FeRAMとは何か?原子の位置変化を読み取る方法は?

この記事で分かること

  • FeRAMとは:強誘電体の「電気的な偏り」を利用して記録する高速・省電力なメモリです。DRAM並みの速さと、電源を切っても消えない特性を持ち、特に書き換え寿命が非常に長いため、ICカードや産業機器などで重宝されています。
  • 読み出しの方法:テスト電圧をかけた際の電流の大きさで判定します。原子が移動して「電気の偏り」が反転すると大きな電流が流れるため、その差で「0」か「1」かを知ることができます。読み出し後にデータが消えるため、自動で書き戻す仕組みになっています。
  • 高速で読み込みができる理由:結晶内の原子が電圧に反応して移動するスピードがナノ秒単位と極めて速いからです。また、電圧をかけた際の電流の差が明快で判定しやすく、低電圧で動作するため電気的な待ち時間も最小限で済みます。

FeRAM

 半導体チップは、「産業のコメ」と呼ばれるほど現代社会の基盤となっています。AIの普及やデジタル化の加速などのもあり、AIそのますます重要性が増しています。

 ただ、一口に半導体チップといっても、その中には様々な種類が存在します。今回はFeRAMに関する記事となります。

FeRAMとは何か

 FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory:強誘電体メモリ)とは、「強誘電体」という特殊な結晶を用いた不揮発性メモリです。

 MRAMと同様に「DRAMの高速さ」と「フラッシュメモリの消えない性質」を兼ね備えていますが、MRAMが「磁気」を使うのに対し、FeRAMは「電気の偏り(分極)」を利用します。


FeRAMの主な特徴

  1. 書き込みが極めて高速
    • フラッシュメモリのような高電圧や消去工程が不要で、DRAMとほぼ同等のスピードで書き込みが可能です。
  2. 書き換え耐性が非常に高い
    • 物理的な破壊(トンネル効果による酸化膜の劣化)を伴わないため、10兆回以上という、フラッシュメモリとは比較にならない寿命を持っています。
  3. 超低消費電力
    • データの書き換えに必要なエネルギーが非常に小さく、バッテリー駆動のデバイスに最適です。
  4. 不揮発性(電源を切っても消えない)
    • 電源を落としても、結晶内部の電気的な「向き」が保持されるため、データは消えません。

仕組み:強誘電体の「分極」

FeRAMの心臓部は、コンデンサの中に挟まれた「強誘電体」の膜です。

  • 結晶の歪み: この結晶に電圧をかけると、中の原子の位置が移動して「電気の偏り(分極)」が生じます。
  • 状態の保持: 電圧を取り除いても、原子はその位置に留まり続けます。
    • 上がプラスなら「1」
    • 下がプラスなら「0」と判定します。

他のメモリとの比較

特徴FeRAMMRAMEEPROM/Flash
原理電気(分極)磁気電気(電子の閉じ込め)
書き込み速度非常に速い非常に速い遅い
書き換え寿命非常に長いほぼ無限短い
書き込み電圧低いやや高い高い

主な用途

その「速くて、丈夫で、省電力」という特性を活かし、特定の分野で非常に強く支持されています。

  • ICカード・RFID(交通系ICカードなど): タッチした瞬間のわずかな電力と時間で確実にデータを書き換える必要があるため、FeRAMが活躍しています。
  • 産業機器のデータロガー: 常に変動するセンサーデータを頻繁に記録し続ける(書き換え回数が多い)用途に最適です。
  • 車載電子機器: 事故直前の走行データを記録するレコーダーなど、一瞬の書き込み速度と信頼性が求められる場所に使われます。

FeRAMは、強誘電体の「電気的な偏り」を利用して記録する高速・省電力なメモリです。DRAM並みの速さと、電源を切っても消えない特性を持ち、特に書き換え寿命が非常に長いため、ICカードや産業機器などで重宝されています。

なぜ電圧を取り除いても、原子はその位置に留まり続けるのか

 強誘電体メモリ(FeRAM)において、電圧を切っても原子が元の位置に戻らずに留まる理由は、結晶構造の中に「原子が安定して収まる場所」が2ヶ所あり、その間を越えるのにエネルギー(電圧)が必要だからです。これを「自発分極」と呼びます。


1. 結晶の形:ペロブスカイト構造

 FeRAMでよく使われる材料(PZTなど)は、「ペロブスカイト構造」というサイコロのような形をした結晶をしています。

  • サイコロの枠: 角には金属イオン、面の中央には酸素イオンが配置されています。
  • 中心の原子: サイコロの真ん中に、チタン(Ti)などの小さな原子が浮いているような状態です。

2. 「真ん中」が一番居心地が悪い

 普通の材料であれば、中心の原子はサイコロのど真ん中にいようとします。しかし、強誘電体の結晶では、「真ん中」よりも「少し上下(あるいは左右)にズレた位置」の方が、エネルギー的に安定するという不思議な性質を持っています。

