この記事で分かること
- TEMとは:薄く加工した試料に電子線を照射し、透過した電子をレンズで拡大して観察する装置です。光学顕微鏡では不可能な原子レベルの微細構造や結晶状態を、内部まで詳細に解析できます
- 試料内部を観察できる理由:加速した電子線が、極薄(100nm以下)に加工された試料を突き抜けるためです。通り抜ける際に内部の原子と相互作用し、その散乱や吸収の度合いが明暗として投影されるため、内部構造を可視化できます。
透過電子顕微鏡:TEM
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は、透過電子顕微鏡、TEMに関する記事となります。
TEMとは何か
TEM(Transmission Electron Microscope)は、日本語で透過電子顕微鏡(とうかでんしけんびきょう)と呼ばれます。
光の代わりに「電子の波」を、レンズの代わりに「磁場(電磁レンズ)」を利用して、物質をナノメートルから原子レベルのスケールで観察する非常に強力な分析機器です。
1. TEMの基本的な仕組み
TEMは、その名の通り「電子を試料に透過させる」ことで観察を行います。仕組みは光学顕微鏡と似ていますが、光源が電子銃に、レンズが電磁石に置き換わっています。
- 透過: 電子線が非常に薄く加工された試料(100nm以下)を通り抜けます。
- コントラスト: 試料内部の密度や原子の種類、結晶の向きによって電子の通りやすさが変わるため、それが明暗(影)として画像になります。
- 真空: 電子が空気中の分子に当たって散乱しないよう、装置の内部は高度な真空状態に保たれています。
2. TEMでわかること
TEMは単なる拡大写真だけでなく、以下のような高度な分析が可能です。
- 内部構造の観察: ウイルス、細胞の微細構造、金属の結晶欠陥、ナノ粒子の形状などを観察できます。
- 原子の配列: 最新の装置では、原子が並んでいる様子を直接見ることが可能です。
- 結晶構造の解析: 電子回折という現象を利用して、その物質がどのような結晶(原子の並び規則)を持っているかを調べられます。
- 元素分析: EDS(エネルギー分散型X線分光)などの検出器を組み合わせることで、「どこに、何の元素が、どれくらいあるか」を特定できます。
3. よく比較されるSEM(走査電子顕微鏡)との違い
電子顕微鏡にはもう1つSEMがありますが、役割が大きく異なります。
| 特徴 | TEM(透過型) | SEM(走査型) |
| 見えるもの | 試料の内部・断面 | 試料の表面・立体構造 |
| イメージ | レントゲン写真 | デジカメ写真(立体) |
| 分解能 | 極めて高い(原子レベル) | 高い(ナノレベル) |
| 試料の準備 | 非常に薄く切る必要があり、難しい | そのまま、または導電処理のみでOK |
4. TEMのメリットとデメリット
- メリット:
- 現存する顕微鏡の中で最高クラスの解像度を誇る。
- 物質の内部情報と結晶情報を同時に得られる。
- デメリット:
- 試料を100nm程度(1万分の1mm)まで薄く削る「試料作製」に高度な技術と時間がかかる。
- 装置が非常に大型で高価。
物質の「中身」を究極まで詳しく調べたいときに、TEMは欠かせないツールです。

透過電子顕微鏡(TEM)とは、薄く加工した試料に電子線を照射し、透過した電子をレンズで拡大して観察する装置です。光学顕微鏡では不可能な原子レベルの微細構造や結晶状態を、内部まで詳細に解析できます。
試料内部の測定ができる理由は何か
試料内部を測定・観察できる最大の理由は、「高エネルギーの電子を試料に突き抜けさせている(透過させている)」からです。
具体的には、以下の3つの条件が揃うことで内部の情報が得られます。
- 電子の透過力: 電子銃で加速された電子線は非常にエネルギーが高く、物質を通り抜ける性質を持っています。
- 試料の極薄化: 試料をあらかじめ100ナノメートル(1万分の1ミリ)以下という極限の薄さまで削り出します。これにより、電子が途中で止まらずに反対側まで突き抜けることができます。
- 相互作用の可視化: 電子が試料内部を通り抜ける際、中の原子の密度や並び方によって、散乱されたりスピードが変わったりします。この「通り抜け方の違い」をレンズで拡大して画像にするため、内部の構造が透けて見えるのです。
「光を通さない物質でも、極限まで薄くして強力な電子線を当てれば、レントゲン写真のように中身を映し出せる」というのがTEMの原理です。

加速した電子線が、極薄(100nm以下)に加工された試料を突き抜けるためです。通り抜ける際に内部の原子と相互作用し、その散乱や吸収の度合いが明暗として投影されるため、内部構造を可視化できます。
X線による試料内部の観察の違いは何か
X線(レントゲンやX線CT)とTEM(透過電子顕微鏡)は、どちらも「透過」を利用して内部を観察しますが、見ているものの大きさ(スケール)と見え方に大きな違いがあります。
1. 観察スケールの圧倒的な差
- X線: 主にミリ単位〜マイクロメートル(1,000分の1mm)単位の構造を見ます。骨、内臓、製品内部のヒビ、大きな部品の欠陥などを観察するのに適しています。
- TEM: ナノメートル(100万分の1mm)から原子レベルの構造を見ます。分子の形、結晶の並び、ナノ材料の構造など、X線では絶対に見えない極微の世界を観察します。
2. 観察できる情報の質
- X線: 主に「密度の違い」を影として見ます。
- TEM: 密度の違いだけでなく、電子の波としての性質を利用して、「結晶の向き」や「原子の配列」まで可視化できます(回折・位相コントラスト)。
3. 試料の「厚さ」の違い
- X線: 透過力が非常に強いため、人間の体や金属の塊など、厚いものをそのまま透過して内部を撮影できます。
- TEM: 電子は物質にぶつかりやすいため透過力が弱く、試料を極薄(100nm以下)に加工しないと中身が見えません。
比較表
| 項目 | X線観察 (CTなど) | TEM (透過電子顕微鏡) |
| 得意な対象 | 骨、部品、大きな回路 | 結晶、ナノ材料、原子、細胞 |
| 分解能(細かさ) | 数μm程度(製品の不備など) | 原子1個分(0.1nm程度) |
| 試料の厚さ | 数cm〜数mでもOK | 100nm以下(極薄) |
| わかること | 内部の空洞や密度のムラ | 内部構造、原子配列、元素分布 |
X線は「カバンの中身を外から透かして見るレントゲン」、TEMは「カバンの中にある布の繊維1本1本の編み目を拡大して見る顕微鏡」というイメージです。

X線(CT等)とTEMの主な違いは、透過力と解像度です。X線は透過力が強く、厚い物体や生体の内部を壊さずに数マイクロm単位で観察できます。一方、TEMは透過力が弱いため、試料を極薄にする必要がありますが、原子レベル(ナノ単位)の超微細な構造まで鮮明に可視化できます。

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