼロにしているのが最大の強みです。これがOpenAIが求める「リアルタイムな回答速度」を実現する鍵となっています。

最大の利点は通信渋滞の解消です。計算ユニットとメモリを一枚の巨大チップに集約することで、従来のGPUで発生していたチップ間の通信遅延をゼロにしました。これにより、AIの推論や学習を圧倒的な速さでこなせます。
製造時の難しい点は何か
ウエハ一枚を丸ごと使うチップの製造には、これまで半導体業界が「不可能」としてきた非常に高い壁があります。主な難点は以下の3点です。
1. 歩留まり(良品率)の問題
通常、ウエハには製造過程で数か所の微細な欠陥(キズやゴミ)が必ず発生します。
- 通常のチップ: 欠陥がある部分だけを捨てれば、残りは良品として出荷できます。
- 巨大チップ: 1か所でも致命的な欠陥があれば、ウエハ全体(数百万円相当)がゴミになってしまいます。
- 解決策: セレブラスは、あらかじめ「予備の計算コア」を大量に組み込み、欠陥箇所を自動で避けて配線をつなぎ替える特殊な技術でこれを克服しています。
2. 熱膨張による破損
チップが巨大になると、稼働時の熱による「伸び縮み」が無視できなくなります。
- ひずみの発生: チップと、それを支える基板では素材が異なるため、熱による膨張率が違います。巨大な面積だとこの差が大きくなり、チップがパキッと割れたり、接合部が剥がれたりするリスクがあります。これを防ぐために、特殊な柔軟性を持つコネクタなどが開発されました。
3. 冷却と電力供給の難しさ
iPadサイズの面積で数万ワットという膨大な電力を消費し、凄まじい熱を発します。
- 均一な冷却: 端から風を送る空冷では、中央に届くまでに空気が熱くなってしまい冷やせません。
- 解決策: チップの裏面全体に巨大な水冷プレートを密着させ、垂直方向に水を循環させて均一に冷やす「エンジンブロック」のような複雑な構造が必要になります。
「欠陥をどう避けるか」「熱で割れるのをどう防ぐか」「巨大な面積をどう冷やすか」という、物理と設計の限界に挑むような難しさがあります。

最大の難点は歩留まり(良品率)です。通常、ウエハ上の微細な欠陥は不良品として捨てますが、一枚丸ごと使う場合は全体が台無しになります。また、巨大ゆえの熱膨張による破損や、膨大な熱の冷却も極めて困難です。
セレブラスの解決方法は
セレブラスは、従来の半導体製造では「不可能」とされていた課題を、エンジニアリングの力で力技かつスマートに解決しています。主な解決策は以下の3点です。
1. 欠陥を「避ける」設計(冗長性の確保)
ウ エハ上の微細なゴミやキズは避けられません。そこでセレブラスは、チップ内に膨大な数の「予備の計算コア」をあらかじめ組み込んでいます。
- 自動修復: 製造後にテストを行い、欠陥があるコアを見つけると、ソフトウェアがその箇所を自動的に切り離し、予備のコアへ配線を迂回させます。これにより、一部に欠陥があってもチップ全体としては100%の性能を発揮できる仕組みです。
2. 熱膨張を「吸収する」コネクタ
チップ(シリコン)とそれを載せる基板(樹脂など)は、熱による膨張率が異なります。巨大なチップではこの差が致命的ですが、セレブラスは独自の柔軟なコネクタ(Custom Connector)を開発しました。
- 物理的な遊び: チップと基板の間に特殊な接合パーツを挟むことで、熱でそれぞれが別々に伸び縮みしても、電気的な接続を保ちながら物理的なストレスを吸収・分散させます。
3. 「エンジン並み」の強力な水冷システム
通常のファン(空冷)では冷却が追いつかないため、「エンジンブロック」と呼ばれる巨大な水冷ユニットでチップを挟み込んでいます。
- 均一な冷却: チップの裏側全体に冷水を循環させるプレートを密着させ、iPadサイズの面積から発生する膨大な熱(最大23kW以上)を一気に奪い去ります。システム全体を見ると、巨大なゲーミングPCや車のエンジンのような構造をしています。

予備のコアを大量に配置し、欠陥箇所を自動で回避する配線技術で「歩留まり」を克服。また、熱膨張の差を吸収する特殊コネクタと、チップ全体を均一に冷やす強力な水冷システムにより、物理的な破損と熱問題を解決しています。

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