  • 電圧をかける: 中心の原子が電気の力で強制的に「上」または「下」へ移動します。
  • 電圧を切る: 原子は移動した先の「ズレた位置」にスポッとはまり込みます。

3. 「エネルギーの壁」が戻るのを防ぐ

 原子が「上」から「下」へ移動するためには、中心部にある「エネルギーの壁」を乗り越えなければなりません。

  • スイッチの感覚: 部屋の電気のスイッチをイメージしてください。指で押すと「カチッ」と切り替わり、手を離してもそのままの向きを保ちますよね? それは、中間の位置で止まらないようにバネ(エネルギー障壁)が効いているからです。
  • 熱や振動に勝つ: 常温の熱エネルギー程度では、この原子は「エネルギーの壁」を自力で乗り越えることができません。そのため、電源を切っても何年も同じ位置に留まり続け、データを保持できるのです。

強誘電体の内部では、結晶構造の歪みによって原子が安定する場所が2ヶ所に固定されているからです。電圧という強い力がない限り、原子は「エネルギーの壁」を越えて戻ることができないため、電源オフでもデータが保持されます。

原子の位置の変化をどのように電気的に読み出すのか

 原子の位置(分極の状態)を読み出すには、「あえて電圧をかけて、原子が動くかどうかを試す」という方法をとります。

 直接原子を覗き見ることはできないため、電圧をかけたときに流れる「電気の量(電荷量)」の差で判定します。


読み出しのステップ

  1. テスト電圧をかけるメモリセルに対して、例えば「0」に相当する方向の電圧をパルスとしてかけます。
  2. 原子が動くか反応を見るこのとき、内部の原子の状態によって2パターンの反応が起こります。
    • パターンA:原子が反対側にいた場合(データが「1」だった)電圧によって原子が反対側へ「ガチャン」と移動します。この移動に伴って、回路には大きな電流(電荷)が流れます。
    • パターンB:原子が最初から同じ側にいた場合(データが「0」だった)原子はほとんど動かないため、流れる電流はごくわずかです。
  3. 電流の大きさを判定するこの電流の「大きい」「小さい」をセンスアンプという装置で比較し、元々入っていたデータが「1」だったのか「0」だったのかを判別します。

「破壊読み出し」という宿命

 ただし、読み出すと、データが変わってしまう可能性があるため、再書き込みが必要です。

  • もし元々「1」だった場合、読み出しのテスト電圧によって原子が移動し、中身が「0」に書き換わってしまいます。
  • これを破壊読み出しと呼びます。そのため、FeRAMは読み出した直後に、元のデータをもう一度書き戻す(再書き込み)という処理をセットで行っています。

読み出しは、テスト電圧をかけた際の電流の大きさで判定します。原子が移動して「電気の偏り」が反転すると大きな電流が流れるため、その差で「0」か「1」かを知ることができます。読み出し後にデータが消えるため、自動で書き戻す仕組みになっています。

高速で読み取りできる理由は

 FeRAM(強誘電体メモリ)が高速に読み取れる理由は、「原子が移動するスピードが極めて速いため」、そして「読み取りの仕組みが非常にシンプルだから」です。


1. 原子の移動速度が「ナノ秒」単位

 FeRAMのデータは、結晶内の原子が「上」か「下」のどちらにいるかで決まります。

 電圧をかけたとき、この原子が移動するのにかかる時間は1ナノ秒(10億分の1秒)以下という極短時間です。物理的に大きな物体を動かすのではなく、結晶という極小空間で原子がわずかに位置を変えるだけなので、実質的に「瞬間的」に反応が起こります。

2. 電流の「出方」の差がはっきりしている

 読み取りの際、テスト電圧をかけると「原子が反転したとき」と「反転しなかったとき」で、流れる電流(変位電流)の量に大きな差が出ます。

  • 反転あり(データ1): ドバッと電流が流れる。
  • 反転なし(データ0): わずかに電流が流れる。

 この差が非常にシャープであるため、センスアンプという読み取り回路が「これは0だ」「これは1だ」と瞬時に判定を下すことができます。迷う時間が少ないため、読み取りサイクルを短縮できるのです。

3. 低電圧で動作する

 フラッシュメモリのように高い電圧(10V〜20V)を生成して回路にチャージする待ち時間が必要ありません。

 FeRAMは通常のICが動くような低い電圧(1.8Vや3.3Vなど)でそのまま動作するため、「電圧が上がるのを待つ」というロスタイムがないことも高速読み取りの大きな理由です。


読み取り速度のイメージ比較

メモリ読み取りの仕組み速度のイメージ
FeRAM原子が動く際の電流を測る非常に速い(数ナノ秒)
DRAMコンデンサの電気を吸い出す非常に速い(数ナノ秒)
Nand Flashトランジスタに電気が通るか見る低速(数〜数十マイクロ秒)

FeRAMが高速な理由は、結晶内の原子が電圧に反応して移動するスピードがナノ秒単位と極めて速いからです。また、電圧をかけた際の電流の差が明快で判定しやすく、低電圧で動作するため電気的な待ち時間も最小限で済みます。

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